適度に休憩しながら読んでくださいませ。
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岩壁に亀裂が走る。
裂撃によって拳を傷つけられたヴィラン――マスキュラーは堪らず跳び退く。
「チィ! 厄介な個性だな」
「ッ!?」
振るわれた拳を防ぐとサキの武器に亀裂が走る。
そして受けきれずに吹き飛ばされた。
「お前、リストにはねえが殺した方がよさそうだな」
(リスト……?)
マスキュラーはそこで思い出したように尋ねてくる。
「そういやお前――爆豪ってガキがどこにいるか知ってるか?」
「!」
彼女は武器を構えることでそれに応える。
知っていようとも教えはしない、その意思を示すために。
「ま、知ってても教えてくれるわけねえよな!」
殺気を感じた。近くにいた洸太は堪らずに腰を抜かす。
一陣の風。
気が付くとサキは殴り飛ばされていた。反応ができたのは続けて放たれた蹴りの方だった。
「くッ!?」
彼女の額から血が流れだす。体感では骨が数本折れているようだった。
あの“脳無”というヴィランに襲われた時とは比にならないダメージを喰らっていた。
「……ぇっ」
地面に血がにじむ。流れているのは彼女の物だけだった。
「いいねえ……まだ折れちゃいねえみたいだ――だからこそ潰し甲斐が」
マスキュラーの後頭部に小石が命中した。
大したダメージになっていないが、振り向かせるのには十分だった。
「う、ウォーターホースも……そ、そうやっていたぶって、楽しみながら――パパとママを殺したのか!?」
恐怖心を感じながらも、洸太は小石を投げた。
真意はどうであれそれがヴィランの足止めになったことは確かだ。
「あ? ああ――思い出した、俺の目を義眼にした奴らか! ははッ! 偶然でも面白れぇっ! まさか子供に出会えるなんてな!」
マスキュラーは下衆な笑みを浮かべる。そこには純粋な喜びよりも、左目を奪われた怒りの方が浮かんでいた。
ここにいるのは自らの体の一部を奪った連中の子供。
「お、お前のせいだッ! お前なんかのせいでこうなるんだよッ! 身勝手で、暴れて、人を殺すからッ! 全部前のせいだよッ!」
両親を奪われた少年の魂の叫び。
目の前の悪が成した身勝手な振る舞いによって大切な物を奪われた者の慟哭だった。
しかし悪はそんな
「ククッ……!」
「な、なにがおかしいんだよッ!?」
マスキュラーは笑っていた。
少年の怒りを一笑に付した。
「おかしいのはお前だろ!? 殺されたからなんだってんだよ? 悪いのは俺か? 俺は力を使っただけなんだぜ?」
理解ができない。
人を殺したのに全く悪いと感じていないのだ。
「オイオイさっきまでの威勢はどうした!? 何か言ってみろよ。だからガキは嫌いなんだ――すぐに責任転嫁する。お前は勘違いしてるみたいだが、俺は左目の事は恨んじゃいねえぜ? 俺も奴らも、やりたいことを」
「――勝手なことを言うなッ!」
正義感の塊であるサキは、そんな悪の戯言を聞いて黙っているはずもない。
「んっ!?」
「この子の両親は――なにもやりたかったことができてないッ!」
マスキュラーがぐずぐずしている間にチャージは完了していた。
真っ赤に染まった彼女の髪が波打つ。
「――紅蓮ッ爆竜剣!」
「ンンンッ!?」
最大出力はマスキュラーの筋繊維を引き裂き、全身に傷を負わせた。
攻撃を受け続けてきた武器は真っ二つに折れ地面に落ちる。
同時にマスキュラーも崩れ落ち、彼女は勝利を確信した。
「大丈夫? ……っけがはない?」
「っ……あ」
それがいけなかった。
確実にとどめを刺しておけば、こうならずに済んだかもしれない。
「くそっ! 義眼が壊れちまった――いい加減ムカついてきたし、こっから本気で行くぞ」
