砂漠の悪魔《パチモン》 作:ロールプレイヤー
新勢力の盗賊団を壊滅させた俺は自宅の指定席で暇を持て余していた。
「なあ、モリソン。
何か面白い事はないか?」
「そうだなぁ…俺が苦労して作った戦闘服をわざと銃弾の雨に晒して、埃まみれにして帰って来た男の話はどうだ?」
「っち」
モリソンの言葉に舌打ちする俺だったが、ダンテっぽいやり取りだと内心では喜んでいた。
モリソンムーブをしろと命令する面倒な主だろうが、小さい事まで全力で対応する彼は本当に有能である。
「そんなに暇なら依頼でも受けてきたらどうだ?
暇つぶしに位にはなるだろ」
「っは、俺は醜悪なババアの相手や、クソを運んだりするのはごめんだね。
やるんなら刺激的な依頼がいい」
「なら、賞金首を狩って来たらどうだ?
選り好みしなければ、まだまだ小さな盗賊団は居るぜ」
「久々にリベリオンを振るう事の出来る程の奴が相手なら、小さな盗賊団でも歓迎だ」
「…やれやれ。俺は農園の世話があるから、用が出来たら呼んでくれ」
俺の言葉に呆れたモリソンはため息を吐くような仕草をして、家の奥へと引っ込んでいく。
一人になってしまった俺はテーブルの上に置いてある相棒の二丁銃をおもむろに手に取った。
「本当にいい仕事をしている。
細部までそっくりだ」
エボニー&アイボリー。
パチモンである俺が本家に合わせてモリソンに作らせた銃。
元はビーム
暗黒時代末期の人間が見たらこれ等をゴミと言うだろうが、この時代の人間からしたらオーバーテクノロジーの塊で貴重なお宝だ。
俺が二丁の銃を眺めていると写真立てに見せかけたデスクトップの画面が女性の画像から玄関先の動画へと切り替わる。
どうやら来客の様だ…っと言っても、俺を怖がっているここら辺の住民が来る事はない。
来たとしても無限屋ぐらいだ。
俺はゴトリと二丁の拳銃をテーブルに置き、画面を見る
「無限屋と…誰だ?」
珍しい物を見たと、目を見開いている俺の視線は無限屋の後ろを付いてきている二人に釘付けだ。
一人は、商の文字の入った日傘を頭に被ったスーツ姿の中年の男。
もう一人はその中年男の隣を歩く、ワンピースを着た黒髪の少女だ。
無限屋と一緒に居ると言う事は、おそらく依頼人だろう。
丁度暇を持て余していたし、内容によっては引き受けるのもありだろう。
俺は写真立て型のデスクトップの画面を何時もの美女の写真に切り替えた。
―――――――――――――――――
無限屋の主人は色々と疲れていた。
主人は便利屋《デビルメイクライ》のダンテとの賭けに負け、上乗せされた報奨金を自腹で払った。
当然、それなりに纏まったお金を支払った事で奥さんにバレてボコボコにされたのだ。
あれから一週間と経っていないが、ダンテの元へ向かっていると一連の出来事を連想してしまい、憂鬱な気分になるのだ。
食べ物に釣られた主人の自業自得である。
「さあ、ここが便利屋《デビルメイクライ》の家です」
「こ、ここが、あの《砂漠の悪魔》の自宅……」
「凄い……」
依頼人である二人は無限屋に案内されてたどり着いた家を見て驚愕し、思った事を口にする。
無限屋は初めてここに自分が訪れた時の反応を思い出して苦笑する。
自分も初めはこんな純粋な反応をしていたのだと。
今となっては緊張と心労で胃が痛い、仕事にわがままな悪魔の相手は主人のストレスの元凶と言っても差し支えない。
今回は依頼人がどうしてもと言うので連れて来たのだが、あの悪魔に『気分が乗らない』など『俺は眠いんだよ』と好き勝手なことを言われ、代わりの便利屋を探す事になるのは目に見えている。
さっさと済ませて、依頼を受けてくれそうな便利屋を探さないと……。
無限屋の主人が盛大に溜息を吐いた後、色々な意味で重くなってしまった足を動かして《デビルメイクライ》の扉をたたく。
『入んな』
何時もの様に扉の向こうから家に入る許可を得た無限屋の主人は依頼人の二人を連れて扉を開けた。
「アンタが客を連れてくるなんて珍しいじゃねぇか。
一体何の用だ?」
扉を開けると部屋の奥のテーブルには両肘をテーブルに着けて顎の前で手を組んでいる銀髪の男、ダンテの姿があった。
「いやぁ~~ダンテさん。
実は高額な指名依頼が来ましてね……」
「ほう?依頼人はそこの身なりがいい二人か?」
珍しくまともに対応するダンテに不信感を抱く無限屋の主人だったが、このチャンスを逃すまいと頭をフル回転させる。
「いやぁ~、そうなんですよ。
依頼人はこちらに居る数日前に亡くなった《朝霧商会》トップである会長の秘書の方と一人娘の
会長の遺産を引き継ぐ、将来有望なお嬢様なんですよ」
主人は未だにキョロキョロと部屋の中で視線をさまよわせる二人を金なる仕事であるとアピールしながら紹介する。
「なるほど。
話はだいたい読めて来たぜ」
「おお!さすがはダンテさん。
依頼の内容は遺産が相続されるまでの三日間の間、お嬢様を護衛する事です。
三日後には西オワシスのお役所が、お嬢様が遺産と商会の経営権を相続する為の手続きが完了するのです」
「で、ギャラは?
