本っ当にお待たせしました!
1週間に1回のペースを遂にきってしまったのを謝罪します。ごめんなさい。
今回は非常に難産でした。所々文や表現がおかしくなっているかも知れません。ごめんなさい(2回目)
さて、暑い日が続きますが皆様はいかがお過ごしでしょうか。先日は都内で40度を超えるような場所も出たと聞いています。木目は今軽く夏バテ中です。皆様も夏バテ、熱中症にはお気をつけください。
「………ぅん」
…あれ、私は何を…
眠りから覚めた時のように意識が朦朧としている。
はっきりとしない意識を何とか起こし、ぼやけた視界で自分を確認する。
はて、私はなんで横になっているのか。
状況を鑑みて、どうやら私は畳に敷かれた布団の上に横になっていたようだ。
どこだろうかここは。我が家…ではないようだし
「ふあ〜」
大きなあくびが 口からこぼれる。ううん…意識がハッキリしない……
未だにサボっていたい様子の大脳に抗いながら周りの様子を伺う。
和室、それも薄暗くてよく見えないものの確認できる範囲ではだいぶ広い部屋にいるみたいだ。
「ここは…」
数少ない光源の燈籠が離れた位置にある襖を下から照らしている。中はろうそくでも入っているのか燈籠に描かれた絵が襖に影となってうつり、ゆらりゆらりと揺れている。
顔を入り口であろう襖とは反対に向ければそちらには障子があった。
木組みの影が畳に落ちていて、障子の奥が薄明るい事を教えてくれている。
その柔らかい光に誘われる様に体を起こして障子に近づき、そして静かに障子を開けた。
障子を開けると縁側があり、日本庭園式の庭が広がっていた。
今まで聞こえていなかった虫達の鳴き声と風に揺れる草木の音が耳に染み入る。
庭には池があって、その中に写っていた月に気づいてその目線を上げれば有り得ないほどに大きい月の姿があった
地上からでは肉眼で見えない程の月の模様の細部まで、この目で見ることができる。
月が放つその頼りなくも優しい光の中で佇み、しばし吸い込まれてしまいそうなその光景に時を忘れて見とれてしまう。
そうして暫くして、私は後ろから控えめに掛けられた豊姫の声に意識を現実に引き戻した。
「紫お姉ちゃん…?」
「豊姫…?」
振り替えれば豊姫はこちらを見てギョッとしていて
「紫お姉ちゃん泣いてるの…?」
と声を掛けてきた。
「えっ…、あ、あれ」
豊姫の言葉に頬を触ってみれば確かに暖かい液体が頬をつたって目から零れ落ちていた。
「大丈夫?どこか痛いところがあるの?」
「いえ、大丈夫。この風景に感動して自然と涙が零れてしまっただけなの。別にどこか痛い訳では無いから心配しないで」
豊姫の呼びかけに我に帰って涙を拭おうとポケットに入れたハンカチを取ろうとして違和感に気づいた。
「(ポケットが無い…?というかこれ、浴衣?)」
自分の服装が見覚えのない浴衣姿になっているのに気づいて混乱する。今日のは確か上にゆったりめのカットソーのTシャツと足首上のズボンだったはず。
あれ、今日はそもそも永琳とどこかに出かけたんじゃなかったか。
「お姉ちゃん?」
そうだ、確か永琳の研究が明けていつもより遅めの朝ごはんを作って…そう、紫が合わせたい人が居るとか何とかで中央街にある大きなビルに行って。
「お姉ちゃんってば」
そう、そこであきらかに偉い人と御簾越しに話していた時にその御簾の向こう側から目の前の豊姫が、って
「そう、そうよ豊姫何であんなところにいたのよォグホァアア!?」
「あっ!?」
何故あの時あんな場所に豊姫がいたのかを目の前の本人に問いただそうとして肩を掴んで詰め寄ったのがいけなかったのだろう。幼いながらも凄まじい早さの手が私の右手を掴むと同時に私は思いっきり投げられた。背中から変な音がした気がする。
「ご、ごめんお姉ちゃん!お姉ちゃんいきなり声上げて肩つかむから怖くなっちゃって…思わず投げちゃった」
「いいのよ…今のは私も悪かったわ…」
「本当にごめんなさい!背中当たったところ痛くない?」
「ふっ、ももも問題ないわ。
それにね豊姫、この世に姉より優れた妹などいないの。つまりはそういう事よ」
「ど、どういうこと?」
「それにしても凄まじい早さの投げね、以前よりも腕を上げたんじゃない?義理とはいえさすが私の妹と言ったところかしら…」
「どうしよう、話が通じないよ!背中を打ったお姉ちゃんの頭がおかしくなっちゃった…!」
私の頭がおかしいなどと変なことを言う愛妹だ。
ここは一つ姉としての威厳を見せねばいけないようね…!
