前回は真っ赤なお話でしたね。
今回も真っ赤なお話です。
※グロ注意
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無個性であること。
それは,個性が当たり前なこの社会で,どれほどのディスアドバンテージがあるか想像できるだろうか?
ごく最近では,『個性因子』なるを調べるとどのような個性があるか診断できるのだが,彼の幼少期にはそのような高等技術は無かった。
彼は当初,無個性と診断されていた。
両親はともに異形型であるため,偶然に偶然が重なった結果であるともいえる。
彼が小学校二年生の時,自分の個性の存在を知る。クラスメイトを殺害するという方法で。
彼の個性は『神の右手』と名付けられた。
右手で触れたありとあらゆる個性を封じ,もう一度触れると元に戻すという,とあるヒーローの個性の上位互換ともいえる強個性だったのだ。
だが,その個性はあまりにも強すぎた。
当時,彼をいじめていたガキ大将は異形型の個性で,偶然右手で殴ったら,ガキ大将は体を弾けさせて死んでしまったのだ。
彼の個性は,単に個性を封じるだけではない。
人間が本来持ちうる姿に戻す個性である。
故に,発動型・変形型の個性は個性の使えないという本来あるべき姿の人間へ。
異形型の個性は参照できる人間の姿が存在しないため,死に至ってしまうのだ。
その事件は,事故ということで済まされた。
しかし噂というものはとても恐ろしく,瞬く間に彼が殺したという噂が伝播した。
もちろん,彼の個性は両親をも殺す危険があるので,直ちに政府の施設に隔離された。
学校には異形型個性の生徒が少ないところへ通わされた。
そこでも殺人鬼といじめられた。
彼は生涯に渡り,いじめられ続けてきたのだ。
そして現在,彼は不良街のような所にあるコンビニでアルバイトをし,生計を立てていた。
シフト表にはほとんど彼の名前しかなく,ワンオペになることもざらにあった。
時折,ヒーローが現れると,人が増えることもあったが,それは一時的な物であった。
彼の持つ,異形型を殺す能力は,超常黎明期ならヒーローになれただろう。
異常を受け入れた世界には,不要な存在でしかなかったが……。
「――おい兄ちゃん,いっつもあそこで働いてんだろ? だったら俺らに小遣いくれよ」
退勤後,不良に絡まれた。
どいつも異形型個性で,その容姿のせいで爪弾きにされたのだとわかる。
「俺らよぉ,こんな見た目だからどっこも雇ってくれないんだわ」
鰐のような顔の男がライトの顔に煙草の煙を吹きかける。
彼は煙たくて思わず目を細めた。
「ナニ睨んでんだよッ!」
「っ!?」
腕が刃物のような男に叩かれた。傷口から血がにじだす。
右手で触れれば。
手袋を外して触るだけで,こいつらを殺せる。
だがここで殺しをすれば――こんなゴミのような連中でも,殺せば,ヒーローとかいう偽善者によって成敗されてしまう。
耐えるしかない。
適当に金でも渡して,やり過ごすしかない。
「……あの,今,手持ちこれしか,なくて」
「おー物分かりがいいな……って小銭だけじゃねえかよッ!」
コブラのような男に鉄パイプで殴られた。
目から火花が出て,意識が朦朧とする。
いっそのこと,ここで死んだ方が楽になれるか。
彼は目を閉じ,なぶられるがままになっていた。
「――戦う気のない相手にワンサイドゲームとか……白ける真似すんなよ」
声がした。
男とも女ともとれる,中性的な声だ。
「あんだテメェ!?」
「じゃますんじゃねぇぞコラ!」
「あまり俺らをイラつかせるんじゃねぇッ!」
意識が朦朧としているが,助けようとしてくれているらしい。
「ははっ……心が躍るなぁ♪ ――俺が遊び相手になってやるよ」
ぐちゃり,と果物を握りつぶすような音が聞こえる。
「は……?」
「こっちだ♪」
骨の砕ける音が聞こえた。
「な――」
「俺の勝ちだ♪」
ぶちぶちと何かが引きちぎれるような音が聞こえた気がする。
「――おい,大丈夫か?」
頬を叩かれた。
意識が朦朧としていて言葉を紡げない。
「て……ぶく,ろ」
「これか?」
右手がすっとした。
自分の体に触れ,自分の体があるべき状態に戻した。
体を切られ,鉄パイプで殴られた傷もすべて無くなった。
鮮明になった視界で,不良たちの末路を見た。
心臓のようなものが無造作に落ちていて,体が前衛芸術のように歪んでいる奴がいて,上半身と下半身がおさらばしている奴がいた。
「あんた……ヒーローに捕まるぞ」
「運命ってのは,パズルだ」
会話のキャッチボールが成り立たないようだ。
「様々なピースが組み合わさって,漸く一つの結果が分かる。俺とお前が組めば――ムテキ,だぜ」
耳元でささやかれた。
この遺体たちを,右手で触れれば,すべてがはじけ飛ぶ。
穢れた路地に触れれば,元のきれいな状態に戻る。
よくよく考えてみれば,自分ほどヴィランに向いている人間はいない。
「俺は――人殺しだぞ……」
「さっき言ったろ。運命はパズルだ。お前にとって不要な
「排除……」
「お前にとって,不要なピースは何だ?」
ヒーロー。
個性を尊ぶクソみたいな社会。
そして――平和の象徴とか言ってるくせに,爪弾きにされた自分を助けない
「出来ることなら――俺の住みやすい世の中を作りたい」
「ハハァッ♪ 心が躍るぜ♪」
上野 ライトはその瞬間,ヴィランとなった。
このヒーロー社会を崩す存在に。
「俺はパラドクス。よろしくな♪」
「……上野 ライトだ」
二人は左手で握手をした。
自分のヒーローを,殺さぬように。
『――昨晩,田等院市に在住の
悪意は,静かに動き出す。
明日は更新しないかもしれないです。
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