私達の夢を乗せた騎空挺『グランサイファー』。夕陽を浴びて煌めくこの船は数々な修羅場を潜り抜けて、もう仲間の一人としてカウントしても良いだろう。
「んぅ~」
私は大きく伸びをした。
先日、ファータ・グランデ空域を騒がせた首謀者フリーシアを牢に収監し、エルステ帝国との一件を終えた私達は新たな旅に出ていた。
星の島イスタルシアからお父さんの手紙が届いたのも、ザンクティンゼルにルリアとカタリナが帝国に追われてやってきたのも、今や懐かしい思い出。
「ジータ、今日もお疲れ様」
「あ、グラン」
デッキで黄昏れる私に労いの言葉を掛けてくれたのは、私の双子の弟のグラン。彼は拾い子でも義理でもなく、血の繋がった正真正銘の双子の弟。それだけが悔やまれる。
「あれ、クラリスはどうしたの? 一緒に日課のスラ爆やってたんじゃ……」
「さぁ、もう自室に戻ったんじゃないかな?」
クラリスは私達より2歳年上の錬金術師。色々あって家を飛び出して来ちゃったんだけど、親御さんとのギクシャクした関係も修復して今では色んな属性パーティに引っ張りだこ。彼女みたいに、グランが団長で私が副団長を務めるこの団には、老若男女種族問わず様々な事情や目的を持った人達が同船している。ちなみにクラリスはスラ爆から帰ってきて、一直線にグランの部屋へ行き夕食の誘いをすると息巻いていた。どうやらすれ違いになったらしい。恋愛クソ雑魚錬金術師のことだから、どうせ会っても誘えずに終わるだろうけど。
「そっか。カリオストロからクラリスを呼んでこいって頼まれたんだけど……」
「ちょっとグラン、何で団長が団員にパシられてるのよ」
「しょうがないだろ。何か『フェロモン』と『滋養茸』の関連性ってやつの実証実験のために新しい薬を精製してたから手が離せなかったんだってさ」
「へー……」
それ絶対媚薬じゃん。後でその話は詳しく問い質すとして、あわよくばそれをクラリスに渡す前に私がゲットしよう。
「……それにしても、こうして二人きりになるのも久しぶりだね」
「言われてみれば確かに。最近はソーンさんかナルメアさんのどちらかが必ずいたし」
「今もどこかで見られてたりして」
「ソーンさんならありえそう。まぁ見られてやましいことしてるわけじゃないし、別に良いけどね」
「あーあ、遂にグランが女の子に視姦される喜び知っちゃったかぁー」
「視か……えぇ……?」
「島を出る前は、見られるのが恥ずかしいから一緒にお風呂すら入りたがらなかったのになー。悲しいなー」
「そ、それは誤解だよ! アーロンに聞いたけど僕たちの歳で一緒にお風呂に入るのはおかしいことだって聞いたから止めてたんだって! それに、別に僕だって四六時中見張られるのが好きなワケじゃないし! プライベートな時間だってちゃんと取ってるし!」
「プライベートな時間ねぇー……。私とこうして二人きりになるのも久しぶりなのに? 本当にプライベートな時間取れてるの? 最近一人で外出したのはいつ?」
「う、それは……」
グランは口を閉ざしてモゴモゴさせた。
ほーら見ろ。グランは根っこが優しいし、人に頼られることが少なかったからちょっとお願いされただけで二つ返事で了承するチョロさ――――もとい危うさがあるのに自覚がない。それに、百数人の騎空士を束ねる団長だからって肩肘張って、やれ訓練だの、やれ仕事だの、やれ団員とのコミュニケーションだので一人になるのはお風呂に入るときか寝るときだけなのも知ってる。
何なら寝る時間すら削っていて、今も目の下にクマができているもん。
(……島さえ出なければなぁ)
そう、島さえ出なければ、グランがルリアに着いていこうとしなければ彼がこんなに憔悴することも無かった。私達はずっと二人きり(ビィ除く)であの家に愛の巣を築けていた。
それなのにこんなにも多くの想いや業を背負って、やっかまれて、裏切られて、事件に巻き込まれることもなく。
何も起こらなければ、慎ましく平和に夫婦生活を営めただろうに。それもこれも全て――――。
(全部……私が間に合っていれば……)
私はあの日、いつもと変わらずグランを守るためにお婆さんと鍛錬してクラスⅣの極意を仕込んでもらっていた。そのせいで私はグランを守れなかった。本末転倒だ。
