「はい人間世界の0時ですと言うわけで始めます。」
頭に声が響く。いかにも軽薄そうな大学生位の声。いやもっと若いか。
体を動かすのを諦め、声に集中しようとする。幸いにも、呼吸をしなくても苦しくはない。
「えっと概要を説明します諸事情により人間を絶滅させますでも頑張れば生き残れるかもしれないので頑張って下さい以上です」
物凄い勢いで捲し立てられる。理解力の範疇を越えている。頑張れってどうしろと?
「変わりまして先程の上司の部下の、貴殿方が言う所の《天使》です。ここから生き残るための大切な情報をお伝えします。」
最初から貴女に説明をして欲しい。まともなのお願いしますよ。
「お気付きになった方も多いでしょうが、今我々は貴殿方の脳を除き時間を停止させています。これは、落ち着いて話を聞いてもらうと共に、貴殿方に我々が《神》であると信じてもらうためです。」
なるほど完全に理解した。神の力か何かで時間か何かを停止させてる、と。呼吸が不要な訳だね。
「さて、先程お伝えした通り、貴殿方には絶滅して頂く事になっていました。しかし、我々の間の話し合いで、貴殿方を何の救いもなく殺してしまうのは無慈悲過ぎる、という結論に達しました。貴殿方も意味も分からず死ぬのは嫌でしょうからここには異論はないと思います。」
いやそもそも前提条件から異論しかない。
「そこで、貴殿方には幾つかの《試練》に挑んで頂きます。ではまずこれから起こる事について。今貴殿方人間の人口は約80億人。その人数と同数の、異世界の生物と戦って頂きます。その相手を全滅させることが、第一の試練です。まあ1人1体倒せばいいだけなので簡単ですよね。」
確かに比較的楽な条件の様に感じるが、《第一》という所が引っ掛かるな。
「さて、ここでこの話の中で一番重要な事をお話します。我々は人間の進化の過程で、《神の力》を生体維持に必要な最低限量以上には与えて来ませんでした。しかし、今後の試練において必要となる力であるため、貴殿方に付与することとなりました。」
うーむ。魔法…なのか?魔法なら嬉しいのだけれど。
「なお、この度の敵は基本的にこの力をある程度使いこなせると考えて頂いて結構です。」
武芸の素人に日本刀だけ配ってはいライオン1対1なら余裕でしょ?ってレベルの無茶ぶりだな。まあ妥当っちゃ妥当だな。
「次に貴殿方の肉体についてですね。要点は2つです。まず肉体的成長が無くなること。もう1つは、死者の魂は24時間で消滅するということです。これは細かい説明は省きますね。」
前者の意図はともかく、後者は即ち復活する何らかの方法が存在するということであろう。と言うことは先程の神の力とやらはこれの事で間違い無さそうだね。
「最後に、利き手の甲に現れる紋章についてです。これにより、貴殿方は神が管理する、貴殿方の絶対普遍の個人情報を見る事ができます。貴殿方人間には、一般的に神の象徴とされている十字架としました。時間を動かしてもこれは残るので、これが夢では無いことの証明にでもして下さい。」
話が終わった。そしてこれが始まる時と同じ様な音と共に、電車の音が、体が、世界が、動き出した。
手の甲を見ると、その十字架は存在した。それは、飾り気のない黒一色で、むしろそれが名状し難い薄気味悪さを醸し出していた。