ダンガンロンパ インフィニティ   作:アカツキ

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(非)日常編 3

翌朝。昨日と同じく8時には既に14人が食堂に集まり、食事をとる。今日の朝食もパンが主食だ。これが何を意味するか?単純だ。オレがじゃんけんに負けた。畜生明日こそは勝ってみせる。……何かこれ昨日も思ってなかったか?

 

「あはは、今日は若干神戸さんの機嫌がいいってことは……」

「あまはらがまけたんだね」

 

おまけに、神戸は勝つとご機嫌だし、負けると不機嫌。うわっ。こいつ面倒くせぇ。

 

「てか、お前。それまずくねぇの?」

 

昨日と同じで、奴特製のグリーンジュースを指差しながら尋ねる。

 

「やれやれ。貴様は味オンチじゃないのか?」

 

お前に言われたくない。

 

「これの何処がまずいのだ」

 

全部だよ。というツッコミを心の中に止め牛乳を飲む。ふむ、

 

「神戸。ロイヤルミルクティーを一つ」

「はぁ?自分でやれよ」

「あぁ、悪かった。お前にそんな高度なこと頼んでも無駄だったな。自分でやるわ」

 

椅子から立ちあがり、キッチンというか厨房というかまぁ、そこへ向かおうとしたところで、

 

「あぁ?貴様なんかより上手く淹れられる。仕方ないからやってやる」

 

神戸が立ちあがってスタスタと歩いていった。よし。

 

「神戸も案外扱いさえわかりゃちょろいな」

「天原、そのゲスな笑みはやめろ。悪人にしか見えねぇぞ」

 

熊沢が何か言ったようだが知らん。

 

「ところで、あまはら。ろいやるみるくてぃーってなに?」

「そうそう。ミルクティーと何が違うの?」

「あぁ、それは……」

「水や熱湯で煮出した紅茶にミルクを混ぜるのがミルクティー。茶葉を直接ミルクで煮出すのがロイヤルミルクティーでございますね。あ、鹿野様、涼宮様。空いたお皿をお下げしますね」

「ありがとう。和合くん、詳しいんだね」

「わごーすごい」

「いえいえ、これほどのこと。一般常識の範疇でございますよ。あ、熊沢様に屋代様のもお下げしましょうか?」

「あ、悪いな」

「ありがとう」

 

何だろう。特に知識をひけらかせるわけでもなく、こう淡々と答えていく姿って何かカッコイイというか、和合にぴったりというか。

あ、オレには聞かないのかって?オレは神戸の特製ジュースを取りに行かされたついでに下げといたからな。……神戸の分も。

 

「ほら、頼まれたものだ」

「いただくよ。ふむ……おいしい」

 

月並みな感想だがやはりおいしい。ん?やはり?今ある記憶の中では飲んだことはなかったはずだが……きっと、失った記憶の中で飲んだことがあったのだろう。

 

「そうか……」

「ありがとな。神戸」

「別に」

 

あれ?何だろう。自棄に素直というか……まぁいいか。オレは優雅にこの時間を楽しむとするか。

 

「さて、今日の方針だが」

 

カップを小皿に置き、ゆっくりと声のする方に目を向ける。皆に話しかけたのはもちろん我らがリーダー熊沢だ。

 

「基本各自自由でいこうと思う。昨日みたいに探索をし続けても大した成果は得られないしな」

 

なるほど。闇雲に昨日みたいに探索をし、成果が得られなければ精神的に辛いだろう。

 

「ただ、午前中は最初体育館に集まらないか?」

「え?どうして?」

「こんな閉鎖空間に居てはストレスが溜まるだろう。ちょっと運動でもして発散した方がいいかなと思っただけだ。それに、遊ぶことも重要だと思う」

「なるほど、それは名案だね!」

 

熊沢の言葉に真っ先に反応したのは海部。

 

「とりあえず、集まりたい奴は一時間後に体育館に集まってくれ。気晴らしくらいにはなると思うぞ。じゃあ、解散」

 

そう言って締める熊沢。一人、また一人と自分の部屋に戻っていく。まぁ、確かにこんな閉鎖空間で、しかも外にも出れないんだ。どうしても、精神的にはストレスは溜まってくるだろう。まぁ、別に部屋とかで一人でやることもないし、いいかもな。

 

「天原くんはどうするの?」

「ん?あー行くよ。別に見学だけでも面白そうだし」

 

特に熊沢の才能は司令塔。集団スポーツにこそ発揮されるものだ。本当に発揮されるかはともかく、見てみたいという好奇心は少なからず存在する。

 

「じゃあゆめもいく~」

「あ、神戸はどうするんだ?」

「私は運動に興味がない。部屋で過ごすさ」

「ふーん。それって、運動音痴だからじゃないのか?」

 

ピキッっと、神戸の額に青筋が入るのが見て取れた。なるほど、図星かな?

 

「いいだろう天原。貴様に私の運動能力を見せてやる」

 

あ、面倒なことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

熊沢の言っていた一時間後には既に14人が体育館に集まっていた。あれから熊沢は古屋敷と白数にも声をかけたが興味がないだのくだらないだので拒否されたらしい。各々が動きやすい服装(と言ってもあんまり変わってない)に着替えた。

 

「あれ?屋代に鹿野。お前らってジャージが支給されてたのか?」

 

オレは昨日同様、ブレザーとネクタイを取っただけだが、二人はジャージに着替えていた。寝巻きかなんかだろうか?