轟音と振動を島に響かせて墜落した一つの小さな騎空挺。それを追ってきた帝国。怯える村人の代わりに私と村長が帝国兵と話し合いをしていた時、慌ただしく彼らは森に走っていった。
それを追跡した時には既に、何もかもが遅かった――――。
グランがルリアを庇ってヒドラに殺された時の事は何も覚えていない。頭が真っ白になったから。気づいたら足元にはヒドラの血溜まりができていて、帝国兵とそれを引き連れていたポンメルンは逃げてしまった。
あの時、私がグランよりも早く一目散に墜落現場に走っていれば、グランが死ぬことは無かったのに――――。
(いや――――)
いや、そもそもルリアとカタリナが脱走なんで考えないであのまま牢に繋がれて、ザンクティンゼルに来なければ――――。
「ッ!」
「ジ、ジータ? 急に頭振ってどうしたの!?」
「ヘドバンしたくなったの」
「横に頭を振るのはヘドバンじゃないんじゃ……」
私は何を考えたんだ。ルリアさえいなければ、カタリナさえ変な気を起こさなければ、そんなどす黒い感情に掻き立てられたって全部過ぎたこと。それにルリアもカタリナも悪くない。悪いのはルリアを悪用し、星晶獣を従えて全空の覇権を握ろうと野心を燃やしたエルステ帝国幹部であり、私欲のためにアーカーシャを起動して自国民を犠牲にしようとしたフリーシア宰相なのに。グランは優しかったからオーキスちゃんに感化されてフリーシアを許しちゃったけど、私はまだ許してないからね。あとポンメルンも良い人ムーブしてるけど、次会ったら八つ裂きにするって決めてるから。
でもやっぱり、感傷に浸ると「たられば」は考えちゃう。
「ねーグラン」
「な、何?」
「私時々考えるんだ。もしもルリアとカタリナが帝国に追われて私達の島に来なかったら、今頃どうしてたんだろうって」
「うーん、そうだなー……」
グランはひとしきり悩んだ後、ポンと手を叩いて一人で納得していた。
「やっぱり空に出てたと思うよ。きっかけはルリアと命のリンクを繋いだからかもしれないけど、僕は父さんからの手紙があったから島を出ようって踏ん切りが付いたんだ。最後の最後に僕の背中を押したのは、星の島から届いた父さんの手紙……遅かれ早かれ僕は空に飛び出してたよ」
「そっかー。グランは昔からきかん坊のやんちゃボーイだもんね。おまけに人から影響受けやすくて何でもかんでも流されちゃうし」
「僕はそんなこと無いと思うんだけどなぁ」
「お父さんの手紙を読んで『空に行きたい!』って息巻いたのに? 流されやすい証拠だよ」
「さ、最近は僕だって考えながら年上の人達の言うことに耳を傾けるようにしてるよ!」
「例えば?」
「ええと、イルザさんから『睡眠は大事だ』って口を酸っぱくして言われたから一緒にリラックス効果のあるお香買いに行ったし、ヘルエスさんからは『もっと体を労りなさい』って言われたから羽毛布団を一緒に選んでもらったし、シルヴァさんには『魔物によって弾の種類は選ぼう』ってアドバイスされたからクムユやククルと一緒に特性の弾を作ったり……」
「は?」
案の定、グランはアドバイスを全て聞き入れて流されまくっていた。なーにが「考えながら耳を傾けている」だ。何も考えていないではないか。
しかも彼の話に登場するのはラカムやオイゲンさんなどの身近な男性陣ではなく、なぜか途中から旅に加わった妙齢の女性で、グランに色目を使ってる女ばかり。最後はともかく歳の差を考えてほしい、歳の差を。
「ジータ……? なんか急に眼が据わったんだけど……やっぱりアレかな、自分でも思ったんだけど僕の流される癖って治ってないかな……?」
「え――――あ、う、うん。そうかなー、やっぱりグランって流されやすいから気をつけて欲しいなー。そんなんだと、子供組からも何かおねだりされたらすーぐ買い与えちゃいそうで心配だよ。何でもかんでも買い与えると教育に悪いってネネさんとアギエルバさんから聞いたし」
「べ、別にいいだろ! 大体、あれこれ僕に指摘してたけど、よくよく考えたら僕もジータもまだ子供じゃないか!」
「えっ!? 私と子供を作りたい!?(難聴)」
「え――――」
◇
「もう出ないよぉ……」
「大変だぁ! グランがジータにレ○プされちまったぁ!」(クソデカ大声)