幻想郷創造記   作:テーブルの木目

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第5話 永琳のオテツダイの1

 地平線の果てまで続くかのような深緑の中を二つの人影が森と森の間にある視界の開けた平原を歩いている。

 

「ぐぇ〜。つ、疲れたぁ…」

「我慢弱いわねぇ…。目的地まで後ちょっとよ、踏ん張りなさい」

 

 淑女にあるまじき声を出しながら息も絶え絶えに歩くのは先日義妹と同居人から名前を貰った「紫」

 そんな彼女をたしなめながら紫の前を歩くのは「八意 永琳」。2人は永琳の趣味である薬の研究に必要な素材を集めに都の外に出てきていた。

 尚、今の2人の格好は動き易く設計された狩り装束のようなものである。額、胸部、脛と言った急所のみを鎧で守っている。

 勝手知ったるといった永琳に対して紫は今回を含めても都の外に出るのは両の手で数えられる程。

 紫の美しい四肢はうっすらと汗をかき、太陽に照らされたそれだけを見ればとても艶っぽいが、八の字に歪めた眉とぜぇぜぇと溢れる喘ぎ声のせいで色々と台無しであった。

 

「ね、ねぇエイリン。ふぅ、後、どれ位素材を集めるの?」

「そうねぇ…、今が丁度正午頃、ここから都に帰るまで一刻半という所だから…」

 

 永琳はぶつぶつと口の中で帰路に掛かる時間を計算すると

 

「この素材の採集が終わったら都に帰るわ」

「ほ、ホント!?」

「嘘はつかないわ」

 

 やったー、と紫が後ろでいきなりガッツポーズしたせいで咳き込む紫を尻目に見ながら永琳は手元の端末を見る。

 

「……ここら辺ね。紫、目当ての素材はここら辺の水辺に自生している筈よ。ちょっと来てちょうだい、端末でサンプル画像を見せるわ」

「はーい、えぇっとこの茶色い棒みたいなやつね」

 

 永琳は紫の言葉に頷くと

 

「じゃあ一緒に行きましょう。またいつかの時みたいに肉食トカゲが出ないとも限らないわ」

「うっ…そうね」

 

 瞬間思い出したくもない記憶がフラッシュバックする。

 あんなのとは金輪際関わりあいたくないわ、と改めて強く紫は意識した。

 

「じゃあ着いてきてちょうだい。私もなるべく見つけられるように目をまわすけれど、もし見つかったらすぐに私におしえて」

「はーい。

 今回は完全にエイリンの荷物持ちだもの。文句はないわ」

 

 

 

 

 

 

 紫が永琳に助けられた時に結んだ約束は永琳の仕事、及び家事を手伝うことだ。約束に従って紫は料理や風呂掃除、洗濯などの家事を行い、それと並行して豊姫と一緒に永琳から()()()()を学んでいる。

 

 それは、後世であれば大学と呼ばれる学舎で研究するような高度な水準の学習だが、前から永琳の元で教育を受けていた月夜見の血縁である豊姫は勿論の事ながら、これが人として初めての学習である紫も「学問って難しいのねぇ〜」と朧気に感じるくらいで特に苦はない、要するに要領が良いのである。特に苦手意識を持つことなく紫は勉学に励む事ができた。

 

 そんな訳で学習面から見れば大人と同等の知識と能力を身につけることになった紫だが、それが通用しないのが永琳のお手伝いである。

 

 家事であればまだやりようはあるが、主に彼女の趣味関係のオテツダイには一般教養が役に立たない。

 そもそも永琳のやっている薬作りはいつも目標とする効能が突飛で、参考資料なんて無いことがざらにある。

 紫が同棲してすぐの頃、お昼ごはんを終えた永琳が遠くの空を飛んでいる翼竜らしき姿をじっと見ていたかと思えば唐突に人体から翼を生やす薬を開発しようとしたりしたこともあった。

 そんなことはかんがえても行動に移そうとする者はいない。が、この八意 永琳にとってはそんなこと関係ない。やると決めたら一直線。すぐに行動に移すことが出来る人物である。無論研究資料なぞ存在しない。

 

 そういった場合、永琳は正に1から全てを作ろうとするのだ。そこに過去に前例がないからという言い訳は通じない。

 前例がないなら私がその前例になってやると言わんばかりの勢いで研究を重ねる。試験薬を作り、試行。結果を記録し、失敗ならもう1度研究、試行、結果を記録…。

 そこに高々一般教養レベルの紫が介入する隙間はない。永琳が、何より紫自身がそう気づいていたので最初の頃は手伝いと言っても精々が研究で忙しい永琳の元にお茶やお茶請けを持って行くぐらいだった。

