黒羽鎮守府の日常   作:ペペロンチーノ伯爵

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リクエストありがとうございます!さぁさぁ期間中に完成させたいですな!!


『黒羽鎮守府秋刀魚祭り!!開店!!』

2018年10月5日(金曜日)

~pm16:00~

東京

ー『秋刀魚祭り旗艦店』ー

 

 

店の中は艦娘達の声と厨房の焼き物音で一杯になっていた、だがその騒がしさを一瞬でまとめて仕切るような曙の大声が彼女達の士気を更に高め、高揚させる。

 

「開店まであと一時間よ!!あんたら気を引き締めなさい!!」

 

『ハイ!!!オー!!』

 

この大本営が企画した民衆と艦娘との親睦や理解を深める為のイベントはあらゆる鎮守府で行う合同作戦であり、その初陣を切る大事な役割を黒羽鎮守府の提督である深創が受け持っていた。

 

 

~鎮守府秋刀魚祭り開催より1ヶ月前~

pm22:00

ー『艦隊指令部・鎮守府指揮官会議』ー

 

 

「完全予約制の鎮守府秋刀魚祭り……?」

 

深創は首を傾げながら総司令官の座に座る文輝を見つめる。

 

「そうだ、俺が考えたものなんだがこの祭りは瑞雲祭りと同様で艦隊の士気向上だけでなく一般市民との親好を深める目的もあるんだ」

 

文輝は入念に用意していた計画表を広げてその概要、全貌を説明する。

一通り説明し終わると、深創を除く9人の戦績トップクラスの猛者達がざわめき始めた。

 

「総司令官、その祭りの初陣を切る鎮守府を決めるとの事ですが、初陣は一般の店員に任せた方がいいのではないでしょうか?」

 

一人の猛者が手を上げながら文輝に質問する。

 

「なぜそう思う?」

 

「まだ大半の民衆は艦娘に対して不信感を持っているのは事実ですし、いきなり艦娘と接するのは如何なものかと……」

 

「確かに、私の鎮守府も歴戦を潜り抜けて来たとは言え敵と戦うのとは訳が違います、ここは一般店員がメインとなり艦娘はサブで動かせるのが妥当かと」

 

「ふむ、なるほどな。確かに一理あるがそれらの提案は却下する」

 

「な、何故ですか?」

 

「今回のイベントは全て艦娘とそれを率いる提督の皆に任せる、その初陣を切る者はいないのか!?」

 

『……………………』

 

文輝の一喝に円卓は静まり返り、それと同時に文輝と向かい合う席に座っていた一人の猛者……いや伝説が手を上げた。

 

「仕方ない、俺がやろう」

 

「深創殿……」

 

「深創、いいのか?」

 

「ああ、さっき彼が言っていたとうり、まだ市民の大半は艦娘に不信を抱いている、それはつまり艦娘がサブで動いていた瑞雲祭りの効果が薄いということだ」

 

深創は円卓上にある文輝の計画表を指差して淡々と話続ける。

 

「それに、今回の祭りは東京の有名な親しみのある飲食店、よみうりランドと違って遊園地という敷居の高さがない、ならばここで一つ大きく出るべきだと思うからな、その始まりの綱を切り、次の者に渡す役目は俺たち黒羽鎮守府に任せてもらおうか」

 

そこからは順調だった、初陣が決まったあとは次々と各店舗を担当する鎮守府が名乗り上げ、会議は終了した。

鎮守府に戻ってきた深創はさっそく1ヶ月後の秋刀魚祭りに向けての計画を考えて始める。

 

「…………というわけでその旗艦店の副リーダーを満潮と霞に任せた。そして重要な秋刀魚祭りのリーダーを曙に任せたい」

 

「なにが『というわけ』よ!なんで私がクソ提督の為にそんな役割を負わなきゃならないわけ!?」

 

第七駆逐隊の部屋で怒鳴る曙を見つめながら深創は落ち着き払った様子で一言だけ言い放った。

 

「そもそも、なんで私なのよ!リーダー格なら他にいくらでも適任な艦娘がー」

 

「お前がいいんだ」

 

「いるー……え?」

 

「そんな細かい理由なんて無い、これは俺の『個人的感情』でお願いしてる。俺はお前にやって欲しいんだ曙」

 

「…………ふぇ!?」

 

その瞬間、曙の顔がボンと真っ赤に爆発した。

 

(こ、個人的な感情で私に……お、お願いしてるぅ!?つまりクソ提督は本気で私にしてほしいって思ってくれてるのよね……!?)

 

「だが今言ったとうりこれは俺の個人的な私情が大半だ、お前がどうしてもやりたくないと言うならもちろん無理強いはしない、断ってくれてもー」

 

「やるわ」

 

「……ん?」

 

「だからやるっていってんのよ!!リーダー、仕方ないから私がやってあげるわよ!」

 

「そうか、ありがとう曙、感謝してるよ」

 

「フン!!」

 

 

2018年10月5日

~pm16:50~

東京

ー『秋刀魚祭り旗艦店』ー

 

 

「そろそろよ!こら漣!!摘まみ食いしない!」

 

サーセン!!

 

(クソ提督も後から来るって言ってたからもっとしっかりしないと……褒めてもらえる…かな)

 

するとそこで割烹着を羽織ったサンマTシャツ姿の副リーダーの霞が声を掛けて来た。

 

「曙、なにニヤけてんのよ」

 

「べ、別にニヤけてないわよ!」

 

「ほら!霞、曙!開店するわよ!!」

 

満潮は接客の間宮と伊良湖に声を掛けてお客の誘導をお願いし、自分も接客に混じって一瞬で満席を締めるお客様の群れを誘導する。

霞は厨房に入ってコース料理を再確認、テキパキと調理に入る。

曙は厨房と外を行き来して全体を把握し状況が崩れる前に遅れを全て回収して取り戻す。

 

(それでもやっぱり厳しいわね、なるべく出来立てを提供しようとしたのが下手に出たか……よし!)

