観れてない人は前話からどうぞ
――――
――
「――個性強度の急激な下落、明らかに無理をし過ぎだな」
「ああ、そうだね」
去年の春ごろ、個性を譲渡した結果である。だがオールマイトはそれは言うまいと口を閉ざす。
「で、でも今でも1,2時間なら活動が」
「前に会った時は3時間って言ってたよな?」
指摘に声を詰まらせる。
「全部ひとりで背負ってきたツケが回ってきたんだ。自業自得だろ」
「葛城少年……私はやらねばならんのだよ。平和の象徴として」
「そういうとこだ」
セントの冷たい視線にオールマイトは身を強張らせる。
「あんたは全部自分でやろうとする。何から何まで全部、人に頼るってことをしない」
「それは」
「分かってるさ。あんたの実力は頭一つどころか十個ぐらい抜けている。そのおかげで日本のヴィラン犯罪の発生率は一桁台で収まっている」
通常、他の国では20%前後あるのだが、日本だけは群を抜いて低いのである。
「でも10年後、いや20年でもいい。もっとその先、あんたが――オールマイトが引退した後は?」
「私だってそれを考えているさ……」
「いいや、考えていなかった。その証拠が――緑谷 出久だろ?」
「ッッ!?」
相変わらず恐ろしい観察眼だ。この葛城 セントという男に隠し事はできない。天然物の思考力、考察力はまさに天才と呼んでもバチは当たらないだろう。
「見てりゃ気付くさ。彼が体育祭で見せた超パワー、体と共に発展していくはずの個性が自分の体を傷つけることはない。無茶をすれば別だが、あれは単純にコントロールができてなかっただけ」
「ま、まぁ彼の個性は独特だからね……」
「それに、あんたみたいな善意の塊が特定の生徒をえこひいきすることは、普通だったらない」
「……ッ!」
自分の弟子だからと連れてきた結果がこれか。同伴者を安易に選んではいけないということか。
「全部、自分の蒔いた種だ。八木さん」
ここにきてセントは彼の名を呼んだ。
「あんたが見込んでいるくらいだから、相当立派な心の持ち主なんだろうさ。でもあんたは彼の善意に甘えて何もしていない。彼の手、もう無茶を出来ない状態なんじゃないか?」
緑谷が傷つくたびにリカバリーガールからお小言をもらっていた。
彼が限界を超えて無茶をしてしまう、それを止めるのが師匠の役目ではないのかと。
「5年前、宿敵との戦いであんたは傷を負った。その時点から後継者を探したんじゃ遅かったんだよ」
「そうは言ってもね、葛城少年。私はオール……宿敵と戦っていた。その時点から探していれば私の戦いに巻き込んでしまったかもしれないんだ」
「八木さん、それはあんたの都合だよ! 世界の脅威は――あんたの宿敵だけじゃないはずだ!」
10年前。
セントの父葛城 タクミはヴィランによって命を奪われた。
その犯人をオールマイトは逃がしてしまった。以来、ヴィラン――ブラッドスタークは世界中を逃げ回っているのだ。
「ブラッドスタークはまだ世界のどこかで悪事を働いている! メリッサの様に人体実験をさせられた人間は数え切れないほどいる! あんたは
もし、オールマイトに優秀なサイドキックが居れば。
もし、同じくらい優秀な強さのヒーローが居れば。
もし、平和の象徴なんかじゃなかったら。
「葛城少年……やはり、君は」
「……科学は未来に継承できなきゃ意味がない。俺は俺のやり方で平和を継承してみせる」
――――
――
\スクラップフィニッシュ!!!!/
ゼリーのようなエネルギーが噴出し、グリスを押し出す。
基盤がむき出しになったガーディアンに強力な蹴りが命中した。
『撃破タイム36秒! プロのプライドを見せてきましたァッ!』
拳を突き上げてグリスは雄たけびを上げる。
その様子は飢えた獣のように荒々しかった。
『さあ次は――え? なになに……ここで残念なお知らせです。競技用ガーディアンのストックがあと一体しか残っていないそうです! つまり挑戦できるのはあと一人!』
アナウンスに反応した爆豪は思い切り緑谷の背中を蹴り飛ばした。
「え――かっちゃん!?」
「挑戦してこいや!!」
どうしても白黒つけたかったのか、無理やりにでも参加させるようだ。
ステージの上に無様な着地を決めた緑谷は、どうやら参加者認定されてしまった。
『ラストチャレンジ! 盛り上がっていきましょう!』
「っやるしか……!」
注目される中、全身に力を込めて個性を発動する。
(ワン・フォー・オール・フルカウル!)
その刹那、背筋を悪寒が襲った。
何かが体の中に滑り込んだようなもどかしい感覚になる。
「な……んだ、これ?」
右手のブレスレットが光り輝いた。
ひとりでに右手が上がる。
『――スタート!!』
号令と共にガーディアンの背後に紋章が浮かび上がる。
それはブレスレットにある文様と同じだった。
ガーディアンは一瞬で押しつぶされてしまう。
「んな……?」
そして出久の意識が遠のいていく。
『――我が名はベルナージュ』
頭の中で声が響いた。
――――
――
「――ありがとう、物資は無事届いた」
I・アイランドのどこかにある倉庫。
ブラッドスターク――デヴィット・シールドは誰かに電話を掛けていた。
周囲には武装した人間が数人。腕にボトルのセットされた腕章をつけている者もいる。腰には濃い紫色の銃が装備されていた。
「さて、懐かしき場所はかなり変わっているなぁ……メリッサは、元気にしてるかな」
デヴィットの瞳が赤く輝く。
『お前ら、計画通りに行こうか――蒸血!』
\ミスト・マッチ……/
闇の中でコブラの紋章が光り輝く。
ヴィランたちが静かに動き出す。
戦闘シーンはおあずけですぞ