 

「ううん。違うよ」

「そうそう。これは昨日屋代さんがモノモノマシーンで引き当てたんだよ」

「……は?あのガチャガチャそんなのまで出てくるの?」

 

というか、出てくるカプセルって、そんなに大きいのか?いや、さすがにジャージは入らないと思うんだけど……

 

「うん。大きいやつは引換券的な感じで引いた直後にモノクマが現れて交換してくれたんだ」

「あーそれなら納得だ」

「あ、でも、他にも色々と引き当てたんだよ。何か囲碁できるセットとか、初心者向けの漫画セットとか」

「へー鹿野は?何引いたんだ?」

「……天然水にただの石ころ」

 

なるほど。あのガチャの中身は豊富なようだ。そして、鹿野の引いたものはおそらくはずれ枠だろう。

 

「んじゃ、とりあえず、バスケでもするか。やりたい奴は集まってくれ」

 

そう言う熊沢。そんな彼の近くに集まったのは和合、柴、荒川、海部、杉谷、ノエル、久保山の七人。

 

「じゃあ、チーム分けでもするか」

 

向こうは勝手に話が進んでく。さてと、

 

「じゃあ、残った面子は何する?」

「おひるね~」

「それはお前だけだろ」

「うーん。五人だし、卓球とかでいいんじゃない?」

「ダブルスで回してくか。よし、鹿野準備するぞ」

「えーなんで僕なのさ」

「お前はあのか弱い女子たちにそんなことやらせるのか?」

「本音は?」

「やらせたら後が怖い」

 

神戸とか神戸とか、後神戸とか。

そんなこんなで準備完了。

 

「さて、ペア分けだが、どうする?」

「ゆめはねてる~」

「あ、自分は昨日あっきーに貰った漫画キットで絵を描いてるッス。というわけで最初は四人でどうぞッス」

「あれ?屋代さん。あげたの?」

「うん。ぼくには必要ないからね。あ、囲碁セットは古屋敷くんにあげたよ」

「……貰ってくれたの?」

「まぁ、一応。いらないのなら貰っといてやるっていう感じで」

 

古屋敷らしいというか、何と言うか。というか、この四人か。

 

「よし、オレと鹿野がペアだな」

「ちょっと待って天原くん。それは不公平じゃないかな」

 

……っち。

 

「じゃあ、鹿野。お前、神戸か屋代。どっちと組みたい」

「屋代さんでお願いします」

 

即答だった。まぁ、アイツ怖いもんな。うん。

 

「おい神戸。お前と組むことになった」

「天原か。せいぜい私の足を引っ張るなよ」

「というか、卓球のダブルスのルール分ってるよな?」

「ああ。テニスと違って交互に打っていくんだろ?知ってるさ」

 

そこはさすが勉強家だ。まぁ、細かく言うと面倒だし、そこまで厳密にやるつもりはさらさらない。

 

「じゃあ、そっちのサーブで」

「うん。屋代さんどうぞ」

「分かった」

 

屋代さんからのサーブ。オレが返して、鹿野がそれを返す、そして神戸が……

 

スカッ

 

空振る。

 

「…………」

 

続いて屋代のサーブを神戸が……

 

スカッ

 

またも空振る。

 

「…………」

 

無言で神戸にサーブをするようにボールを渡す。

 

スカッ

 

空振り。

 

スカッ

 

空振り。

 

「お前下手過ぎないか!?」

 

あまりのことに声を上げずにはいられない。

 

「し、仕方ないだろ!苦手なんだから!」

「苦手って次元じゃねぇだろ!」

「あはは……」

 

その後、神戸に渡ると10本に9本は空振りを見せる事態に陥ったが、まぁ、それなりには楽しんだ。そんな中、

 

「あ、危ない!」

 

鹿野がなんか言っている。それと同時に周囲を確認すると、バスケットボールがこちらに飛んできていた。

 

「……ッチ!」

 

すぐ隣にいた神戸を抱き寄せ手を伸ばしボールを弾く。ただ、抱き寄せた拍子に神戸が床に躓き(躓くようなものは無いはずだが)こちらに倒れこむ。当然、そんな事態になると思ってないオレは神戸が躓いたのに巻き込まれ背中から倒れる。

 

「大丈夫か!?」

 

熊沢の驚く声が聞こえた。神戸に衝撃がいかないよう咄嗟に守ったが……あー背中痛い。

 

「平気平気ー」

 

ひと先ず座り、体制を整えてからボールを返す。てか、誰だよこっちに投げたやつ。

 

「立てるか?」

「ふん。別に」

「てか、お前運動神経ゼロだろ」

「なっ!」

「いや、いきなり抱き寄せたオレも悪かったが、いくら何でもお前……」

「ああそうだ!運動神経悪いが文句あるか!」

 

肩で息をしながらオレに怒鳴る神戸。

 

「てかお前。これくらいで疲れたとか、体力もゼロだろ」

「うっさい!私よりスポーツがちょっと出来るからって調子に乗って……!」

「別に?事実をありのままに述べただけだが?」

「貴様にスポーツ以外だったら勝てるし!」

「じゃあ、やってみる?」

「ああ、臨むところだ!」

 

売り言葉に買い言葉。そんな感じで出ていくオレと神戸。

 

「え?ちょっと、あー」

 

後ろから鹿野の声がしたが無視をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、どうする?」

「うーん。僕ら二人でやろうか」

 

ということで、ダブルスの相手がどっか消えたので、僕らはシングルでやることにした。屋代さんのサーブで始め、のんびり、ラリーをしながら話をする。

 

