黒羽鎮守府の日常   作:ペペロンチーノ伯爵

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バレンタインとな!こういう妄想でしか貰えないぜチクショウ!!


『バレンタイン・時雨』

今日は2月13日、早朝6時の雪降る曇り空の下で潮風の冷たさに身を任せながら悠々と海面を滑る彼女は自分の背後に着いてくる妹達を気にしながら港にたどり着く。

 

「遠征大成功っぽい!」

 

「夕立は元気ねぇ…カーディガン着てても寒い…」

 

「時雨姉さんは寒くないんですか?」

 

「うーん…確かに肌寒いけど気になる程じゃ無いかな」

 

港に着いた僕は長距離遠征で集めた資材を確認しながらピンク色の可愛らしいカーディガン姿の春雨の問いに答える。

カーディガンに身を包んでもなお裾に手を隠して身震いをする村雨とバケツを抱えながら絶え間なく降り続ける雪にはしゃぐ夕立との温度差に苦笑い。

 

「うん…うん……よし、資材の数に間違いはないね。後は提督に報告したら終わりだね」

 

「おかえりなさい、遅くなって悪かったわ」

 

不意に掛けられた声に振り向くとそこには防寒具に身の丈に合わない長さの黒いマフラーを大事そうに首に巻いているだけで後はいつも通りの改二乙で新調された制服を着こなしている霞の姿があった、表情は余り変わらずきつめだけど長い付き合いで分かる。

どうやら珍しく上機嫌なようだ。

 

「遠征お疲れ様。クズ司令官には私から言っておくから補給したら休んで良いわよ、資材は妖精さん達に運んでもらうから」

 

「ありがとう、霞も秘書艦の仕事お疲れ様。それよりもそのマフラーはどうしたんだい?」

 

「こ、これは朝潮が今朝くれてー」

 

「それ、提督さんの匂いがするっぽい!」

 

「んな……!?」

 

図星かぁ…やっぱりそうだよね、提督は優しいから。

それに、僕にも分かったから、提督の匂い。

 

「しかもそれ手編みよね?」

 

「む、村雨?あんたまでなに言ってるのよ!」

 

「ふふ、霞ちゃんマフラー巻いてる時嬉しそうですね」

 

「はぁ!?そんなわけ…!」

 

「隠さなくてもいいよ、でもとりあえず僕はこれで失礼するね」

 

顔を真っ赤にして荒ぶる霞と妹達を置いて駆逐寮の中にもどり、艤装を取り外して白露型の専属の技巧妖精達に受け渡す。

 

「補給と整備、よろしくね」

 

アイアイサー!

 

「さて……」

 

ベッドの枕元に置いてある水色のスマートフォンをとって時間を確認する。

 

「……僕も急がないと出遅れちゃうな」

 

姿見で容姿の乱れを確認し、ちょこっと微笑んでから冷蔵庫の中に入れておいた紙袋を手に部屋を出る。

 

 

食堂

ー『調理場』ー

 

 

「遠征帰りとはいえ…みんな早いね…」

 

甘く蕩けるような匂いに包まれた食堂を抜けて匂いがさらに深まる調理場の前に立って『提督立ち入り禁止!!』の張り紙を見ながら暖簾をくぐって引き戸を開ける。

 

「お?遠征帰りか時雨の姉貴」

 

「江風……今年は作るんだね」

 

「そうなんですよ、江風ったら今年は作りたいって」

 

「い、いいだろ別に!提督にあんなお返し貰っちまったら作らねぇわけにはいかないしな!」

 

「江風……少し、うるさい」

 

頬にチョコを付けながら慣れない手つきでチョコを混ぜる江風とそれを楽しそうに見守る海風、そして静かに様々なチョコを作って試行錯誤する山風、そんな情景に微笑ましく感じながら空いてる台所を探して歩き回る。

調理場は完全にバレンタイン色に染まっており、明日に備えて全ての艦娘がチョコを用意している。

自作の梱包でチョコを作る者、腕に自身が無くて間宮さんや伊良湖さん、そして姉妹達に手取り足取り教えてもらう者。

ここ最近は毎年チョコをもらうせいか提督はこの時期になると苦笑いしかしてないような気もする。

 

(でも……渡さない訳にはいかないよね)

「空いてる台所は……あった」

 