「そんな事言う豊姫は~こうよ!」
「うわちょっと!うはっ!ゆかりおねぇちゃふふっ!」
必死に私の手から逃れようとしているみたいだけど…フフフッ、その程度でゴッドハンドと呼ばれたこの紫の手から逃れることなど出来ぬわッ!無駄に無駄のない無駄に洗練されたこの手でじわじわとくすぐりたおしてくれる!
「それそれ~ここがええんか~」
「やぁ〜お姉ちゃん変態さんっぽい〜ぁは!うひひひ!」
「そんな事言っても体は正直よ~ほらほら」
「んはははは!ぅひ!ひぅんもう!お姉ちゃんいい加減にして!」
そして私の視界は宙を舞った、背中が地面とぶつかると同時に激しい痛みが私を襲い、今度こそ背中から変な音が出る。
これはもう(私の背中は)だめかもしれんね…明日からサ〇ンパスのお世話にならなきゃ…
ていうかなに、我が愛しのリトルシスターにはブドウジツの心得でもあるの?何でそんなにポンポン体格が上の相手を投げられるのかね?私と豊姫で軽く30cm位は差があると思うんだけど。
「ハッ!?またやっちゃった!お、お姉ちゃん〜」
あーダメダメまた意識が遠のいてきましたよどうすんのこれ豊姫強すぎないですかねちょっと豊姫に投げ技を教えた人と軽く一時間ほどお話する必要性が出てきましたねこれはあっダメだほんとに意識が遠のいてきた落ちる前に豊姫に訪ねたいことが
そして私は意識を暗転させた。
<✤>
「入るわよ」
「ヴェッ!?
あっ、先生?お母様とのお話終わりましたか?」
「なんて声出してんのよ…
ええ、先程終わったから一緒に来たの」
「豊姫、紫殿の様子はどう?目覚められていないようだけど」
「ええっとーさっきまで起きてたんだけど~アハハハハハ、はは…」
「( ˘ω˘ ) スヤァ...」
「安らかな顔をして眠っていますね…それほど豊姫がいたのが驚きだったのでしょうか。まさか気絶するほどとは…」
「おかしいわね、頭は打っていないからそろそろ起きててもおかしくはないんだけど」
「ぅうん」
「あら、そうこうしてたら起きたみたい」
「永琳…?それに豊姫と…だれ?」
「先程は失礼しました、私が月夜見です」
「…?ええっと……」
「どうやらまだ意識がハッキリしてないみたいね。紫、今日中央街にある高層ビルに来たのは覚えてる?」
「ええ」
「そのビルの最高階層で、石畳の奥の和室で御簾越しにある人と謁見したのは覚えてるかしら」
「…あぁそうだった!そう!そしたら豊姫が御簾の向こうから出てきてそれでとてもびっくりして…」
「そうね、そこで貴女は混乱して今の今まで気絶していたのよ」
「えっ、そうなの?じゃあここは」
「まだあの場所よ。ここは客室の一つで、気絶した貴女を此処で休ませてもらっていたの」
「嘘っ!じゃあここの人にお礼を言わないと…!」
「前約束もなくここまで呼び出してしまったのはこちらの落ち度ですし、理由も私の個人的なものです。貴女に事前説明をしなかった私のせいでもあります。むしろ、私は貴女に謝るべきでしょう」
そうして永琳と似通った色の髪を持つ美女は紫に頭を下げた。
「ちょっと待ってください。貴女が呼び出した…ということは」
「ええ、私があの時御簾越しに貴女と話していたものです」
それを聞いた途端紫は未だに頭を下げたままの月夜見に慌てて近づいた。
「ちょっ、そんな人が私に頭を下げないでください!そんな事しなくても大丈夫ですから!」
「ですが…」
「確かに私は気絶してしまいましたけど、別にそれは貴女が謝る事じゃないですし、何より偉い人に頭を下げられるのはなんというか体がムズムズしますから!」
「ふふっ。豊姫の言っていたとおり…正直で心遣いのできる方なのですね」
「でしょうお母さん!」
月夜見の言葉に紫の後ろから豊姫が嬉しそうに声を上げる。
「えっ、お母さん?」
ただ、紫にとっては聞き捨てならない言葉が入っていた。
「改めて自己紹介をさせていただきます。私は月夜見、この都の王であり…豊姫の母でございます。紫さんの事は豊姫からお話はよく聞いておりました…此度はそんなあなたに興味を持ち、この場まで御足労させてしまったこと、今一度謝罪させてください」
「」
「紫さん?」
「ほら起きなさい紫」
「はっ!?ご、ごめんなさい」
永琳が紫の体を揺らす。どうやらまた気絶しかけたようだ
「本当に申し訳ありません。ちょっと驚きの連続で整理が付いていなくて……ええっとつまり、豊姫は貴女様の御息女で、そして泣く彼女から私の事を聞いた聞いた貴女様が私を呼び出した、と」
「ええ、まさに」
……つまりは豊姫はこの都のトップの御息女で、私は不敬にもその彼女のことを妹と扱っていたと……?