 

 そうして数え切れないほどのトライアンドエラーを永琳は1人で繰り返し、それが終わった頃にはその目を充血させて満足気に泥のように眠る。

 ひとえに天才だからこそ許される所業。永琳と同じような事を常人が同じように1人でやろうとすればすぐに体と心が壊れてしまうだろうそれは、もはや永琳にとっては日常とも呼べるものになっていた。

 ただ、それを同居人である紫が許容するかは別であるが。

 

 以前、同棲してすぐの頃に永琳を朝餉(あさげ)に呼びに来た時にそんな現場(研究明けの永琳)に出くわしてしまった紫はその場で悲鳴をあげ、体を揺すってもまるで起きる気配のない永琳に恥も見聞もなくガチ泣きした。

 

 その数時間後に起きてきた永琳に安堵して再度泣きかけ、その原因が研究の為に六徹していた為だと知ると烈火のごとく怒った。

 更に。永琳は紫にバレないように目の下に出来た隈をこれまた自分の薬で誤魔化していた。紫はその事に気がつくと何だかもうどうしようもなく悲しくなり遂に永琳に抱きつくとそのまま泣きそうな声で永琳に体を労わるように静かに説教を始めた。

 その両の目にいっぱいの涙を溜めた泣きかけの紫にその場で正座させられて1時間ほど説教された後、永琳は倒れるまで研究をしない事、一夜を通して研究をしたのなら必ず同居人たる紫にその旨を伝えて5時間以上の仮眠を取ることなどを誓う契約書にサインするハメになった。

 

 

 紫に怒られた永琳といえば、永琳が無茶をしながらもそれに気づくことの出来なかった自分への自己嫌悪で泣きそうになりながら説教する紫になんだかとっても胸が締め付けられ、もう二度と紫を自分の不手際で泣かせるようなことはすまいと心に誓ったという。

 

 

 そんな事もあった為にそれまでよりも永琳の体調を気にするようになった紫は永琳の研究の手伝いや身の回りのお世話をより一層行うようになり、結果的には永琳が一人でやる作業が減った事で以前よりも研究の進みが良くなったようだ。

 

 尚、その時の事やその後の紫の過剰とも言える永琳に対するお世話のせいで永琳は研究以外出来ない女になりつつある。

 なにせ何か永琳がしようものならすぐに紫がどこからともなく駆けつけ

「いいのよ永琳。これは私がやっておくから永琳は待ってて?」

 と笑顔で全部やってしまうのだ。

 着々と永琳の仕事以外ダメ人間化が進みつつあるのを紫を含め都一の天才と謳われる永琳さえも気づいていない……。

 

 

<✤>

 

 

 

「………あっ」

 

 近くにある池の水によりにより軟化して泥化した地面に四苦八苦しながらも目的のものを見つけ出す。

 あった!という言葉を飲み込み、一旦周りを見渡す。

 私から少し離れた所でエイリンも素材をみつけたらしい、こちらに背を向け手元から採取用の道具を取り出している。

 私は手元の端末を操作し、もう一度目の前の稲のような植物が目的のものか確認する。

 

 この植物の名前は【ガマ】。水辺や沼地に群生する。

 このガマがつけているフランクフルトのように見えるそれは実はこのガマの雌花(めばな)である。一見すると花には見えないその花の花粉には様々な薬効があり、凡庸性の高い薬草としてエイリンも重宝しているらしい。

 

 私が永琳と同棲し始めてから早数ヶ月、都の外と内で見聞を広げるうちに分かったことが沢山ある。

 そのうちの一つにこの都の人々に関することがある

 この都に住む人々は皆寿命というものがないということ。ある程度成長するとそこで成長が止まり、そのまま老衰しないらしい。

 なんとも不可思議で理解不能ではあるが、事実この都を治めている王はもう数千年は生きているということをエイリンから教えられ、半信半疑ながらも信じることになった。

 とはいえ、そんな寿命がない彼らでも怪我をすること自体はあるらしく、そのために薬学も都の様相に伴うように発展したらしい。

 

