-真っ暗だ-
それが私が初めて感じたものだった。何の前触れもなく、ふと私は自分というものを知覚した。
よく分からない空間の中をたゆたっているような感覚。どちらが上でどちらが下なのかとんと分からない。
-…寒い…-
明暗の感覚の次に私に生まれたのは「寒さ」
どうやらここはとても温度が低いらしい。私はとっさに体を縮め震わせて体温を保とうとした。
-………?-
どうにもよく分からない。自分の肩をだこうとしたはずだが腕がうまく動かない。
-と言うかこれは…腕が、ない…?-
瞬間、私をどうしょうもない位の悪寒が襲った。腕が無いどころではない、足の感覚も、それに繋がる腰も胴体も、自分の体の形を形成するものが何も感じられない。
-そんな馬鹿なっ-
ヒトとしての本能が嘘だ嘘だとこの事態を否定するも思考は知らぬとばかりに回り、どんどんと自らの状態を理解したくもないのに本能的に理解していく。
私はヒトの形をとっていないどこではなく、形すらも無かった。私という個は決まった形を取らず絶えず形を変えていたのだ。
-これではっ、これではまるでっ-
バケモノではないか…。
その思考を最後に私は意識と呼べていたものを手放した。
<✤>
それから一体どれほどの時間が経ったのかよく覚えていない。1時間か2時間か、或いはそれ以上かもしれないが二度目の覚醒で私は久方ぶりの腕の感覚を思い出した。
「う、うえ!ぁあいのうえ!」
腕が、何より声が”聴こえる”。声帯が作られた…?いや、耳も?まだ未発達なのかうまく発音できないが、あぁ!こんなに嬉しいと感じたのはいつ以来だろうか!
「うぅ…?」
どうやら私の意識が彼方へ飛んでいる間に私という思念はヒトのカタチをとることが出来たらしい。原理はさっぱりわからないし、相変わらず真っ暗で何も見えないが確かに手や足の指を動かす感触がある。深い安心感、まるで空いていた心の穴がすっかり埋まるような感覚に段々と気分も落ち着いてきた。
体の感覚が戻り、心に余裕が出来たからだろうか?段々と自分のこと以外にも意識が向けられるようになってきた。
-そもそもここは何処なのだ?-
私は一体いつからここにいたのだろうか…一度目の覚醒の時はだいぶみっともなく取り乱し、そのままショックのあまり気絶してしまったせいで、割と根本的なことを考えられなかった。
ここが何処なのか…そもそもの事を思い出した私は周りを見渡してみる。
「…あ?」
…は?
相変わらず真っ暗であるはずなのだが何かが見える気がする…?
自分でもうまく説明出来ないような不思議な感覚。
明るいような、暗いような…?何も見えない真っ暗闇のはずなのに私の「眼」は何かを感じている?
-????-
よく分からなくなってきた。
そもそも私は真っ当な人間であったはずで、少なくともこんな幻覚のようなをものを見るようなことはしていない。
夢か麻薬の類か、それともどこぞのライダーよろしく秘密結社から改造手術を受けて頭がおかしくなったのか。
私は自分の記憶を辿ろうと必死になったが、
-…思い出せない…-
最悪だ、こんな奇天烈な体験をした挙句私は記憶まで失ったというのか。自分がどんな人物でどこで何をしていたのか、まるで思い出せない。何処のマンガの主人公だ私は。
思わずその場でうずくまって頭を抱えてしまった。少し落ち着こう。
-よし-
相変わらず一体ここがとこなのかとか、私の身に一体何が起こってしまったのかとか全然わからないが、とにかくここから動こう。
これが夢や幻覚なら物理的に衝撃とかを外部から加えられないと醒められないかもしれないけれど、もし幻覚の類でないなら少なくともここから動いて何処か別の場所を目指して動いた方が良さそうだ。どのみちこの場所には何があるのかわからないのだし。
私はここではないどこかを目指して歩くことにした。
-む-
なんとも言えない感覚だ。歩いているはずなのだが、平衡感覚が掴めない。歩いている筈なのに歩けていないような不思議な感覚。
例えるなら夢の中で走ろうとした時のような微妙な感感だ。
そのうちにバランスが取れなくなって前に倒れ込みそうになった。
「ぅあっ!?」
なんとか崩したバランスを取り戻そうと後ろに重心を持っていくが、結局尻餅をつくハメになった。
「い、いはぃ…?」
いや、痛くない?
尻餅をついた時に確かに衝撃を感じ、反射的に声を出したがどうにもおかしい。痛くない??尻餅をついたま地面と思しきものをペタペタと触ってみる。確かに感触はある…。
では私の方に問題が?
「……いはっ!」
物は試しと自分の顔を抓ってみたがやっぱり痛い。私が不感症になった訳でもないようだ。
-痛みを感じる夢なのか?-
どうにも要領を得ない、頭を回してもこれが何故なのかわからない。
-まぁ、いいかな-
どちらにせよよく分からん空間なのだ。深く考えるだけ無駄だろうと考えるようにした。
よっこらせ、っと腰を上げるともう一度バランスを確かめながら1歩1歩歩いて行く。
ふと思った。
-そう言えば-
「
肌を刺すような寒さはいつの間にか消えていた。