幻想郷創造記   作:テーブルの木目

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第3話 神おわす都

 ここは夜を司る神が統治する都。

 人々は神を崇め奉り、神は恵みを人々に与える。そんな普遍がまかり通る場所。

 その都の一角、住人達が住む家が多く並び立つ居住区と呼ばれる場所で、二人の女子が屋敷を前に話している。

 

 

「ここが私の屋敷よ」

 

「はぇ^~すっごい(ぬねがお)」

 

「スッ(ハリセン)……………ズパァン」

 

「ま°!?」

 

「目は覚めたかしら?いい加減その阿呆ズラを直してくれると助かるのだけど?」

 

「ご、ゴメンナサイ…」

 い、痛い…頭蓋骨が粉砕したかと思った…。

 何もそんなハリセンまで取り出して叩かなくてもいいじゃないの。

 私の傍に立つエイリンは呆れた顔を私に向けている。むぐぐ…。

 でも待ってほしい。私がこんなぬとねの区別がつかなそうな顔になったのだって半分くらいの原因はこのエイリンにあるのだ。

 

 

 地球での覚醒を果たした私は生まれたままの姿で恐竜と狩りごっこ(ガチ)を繰り広げ、秒で三途の川に送られかけた所を目の前の少女《ヤゴコロ エイリン》に助けられた。説明終わり!

 エイリンは記憶喪失(追及されてとっさに思いついた嘘)で身寄りのない私に対して命を助けた代わりにカラダを要求してk「トスッ」

 

「」(目の前に刺さった矢)

 

「あら、手が滑ったわ。ごめんなさいね」ニッコリ

 

「も、もう〜、手をすべらせて弓を射っちゃうなんてエイリンのおっちょこちょいさん!」

 

「ふふっ、許して頂戴?なんだかとっても失礼な事、あなたに考られてるうな気がして」

 

 「やっぱりわざとジャマイカ…」

 

「何か言ったかしら?」

 

「イエイエ滅相もございませんですはいだからおもむろに懐からハリセンを取り出そうとするのをやめてください」

 

 …なんで人の考えてることわかるの?エスパータイプなの?でもこの人悪もゴーストも全然効きそうにないんだけど?あ、虫タイプは効きそう。

 

 下らないことを考えつつも改めて目の前のお屋敷を観察する。

 中世の中華風といった建築風は煌びやかで美しい…が気にする所はそこではない。

 玄関の前に取り付けられているのはどう見ても電子端末。イヤ、あそこだけ時代が回りとあってないよ浮きまくりだよ。

 エイリンは懐からカードキーのようなものを取り出すと先ほどの端末にかざす。すると中華風のいかにもな扉がシュッという音ともに自動で開いた。

 

 うわぁいオーバーテクノロジー

 

 いけない、危うくまた意識がどこかに飛んでいく(ぬねがおになる)ところだった。エイリンのハリセンはもう勘弁よ。

 

 さて、話を戻すとどうやら私はエイリンに身寄りのない訳アリの女と誤解されたらしく、エイリンから自らの元で調剤などの手伝いをすることを条件にエイリンの家に住むことを許可するという旨の提案をしてくれた。

 私は願ってもいない機会に歓喜し、一も二もなくこの提案を快諾したのだが

 

「じゃあ今日から貴女は私のお手伝いさん兼同居人ね」

 

「ええ、よろしくお願いするわ!」

 

「じゃあコレ護身用に渡しておくわね。手を出して。」ズチャ

 

「えっ、何これは」

 

「サイ〇ガンよ。」

 

「」ベキッ←常識にヒビが入る音

 

 その後も

 

「見えてきたわ…、あれが今日からあなたが住むことになる都よ」

 

「……あの、エイリン。ちょっといいかしら」

 

「なにかしら?」

 

「なんだかでっかい壁が見えるのだけど」

 

「外敵からの襲撃を防ぐための物理障壁よ。トカゲの仲間には空を飛ぶような奴もいるから結構高めに作ってあるの。それがどうかした?」

 

「」ガラガラガラ←常識が音を立てて崩れ去る音

 

 オデノジョウシキハボドボドダア!