間宮さんと伊良湖さん達の粋な計らいでバレンタインの一週間前にはお菓子作り用の調理器具が完全完備してあるのだ。

ひとまず紙袋を台所の上に置き、その中から白地のエプロンを取り出して装着、見た目が悪くないか若干の心配をしつつも材料を広げる。

 

「溶かすチョコはさすがに市販だけど…提督、喜んでくれるよね」

 

台所に手を付き、一呼吸入れてからキリッと目を見開いてチョコ作りを始める。

 

 

工廠

ー『改修区間』ー

 

 

「はぁ……」

 

最近なぜだか無意識の溜め息が止まらない、この時期になると明らかに頻度が増えてる気もしてきた。

 

「最近ひどいですね溜め息、どうしたんですか?」

 

工廠の改修区間で明石に装備の改修を頼みに来ていた深創はその様子を見られた明石に苦笑いを浮かべ、また溜め息。

 

「いやな……もうバレンタイン禁止令でも発令しようかと真面目に考えてるんだ」

 

「そんなことしたらこの鎮守府の艦娘はみんな自殺しますよ?」

 

「………はぁ」

 

反応する気も失せてきた。

はっきり言ってこのバレンタインデーとかいう日が苦痛になってきた自分がいる。

もちろん彼女たちから贈り物のされるのが嫌なわけじゃ無い、そしてそれをホワイトデーで返すのも別に苦じゃない。

なら何が苦痛か?答えは単純明快でその『量』と『大きさ』だ。

駆逐艦の子達は控えめで小さいからまだ助かるんだうん、だが問題は他だ、特に戦艦(お前のことだ金剛)はかなり厳しい、サイズが大きいにプラス数が多い。

何というかあそこまで来るともはや悪意を感じる、俺を糖尿病で暗殺しようとしているかのようにだ。

 

(まぁ…そんな訳ないんだが)

「まさかとは思うが……明石お前も…」

 

「はい!チョコの準備はバッチリです」

 

「oh……まぁ、仕方ないか」

 

こうなったら他の提督達にも協力して食べてもらうか?いやそんなことしてバレたら一巻の終わりだな。

 

(やっぱり自分で食べるしかないか……)

 

深創は最後に一つ大きな溜め息をついた。

 

 

~pm15:40~

駆逐艦寮

ー『白露型・共同部屋』ー

 

 

「……こんなもの…かな?」

 

梱包された綺麗な渡す用のチョコを見ながら試食用のチョコを一口食べる。

市販の物より少し苦味が強いブラックチョコに仕上げた理由は一つ。

 

「提督はこれくらいの采配が好みだからね、多少苦い方が喜んでくれる……よね?」

(やっぱり少し不安かな……そういえばまだ提督の姿を見てないや)

 

そう思った時には既に時雨の身体は自動的に駆逐艦寮を出て執務室まで足が勝手に向かっている。

艦娘達は皆チョコ作りに忙しいのか普段は賑やかな渡り廊下を歩いても誰一人としてすれ違わない、そして執務室の前に立つ頃には別の不安が出て来ていた。

 

(いきなり来ちゃったけど今忙しくないかな……迷惑になると悪いし…でも)

 

そうこう思いながらも右手でドアをノックしようとしたその瞬間。

 

『ほんっとにクズね!!絶対こっちの方が良いに決まってるでしょうが!』

 

「……?」

 

『いや、ここは坊ノ岬に備えて10㎝高角砲+高射装置の改修をして対空を強化した方が良いと思うが』

 

『そんなことよりも46㎝三連装改を増やすのが先決でしょ!主力を強化するのは当たり前の事なのよこのクズ司令官!分かったかしら!?』

 

ああ……なるほど。

霞が秘書艦になると執務室はいつもこれだ、提督は霞の罵詈雑言を受けながらも決して言い返すような事はせず的確に意見を述べる。

 

『納得出来ないな、大和の火力は今でも十分強力だ。一人を集中的に強化するより随伴艦のお前達をバランスよく強化した方が攻略も安定し、時間を掛けて作戦を組みやすい。違うか?』

 

『時間を掛けて消耗していくくらいなら一度の作戦で一気に前線を突破した方が良いのよ!多少は無理してでもー』

 

『まて霞』

 

『なによ!話を変えようったってそうはいかないわよ!』

 

『時雨だな?入れ』

 

うんまぁ分かるよね…

 

「よく分かったね…」

 