知っていると思うが、俺は高いぜ」
ダンテがギャラの話になった時、秘書の男はキョロキョロするのをやめて報酬額を口にした。
「三百万。
「ほー、ただの護衛にしては羽振りがいいじゃねぇか。
……で?敵は誰なんだ?」
いくら商会のお嬢様の護衛だからと言って、一日で百万円は異常だ。
よほど馬鹿な便利屋以外は警戒するだろう。
故にダンテは相当厄介な敵が居ると思い鋭い目で秘書の男に問いかけた。
「て、敵は……」
「うちのライバルである寿商会。
私兵を使って、父さんと母さんを殺した仇よ」
秘書の男が言いづらそうにしていると、隣に居た純子が憎しみの籠った瞳で答えた。
寿商会とは朝霧商会と並ぶ大商会の一つであり、最新の銃器や装備品を与えられた数多くの私兵を従わせて商品を積んだ輸送車を守っている事で有名だ。
確かに純子が言ったように、敵が寿商会の私兵なら三日で三百万の報酬は打倒と言えるだろう。
「いいぜ。ちょうど手応えのある遊び相手が欲しかったんだ。
その依頼、引き受けてやるよ」
「本当ですか!?有難うございます!!」
「では、ダンテさん。
こちらが契約書になります」
感謝する秘書の男の合間をすり抜けて、契約書を差し出す無限屋から書類を受け取ったダンテは依頼内容を確認して署名をした。
こうして、ダンテの長い三日間が始まるのであった。
――――――――――――
「では、ダンテさん。後はよろしくお願いします」
「お嬢様。
私は近くの宿泊施設で待機しておりますので、何かありましたら何時でもいらしてください」
契約が成立した所で秘書の男と無限屋の主人はそそくさと出て行った。
家から出ていく空らを見送った俺は、どうしたものかと頭を悩ませる。
パティ・ローウェルを彷彿とさせる依頼と高額な報酬に釣られて、つい契約してしまった。
もちろん、現存する地上の兵器では俺を倒す事が不可能なことはモリソンの行った戦力調査によって判明している。
私兵がいくら投入されようとも大人と子供のケンカだ。
一番の問題は、この目の前に居る朝霧純子ちゃんを三日も預からないといけないと言う事だ。
推定年齢はおそらく十歳頃。
いわゆるお年頃で気難しい時期である事が予想される。
ボディーガードの依頼で何よりも重要なのは依頼人とのコミュニケーションだ。
俺は今回の仕事を円滑に進める為の努力を開始した。
「さて、何か聞きたい事はあるかな?お嬢さん」
「……」
話しかけるとじーっとこっちを見てくる純子ちゃん。
な、なんだ?
「その頭……どうして白いの?」
「…生まれつきだ」
スタイリッシュな本家を目指している俺は、少女にサラリと嘘をつく。
まあ、確かに今の時代の日本で銀髪をしている人間は珍しいのだろう。
顔つきも思いっきり外国人だしな。
「…そう。
で?私の部屋は何処?」
「二階に客間がある。
案内するぜ」
俺はこの家を建ててもらってから一度も使用された事のない二階に作られた客間へと彼女を案内する。
一度も使われた事のない客間の状態に恐怖しつつ、扉を開けると中からは清潔感溢れるフローラルな香りがした。
部屋の中も埃っぽくなく、整理整頓された状態だった。
どうやらもしもの時の為にモリソンが常日頃から掃除をしてくれていたのだろう。
「ここがお嬢さんの部屋だ」
「…すごい。
貴方って見た目に似合わず綺麗好きなのね」
「…うるせぇ。
飯になったら呼んでやる。
それまでここで大人しくしてな」
お年頃の少女との会話に疲れを覚えた俺は客間に彼女を残して早々に部屋から去った。
どうやら、幼少期から女子との交流が全くと言っていい程になかった俺には荷が重すぎたようだ。
交流は最低限にして、部屋に引きこもって貰おう。
うん、その対応の方がダンテっぽい。
「とりあえず、モリソンに嬢ちゃんの事を伝えねぇとな……」