保須市編はなかなか終わらない。
というか地味に続けちゃってる。
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ヴィジランテ,グラファイト。本名:竜ヶ峰
個性は裂撃。何でも引き裂くエネルギー波を放出できる。
普通に考えて,ヴィランに向いている個性なのは確かである。
それでも彼女はヒーローに憧れた。
「むこせー(無個性)のデクがチョーシのってんじゃブェッ!」
昔から正義感が強く,近所の悪がきをよく成敗していた。
なおその悪ガキの名は爆豪という。
小学校,中学校共に皆から信頼され,将来はきっといいヒーローになると信じられていた。
もちろん,彼女自身も雄英高校のヒーロー科を受験しようと思っていた。
そして,受験当日。
筆記試験は危なげなく突破した。しかし実技試験では――
――――僅か2ポイントの差。
当時,雄英の試験に救助ポイントという概念は無かった。
人助けをし過ぎて彼女は結果的に不合格となった。無論,この結果は物議をかもしたのだが,結果が覆ることは無かった。
彼女は絶望したが,こう言い聞かせた。
「私よりもっとすごい人がいた……日本一の高校だもん……仕方ないか」
日本一,の高校。方や自分は地域の中で一番。
もっとヒーローにふさわしい人がいたから,合格できなかったのだ,と。
そして運命の日。
雄英高校体育祭。彼女も,自分よりすごい人たちの活躍を見れるのが楽しみだった。
しかし,待てど暮らせど,一年生の――同世代の紹介がなされない。
不思議に思って,ヒーローをやっている叔父に聞いてみた。
『……詳しくは知らないが,どうやら,全員見込みなしで除籍されたらしい』
「じょ,せき……?」
見込みなし。
そう,彼らは身体測定,戦闘訓練,救助訓練を経て――全員見込みがないと除籍されたのだ。
あの入試,ロボットヴィランを効率よく倒すだけだった。
自分を犠牲にして他を助けるというヒーローの本質を一切測れていなかった。
彼女のように,ヒーローらしい行動をとったものが不合格となり,アンチヒーローな行動をしてでもポイントを稼いだものが合格となった。
後で彼女はそんな話を聞いた。
そして,彼女がヴィジランテになるきっかけが起こる。
“ヘドロ事件”
爆豪君がヴィランに捕まった有名事件である。
苦しんでいる一般人を『不利だから』という理由だけで遠巻きにして見ているだけのヒーローに絶望した。
ヒーローなど当てにできない。
彼らを資格を持っているだけの偽物なのだ。
ならば,資格を持っていなくとも,ヒーローになれる。
彼女は“ドラゴナイトハンターZ”の敵キャラ『グラファイト』の名を借り,活動を始めた。
すべては,真のヒーローとなるために。
――――
――
「ハァ……我ながら素晴らしい出来だァ……」
しかし,フリーライダーは死んでいなかった。
個性で爆発の瞬間を察知し,辛うじて逃げることに成功していたのだ。
「ち,チクショォ……ん?」
ぐにょ。
彼の足が肉片を踏んだ。
僅か数百グラム。だが,確実に姿を取り戻しつつある脳無。
「ひっ……!」
「ほう……悪運だけは強いようだなァ」
\ガシャコンキースラッシャー/
「思えば,君は私に数々の暴言を吐いていた。神に対する冒瀆をあの程度で済ませてあげるという,私の慈悲を君は踏みにじった――」
神の言葉を聞く余裕など,フリーライダーには無かった。
彼の足下で再生する脳無に足を絡め取られ,動けない。
前門の脳無,後門のゲンム。
「や,やらぁ……し,死にたくねぇよぉ」
「後悔と共に――闇に消えるがいい」
\マキシマムガッシャット! キメワザ!!/
「グエッ!?」
しかし,神のキメ技は発動されなかった。
未知の乱入者に妨害されたのだ。
\ゲーム・オーバー/
「こんな時に仲間割れをしている場合かッ!」
プロヒーロー“ブレイブ”
多数の脳無出現に要請されたヒーローの一人だった。