 そんな中、わざわざ薬の素材を取りに都の外に出向くエイリンはやっぱり異質らしい。

 薬の多くは植物由来の成分を化合して作られるものである為、都に住む多くの薬師が都の中で薬草を生産し薬を調剤するのに対して、エイリンは自らの足で都の外に出てまで生薬を作ることを良しとしている。

 

 その事についてエイリンに聞いたこともあったが「確かに人の手で管理生産しなければいけない植物もあるけれど、都の外に自生するものまで私は育てる気にならないだけよ」と返された。

 対してエイリンとは逆に都の人にとっては外は危険だから都から出ないというただの損得勘定だろう。単純にエイリンが恐竜などの都の外の脅威にさほど危険を感じないからということもある。

 

 私を肉食恐竜から救ってくれた時のエイリンの弓の腕は本当に凄かった。これに加えてサイ〇ガンなんてものもあるのだから命の危険がないのも納得できる。

 

 

 考えながら目の前に群生している【ガマ】の採取をつづけていると、後ろからぬちゃぬちゃという泥を踏み進む足音と共にエイリンが近づいてきた。

 

「そっちはどうかしら」

「結構沢山採取できそうよ。エイリンは?」

「こっちも順調と言ったところかしら。これで向こう1ヶ月は【ガマ】の採集をしなくても良さそうね」

「じゃあこれを採取したら都に戻りましょ?今日は豊姫が夕飯を食べに来るのだし」

「そうね。帰り際に夕飯の食材を買いましょうか」

 

 

 

<✤>

 

 

 

 くつくつと鍋の中の具材がに立つ音がキッチンに響く。

 

 結局あの後都に戻ってきた私達は都の中央街にある大型ショッピングセンターで野菜と《豚肉》を買って帰ってきた。

 今日の夕飯は久しぶりに3人での食事になる。いつもより量を増やした鍋の中身を横目で確認しつつ、今日の主食の付け合せを作る。

 

 本日の我が家のメニューは【豚バラミルフィーユ】である。

 材料の種類が少ないながらも美味しく、なおかつヘルシーなこの料理は作り方もシンプルである。

 鍋のなかに白菜と豚バラを重ね合わせて入れ、ミルフィーユのようにしていく。その後に水、醤油、だしの素を加えていき火にかける。

 個人的なポイントとしては白菜は煮込まれることで少し縮むので今回の豊姫のように育ち盛りの子供と食べる時なんかは白菜の量を少し多めに入れることだ。

 

「よし、エイリンー豊姫ー!あっついの行くから注意してー!」

 

 鍋つかみをして鍋をキッチンに隣接するリビングに持っていく。

 

「わぁーい。待ってましたー!」

「なんだか任せっぱなしで悪いわね紫」

「いいのよエイリン、私が好きでやってるんだもの」

 

 豊姫の元気な歓声とともにエイリンが申し訳なさそうに謝ってくる。

 私はそれに気にしてないことを伝えると、足が低い丸テーブルの真ん中に置かれた鍋敷きの上にお鍋を置く。

 

「よぉーし、じゃあ召し上がれ!」

「「いただきます!」」

 

 蓋を開けると同時に漂ってくる魚介系のだしのいい匂い。思わずヨダレが出そうになるのを飲み込み、豊姫に手を出す。

 

「ほら豊姫、取ってあげる」

「ありがとうお姉ちゃん」

 

 豊姫から()()()()を受け取るとひとまず真ん中の1番美味しいところを掬う。野菜とお肉の比率が5.5:4.5位になるように菜箸を使って入れていく。鍋の汁が大好きな豊姫のためにおたまを使ってお汁を多めに入れておく。

 豊姫に渡したら次はエイリンから受け取ってまた具材を入れていく。

 

 エイリンは白菜のシャキシャキっとした食感が好きなのでなるべく白の面積の多い白菜を選んで入れていく。エイリンは具の入れ終わった自分のとんすいをみてゴクリと喉を鳴らして私から受けてとる。

 

 私も食べよっと。

 端っこの方にある白菜と豚バラを菜箸で掴む。エイリンはシャキシャキの白菜が好きで私ももちろん好きなのだが、だしのきいたしみしみの白菜も大好きだったりする。

 よそった具材をじっと見つめ口の中に入れる。

 瞬間広がる味に思わず頬が緩んでしまう。煮込まれた豚バラ肉は勿論の事、白菜にもだしがきいていてひと噛みするごとに口の中にだしの味が広がる。

 

 ん〜幸せ〜

 

