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ヴィランに襲撃されようとも、学生にとって無くならないものがある。
「勉強してねー!!」
期末試験である。
誰とは言わないが、上鳴の絶叫が響いた。
同じくフリーズしているのは中間テスト下位組の芦戸である。
「ヴィランに襲撃されたのに試験とかむりだろぉ……」
「そうだよ……勉強なんてできないよぉ」
弱弱しく泣いて見せる芦戸だが、その通りなので誰も笑えない。彼女は割と被害を受けていたので何も言えない。
「なにより、今回は演習あるのがきついよなぁ」
余裕の表情な峰田は、前回は9位と平凡な成績である。
エロの権化は地味に頭がいい。
「チキショー! なんでオメーはそんなに頭良いんだよッ! ちょっと馬鹿じゃねぇと魅力ねぇだろうがよ!」
「はっはっはぁ何とでもいいたまえ」
クラスメイトの悪い部分ばかり影響を受けていた。
「よく考えてみたまえよ、上鳴。二人の編入生よりオイラ達の方が長い期間勉強してるんだぜ?」
「そ、そうか……なら、ビリはねぇってことか!」
無論、最下位でなくとも赤点があるということを、彼は考えていない。
「ふっ……馬鹿なことを言わないでくれたまえ」
「なっ! 壇……お前まさか!」
「私の才能に――不可能などなァいッ!」
編入後、参考として受けた中間テストの得点――ヒーロー情報学だけが赤点だったが、それ以外はほぼ満点。
成績表を印籠の様に突き付けられ、おバカ二人はフリーズした。
「って、情報学赤点じゃん」
「ちょそれどころじゃないよ上鳴。普通科目はヤオモモよりできてる」
その言葉に、前回一位だった八百万が沈んだ。
「くっそ……希望はサキ姉しか――」
「うるさい黙れ」
いつもなら優しく答えてくれるお姉様は一心不乱に勉学に励んでいた。
彼女は年上だが、実質一年間は勉強をしていないため学力は殆ど彼らと変わらない。むしろ、編入時のテストではほとんど0点だったのである。
「こ、これって勉強しなきゃ……マズい系?」
「助けてヤオモモせんせ~!」
二バカは秀才の八百万に泣きついていた。
「わ、私なんかがお力になれるとも思えませんわ……頼るなら他の方に」
「そんなこと言わずに助けてくれよぉ」
「もう他に頼れる人がいないのぉ……」
わかりやすく彼女の顔が晴れる。
「ワリィ、俺も古文教えてくんねえかな?」
「俺もいいかな?」
瀬呂、尾白も便乗した。
「ぅ……私なんかを頼っていただけて光栄ですわ! そうなりましたらまずお母様に頼んで講堂開けていただかないと!」プリプリプリ
ナチュラルに生まれの違いを叩きつけた八百万だったが、可愛かったので許されていた。
「……なぜだァ――神の恵みを、受け取る者はいないのかァ!?」
ひとえに、人徳の差である。
「ね、ねぇ壇くん……僕でよければヒーロー基礎学教えてあげようか?」
緑谷がこっそり提案した。
「あと今度オールマイトコラボある時真っ先に教えてほしいんだ」
「いいだろう……神に仕えることを光栄に思うがいい」
まさかの賄賂を条件に関係が成立してしまった。
「ぅ……ならウチもお願いしようかな。ドレミファビートの新譜、テストプレイさせててくれたら情報学も教えたげるし」
そう、神には新作ゲームという餌があった。
「クソが……なんで俺のとこには来ねえんだよ」
「人望の差だな」
「うるせえ! 教え殺すぞ!?」
「ああ、頼む」
こうして、期末試験に備えていくのである。
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「やっぱさ、素のキャラが強くないと、パーティーってのは強くならないよな」
パラドクスはゲームをやりながらつぶやく。
ヴィラン連合の拠点。死柄木は手のマスクの向こうから睨み付けていた。
「どんなにザコキャラでも、パラメーターが良ければそれなりに活躍できるんだ」
「何が言いたい……てか誰だよお前」
「やだなぁ~俺はお前らの味方だぜ♪」
ゲームクリア! の音声が聞こえ、パラドクスはゲーム機を投げ捨てる。
「ふざけた言い草ですね。君の行為で我々も迷惑しているんですよ」
「分かってないなぁ……厳選だよ。ほら、ポケモンでもやるだろ? 卵をいっぱい孵すみたいにさ」
「どういう意味です?」
「この程度の恐怖で動かなくなるのは所詮はザコさ。暴れたいだけの奴ってわけ」
思想のある、真の悪はこの程度では諦めはしない。
むしろこの時期にこそ動き出す。弱小勢力が消えた、この瞬間に。
「そこで募集をかければ――強い連中、本物が集まるぜ?」
「……理屈は通っていますが、我々の知名度は高くありません。ステインが所属したということもマイナスに働く可能性だってあります」
ゲーム病に感染したステインが所属した組織。それはどんな悪人にとっても良くない。
「だったら――こんな噂を流してみようか」
パラドクスの提案は、二人をとても驚かせた。
どこから仕組んでいるのだろうか?
ステインが感染したこと、妙な噂が流れ始めたこと、それらすべてが想定内だったのだろうか?
「君はなぜ、我々の味方をするんです?」
「遊びたいのさ! さいっこうにスリリングで、エキサイティングなゲームがしたい、それだけさ」
さっき自分で投げ捨てたゲーム機を拾い、パラドクスは立ち上がった。
「あ、そうだ! パラドクスってのは、俺のプレーヤーネームだ。仲間になるんだし、ヴィランネームでも教えておこうか」
彼は振り返り、指で文字を作った。
「俺の名は――