 

 変な電波を受信してしまった気がするが、やっぱりエイリンが7、いえ9割方原因だと思う。もうちょっと私の常識をいたわるべきそうすべき(謙虚なナイト並感)

 大体何なのだこの都市は。居住区と呼ばれる場所は中世中華風の建築物が立ち並んでいるというのに、都の中央には都のどこからでも見えるような超巨大なビルが立ち並んでいるし。一体いつの時代のどの文化なのこれごちゃ混ぜすぎでしょ!(食い気味)

 

 やっぱり私は地球に似た全く別の惑星に来てしまったのでは…?そう考えてしまう程にここに来てから私の常識はメタメタにされまくっている。仮に常識にHPバーがあるなら文句無しの0である。

 

「まだまだ紹介しなきゃいけないことが沢山あるのだけど」

 

「ま、まだ行ってないところがあるの?」

 

「当たり前よ。この都は広いんだから。今までの説明だって帰りがけに目に付いたものを紹介しただけだもの」

 

「そっかー」

 

 そっかー、つまりまだエイリンの都ツアー(バーサーカーソウルの効果)はつづいてるってことでしゅか。

 …もうやめてっ、私の常識のHPはとっくにゼロよ!

 

「でも、今一番の優先事項は貴女の服をどうにかすること。それが終わらないうちに都を外套一枚で連れ回すほど私は鬼畜ではないわ」

 

「…そうね。」

 

 そうだった、今私外套を着ている以外に何も身につけてないものね…。

 エイリンが気を使ってくれたお陰なのか、道中あんまり人が居なかったから忘れかけてたわ。

 

「生憎と服を買いに行く前は家にある私の服を着てもらうことになるけれど…、それでいいかしら?」

 

「ええ、本当に何から何までありがとう」

 

「…いいえ、良いのよお礼なんて」

 

「そんなの無理よ、エイリンだって生活があるのに私って言うお荷物をお世話してくれるって言ってくれたんですもの。お礼を言わなきゃ私の気が済まないわ」

 

「…もぅ、変なところで律儀なんだから」

 

 エイリンがこちらを見てクスリと笑う。

 なんとでも言うといい、流石にここまでしてもらってお礼を言わないほど私の顔の面は厚くないのだ。

 

 

<✤>

 

 

「へぇ…馬子にもなんとやらってことかしら?」

 

「む、どういう事よ」

 

「ふふっ、冗談よ。とても似合ってる」

 

「真面目に言われるとちょっと恥ずかしいわね」

 

「めんどくさい女か」

 

「ぐ…」

 

 胸を抑えてその場で崩れ落ちる。

 今のはかなりグサッときたわよエイリン…。

 私がそんなことをしている間にもエイリンは箪笥の中から次から次へと服を出す。

 

「ん〜、その青のもいいけれどちょっと合わないわね。今度はこっちを着てみて?」

 

「エイリン?別に私はこれでもいいのだけど」

 

「だめよ。同じ女として折角そんなに素材がいいのに服が似合ってないなんて許せないわ。服のことなら気にしないで良いからどんどん試すわよ。」

 

「そういうものかしら…」

 

「そういうものよ」

 

 

 結局このあと服を選ぶのに10分もかかってしまった。その間の私は完全にエイリンの着せ替え人形だったことをここに記しておく。

 ファッションって大変なのね…。

 

「…うん。1番この色がしっくりくるわね」

 

「よ、ようやく終わった…」

 

「貴方も姿見で見てみるといいわ、ほら」

 

 言われて姿見で自分の格好を見てみる。

 私がコーディネートしてもらったのは薄紫色生地で出来た膝下までのワンピース。髪で隠れて見えにくいが背中にスリットが入っていて、スカート部分には薄く何かの花模様があしらわれている。