「何であの二人ってあんなに仲が悪いんだろうね?」

「うーん。仲が悪いというより、何かが合ってないってだけだと思うよ」

「そう?ぼくには嫌悪してるようにしか見えないけど……」

「でも、本当に嫌悪していたら、あんな風に一緒に居ないでしょ」

「そうかな……?」

 

神戸さんと天原くんはなんだかんだで一緒にいることが多い。その度に些細なことで衝突しているけど、うーん。別に神戸さんが心の底から天原くんを嫌ってるわけでも、その逆ってわけでもないと思うんだけどなぁ。……まぁ、まだ出会って日数経ってないけど。

 

「ふっふっふっ。あの二人は表面上では喧嘩しているように見せ、裏で実は相思相愛のラブラブのカップルだったッス!」

「な、何だってぇ!?」

「その証拠に今も二人きりで隠れて……」

 

な、何だって!そんな!今二人は隠れてあんなことやこんなことを……!

 

「まぁ、どうせ喧嘩してるッスね」

「ですよねー」

 

うん。あの二人だけはないと思う。

 

「やれやれッス。自分がイラストを担当した作品ではお互いのことを嫌いでもふとしたきっかけで恋に落ちるっていうのもあったッスけど」

「あの二人の場合、ふとしたきっかけで喧嘩しかしないよね」

「全くその通りッスよあっきー。さっきだって、マリーがあまっちに恋心を抱いていいはずの場面なのに、何で喧嘩しちゃうんッスかね」

「うーん。神戸さんが素直になれていないのか……天原くんが余計なことを言っちゃうのか……」

「でも、清田さん。清田さんって、どんな風な作品のイラストを担当してたの?恋愛系?」

「自分ッスか?自分はオールジャンル行けますよ。バトルものから日常ものとか恋愛ものまで、何でも来いって感じッス。あーでも、あれッスね。一番描きやすいのは日常ものッス」

「え?何で?」

「いやぁ、バトルものって、あんまり現実にそういうモデルがいないじゃないですか。その点、日常ものとかは現実にモデルが沢山いる分描きやすいんッス。ほら」

 

そう言って見せてきたのは、僕と屋代さんが、卓球をやってるところの絵だった。鉛筆だけで描かれているため黒と白しか色はないが、それでも全然すごいと思う。

 

「こうやって、現実で見たものを描くのは得意ッス。まぁ、画像をもとに妄想というか、想像で膨らませるのも出来なくはないッスがちょっと苦手なんッス」

「でも凄いね。短時間でこんなに綺麗に描くなんて流石超高校級のイラストレーター。僕なんかとは比べ物にならないよ」

「まぁ、自分は絵で認められている人間ッスからね」

「でも、凄いですよ。本当に」

「そんなに褒めても何も出ないッスよ。あ、もっといい絵の構図を思いついたッス!二人とも向き合って欲しいッス」

 

清田さんに言われるがままに向き合う僕ら。

 

「さっきのあまっちたちがいい構図のヒントをくれたッスからね。物は試しッス。というわけであっきー。まろくにキスして欲しいッス」

「えぇぇっ!?」

「あれ?意味が分かんなかったッスか?チューして欲しいんッスよ」

「いやいや、そうじゃなくて……」

「さっきのあまっちとマリー。あのまま、マリーが床ドンしてキスすれば最高だったんッスけど」

「神戸さんならそのまま頭突きを喰らわしそうだけどね」

「そうなんッスよまろく……というわけで二人ともお願いします」

「どういうわけですか!?」

 

手を合わせ頼み込む清田さん。驚く屋代さん。

 

「頼まれてもやりません」

「えぇ~っ。見たいッスよね?ゆめゆめ」

「どっちでもいい~」

「そんなぁ……」

 

ガクッ、と項垂れた後に、

 

「仕方ないッス。想像で描くッス」

「描かなくていいです」

「あっきー?」

「描かなくていいです」

「……はい」

 

一瞬。屋代さんから恐ろしい圧を感じたけど気のせいにしておこう。

 

「いや~久しぶりの運動はやっぱり疲れるのう」

 

と、ここでこちらに向かってきたのは、

 

「柴くん」

「うむ。そっちは楽しんでいるかの?」

「うん。久しぶりに卓球をやっているけど楽しいよ」

「そう。ところで、天原と神戸の姿が見えんようじゃが……」

「あはは……喧嘩しに行った……かな?」

「う、うん……」

「…………なぜそうなるのじゃ……」

 

呆れる柴くん。でも、この反応が普通なんだよね……

 

「そういえば、バスケの方は?何か杉谷さん、海部さん、熊沢くんしか見えないんだけど……」

「荒川が疲れすぎてのう。あそこで倒れておる。それをノエルが看て和合と久保山がドリンクを持ってくると食堂に向かったのじゃ」

「適度な休憩は大事だと思うよ?」

「ゆめもそーおもう」

「ゆめゆめは休憩しかしてないッス」

「僕らも休憩する?屋代さん」

「うん。ちょっと汗かいちゃったし……」

 

僕も疲れたってほどじゃないけど、ちょっと休憩しよう。

 

「そう言えば鹿野くんって意外にバカじゃないよね」

「……え?それってどういう意味?」

 

唐突な発言に僕らは目を丸くする。

 

「あ、えーっと、ぼくのイメージだと超高校級って言うくらいだからてっきり何も知らないとかそんなレベルだと思っていたんだけど……」

「うーん。そういうわけじゃないと思うよ。僕はただちょっと考えると勉強が苦手で……」

 