「――――フゥッ! ……残りライフ88。たかが1プレーヤーが,ゲームマスターである私に盾突くとはいい度胸だなァ」
「貴様の講釈はノーセンキューだ。今は脳無討伐に協力しろ」
「私に指図ウグェッ!」
\ゲーム・オーバー/
「これは個人的なお願いではなく,命令だ。逆らうならばお前をまず切除するぞ」
「ぐっ……」
ブレイブは脳無を警戒しつつ,気を失っているグラファイトに対して個性を発動する。
ドクターヒーロー『ブレイブ』
個性:英雄(ヒーロー)
ヒーローっぽいことなら何でもできる! 死にかけても生き残れる! 仲間のライフも回復できる! てかマジスゲェ,マジ最強。
傷を全回復されたグラファイト――サキは目を覚ます。
「サキ,これ以上活動するなと言ったはずだぞ!」
そう,ヒーローの叔父とはこの男であった。
「――私は悪くないッ! 私は……みんなを,助けたかった」
「お前も知ってるだろ!? 資格なしにヒーロー活動をすることは」
「資格を持っていることがヒーローなの!? あの男は――」
と,気絶しているフリーライダーを指して言う。
「あの男は,自分の身が可愛くて,真っ先に逃げ出した……ヘドロ事件の時もそうよ。苦しんでいる人を見捨てておいて,何がヒーローよ! こういうときばかりヒーロー面しないでッ!!?」
正論のように聞こえる彼女の言い分を,頬をはたくことで黙らせる。
「……お前の言い分は間違っては無い。あの男のように,ヒーローらしからぬプロは一定数居る。下手をすれば,ヴィランのような人間もいる。だがヴィランとは悪人の事じゃない。ルールを守れない,社会の腫瘍の事を言うんだ。それを切除し,社会を健全にするのがヒーローの務め」
「何よ……私もヴィランと同じだってことなの!?」
「ああ,それが社会のルールだからだ」
「……っ!」
彼女は言葉を失った。
大好きな叔父から,ヴィランだと罵られた。
それは,彼女の心のに傷をつけた。
「――と,いうのがプロヒーロー,ブレイブとしての意見だ。俺は――加賀美 ヒイロは,お前の事を誇りに思う」
「へ……?」
「ヴィランの攻撃をずっと受け続けるなんて,そう簡単にできることじゃない。お前はこの場で,誰よりもヒーローだった」
子供のころから誰かを助けることが大好きだった。
見返りを欲しいと思ったことは無い。
ただ,みんなに笑顔でいてほしかった。
みんなの笑顔を,身勝手に奪う悪人が,許せなかった。
それが,彼女の
「見返りを求めたら,それは正義と言わない。サキ,今からやることに,一切の見返りは無い。それでも,やってくれるな?」
「う,うん……っ!」
ブレイブはヒーロースーツの中から(個性の力です)取り出したケースを差し出す。
それは,ヒーローを目指している姪っ子の,入学祝に作らせた特性のヒーロースーツ。
「オイィィ……私をこれ以上焦らすァ」
律儀に待っていたクロトも,もう我慢の限界だった。
「ふん,
「ヌァンだと!?」
「もう喧嘩しないで!」
喧嘩しそうな二人をサキが止める。
ファンを大事にするクロトはすぐに大人しくなった。
「ふん……神と共に戦えることを光栄に思うがいい」
\マイティアクションX!!/
「足を引っ張るなよ研修生。サキ,行くぞ!」
「っん!」
赤い,ドレスのようなヒーロースーツ。
白い骨のような,竜の仮面。
個性によるダメージを軽減する烈火のガントレット。
竜の牙のような武器。
それが,ヴィジランテではない,ヒーロー,グラファイトの戦闘装束。
「グレードゼロ。変身!」
\ガッシャット! ガッチャーン! レベルアップ! マイティジャンプ! マイティキック! マイティーアクョーンX/
神々しさは無い。
だが神の処女作にして最高傑作。
マイティアクションXのプロトタイプのプロトタイプ。オリジンだ。
これこそ,“無個性ヒーロー”ゲンムの,基本形態。
「――――グラファイト,そしてゲンム! プロヒーロー“ブレイブ”の名において,戦闘を許可する!」
多分続く。