1-1
ー少しも面白くないこの世界に未練はないけれど…
眼前に広がる人間社会を見ながら、小さく息を吐く
ーせめて最後位、華々しく散って欲しいものだね
非日常は突然に…
突然だが、《日常》とは何だろうか。普段通り学校に行き、勉強して、飯食べて。毎日が同じ事の繰り返し。
《日常》が保たれている世界は平和だ。少なくとも今現在人間の多数はそんな世界を手に入れた。しかしそれでも飽き足らず、人間は《日常》のハードルを上げ続けた。その結果、人間は自然の摂理である死すら克服せんとしている。
しかしそれと同時に人間は生の《恐怖》を失った。それは人間の生活を無味乾燥なものとし、人々は刺激を求めた。
そこで人間は《絶対安全かつ刺激的》な世界を作り出す能力を得た。それが《想像力》である。想像の世界は中毒的で、人間はこれの虜になった。この《想像世界》を言語化、視覚化したものが小説なり映画なりである。
しかし、この肥大化した《想像世界》が、神の琴線に触れる事となる。
その時口上鈴くがみれいは、東京にいた。型ばかりを押し付ける現代の学校教育に愛想を尽かし、刺激を求めて放浪っていたのか。一部正解である。実際彼は迷走していた。職場見学の場所が分からずに。
要するに、彼は少し阿呆である。
熱海蓮あたみれんはその時、集合場所に30分早く着いていた。そして口上からのSOSのメールを受け取った。
「オタクの聖地で乗り換えしたら街中に来ちゃったわ。何か買うものは? PS 普通に迷った」
熱海は深いため息をすると、立ち上がって駅に向かった。ここから鈴のいる場所まで三駅。これだけ時間があれば大丈夫だろう。いいからそこから動くなと言明し、電車に乗る。鈴からの返信が来た。
「なんか歩いてたら神田って所に着いたんだけど」
言い直そう。彼は極度の阿呆である。
世界を変えるのは、普通と違う天才かキチガイと相場が決まっている。何がどうなるかは神にすら分からない。平穏な日常からはみ出た異物の物語。なんとも面白そうじゃぁないか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
レンの読みは外れ、集合時間の9時は数分後に迫っていた。どうせ私は遅刻常習犯だし、レンは
「あのバカを救出してて遅れる」
旨を友人に伝えているそうだから、大した問題にはなるまい。
「一体全体どうやったら迷って2駅も歩けるんだ?」
毎度恒例のお説教が始まった。今に始まったことではないのに、よく毎回怒れるものだね。
ーこの世界は複雑怪奇な事情で溢れているのだよ少年。
「いやそうだろうが、電車ぐらいまともに乗れないのか。現代人失格だよ?」
ー新宿は迷宮だよ。1時間以内の脱出はまず不可能と考えるべきだね。
レンが何やら言っているが、無視して手摺にもたれかかって遠くを眺める。ゴッチャリした街並みが高速で流れていく。
ブツッ
その音は、何の前触れも無くやって来た。音楽プレイヤーからイヤホンを引き抜く時の雑音が一番ちかいだろうか。電車の音に紛れてしまいそうなその音は、しかし私の脳にはっきりと流れ込んで来た。
ふとレンに声を掛けようとする。
ここで異変に気が着いた。
声が出ない。
そもそも呼吸すら出来ていない。というかしていない。
ここで、電車の音が消えている事と
窓の外の風景が止まっているのに気がついた。