バカだとは言われたりするけど、超高校級ってほどだとは思わなかった。

 

「じゃあ、ちょっとクイズを出してみるとするかのう」

「クイズ?」

「うむ。ワシは文化委員として日本だけでなく、世界を巡ったことがあってのう。外国のことも少しは知っておるのじゃ」

「せかいいさんとか~?」

「もちろん。世界の遺産。特に文化が関わるものに関してはすべてみたいと思っておる。いつか世界一周して全ての遺産をこの目で見てみたいのう」

「で、クイズって世界遺産に関することッスか?」

「それでもいいんじゃが、そうなると如何せん掘り下げてしまう可能性がある。だからもっと想像しやすいものじゃ」

「想像しやすいもの……?」

「漢字じゃ」

 

漢字かぁ……漢字。あんまり難しいのは分かんないなぁ……

 

「外国の国名を漢字で表記する仕方があってのう。まぁ、当て字みたいなものじゃ。漢字も文化の一つ……なんて言わぬがちょっと面白くて一時期調べたことがあるのじゃ」

「へぇ~カタカナを漢字にしたんだね」

「まぁ、カタカナは全世界共通ではないからのう。それは日本とかが外国名を表すのに使ってるだけじゃ」

「そうなの!?」

 

てっきりカタカナは世界共通かと……

 

「じゃあ、主要なところで『アメリカ』はどう書くか知っておるか?」

 

アメリカ……さっき柴君は当て字みたいって言ってたから。

 

「『雨理科』とか?」

 

清田さんからスケッチブックを借りて漢字で書いてみる。

 

「なるほどのう。鹿野が自分の知ってる漢字を使って作ったのがヒシヒシと伝わってくるのじゃ。ただ、こんな風には書かぬのう」

「そんな!」

「ふっふっふっ。甘いッスよまろく。正解はこうッス」

 

そうやって書いたのは『飴梨花』……?

 

「一番左の漢字ってどっかで見たことあるような……後、真ん中のも」

「一番左の漢字はのど飴とかの飴だよ。ほら舐めたりするあの」

「ふむふむ」

「真ん中のはナシだね。果物の」

「なんかおいしそうな漢字を並べた感じがするがこれも違うのう」

「そんな!」

「答えは……こうだよね?柴くん」

「えーっと『亜米利加』?」

「そうじゃな。他にも色んな表記の仕方があるそうじゃ」

「屋代さんって物知りだね!」

「ううん。たまたま知ってただけだよ」

「よぉし!次は正解してみせる!」

「あ、まろくには負けないッスよ!」

「どっちもがんばれ~」

 

こんな感じで何問かわいわいと和合くんたちが昼食と呼ぶまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂に着いた僕らは珍しい光景を目撃した。

 

「ここだな」

「ほう。なかなかいい手だ」

 

珍しい……って言うのは単純に古屋敷くんを食堂で目撃しているって事なんだけどね。で、向かい合うように座っているのが天原くん。

 

「お二人とも、囲碁をずっとやっているんですよ」

「久保山さん……え?ずっと?」

 

あれ?天原くんは確か神戸さんと一緒に体育館から出て行ったような……。

 

「……お前らの分だ」

 

うわぁ。凄い不機嫌そうな神戸さんが昼食を運んでいる……本当に不機嫌そうだ。何があったのか聞きたくないレベルだけど……さっきから天原くんの方を見ていることから何かあったんだろうなぁ……。流石の僕でも分かる。

 

「ま、マリー?どうしたんッスか?相当不機嫌ッスよ?」

「あまはらがなんか言った~?」

「……そういうわけじゃない」

「えーっと、二人で出て行った後、何があったの?」

 

屋代さんが恐る恐るといった感じで聞いている。これには、食堂にいるメンバーも割と気になってる様子だ。

 

「あの後、手近で勝負できる物ってことで囲碁をすることにした。天原も『やった記憶はないけどルールは覚えてるから問題ない』って承諾し、古屋敷から借りて食堂で一局やった。で、惨敗した」

 

その瞬間。僕らの中で彼女が不機嫌になってる理由が明らかになった。

 

「リベンジしようとしたが古屋敷が『俺がやる』って言ってそれからずっと二人でやってる……!」

 

ヤケになって神戸さんは自身のお手製のグリーンジュース(言っちゃ悪いけどマズい)を飲む。……ん?でもそれって……

 

「古屋敷くんに天原くんを取られて嫉妬しているってこと?」

 

その瞬間。空気が凍った気がした。え?なんか僕マズいこと言った?

 

「あ゛あ゛ぁ?」

「ごめんなさい!」

 

物凄い勢いでにらまれた。ドスの効いた声も合わさって無茶苦茶怖い。

 

「今のは鹿野くんが悪い」

「かのどんまい」

「まぁ、まろくだから仕方ないッス」

 

うぅ……何で僕ばっかりこんな損な役回りに……。

 

「そう言えば、皆は午後からどうするの?」

 

和合くんたちが作り神戸さんが運んでくれたサンドイッチを食べながら皆に聞いてみる。午後からは自由行動って聞いていたけど……

 

「ゆめはねる~」

「自分は絵を描いてるッス」

「……ボクも行っていいですか?清田さん」

「もちろんッス!」

「……ありがとうございます」

「うーん。ウチは探索かな~あのガチャガチャ引いてみたいし」

「わたしはお菓子でも作ってみます」

「ミツキサン。ワタシも一緒にいいデスカ?」

「もちろんです。一緒に作りましょう?」

「ぼくは……何も考えていないかな」

 