マスキュラーが新たな義眼を嵌めた瞬間、まるで今までがお遊びであったというように力が倍増した。
一瞬でサキを壁にめり込ませ、何度も何度も殴りつける。崩れ落ちた体を無理やり起こし頭を地面に叩きつけた。
「ボウズ、これ見りゃわかるだろ? 悪いのは殺した俺じゃねえ! この程度で死んじまう――」
「~~~ッ!?」
マスキュラーの拳が容赦なく彼女を押しつぶす。
まるで洸太に見せつけるかのように。
「――弱え奴の方だってな!」
「か……っ」
気が変わったのかマスキュラーはサキの体を持ち上げる。
その嫌な笑い方は、悪事を閃いたかのようでもあった。
「折角だ……もう一つお前に教えてやるよ」
血に染まったサキの服を、マスキュラーは盛大に引き裂く。
それを見た洸太は訳も分からず怯えた。
「クク……その様子じゃ知らねえみたいだな――女ってやつの使い方をよ!」
一思いに殺す前に、とことん辱める――欲望を満たすという宣言だった。
中には死体でも構わないという変わり者もいるが、この男はその点で言えば健全であった。
少年の無垢な知識ではわからなかったが、ろくなことをするつもりでないのは分かった。
「うっ!?」
洸太は個性を使ってマスキラーの顔面に水を放った。
「そ、その手を離せッ!」
両親の個性に比べたら水鉄砲のような威力だったが、その一瞬が命運を分けた。
「チッ……
マスキュラーは痛みを感じてサキの体を手放した。
「させない」
彼女の足が地面を踏みしめる。その個所から蜘蛛の巣のように引き裂けていく。
全身に裂撃のエネルギーが行き渡り、その姿を竜の様に変化させる。
振り向きざまに放った裏拳でマスキュラーの体が吹き飛んでいく。
「大丈夫……君の事は、私が護るから」
サキは折れた武器を拾い、構える。
その姿は竜戦士――グラファイトのようでもあった。
「テメエ……さっきまで死にかけてただろうが……! いったいどこからこんな力が」
マスキュラーは思わず怯んだ。
目の前の少女――さっきまで嬲り続けていた弱者の後ろに、強大な竜戦士の幻を見たから。
「ヒーローのやりたいことは、貴様らのような
ヒーローの使命を全うした父親に憧れた少女がいた。
「人々の安全を保障し、変わらぬ明日が来ると約束する――」
富も名声もいらない、強大な敵と死闘を繰り広げたいわけでもない。
誰もが『変わらぬ明日』を送れる世界を護る。
大切な人が待つ場所へ必ず帰ってこれる、そんな日常にしたい。
「それこそがヒーローのなすべき使命ッ! 本当にやりたいことだッ!」
――それは少女が涙と共に誓った
――――
「我が名は
こんなはずはない、マスキュラーはそう独りごちた。
一ひねりで――いや、指先の一つでつぶせるような子供に。
「その胸にしかとこの名を刻んでおけッッ!」
「なぜだァッ!?」
いつもなら止まることのない口もまともに動かない。
恐怖で体が竦んでいる。
これではまるで――
「
気が付いた時には懐に入り込まれていた。
その刹那に目が合う。
狂気に満ちた――平和を護るためなら何でもするという気迫のこもった目だった。
「奥義――」
白 銀 蒼 炎 剣
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この戦いは歴史には残らない。
結末は人々の運命に何一つ影響を与えることは無い。
それでも一人の少年は決して忘れない。
命を賭して戦った者がいたことを。
『かくして、一つの戦いに幕が下ろされた。
彼らが乗り越えねばならない壁はあと3つ。
次にに待ち受けているものは何か?
鍵を握るのは「火星の――」おっと、少し先まで読んでしまいました。
ここから先はまだ、皆さんにとっては未来の話……』