 自分で作っておいてなんだがとても美味しい。我ながら料理の腕が上がってきているのを感じてなんだか嬉しくなってしまう。

 

 ニヨニヨとしている私の左どなりに座るエイリンの目が何かを探すようにテーブルの上を行き来している。

 

「ええっと…」

「あぁ、ほら柚子胡椒はこっちよ」

「ありがとう紫。いつものが無いなと思ったら鍋の影に隠れて見えなかったのね」

「ふふっ、これがないとエイリン拗ねちゃうんだもの」

「なっ、もぅあんまりからかわないで…」

「やだー恥ずかしがってるエイリンかわいい〜」

「も、もう!終いには怒るわよ!?」

「キャーごめんなさーい」

 

 こちらに向かってぷんぷんと怒るエイリンにあからさまな怖がりをする。

 そんな私たちを見て豊姫が言った言葉に私もエイリンも凍りついてしまった。

 

「うふふっ、2人とも夫婦みたい」

 

 ピシッと私とエイリンの動きが止まった。

 

「ふ、ふふふふふふうふぅっ!!??」

「わぁ落ち着いて先生。焦り過ぎて何を行ってるのか分かんないよ?」

「こ、これが落ち着いていられますか!ふ、夫婦って貴女何を」

「だってぇ、なんか2人ともお互いの事を知り尽くしてるみたいな感じだし、さっきの柚子胡椒だって先生が何も言ってないのにお姉ちゃん先生が柚子胡椒探してるって気づいてたし」

「なっ、あれはその…ゆ、紫も何か言って…よ…」

 

 そう言って顔を赤くしたエイリンは私に話を振ろうとしてこっちの顔を見て固まっているみたいだけど正直それどころじゃない。

 

 私とエイリンが、夫婦?

 夫婦…ふうふ…ふうふ………?

 夫婦…!

 

 理解した瞬間顔がカッと熱くなるのを感じる。

 そんな、そんなの、今まで全然意識したことも無かったのに…

 頬が熱を帯びるのを嫌でも自覚してしまう。口から意味の無い呻き声のようなものが溢れてくる。

 

「ぁぅ、うぅ」

「ゆ、紫?」

「ぅへぇっ!?あっ、えっエイリンどうかした?」

「どうかしたっていうかその、顔真っ赤よ…?」

「えっあっそのっこれは違くてッ」

 

 何が違うというのか、心配そうに近づいてきたエイリンの顔を見るだけでこんなに顔が赤くなって、今にも心臓が爆発しそうな程鼓動が早く大きくなっているというのに。

 

「う、うぅ…(プシュゥ)」

「ちょっ、ちょっと紫っ!?」

 

 あぁだめだ、これはだめだ。恐らく煙を吹いてしまった私を心配そうにのぞき込む貴女を私は…

 そこまで考えてからカンカンとお箸を鳴らす音で私とエイリンはハッとして先ほどの音の音源であろう箸を持って頬をちょっと染めてニヤニヤしながらこちらを見ている豊姫と目があった。

 

「先生も紫お姉ちゃんも熱々なのはいいけどその辺にしてくれないと私の豚バラミルフィーユが本当に甘々なミルフィーユになっちゃうんだけどナ〜」

「「ッッ!!」」

 

 瞬間顔がくっつく程近づいていた私達はバッと互いに距離をとり、しばらくしてからチマチマとまた鍋をつまみ始めた。

 

 

 

 この時お互いの顔をちらちら伺いながら目が合うと顔を勢いよく逸らす私たちを見ながら

「(ん〜先生が義姉になるのも近いかな~?)」

 と笑う小悪魔(豊姫)がいたとかなんとか

 

 

 

 




この小説はゆかえー小説だったんだよ!(迫真)

えぇはい、言い訳はしませんとも
けんじゃしてる紫と月の煩悩とかした永琳のイチャイチャが見たかったんです
安易な恋愛ルートはNGっていう言う人もいるかもしれないけど僕はこのまま続けます(頑固)
永琳の仕事以外ダメ人間化は私の趣味でごわす
仕事はきっちり出来るのに家だと紫なしじゃ暮らせない体にされてく所紫は策士ですね、妖怪の賢者の頭角がみえるみえる。

ところでUAが先日1000突破してました。ありがてぇ…
感想をくれた方ありがとうございます!感想貰えると頑張ろうって気持ちになるから本当ありがたいです。
これからも本作を宜しくお願いします。


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