女性陣はこんな感じか。一人、ずっと二人の囲碁の戦いを見ていて声をかけづらいからスルーしておこう。

 

「吾輩は疲れたので部屋で休む」

「ワシも行っていいか?生憎手持ち無沙汰でのう」

「じゃあ、男二人で何か話でもするか柴殿」

「俺はもう少し運動したいな。行くか?和合」

「分かりました。私も身体を動かしたい気分ですので」

 

……困った。聞いといてあれだけど僕自身が何をしようか考えていない。かと言って一人で過ごすのも退屈だよね……夕食の時間までは全然先だし。久保山さんたちのお菓子を食べに来たとしても結局暇なんだよね……。

 

「ねぇ、鹿野君。屋代。暇ならウチと探索しない?」

 

おっと、これは願ってもない提案だ。

 

「ぼくはいいよ。鹿野くんは?」

「もちろん。やることなくて困ってたくらいだよ」

「三人ならあのメダルも発見しやすいだろうし、何より屋代の幸運があるから問題なし」

「期待してもらっても……ぼくはそんな幸運ってほど運はよくないよ……」

 

口ではそう言ってるけど彼女の幸運は所々発揮されてる気がする。今更だけど彼女にあのマシーン引いてもらえばいいものができるんじゃないのかな?というか、脱出した後彼女にゲームのガチャとかそういうものをやってもらったら結構いいもの引けるんじゃないかな。もしかして、買い物とかである福引きとかでポケットティッシュ以外のものが引けるんじゃないかな。後は自販機でもう一本当たりとか……なんてことだ。夢が膨らむ。

 

「屋代さん。ここから出たら付き合ってほしいんだけど」

「「「えぇっ!?」」」

 

驚きの声を上げるほとんどの人。あれ?僕何かマズいこと言った?

 

「うるさいぞ貴様ら。静かにできないのか」

 

と、ちょっと不機嫌になって声をかけてくるのは古屋敷くん。その声で静かにはなったけど……

 

「まろく……大胆ッスね」

「こんな堂々と言えるなんて……」

「バカここにありじゃのう」

「え、えーっと……その……ぼくはじゅ、順序が大切だと思うの……だからそんな急に言われても……」

 

???何で皆こんな反応するんだろう?

 

「鹿野。その付き合うの中身を具体的に言ってみろ」

 

碁石って言うんだっけ?それを盤の上に置きながら指示してくる天原くん。え?そんなの……

 

「ほら、屋代さんって幸運だから買い物とか一緒に行って福引きとかあればポケットティッシュ以外のものが貰えるんじゃないかなーって思ったんだけど……」

 

一瞬で空気が冷めた気がする。うーん。言葉って難しいね。

 

「昼食も食べ終えたしワシらは行こうかの」

「あ、自分たちも行くッス」

 

一人また一人と食堂から人が減って行く。

 

「じゃあ、僕らも行こうよ。海部さん。屋代さん」

 

ということで、僕らも行ってくることにした。ただ、屋代さんの僕に対する評価が下がった気がするのは何でだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はこの辺りにしておくか。アンノーン」

「そうだな古屋敷……って呼び方戻ったな」

「ふん。貴様は結局才能不明なままだ。確定していない以上アンノーンと呼ぶのがふさわしいだろ」

「いや、だったら普通に名前呼べよ」

 

少なくともこの名前は本物なんだから……。

 

「あ、古屋敷さんに天原さん。今、クッキーが焼けますので一緒に食べませんか?」

「お前らの作った料理など何が入ってるか信用ならん」

 

というか今……ゲッ。三時くらいじゃねぇか。一体何時間集中していたんだよ……というか、

 

「お二人ともお昼ご飯も食べずに熱中されていましたから小腹が空いているのでは?」

 

昼食抜き。あぁ、意識すると更にお腹が減る。

 

「腹が減ってるからと言って毒が入ってるかもしれないものを口にするわけがないだろ」

 

そう言って出て行ってしまう古屋敷。

 

「はぁ……」

 

あの男は全員を疑ってる。まるでモノクマのあの言葉に従って誰かが脱出のために誰かを殺すと思い込んでる。いや、確かに出会って日数も経ってないオレたちを全員信用しろって方が無理な話だろう。

 

「ほら、天原。疲れただろ?お前も食べるか?」

「すまないな。実はすごい腹減ってる」

「そうだろうな。そう思ってお前用に私が特別に作っておいた」

 

差し出されるのは見た目は普通のクッキー。何というか、凄い不自然な気がしてならない。

 

「いただくわ」

 

そして一枚手に取り、一口分食べると、口に広がるのは辛み。これは、唐辛子の辛みだな。むちゃくちゃ辛いがオレは笑顔を作って感想を言う。

 

「うん。おいしいぞ」

「なっ……!バカな!」

 

そう言ってオレの手から奪い、それを口に含む。

 

「からっ!これがおいしいとか正気か貴様!」

「バカめ!おいしいって言えばテメェが確認のために食うと予想してたんだよ!」

「道連れにしたな!」

「そうだよ!」

 

そろそろ演技も限界で辛さのあまり涙が出てくる。目の前の神戸も同じ状況に陥っている……あれ?こいつ味オンチじゃねぇのか?まぁいい。

 

「生憎タダでやられるつもりはなくてね……!」

「ふざけるなよ……!」

「仕掛けたのはテメェだろ……!」

「ああそうだ文句あるか……!」

「文句しかねぇよ……!」

 