大丈夫かな私、不敬罪で斬首とかされない?
「…ここまで貴女を呼び出してしまった私が言うことではありませんが…どうか豊姫とは今後とも姉妹のように接して上げて頂けませんか?」
「!それは…でも」
正直、それはいいのだろうかと思う。
彼女はこの都のトップの血縁であることは変わらない。
確かに豊姫の事は本当の妹のに可愛いがっているし、彼女も望んでくれるなら今後も豊姫とはずっと仲良くしていたいのは本当だ。
けれど、目の前の月夜見様にだって立場があるだろう。
彼女が血縁者であるなら様々な障害が起こることだって十分にありうる。例えば、その権力を狙った誘拐事件とか。
別に、私が巻き込まれるのが嫌だとかそういう訳じゃない。単純に、私が原因で豊姫に、引いては目の前の彼女に被害が及ばないか心配なのだ。
数ヶ月前にこの都に来たよそ者の私なんかが本当にこのまま豊姫のそばにいていいのか、なんて思ってしまう。
「…あなたが豊姫や、引いては私にまで迷惑をかけるのではないかと言う事を心配しているのならば、それは無用な心配です。この子にも自分の身を守る訓練はさせておりますし、それに…」
そう言って彼女は豊姫を見た
「私がこのような立場故に、この子にとってもあなたは初めて出来た友人。今ではあなたの事を姉と慕っていると聞いています。身勝手な事を言っているのは分かっています。それでもどうか、豊姫と今まで通り姉妹の様に接して上げて頂けませんか」
彼女の豊姫に対する愛情を感じる。親として豊姫の事を大切に思っているのが今までの会話を通して伝わってきた。
「…豊姫」
「うん」
「私は、まだ貴女の姉で居てもいい?」
「いてほしい…もっと、ずっと私のお姉ちゃんでいて欲しいよ…!」
「そっか………うん。私なんかでいいなら、これからも貴女の姉でいさせてくれるかしら」
「~ッ、うん、うんっ!お姉ちゃん大好き!」
そうして豊姫は紫の胸に飛び込んだ
「ごめんなさいお姉ちゃん、その、私の家の事ずっと隠してて」
「どうして謝るの?」
「だって、お姉ちゃんにだけ私の事伝えてなかったんだもの。ずっと一緒に勉強して、お姉ちゃんなんて言っておいて私はお姉ちゃんに隠し事してた…私最低だ」
「…いい?豊姫。誰にだって、隠したい事の一つや二つあるものよ?家族同然の人が相手であってもその隠したい事を必ず話さなければいけないなんてことは無いの。もちろん、貴女の事を永琳だけは知っていたっていうのはチョット嫉妬しちゃったけどね?」
「うっ、ゴメンナサイ…嫌いになった?」
その言葉に大袈裟に肩をすくめると紫はその胸に豊姫を抱き寄せた。
「ワプッ」
「
そう言って安心させるように紫は愛妹の頭を撫でた
「…うん、お姉ちゃんありがとう」
「どういたしまして」
「あの、もうちょっとだけ…」
「はいはい、撫でて欲しいのね?いいわよ、もっと撫でてあげる」
「………♪」
「なるほどねぇ…」とは、血は繋がっておらずともまるで人の姉妹のように振る舞う紫と豊姫の二人の様子にこぼした月夜見の言葉だ。
それに永琳はため息を吐いて言葉を投げた
「で?結局彼女は貴女のお眼鏡にかなったのかしら?」
「ええ、予想以上でした。豊姫はあれでも幼い頃から訓練で人一倍他人の悪意に敏感な娘です。その彼女があんなに安心した表情を見せるなら、少なくと彼女は豊姫に悪感情を抱いていない。今はそれが知れただけでも良かったです」
「それは良かったわ。私だって彼女を殺すなんてこと、出来ればしたくないもの」
「出来れば、ですか。
「……喧嘩なら買うわよ?」
「それは勘弁していただきたいですね」
「ありがとうございました。ええっと、月夜見様とお呼びすればいいでしょうか」
「あら、様付けなんて…それではあまりにも他人行儀に過ぎます。もう少し砕けて頂いた方が私としては嬉しいのですが」
「そ、そうは言っても……」
