神のヒーローアカデミア
壇 クロトは無個性である。
無論,彼自身の“個性”は強烈である。
しかし,全人口の8割が持っている身体能力としての個性は持ち合わせていないのである。
父親は『認識範囲の時を止める程度』の個性。
母親は『一瞬で見た目を変化させる程度』の個性。
周囲からはさぞや素晴らしい個性を発現させるのだろうと期待されていた。
「残念ながら……クロトくんは個性がありません」
それを聞いたとき,彼は耳を疑った。
「僕に個性がない……? 嘘だ。僕を騙そうとしている!」
彼の頭の中は疑問符でいっぱいだった。
個性がない? だとしたらこの頭に思い浮かぶ無数のゲームのアイデアは何なのだ?
それを医者に言ったら,こういわれた。
「そうか……それは,君自身が持つ才能だ。個性にも負けない,立派な武器だ」
医者の言ったことは,至極真っ当だ。
個性を持っているのが当たり前な世の中に,何の個性も持ち合わせていないのだから,その子供を励まそうと言葉をかけるのは当然だ。
そう,かけた言葉は間違っていなかった。
解釈の仕方が間違っていたのだ。
「僕の……才能……つまり僕は――誰も持ってない,特別な能力の持ち主なんだ!」
純粋な少年はこう思った。
この才能を生かせば,きっと神になれる,と。
――『この世界は生まれながらにして平等ではない』
彼は齢4にして知った現実であった。
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――――
――
雄英高校体育祭。
それはかつてのオリンピックの代わりになった日本のビッグイベントである。
メインのヒーロー科のみならず,サポート科や経営科も自らを売り込もうと頑張るチャンスの場でもある。
将来の部下を見定めに来たプロヒーロー,純粋に競技を楽しみにしてきた観客,あるいは生徒の保護者。
それはそれは,楽しいイベントになる…………はずだった。
『おーっと! また死んだぞッ!? これで何回目だよッ!?』
第一種目。障害物競走。
初っ端から氷結攻撃を喰らって大半の生徒が脱落した。
その中で頭一つ抜けたのは,攻撃を仕掛けた当の本人ではなかった。
「ブェヘヘヘッ! 時間差コンテニューだ」
崖の下に落っこちてあっけなく脱落――かと思われた,生徒が復活した。
『Continue』と書かれた紫色の土管から,あたかもゲームキャラのリスポーンのように。
「残りライフ95か……まぁいい」
黒く逆立つような髪のような仮面に真っ黒なスーツ。胸のライダーゲージと黄緑色のゴツいベルトが特徴だ。
彼の名は――壇 クロト。
雄英高校サポート科を史上最高得点で通過したくせに,ヒーローのサポートアイテムを作る気は無く,あくまで自分の作ったゲームを宣伝したいだけとかいうナメ切った生徒だ。
しかし,彼には彼なりの言い分があった。
「死ねッ! クソモブッ!!」
爆発頭で,両手の爆風で加速する少年――爆豪 勝己は一位を独走するクロトに向かっていった。
「神に向かってなんだその言い草ッ! 口を慎みたまヴェッ!?」
彼の言い分,それは――『君たちの,その水晶のような輝きこそが……この私の神の才能を刺激するっ! 神の役に立てることを――光栄に思うがいいッッ!(原文のまま)』
つまり,お前ら捨て石の分際でごちゃごちゃ言ってんじゃねーよ,と。
まーその態度,ヒーロー科一自尊心の高い爆豪くんはお許しにならず。
爆破によってクロトは再び死んだ。
\ゲーム・オーバー/
\ウイーンウイーンウイーン! テッテレテッテッテー/
「フゥッ! ……残りライフ94……私の貴重なライフをよくもォッ!」
だが再び紫の土管から復活した。
なんだかんだあって彼は障害物走で一位となった。
ついでに次の騎馬戦では,ずっと空中に浮いているというチート戦術で再び一位となった。
余談だが,教師陣の間で競技種目の内容を変更する議論があったとかなかったとか。
――――
――
体育祭トーナメント,決勝。
対戦カードは壇 クロトVS爆豪 勝己。
「これでようやくテメーをぶち殺せる」
「……神であるこの私に対する数々の暴言。もはや許す気もない」
彼の腰にはゲーマドライバー。
右手には二本分の厚みのあるガシャット。
「君はもはや用済みだァ……」
\ゴッドマキシマムマイティX/
神を名乗るにふさわしい神々しい音声が鳴った。
「グレード
『試合――開始ッ!』
「変身!」
「死ねぇっ!」
\マキシマムガッシャット! ガッチャーン! フーメーツー!/
\最上級の神の才能――クロトダーン! クロトダーン!/
とんでもない自画自賛である。
爆風を受ける直前,変身に成功していたクロトは
\ゴッドマキシマム――エーックス!/
背後の巨大オブジェに飲み込まれ,その身を巨大ロボのように変形させた。
「私のレベルは――10億」
「知るかッ!」
浴びせられる爆破をものともしない。
なぜなら――神だから。
……なわけはない。
「コズミッククロニクル・起動」
突如出現したレンズが太陽光を集約しレーザーを放つ。
連続爆破で爆豪は躱していくが,攻撃がかすり始める。
「ぐっ――このっ!」
爆豪はニトロのような汗を分泌できる個性。
それゆえ長期戦になればなるほど有利なスロースターター。
まぁ神の方が強いのだが。
「無駄だ……私は宇宙にコミットした」
突如隕石が飛来した。
爆破でそれをやり過ごしたところで意味もない。
「な……に?」
「ヒーロー諸君……私たちは世界の歴史に革命がおこる瞬間に立ち会おうとしている」
\ガッチョーン カミワザ‼/
「括目するがいい……」
\ガッチャーン!/
「限界を知らない……私自身の神の才能に」
\GOD MAXIMUM CRITICAL BLESSING/
その瞬間,会場のヒーロー,観客,生徒,テレビを見ていた者は目撃した。
生死の境界を曖昧にし,宇宙の力さえも取り込むサポートアイテムの存在を。
世界を救うも滅ぼすも自由自在な,その究極の力の片鱗を。
「しょ,勝者……壇,クロト……! よって優勝は――」
それを優勝と言っていいのかは不明だ。
しかし,神が降臨したのは事実である。
「ああ……恐ろしいっ! 私自身の神の才能がっ!!」