ヤバい。凄い辛い。早く口の中の辛さを洗い流したい。

 

「えーっと水は入りマスカ?」

「「いる!」」

 

声を揃えて水を要求する。

 

「あれ?二人ともどうしたの?」

「泣いてる……?」

「何があったの?」

 

すると、鹿野、屋代、海部が食堂に入ってきた。

 

「「こいつが悪い!……ってはぁ!?」」

 

何言ってるんだ?オレに非があるわけねぇだろ。バカか。

 

「お前がこんなもん作らなきゃよかったんだろうが……!」

「貴様が一芝居打って私を道連れにしたのが悪い……!」

「ざけんなよ……!元はといえばテメェが……!」

「その前に作らせる原因となったのは貴様だ……!」

 

お互いの言い分は平行線をたどっている。

 

「要するにいつもの喧嘩だね」

「なんだ。よかった」

「「よくない!」」

「二人とも……お水デス」

 

渡されたコップの中の水を一気飲みする。ようやく口の中の辛みが少し紛れた。

 

「で?このクッキーどうするんだ?」

「心配するな私が手を加えたのは三枚。今一枚食べたから……」

「後、二枚か……」

「なんだ?その手は」

「これ以上被害を増やすわけにもいかない。さっさとよこせ。その危険物を処理する」

「危険物とはなんだ!お前をはめるために作ったんだぞ!」

「はまってやるから寄越せって言ってんだよ!」

「誰がやるか!私が責任を持って処理する!」

「ねぇ。なんでこの二人は言い争ってるの?分からないの僕だけ?」

「大丈夫。ウチにも全然分からないから」

 

結局、お互いに一枚ずつ食べて処理するという何ともありきたりな結論に至った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜ご飯は肉中心のメニューだった。つまり、負けたと。

 

「なぁ……天原」

「何だよ神戸」

 

夜ご飯は終わり後片付け。各々が好きに過ごすため食堂に人は居らず、厨房もオレたちのみ。

 

「お前はこのまま過ぎると思うか?」

 

何をとは聞かずに皿を拭いて脇に置く。

 

「オレとしては何事もなく過ぎてほしいけどな」

 

もうここに来てから三日目が終わろうとしている。初日のインパクトは確かにあったもののモノクマからのコンタクトはあれ以降ない。いや、少し違うか。奴はオレたちにこの施設の説明をしているだけで何の行動も起こしていないのだ。

 

「ヤツも分かってるはずだ。このまま何もしなかったら何も起きないくらい」

「そうだな」

 

誰かを殺したやつが出られる逝かれたルール。だが、そのルールがあるだけで他のことは何一つ不自由がない。

 

「例えば食糧が補充されないなら誰かはアクションを起こすかもしれない。期限を設けていれば誰かは動くかもしれない。でも奴は何もしてこない」

「だが、奴の望みを考えれば必ずアクションを起こす。今日にでもな」

「望みだと?」

「言ってただろ?奴の望みは絶望だ。こうやって、親しくなっていった奴が殺される、或いは殺したりした日には……」

「深いダメージを負う……まさか」

「この時間は猶予だ。猶予でありオレたちの心を落とすための準備期間だ」

『うぷぷ~』

 

うざったい笑い声が聞こえたのでオレたちは厨房の出入り口を見る。そこには一体のモノクマがいた。

 

『さすがは天原クンに神戸サン。君たちはやっぱり鋭いねぇ』

「どういう意味だ」

『そのまんまの意味だよ。君たちってさ、赤の他人の死に一々絶望をする?殺人事件が起きる度「オレがあそこにいれば……!」なんて思ったりする?思わないよね?』

 

そりゃそうだ。誰が生きて誰が死んで、赤の他人のそれまで一喜一憂していたら身が持たない。名前も顔も知らない他人のことを考えるなんて普通はあり得ない。

 

『でもさ、もしそれが知り合いだったら?仲間だったらどうかな?冷酷な人間でない限り、絶対に後悔するよね?悲しむよね?』

「だからお前は何もしなかった。私たちが赤の他人同士から仲間になるまで」

「で?何をするつもりだ」

『君たちは早いなぁ。本当に。まぁ、ボクとしても今の状況はクソほどつまらないからね……ここからが本番だよ』

 

そう言うとオレたち目の前から去って行く、モノクマ。そして、

 

ピンポンパンポーン

 

『えぇーオマエらにお知らせです。今すぐ全員体育館に集まってください。五分以内に来ないやつはオシオキだからね』

 

「行こうか」

「ああ」

 

オレたちは手を止めて、軽く拭いたりした後、モノクマの言うように体育館に向かう。

オレたちが体育館につく頃には既に14人が集まっていた。

 

「あ、天原くん。ねぇ、急な呼び出しって何だろうね……」

 

オレたちが入って真っ先に声をかけてきたのは鹿野。

 

「ふん。どうせ下らないことだろうがな」

「我も暇じゃないというのに」

 

不機嫌になっている古屋敷。白数も、二人とも夕食時には見なかったがしっかり集まっているようだ。

 

『結構結構。時間通り集まってくれてボクは嬉しいです!』

 

初日と同じようにステージの上へと飛び出してくるモノクマ。だが、二回目だし何が来るかとかは分かっていたので驚きはない。

 

「わわっ!?」 

 

たった一人を除いて……。

 

『ボクは悲しいよ……オマエらに冷たい目で見られて。シクシク。オマエらのために食料の補充から物の手入れ、清掃からゴミ捨てまでやっているというのに……』

「なるほど。モノクマ様のお陰できれいだったのですね」

『その通り!だからもっと施設長を敬うのです!』

 