 

「へぇ〜」

 

 くるりくるりと、その場でまわってみる。

 うん、よくわからないけれど自分もこの色がしっくりくる気がする。とっても気に入った。

 嬉しくて隣にいるエイリンに笑いかける。

 

「これ、とっても気に入ったわ。ありがとうエイリン!」

 

「…っええ、似合うものがあって良かったわ」

 

「……?」

 

 はて、エイリンがそっぽを向いてしまった。どうしたのだろうか

 

「エイリン?」

 

「ええと、うん。そう言えば都案内がまだ終わってなかったわ!

 晩御飯の材料も買いに行かないといけないし、早速出かけましょう!」

 

「あっ、ちょっとエイリン!」

 

「私も着替えてくるわ。ちょっとまっていて!」

 

 どったんばったんと、すごい音がエイリンが駆け込んだ部屋から聞こえてくる。

 …一体エイリンはどうしたのかしら。

 

 それから暫くして戻ってきた時はエイリンは落ち着いていて、改めてさっきの変な態度は一体なんなんだったのかいう疑問をぶつけてみるも、のらりくらりと躱されてしまう。気になるけれど本人に話す気がないなら無理に聞くようなことではないわね。

 それで、肝心のエイリンの服装なのだが、

 

「あの、エイリン?その服は…」

 

「貴女がワンピースなんですもの。折角だから私もワンピースにしてみたの。どう?似合ってるかしら」

 

「え、えぇっと…」

 

 えぇ…。(困惑)

 似合ってるけど、似合っているけども。その配色一体何なのよエイリン。

 私と同じタイプのワンピースは体の正中線にそうように左右を赤と青という真反対の色で彩っている。

 

 これを作った奴の頭の中はどんだけ先進的なのよ。人類には難易度高すぎるでしょうこれ。

 正直こんなの来たら普通その色のアンバランスさで着こなせないもののはずなのにエイリンにはなぜか似合っているのよね…不思議。

 

「…似合ってるわよ?」

 

「あら、ありがとう」

 

 うん、あんまり深く考えてはいけないがしてきた。

 美女は何着ても似合うもの。それでいいじゃない、うん。私また一つ学んだわ。

 

「さて。じゃあお夕飯のお買い物もしつつ都を回りましょう?」

 

「えぇ、行きましょうか」

 

 エイリンに先んじて玄関前の庭に出て、ふと思いを馳せる。

 だいぶ時間はかかってしまったが、ようやくここから私の地球ライフが始まると思うとなんだか胸がいっぱいになる。

 無論、恐竜と同じ時代に人がいるという矛盾の原因も調べなければならないだろう。この矛盾の原因はもしかしたら私にあるのかもしれないのだから。

 

 これからやらなければならない諸々に思いを馳せ、頭を降ることで一旦考えるのを止める。

 ひとつひとつやって行きましょう。時間はまだまだたっぷりあるし、これの調査以外にもこの都でやりたいこともたくさんある。

 

「何より…」

 

「どうかした?」

 

「ううん、何でもない」

 

 これからの居候先の主人の彼女に笑いかける。

 目の前でまた挙動不審になっている彼女のことをもっと知りたい。

 いつもどんなことをしているのか、もっと知りたいと思ってしまうのだ。

 

「(なんなのかしらね、この気持ちは…)」

 

 親愛か友情か、もしくは…

 

 そこで考えるのを止めておく。きっと、もっともっと時間をかけてお互いのことを知ってからでいいでしょう。

 だから、今は

 

「エイリン」

 

「えっ、ええ」

 

「これからよろしく」

 

 これで、いいんだと思う。

 

 

 

<✤>

 

 

 

 ─◼◼◼タワー・◼◼◼階─

 

 都の中央に立つ一際高いビルの上層階の部屋

 後世の日本において書院と言われた造りをした部屋には薄明かりが灯り、男の声が響く。

 

