「悪魔の科学者、デヴィット・シールドの……?」
緑谷は驚愕に目を見開いている。
「科学の発展の為ならいかなる手段も用い、彼が居なくなったことで世界の科学は50年の遅れを余儀なくされたと言われている」
「詳しいのね。その通り、私はデヴィット・シールドの娘よ」
メリッサは少しだけ悲しそうな顔をしていた。
「ごめんなさい。なんか聞いちゃいけないことを」
「言ったのは私よ。隠すのも良くないもの」
子供のころから哀れみの目を向けられていた。悪魔の娘となじられたこともある。
だとしても隠すことはできない。
この繋がりは断つことができないのだ。
親子であるという事だけは。
「私はパパの研究を悪用する人間を捕まえる。例えそれがパパ自身であってもね」
「あの、僕……」
「暗い話はここまでよっ! 君に紹介したい人がいるの、乗って!」
早業だった。素早く緑谷にスペアのヘルメットを被せ、バイクの後ろにまたがらせる。そして自分も前に乗せてエンジンをかける。
「え、ちょっ」
初心な彼は腰に手を回すことにとても躊躇っていた。
「どうしたの? 振り落とされちゃうよ?」
「は、はぃぃ」
恐る恐るしがみつく。彼の鼻が心地よい香りを感じ取る。
そしてとても心地よかった。
「うーん! 一度やってみたかったのよね!」
「え、えっと……メリッサ、私は」
「マイトおじさまはその足があるでしょ」
「ええっ!?」
まさかの無茶ぶりである。とはいえ、脚力的には何の問題もない。全盛期ならば。
もう一度言おう、全盛期ならば。
すでに衰えているオールマイトの体力ではいささか厳しい物があるだろう。
「じゃ、あそこで待ってるわ!」
「おいてかないでメリッサァッ!」
――――
――
葛城 セントはI・アイランドにある共同墓地にいた。
今日で丁度10年。
花束を供えて手を合わせる。父の研究は今でも重宝されている。
ラブ&ピースの精神は多くの科学者に受け継がれているのだ。
『――セント』
「っ父さん!?」
声が聞こえた気がしたが、そこには誰もいなかった。
「……はぁ、最悪だ」
風を切る音が聞こえた。
「わーたーしーがー花束を持って、来たッ!」
「うるさい」
「あっ……ごめん」
見事に着地を決めるもセントに指摘されてシュンとしてしまうオールマイト。これでもNo.1ヒーローなのである。
「あれ? メリッサと緑谷少年は」
「俺に聞かれても――」
噂をすればなんとやら、二人が掛けてくるのが見えた。
なぜか緑谷はグロッキーな状態だったが。
「HAHAHA!! どうやら私の方が先に着いちゃったみたいだね!」
「あはは……やっぱりおじさまは早いわね」
「初心者丸出しの人間が二ケツしちゃだめでしょうが。彼、ものすごく気分悪そうだけど」
セントに言われて初めて緑谷の状態に気づく。
「わ、ごめん! 酔っちゃった?」
「い、いえ……そんな、ことは」
運転が荒すぎたせい、などと口が裂けても言わなかった。
「君が緑谷 出久くんか。俺は葛城 セント、戦うウサギと書いて、
「は、はい……あの、葛城さんはオールマイトとはどういう」
「腐れ縁、ってやつかな。俺の父親とあそこの筋肉ダルマが友人関係で、息子の俺にまで干渉してきているってわけ」
辛辣な物言いにオールマイトは静かに傷つく。
緑谷はネットのアンチ掲示板を思い出した。いくら人気なヒーローとはいえ嫌う人間はかなりいる。オールマイトとて例外ではない。
きっと何かの理由で嫌いなのだろう。
「はは……葛城少年、もう少しオブラートに包んでくれてもいいんじゃ(ごふ……)」
嫌な咳の音がした。
「……これでも十分加減してるんだけど――そういや緑谷くん。パンドラボックスはもう見学したのかい?」
「え、いえこれからですけど」
「んなっ!? まだ見ていない!? このてぇんっさい物理学者の研究の集大成たるパンドラボックスの展示をまだ見ていないっ!? こうしちゃいられない! メリッサ、早く案内して差し上げなさい!」
ハイテンションになったセントは今にものけ反って焼肉に誘ってきそうだった。
「え、でも」
「そんなだから彼氏できないんだぞ? 一日中研究室に籠ってる引きこもり系女子なんか今日日モテないぞ」
「失礼ね! こう見えてもモテるんです! 変人研究バカにだけは何も言われたくないですッ!」