「こっちに歩いてきていたろ?音で分かる、なんのようだ」

 

うーん……提督の横で明らかにイライラしてる霞になんだが申し訳ないような気もするけど…今日はまだ補充してないから仕方ないね。

 

「提督、僕ね、今日の遠征頑張ったんだ」

 

そう、この一言で良い、そうすれば提督はやってくれる。

ほら、机から立ってこっちに来てくれるんだ。

視界を落とし、近寄ってくる足音に意識を集中させる。

深創の足音が一歩近付く度に時雨の癖っ毛が徐々にそそり立ってくる。

そして彼の手が時雨の頭に触れる、これだけでどれだけの満足感があるのか?それは言葉に表すには余りにも不十分だ、この幸福感を手放す訳にはいかない。

だからこそ、明日はその感謝を伝えるのだ。

 

「ありがとう、補充完了だね」

 

「補充……?」

 

「いきなりごめんね霞」

 

「……ふん!」

 

「それじゃあ僕は行くね」

 

なるべく素早く執務室を出て背を向けて歩いていると。

 

『このクズ!!』

 

『おま……蹴るんじゃ無い、暴力はやめろ』

 

『うるさいクズ!クズ司令官!』

 

『急にどうした……おい物にあたるな。何があった?』

 

「ふふ、霞らしいね」

 

さて、明日に備えようか。

 

 

2月14日・バレンタイン当日

 

「結構朝早く来ちゃったけど大丈夫かな?」

 

なるべく早く渡したい気持ちが優先して現在の時刻は早朝の6時30分、僕達の一番艦は日付が変わった瞬間に行ったら早すぎると怒られたらしい。

チョコを片手に執務室の前でどうしようか迷っていると中から声が掛かった。

 

『そんなところに立ってると冷えるぞ、大して変わらないがとりあえず入ってこい』

 

「う、うん。失礼するね」

 

執務室に入ると、執務机で物静かに万年筆を滑らせている提督の姿、そしてその隣にもう既に山積みのチョコ。

心なしか提督の顔が窶れているように見える。

 

「毎年思うけど相変わらず凄い量だね…」

 

「ああ……これでもかなり胃に詰め込んだんだ…しばらくは冷蔵庫行きだ、ゆっくり食べる事にするよ。それで?何のようで来たんだ?出撃ならないぞ」

 

「えっと……これなんだけどね」

 

そう言って僕は背中に隠していた小さいチョコの梱包を提督に見せる。

 

「……………………………………………………………………うん、ありがとう時雨」

 

「やっぱり迷惑……なのかな?」

 

「いや違う、お前達からもらうのが迷惑なんじゃ無いんだ。これの消費に困ってるだけだから心配するな」

 

「うーん……いまはどう?」

 

「……なにがだ?」

 

「お腹の調子」

 

「まぁ……少しくらいなら」

 

「それじゃあさ」

 

書き終えた書類を片付ける提督の前にチョコの箱を置いて開けてみせる。

 

「ほう……ブラックチョコか」

 

「うん、六角形のチョコを作ってみたんだ、一口サイズを四つ。一緒に食べよう?」

 

「一緒にか……そうしよう」

 

早速目の前のチョコに手を伸ばす提督の手を抑えて余所にはけた。

 

「……なんだ?」

 

「提督は休んでてよ、僕が食べさせてあげるよ」

 

苦味強く仕上げた小さいチョコを摘まんで提督の口元まで持ってくる。

執務机越しだからちょっと前のめりに乗り上げながら。

 

「ほら提督、あーん」

 

「…………ん」

 

口内に入っていくチョコと一緒にわざと右手の人差し指も舌の上に入れてから手を引く。

 

「……どうかな?」

 

「うむ……俺好みだ、この主張の強い苦味が良い」

 

「ふふ、よかったよ」

 

僕も一つチョコを右手で摘まんで指の先端と一緒に口の中に入れる。

 

(これで関節キスだね提督)

「うん……美味しい」

 

「だろうな」

 

「ねぇ提督」

 

「なんだ?」

 

「チョコ……もらえて嬉しい?」

 

「そうだな……これからそれを消費することを考えなければ嬉しい」

 

そんな言葉にクスリと笑いながら僕は提督を見つめ、また一つ幸せが生まれた。

 

こんな生活が。

 

こんな風景が。

 

こんな幸せが。

 

いつまでも続いて欲しいと祈る。

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