てか、それ施設長の仕事ってか雑用の仕事だろ。

 

「それより、呼び出した理由は何だ?俺たちはそんなことを聞くために呼び出されたのか?」

 

熊沢が代表してモノクマに問う。

 

『何かをなすには「動機」や「モチベーション」って大切だよね?勉強するにも、スポーツをするにも、やる気を出すにはやっぱり必要になってくるよね?』

 

まさか……な。

 

『オマエらが何故殺そうとしないのか!それは「動機」が不足しているからです!』

「で、でも、人を殺すような動機って……なんッスか?」

『オマエら。外の世界が今どうなってるか知りたくはない?』

「「「…………っ!」」」

 

何人かの表情がこわばった気がする。

 

「じゃ、じゃが、ワシらはここに来させられてたった三日。そんな三日程度で世界がガラッと変わるとは思えん」

「……そう。そんなことあるはずがない」

『うぷぷ。君たちは本当に三日程度しか経ってないと思うの?』

「ど、どういうことですか……?」

『まぁ、三日でもいいんだけど。でもさ、なら不思議じゃない?何で誰も助けに来ないんだろうね?』

 

さっきから不安を煽るような発言を繰り返すモノクマ。

 

「きっと外では警察の人が動いているはず……」

『そう信じていられるうちは平和かもね。まぁいいやー。じゃあ、本題です。オマエら一人ひとりにビデオを用意しました。名付けて「動機ビデオ」安直だって?でも分かりやすいでしょ?』

 

動機ビデオ……か。

 

『既に全員の部屋にビデオ……というか動機のDVDとそれを見られるような機材を配布しておきました』

「ふん。罠だと知って踏むバカがいるか」

『そうだね。ボクも絶対見ろだなんて言わないよ。でも、「動機ビデオ」には君たちの知りたい外の世界の情報が映ってるよ。それは保証します』

 

さっきまでの煽りはそういうことだったか。

 

「で、でも処分してしまえば……全員分処分してしまえば動機はなくなるのでは?」

『うぷぷ~そんな事はさせないよ』

 

ピロリーン!

 

全員の電子生徒手帳から一斉に電子音が鳴り響く。

電子生徒手帳を開くとそこにはデカデカと『規則が追加されました!』との文字が。そして規則一覧を見ると、

 

 

1.生徒達はこの施設内だけで共同生活を行いましょう。共同生活の期限はありません。

 

2.夜10時から朝7時までを“夜時間”とします。夜時間は立ち入り禁止区域があるので、注意しましょう。

 

3.この施設について調べるのは自由です。特に行動に制限は課せられません。

 

4.施設長ことモノクマへの暴力を禁じます。監視カメラの破壊を禁じます。

 

NEW 5.仲間の誰かを殺したクロはこの施設から“退去”となります。

 

NEW 6.施設長の配布した動機ビデオ並びにその器材を処分することを禁じます。

 

尚、規則は順次追加していく場合があります。

 

 

……やりやがったな。

 

「この処分というのは、ゴミに捨てるとか以外にも壊してもダメなんだろ?」

『その通りです。鹿野クンにも分かりやすく補足するなら「動機ビデオを見れない状態にすることを禁止する」って感じだね。じゃあ、ボクはこれで~』

 

そう言い残して消えていくモノクマ。しかも6の校則追加に乗じて5も追加されている……が、こっちは特に変わらないな。

 

「皆。動機ビデオは見ないようにするんだ」

 

熊沢がそう提案する……が。

 

「うーむ。我はそれはやめておいた方がいいと思うぞ」

 

白数からの反対意見が出た。

 

「どうして~?」

「そうだよ。ウチらが全員で見ないと約束すれば……」

「本当に見ないと言い切れるか?貴様ら」

 

古屋敷からの厳しい意見。

 

「処分ができない以上俺たちはそのビデオと隣り合わせ。中身は外の世界の情報。こんな拘束力のない約束を本気で全員が一生守れると思うか?」

「そ、そんなの……」

「断言しよう。不可能だ。最初はいいだろう。だが、時間が経てば『本当に誰も見てないか?』と不安になり最後は『自分だけ見てないのでは?』と移ってゆくに違いない」

「違いないってそんなのやってみなくちゃ……」

「何故、ぬいぐるみは規則に『動機を絶対見ること』ではなく、『動機の処分の禁止』を追加したか。単純だ。強制しなくとも誰かは絶対に見る。しかも、強制しない方が疑心暗鬼に陥りやすい」

 

なるほどな。オレたちは四六時中互いに監視し合うわけにはいかない。必ず一人になる時間は訪れる。強制しないっていうことは、誰が見ていて誰が見ていないのか。その実態が絶対に掴めない。だから疑心暗鬼に陥る……か。

 

「…………なら、どうすればいいと思う?」

「我は全員が見た方がいいと思うぞ。そうすれば、誰が見た見てない議論は生じない」

「司令塔。本当に貴様はこいつらを信じているのか?」

「そりゃあ……人殺しなんて絶対しないと思ってるけど」

「なら、見てもいいだろう。それともなんだ。たかだかビデオを見たくらいで人殺しなをすると思ってるのか?」

 

古屋敷は頭がいい。そしてこういうことをズバッと言う。

 

「正直個人の裁量に任せたらいいんじゃないか?見たいやつは見る。見たくないやつは見ない。どちらかに強制するよりもそっちの方がまだいいと思うが」

 