「バカって言うなよバカ!」
「そっちから言ってきたんでしょうが!」
急に息ぴったりの漫才のようになった。
「あの、喧嘩は……」
「っご、ごめん……そうね、案内してあげるわ」
「で、できれば安全運転で」
二人がいなくなった途端、オールマイトがせき込みながらしぼむ。
「ごふっ……助かったよ、葛城少年」
「あんたの衰えを見せちゃいけないからな。にしても、随分しぼんだもんだ」
周囲に誰もいないことを確認しつつ、セントは彼に手を貸す。
「ね、ねえこれ見られても大丈夫かな……私コスチューム着たままなんだけど」
「安心してくれ。どう見てもオールマイトのコスプレしたガリガリのおっさんにしか見えないから」
少しだけ心が傷ついた。
――――
――
「――デク? 随分変わったニックネームね。私の事はメリッサでいいわよ」
翌日に控えた博覧会のせいか、多くの人がごった返していた。
それこそ普通に歩いていれば、ここが人工島の上であることを忘れてしまいそうだった。
「凄い賑わいですね」
「そうね。科学者だけじゃなくてその家族も住んでいるから、商業施設は普通の街と同じくらい発展してるわ。勿論、今がエキスポのプレオープン中だからって言うのもあるけど」
話していると、夏だというのに首にストールを巻き、大きな本を携えて歩いている人を見かける。
(あの人もヒーローっぽい。くっ、僕としたことがマイナーヒーローの調査がおろそかだった!)
などと考えていると、今度は同じ顔立ちだがベレー帽をかぶり、近未来的なタブレットを持ち歩いている人物を見かける。
「デジャヴ……」
「どうかした?」
「いえ、すごくそっくりな人を見かけたもので」
「マズいわね」
一瞬メリッサが険しい顔になる。
「デジャヴはI・アイランドが変わった証拠よ。何も起こらなければいいけど」
「ええ!?」
(こんなに人がいるってのにトラブルでも起こったら……!)
「って、冗談よ。これだけいれば、そっくりさんの一人や二人いるわよ」
「な、なんだ……」
どうやらこの人は見た目よりもお茶目な人なのかもしれない。
なおこのやり取りのせいで“怪獣ヒーロー”ゴジロを見逃してしまったことに気付き、緑谷は後でものすごく落ち込んでしまうのだった。
そんなこんなで展示室に到着し、メリッサによる解説を伴いながら見学していると本命のパンドラボックスの前にたどり着く。
「これが噂の……!」
「ええ。記録が正しければ火星から持ち帰られた物だそうよ」
超常黎明期、人類は宇宙探査に力を入れていた。その一環として日本は火星の有人探査を成功させる。だが、このニュースは歴史の合間に埋もれてしまうのである。
火星探査の報告セレモニーの一週間前、中国で光る赤子が生まれたというニュースが報道されたからである。
これにより日本でも急遽調査が行われ、結果後の個性と思われる能力が次々と発見され、宇宙開発の事など隅に追いやられてしまったのである。
その後、パンドラボックスは国のしかるべき機関が保管していたようだが、異能解放軍の起こしたテロによりすべてが紛失。十数年前に発掘されるまで行方不明だったのである。
「そっか、超常が起こらなければ今頃僕たちは宇宙旅行を楽しめているはずだったって言いますよね」
「もしかすると、個性は宇宙人が持ってきたものだったりして」
「もう! 今度は引っかかりませんよ?」
和やかに談笑していると、ふと殺気を感じた。
「――デクくん楽しそうやね?」
振り返るとヒーローコスチューム姿の麗日がにこやかに立っていた。
「う、麗日さん!?」
「デクくん楽しそうやね(二回目)」
耳郎、八百万も一緒であることから女子組で一緒に来ていたようだった。
「え、い、いやこれには訳があって――うわぁっ!?」
緑谷はテンパって展示台にぶつかってしまう。これはパンドラボックスと一緒に発見された黄金のブレスレットであった。
「ってて……んん!?」
気が付くとそれは彼の右手首に装着されてしまっていた。
「え!? 何でいつの間に!?」
気のせいか、それが独りでにに輝いたように見えた。
デクくんがフルガントレットではなくベル様ブレスレットを身に着けることになりましたとさ、まる。
なお白黒のウォズさんらしき人が出ていましたが、我が魔王も我が救世主も出る予定は一切ありません。