砕ける、なんて言っても相手はこの都のトップ。実質的に支配している人なんだし…でも仮にも豊姫に姉として宣誓したばかりで彼女の母親に他人行儀っていうのも…それはそれでおかしい、のかしら?よく分かんないわ。
「さん付けが妥当かしら、それ以外ってなると…あだ名?いや、いきなりそれはハードル高過ぎるでしょ。じゃあやっぱりさん付け…お義母さんとか?いやそれこそどういう事よ……うんさん付けが妥当よね…」
「紫さん、考え事が口から漏れていますよ?」
「へっ?うそっ、ホントですか」
アハハと笑ってめちゃくちゃに恥ずかしいのを誤魔化す。
独り言を他人に聞かれるってとっても恥ずかしくない?私は今死ぬほど恥ずかしい。
「月夜見さんと呼ばせてもらってもいいですか?」
「ふふっ、『お義母さん』でもいいんですよ?」
「も、もう!からかわないで下さい!」
そうして二人でどちらとなく笑い合った。
<✤>
「それでは永琳様、紫さん
お二人共本日はありがとうございました。またいずれ近いうちに会えるのを楽しみにしております。」
「こちらこそありがとうございました月夜見さん、それに豊姫も」
「うん!お姉ちゃんまた来週ね!」
今日はもう色々と疲れた。
豊姫がこの都のトップである月夜見さんの娘であったこともそうだし、永琳がその月夜見さんから敬意を払われる存在だということも知ることになって正直頭がパンクしそうだ。
特に永琳が月夜見さんと親しい関係だった部分に関しては私なんかが聞いてもいいのかなぁなんて思ったけど、永琳があまりに真剣に貴女には知っていてほしいって言うものだから結局納得することにする。
永琳の事、数ヶ月一緒に暮らしてきたけれど、まだまだ知らない事いっぱいあったのね……いやまぁ、個人のことに対して同居人の私が知れることなんて限られてくるのかもしれないけど。
なんて思いながら手を繋いで私の横で一緒に帰路についている永琳にに目を向ける。
「(でも……なんて言うか、永琳の事で他の人が知ってて私が知らない事があるのは)」
何だか嫌だなぁと…思ってしまうのは、私の独占欲が強いからなのかな。
<✤>
「……どういう根拠があってなのか説明してくれる?」
「…私の能力が、月の流れを司る事を主流としている事はあなたが一番ご存知でしたね」
「ええ、貴女の能力は万物の流れを見通し、その行先を『視る』チカラ。故にこそ終わりあるモノ、こと命に関してはそのものの流れを視る事ができる」
「……実はその他に、父から授かったモノがあります」
そう言うと月夜見は左目を閉じ、再び瞼を開いた。
「……あなた、その眼は」
「我が父が黄泉にて亡き妻の真姿を見抜いた眼、その左眼です。この眼を使えば、否応なしに対象の本質を視る事ができるという代物……月の食国の統治者となった私を案じた父がさずけてくれたものです」
そう言うと月夜見は沈痛な面持ちで話し始めた
「最初は、本当に只の好奇心でした。貴女の元に通わせていた豊姫から聞いた一人の少女、その少女のことが知りたかった。……私が今、穢れについて調査しているのは知っていますよね?」
「ええ、そこにあるだけで地上に住む人の子の寿命を縮めるモノ。あなたがある日突然都にトカゲ避け以外の結界を貼るって言い出した時は驚いたわ」
その時は飛んだご迷惑をお掛けしました、と月夜見。その顔は先程までの美しく凛々しい表情とは打って変わって弱りきった一人の女性そのものだった。
「とにかく、私はこの能力と左眼の力で自体の解決を急いだ。けれど、一向に打開策は思い浮かばず。結局、対処療法的に結界の力で穢れを遠ざけることしか出来ずにいます」
月夜見は永琳に一つ一つ、まるで自らの罪を懺悔するかのように語った。
「そんな時、彼女を視たんです。私は、混乱しました。そして、軽い気持ちで彼女を見た事を後悔した」
