騎空挺の恋愛事情小咄   作:宇賀神

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サラ&ボレミア編

 私の部屋に二つの吐息。一つは私で、一つは団長さん。

 

「団長さん……」

「サラ……」

 

 私達はベッドの上で向かい合い、抱きしめ合う。

 あの忌々しい島で《砂神の巫女》として崇められていた私は体のいい操り人形だった。信じていた人に裏切られ、守っていた人から忌避され、生まれて初めてこの島を滅ぼしたいと願った私を救い、砂縛から連れ出してくれた愛しい人――――。

 けれど私は入団してからしばらくの間、ボレミアやルリアに色んな迷惑をかけてしまった。当時の私は不眠症で精神が不安定だったの。初めて得られた自由が、ずっと欲しいと願っていた友達ができて舞い上がったのも束の間。もしかしたら全てが夢で、一度眠って目が覚めたら、何もかも露と消えてしまっているような気がして。

 沸き立つ不安から眠れない私を見かねた団長さんが、私を安心させるために定期的に適度なコミュニケーションを取ってくれたのが事の始まり。このハグもその延長線上で、渋い顔をしていた副団長さんも理解を示してくれた。

 

「サラ、落ちついた?」

「は、はい……。少しだけ……」

 

 団長さんとのハグの時間は何物にも代え難い至福の時間。

 私達の関係を知らない人が見たら勘違いされそうなシチュエーションだけど、悲しいことに一度もそういう関係に発展したことはないの。この団にいる騎空士さんはみんな優しい人ばかりで、わざわざケアの時間を邪魔しに来ようなんて思わない。団長さんに似て優しい人達ばかり……きっと団長さんの人柄に惹かれたんだろうなぁ。

 

(団長さん……)

 

 薄い布越しに程よく筋肉の張った胸板に顔を擦り付けて、男の人の――――団長さんの匂いをいっぱいに嗅ぐ。

 

「ハアアァァ……」

 

 鼻を抜けて頭の深いところまで団長さん一色に染まり、辛かった過去を忘れて充足感に満ち溢れる。至福の一時――――。

 ふしだらな女って思われちゃうかもしれないけど、優しい団長さんは絶対にそんなこと思わない。子供の特権として甘えられるだけ甘える。頭にかかる団長さんの吐息も、心地よく響く心音も、優しく抱擁してくれる手も、今だけは全部私の物。ボレミアも、副団長さんも、ルリアも、ジンさんも、誰も手を出せない。

 誰も手を出させない。

 私と団長さんしか許されない幸せに包まれた空間――――。

 

(団長さん……団長さんッ……♡)

 

 マナウィダンを封印した後死ねば良かったんだと自棄になった私を、世を疎んだ私を救ってくれた王子様。あの忌まわしい島から連れ出してくれた、私の、私だけの王子様――――。

 

「大丈夫だよサラ、僕はどこにも行かない。ジータだって、ボレミアさんだって、グラフォスだっている。ここがサラの帰る場所だよ」

「あ、あの……じゃあ一つだけ我が儘良いですか……?」

「ん……言ってごらん」

「もっと……もっときつく……抱きしめてください……。」

「わ、分かった……。痛かったら言ってね」

 

 団長さんは戸惑いながらもリクエスト通り私を強く抱きしめてくれた。

 

「うっ……フッ……」

 

 腰と胸が痛くなって少し息が苦しくなるけれど、凄く、凄く、すっごく幸せ――――。

 このまま続けたら腰回りに赤い跡が付いちゃうけれど、それを見る度に今日のハグを思い出せるからいいの。できた跡は団長さんの所有物になった証。絶対に私を掴んで離さない。何処にも、誰にも渡さない。私はこの人の所有物なんだって、そう思わせてくれる大切な大切な証――――。

 

「団長……さん……♡」

 

 私もきつく抱きしめ返す。団長さんの鼓動と早鐘のようになった私の鼓動が重なって互いに打ち付け合う。

 

(今日こそ……今日こそは……)

 

 気分の高まった私は常日頃から立てていた計画を実行に移すときが来た。

 私は団長さんに依存している。私は団長さんから離れられない。けど団長さんは違う。私を裏切るようなことはしないけれど、やむにやまれない事情ができて、そっちを優先しちゃうかも知れない。だから、これからは団長さんが私を離さないようにしなくっちゃ。

 ――――けどその前にやることがある。

 

「……ボレミア、良いよ」

 

 扉の向こう側に呼びかけると、申し訳なさそうにボレミアが出てきて後ろ手に扉の鍵を閉めた。実は私知ってたの、ハグする習慣が始まってからずっと羨ましそうな視線を向けていたのを。ボレミアは勘が鋭いからすぐに気づいちゃったんだね。

 

「ボ、ボレミアさん? なんでここに……ていうか何で鍵をかけたんですか?」

「……知っていたのか」

「うん。本当は一人でしたかったけど……ボレミアだけは特別だよ」

「ありがとうサラ。……済まないグラン、私ももう限界なんだ」

 

 ボレミアが、私を助け出してくれたグランに感謝してるのを知ってたし、抱いていた信用が恋慕の情に発展していったのも知っている。本当は……本ッ当は嫌だけど、ずっと私を守ってくれていたボレミアにも恩返ししてあげないと。だからボレミアだけは特別。それにボレミアがいたら楽に押し倒せそうだったし。

 

「え、二人とも何の話をしてるの?」

「グラフォス、見張りをお願いね」

「君が悪いんだ……全部、何もかも受け入れてくれる優しい君が……」

「ちょ、ちょっとサラ? なんでグラフォス出してるの……? ていうか二人とも目が据わって――――」

 

 拙いけれど精一杯ご奉仕します。私の、私達の王子様――――♡

 

 

 

 

 

 

「もう出ないよぅ……」

「な、なんてこった! グランがサラとボレミアをレ○プしちまったァ!」(ボレミアからもらった林檎を食べながら)

 

 


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