「……以上が今回の調査のご報告となります。」

 

「大儀であった。下がれ」

 

「奥」には御簾が掛かり、奥側の明かりによるものか人影が御簾に映っている。

 その人影から発された言葉はまるで重みを持つかのように部屋にのしかかり、空間を圧で支配する。

 男はそれに畏れを感じながらも静かに立ち上がり、しずしずと部屋から出ていった。

 

「……ふぅ」

 

 その溜息を区切りに先程まで部屋を覆っていた重圧は嘘のように消え去ってしまう。

 

「今回の調査も特に成果無し、か」

 

「奥」にて物憂げにそう呟く彼女の名は《月夜見》。この都の王であり、夜と月を司る神である。

 美しき神はその銀髪を鬱陶しそうにかきあげると、手元の書類に改めて目を落とす。

 

「穢れか…」

 

 彼女が先程報告されたものは都の民を老いさらばえさせる元と考えられている『穢れ』に対しての調査の結果。

 都の技術力と知識を持ってこれを調査しているのだが、芳しい結果はまだ出ていない。

 穢れについて分かったことといえば穢れが常世に存在する黄泉に存在するものだということ。

 

「すこしでもはやく、対応策を練らねばならんな…」

 

 月夜見は目を閉じ考えるように天井を仰ぐ。

 

 ─何とかせねばならぬ、他ならぬ我が民の為に─

 

 たとえ神さえも死ぬこともある。それは彼女の父の伴侶であった伊邪那美がその身をもって証明している。

 

 自らの父の妹であり、伴侶であった伊邪那美は火之迦具土神を産み落とした際にその火によってミホトに火傷を負い、苦しみながら死んでしまった。その後、月夜見の父である伊邪那岐は伊邪那美を連れ戻しに黄泉へと向かうのだが…それは今は重要ではない。

 

問題は黄泉にある穢れが何らかの原因によって現世(うつしよ)へと流れていることだ。

人には本来ならば寿命という言葉はない。しかし、穢れの存在によってこの大地には生命の終わり『死』がうまれ、人にも寿命が出来てしまった。

 

今の所、穢れに対して彼女が出来るのは障壁に自らの神としての権能を施し、穢れから都を守るだけだ。

 

「……覚悟を、決めるべきだな」

 

ふと、月夜見は部屋の外に何者かの気配を感じる。

気配を探りその正体に気づくと月夜見はその顔に笑みを浮かべ、ソレに呼びかける。

 

「豊姫。そんな所にいないでこちらに来なさい。」

 

すると、その言葉を待っていたのか襖の間からひょっこりと愛らしい顔をした少女が顔を出した。

 

「お話終わった?」

 

「あぁ、終ったよ。豊姫はどうしたの?」

 

「うんとね、これを母上に見せたかったの」

 

豊姫と呼ばれた少女はとてとてと月読見に近づくと後ろ手に持っていた絵を月読見に見せる。

 

「えへへ。母上と私!」

 

「凄いなぁ。豊姫は絵を描くのが上手だねぇ」

 

「わぁ、くすぐったいよぉ」

 

キャッキャと撫でられて笑っている娘の前では月夜見もただの母親である。暫くそのまま撫で続けると、豊姫の瞼が重く垂れていく。

 

「んぅ…」

 

「さぁ豊姫はもうねる時間だよ、一緒に寝ようね。」

 

「はぁい」

 

腕の中でうとうとしている少女を見ながら月夜見は改めて決意する。

必ず、穢れをどうにかして見せる。この子のためにも。

 

夜はまだ始まったばかりだ。

 




くぅ疲。
作者はこの小説を暇な時間をぬって書いているんですが、かける時とかけない時の差が凄いです。
かける時は1話分丸々書けるんですけど、かけない時は本当に文字数が3桁いきません。
毎日投稿やってる人とかどうやってるんでしょうね。

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