気になってるやつに我慢しろと言うのも酷だろうし、見たくないやつに見せるのは意味がない。一体感とか度外視して個人個人に任せるべきだろう。

……もっとも、ほとんどのやつは見るだろうが。

 

「……分かった。天原の言うとおり個人に任せよう」

 

そして、話が終わると古屋敷と白数は最初に立ち去る。後から一人、また一人と立ち去っていき、オレも流れに沿って立ち去ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に入ると机の上に『天原恭也用動機DVD』と書かれたDVDと再生するためのDVDプレイヤーが置かれていた。

 

「さてと」

 

わざわざ丁寧な説明書までつけてくれたがそこまで複雑なものでもないなと思いながらセットする。

オレはこのビデオを見る。モノクマがわざわざ動機って言ってるんだ。つまり、この中にはオレに関する情報が流れてくる可能性が高い。

 

「スタートっと」

 

スタートすると同時に画面には『超高校級の??? 天原恭也』という文字が出て来て……。

 

『えぇー超高校級の???である天原恭也クンのDVDは都合上作成できませんでした。でも、ここから出たら記憶が戻るのでそれなりに頑張ってください』

「ッチ」

 

思わず舌打ちをしてしまう。つまり、オレには何もないってことか。

 

「流石にボロは出さないか……」

 

オレの才能もそれどころか自分がどういうやつかすら分かってない。その理由はやはりモノクマに記憶を奪われたこと。クソ。一体何なんだ。

だが分からない。何故オレの才能を隠す?何故オレの記憶を奪ってる?どういう意図で、やっているんだ?

 

コンコンコンコンコン

 

そうやって考え事をしていると、ドアをノックする音が聞こえる。来訪者か。

 

「へいへいっと」

 

ドアを開ける。そこにいたのは、

 

「どどどうしよう!天原くん!僕、ここから早く出ないと……」

「鹿野。一旦落ち着け」

 

鹿野。なんとなく予想していた。普通のやつなら慌ててるからと言ってあんなにノックしない。

 

「とりあえず、入れ」

 

ここでやりとりしてもよかったが迷惑がかかるといけないから部屋に招き入れる。

 

「で?何が映ってた?まずはそこを教えてくれ」

「う、うん……」

 

鹿野が言うには最初は鹿野のお母さんとお父さんがビデオに出てきて、家で撮られた応援メッセージ的な感じだったらしい。途中、僅かなノイズと画面の乱れが起きた後、次の瞬間には家の内装はズタボロ所々には血痕のようなものがついており、母も父も画面には現れなかったそう。

そして、最後には『鹿野クンの家族は一体どうなったのか!答えはこの施設を出た後で!』の文字が画面に現れて終わったらしい。

鹿野の話を聞く限りビデオにはそいつの家族や親しい者が出て来る。そりゃあ、オレのには何も映らねぇわけだ。だって、映してしまったら記憶を戻すヒントを与えることになるからな。

 

「ど、どうしよう……この前まではなんともなかったのに……」

 

家族の安否を曖昧にする。しかも背景には凄惨な光景……確かに動機になり得るな。十分すぎる。

開けない方がよかったか開けた方がよかったか。だが考えるだけ無駄だ。開けてしまった以上もう引き返せない。

 

「一旦落ち着け。心配になるのは分かるがまずは落ち着け」

「で、でも……」

「いいか?多分お前だけじゃない。他のやつもこのビデオを見てお前と同じ気持ちになっている」

 

しかも他のやつは既にあらゆる事を考えすぎてコイツのように他のやつに頼ろうとはしない。頼ってしまった時点で自分がビデオを見たということになるし、頼ったやつが本当に信用できるか分からない以上一人で抱え込んでいる可能性がある。

だからある意味真っ先に、しかも正体が分かってないオレのところに来たコイツは良くも悪くもバカなんだろう。

 

「まずは信じろ。家族が安全だと信じろ。お前の両親だって、お前に人を殺してまで自分たちの安否を確認してほしいと思うか?」

「……ううん。そんなのはダメだ」

「そうだ。それでいい」

「そう言えば天原くんは見たの?」

「ああ」

 

オレのは説明してもあれなので流して見せることにする。

 

『えぇー超高校級の???である天原恭也クンのDVDは都合上作成できませんでした。でも、ここから出たら記憶が戻るのでそれなりに頑張ってください』

 

やっぱり中身は変わらない。

 

「何もないんだね……って、僕見てもよかったの?」

「問題ないだろ。モノクマは一言も他人に見せるなとは言ってない。禁止もされてないしな」

「そ、そう……で、でも皆も天原くんと同じ感じなら……!」

「それは絶対ない。オレだけがイレギュラーだ」

「そう……だよね」

 

落ち込む鹿野。そんな中、

 

ピンポンパンポーン

 

『施設長が夜時間をお知らせします。それではオマエラ。おやすみなさい』

 

「夜時間か……」

「じゃ、戻るよ。また明日ね」

「あぁ……おやすみ」

「うん。おやすみ」

 

そう言って部屋を出て行く鹿野。

誰が見て誰が見てないのかなんて分からない。だが見たやつは絶対に何かしら心に変化が現れてる。クソ。あの熊野郎……!だが、妙に気になる。モノクマの発言もだし今のビデオもだが、本当に三日間なのか?ダメだ。オレに記憶がなさ過ぎて時間の感覚が分からない。

 

「寝るか……」

 

分からない。疑問はつきない。だが明日はまたやって来る。今はその明日に備えて休むときだろう。

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