「…この世にあるものには必ず本質が存在します。それは、私達神とて同じこと、万物の定義と言っても過言ではありません。」
「ですが……彼女は違ったのです」
「本質が見えなかったんです。いいえ、正確には視えなかったのではなく捉えることが出来なかった」
「彼女の本質は、捉える事が出来ない。人は私たちより存在の芯が揺れやすい、その本質が一時的に揺れてしまうことや変わってしまうこともあるでしょう」
「でも彼女の本質は、常にその形を変えていた。いえ、一定の形を取らずに絶えず流れ、溜まり、形を変え、崩れ、そしてまた流れる。こんな事起こりえない、有り得ない事なんです。そんな事は、たとえ出来ても常人には耐えられない。人の精神構造ならば自己を見失ってすぐに精神崩壊してしまう」
「彼女の本質は、まるで神代七代や別天神の神々が生まれてきた渾沌です。何物でもない故に何者にもなりうる原初の渦。ありえざる、陽と陰のスキマに立ち、どちらにも染まることなく、その境界でゆらりゆらりと常に揺れている」
「私は、焦りました。いつの間にこんな事存在をこの都に入れてしまっていたのかと、何より私の娘の近くにこんな存在がいる事がゾッとしない冗談かと」
「今思えば、あの時私が抱いたのは恐怖だったのでしょう。渾沌のように常に姿を変えているはずなのに、確かに彼女は人としてそこに在った。それが私には理解不能で、恐ろしかった」
その時のことを思い出したのか小さく震える月夜見の肩に永琳が安心させるように軽く手を置く。
「…ありがとうございます。今日、貴女様と彼女をここに招いたのは彼女を見定めるため。渾沌を宿した存在が、何故この都に来たのかを知るため。直接彼女と会い、その真意を知るためです」
「……そう、ね。少なくとも私はあなたはこの都の王として正しい事をしたと思っているわ。彼女の本質がそんな事になっているなんて、私だけじゃ気づくことは出来なかったと思うし」
「てっきり責められるかと思いました。貴女様は彼女のことをとても大切に思っているようでしたので」
「…大切だからこそ、よ。あなたの判断は間違いではないし、私だって彼女が原因でこの国が消え去るなんてことになるのは嫌だもの」
「そう、ですか」
少し落ち着いてきた月夜見を見て永琳が話を切り出した。
「それで、彼女の人となりはさっきので少しは分かったかしら?」
「そうですね、まさかビックリして気絶してしまうなんて思っていませんでしたが、確信を得る為にももう少しだけ彼女と豊姫と貴女様を交えて話したいと思っています」
────………
<✤>
「(陰と陽…渾沌。それが彼女の本質、ね。)」
あの時、月夜見から言われたことを脳内で思い返し、横で歩いている彼女の横顔をそっと見る。
目の前の少女を拾ったのは、本当に気まぐれだった。
ただ、記憶をなくしていた彼女に多少の哀れみを感じて、自分の家に住まわせる事にした。
いつからだっただろう、気づけば彼女のいる生活が心地よくなっていた。彼女が、紫がそばに居ることが自分の中で当たり前になっていた。毎日彼女と一緒にご飯を食べて、研究を手伝ってもらって。気づけば隣に彼女がいないのが落ち着かなくなっていた。……彼女が診療所に来た男性と楽しげに話していたのを見て、どうしようもなく胸の内がモヤモヤして…
いつからだったのだろうか……私は貴女の事を──
「永琳?」
「……なぁに?」
「ん、今日の晩御飯はどうしようかなって。何か食べたいものある?」
「そうねぇ……」
でも、今は言えない。この気持ちは貴女には言えない。
「今日は暑いし、冷たいそうめんが食べたいわ」
「ふんふん、それがいいかもね。天ぷらを近くのスーパーで買ってから帰りましょうか」
この気持ちは、何時か私が本当の意味で貴女に向き合える時まで取っておきましょう。それまでは……
きっと貴女を守るわ。私の愛しい人