 

旗艦店の構造は三階建ての狭い区間で、注文状況を把握するのは簡単だが、料理の提供スピードが追い付かないのだ。

それは一階の厨房の圧倒的狭さに比例しており、元々は飲み屋としての店をこのイベントで使用させてもらっているために一瞬で満席する事例を想定した構造ではない。

曙はお客や艦娘との鉢合わせに気を付けながら階段を駆け降り、一階の厨房に入って秋刀魚と揚げ物の調理を両立させる霞の横に立ち、手が足りていないお刺身の用意を手伝う。

 

「助かるわ曙!」

 

「お礼はいいからさっさと作りなさい!この後も休憩出来ると思ったら大間違いよ!」

 

初日であるが為に遅れは確実に出ていた、予約制でこの遅れは甚大なダメージとなり得る。

だが……。

 

「そこのお姉ちゃん!この泡盛時雨ブラックをお願い!」

 

「ほいさっさー!」

 

「秋刀魚カレー……斬新だがうまい!もう一品追加で頼もうかな!」

 

「はいはいーい、村雨に任せて♪」

 

「こうなりゃ連合艦隊盛りを貰おうかな!刺身をお願いね!」

 

「はい!榛名で良ければご注文をお受けさせて頂きますね!」

 

そんな遅れなど全く気にしないほど店内の評判は頂点だった、そして小雨降る店の外で並ぶ列でもその評判は落ちない。

 

「現在店内では遅れが生じております!もうしばらくお待ち下さい!申し訳ありません!」

 

「ごめんなさい!!もうちょっとだけ待って下さい!!」

 

翔鶴と瑞鶴は例の先頭から最後尾まで小雨に晒されながら深々と頭を下げて行く。

 

「いいよいいよ!それよりも早く屋根の在るところに行きな、あんたら見たいなかわいこちゃんが雨に濡れるのは気分が悪いからな!ハハハ!」

 

「いくらでも待つから、その時は旨いもんたのむよ?」

 

「あ、ありがとうございます……!!」

 

「本っ当にありがとうございます!」

 

だが真に外で活躍しているのは彼女達、第六駆逐隊の子達である。

 

「二列で並んで下さいなのです!!」

 

「ここでいいのかな?」

 

「そうよ!はい!傘持ってないでしょ、あげるわ!」

 

「小さいのに偉いねぇ……こんな子達が俺達を守ってくれてるなんてなぁ……」

 

「当然よ!なんたって艦娘は皆立派なレディーなんだから!」

 

「ハハハ!良い子じゃないか!飴ちゃんを上げよう!」

 

「ホント!?ありがとう!!」

 

「レディー……ふふ、ハラショー」

 

お客はもちろんの事、忙しなく働く艦娘達も楽しんでいた、確かにお店の営業としては遅れているだろう、だが今回の目的はほとんどの大成功に近い状態で終わるであろう。

だがそれもこれも全て一人の想い人を快く迎える為だった。

 

 

~pm11:30~

ー『スリガオ海峡・離島』ー

 

 

「ッ……はぁ…ふぅ……」

 

その時、深創は無人島に上陸して施設を作ろうとしていた陸上型深海悽艦を壊滅させたところだった。

暴力的に吹き荒れる豪雨に晒されながら陸上姫の死体から仕込み刀を引き抜き、鞘に納めると同時に膝から崩れ落ちる。

 

「やはり……まともに相手にするのは危険だな…」

 

膝を着く深創の回りには陸上姫の他にも随伴として着いてきていた他すべての陸上深海悽艦が転がっており、全て深創が斬り倒した者達だ。

 

「仕込み刀の弾が切れてからは泥仕合だったな…」

(コイツらの生命力はバカにならない…圧倒的な破壊力でなければ致命傷にはならないからな……)

 

仕込み刀の弾(炸裂式徹甲弾)が切れてからは深海悽艦の攻撃を躱しながら滅多斬りにしてなんとか全滅させていた。

 

「腕や足が何回か弾け飛んだが何とかなったな……」

(さて…………次だ、行くか…)

 

 

~am04:37~

東京

ー『鎮守府秋刀魚祭り・旗艦店』ー

 

 

「だー!!終わったぁぁぁぁあ!!」

 

「白露…そうだね、ちょっと疲れたかな…」

 

「ほぅ……ほんっと疲れたわ……」

 

初日の秋刀魚祭りの結果は欠点は余りあるものの結果としては一先ず成功と言える、この成功を喜ぶ者、見つかった山のような欠点や失敗を悔やむ者、様々だ。

もうお客の受け入れは終了し、大体の後片付けも終わった。

店の外で活躍してくれた五航戦や第六駆逐隊も店の中に入ってその疲労を休めている。

だが何よりも皆が心の底で気掛かりな事、それだけは一致していた。

 

『……来ない…………』

 

もう夜明けだというのに一度も提督の姿を見ていない、と言うのも、提督は『もし俺が来たときは普通の一般客として扱え、少しでも特別感や堅苦しさを感じたら帰る』と言っていたのだが肝心の本人が来ていない。

店の一つしかない入り口を見ながら曙は考える。

 

(もしかして変装…?いや、それなら犬コロの時雨や夕立が匂いで気付ける、例えそれを誤魔化せても、雪風や時津風が感覚で分かる……やっぱり、来ないのかな……)

 

そう思って二階に上がったその時だった。

自分の背後で横開きの木枠ドアが音を立てて開いていく音が聞こえる。

そしてその音は店内に入っていた全ての艦娘の意識を向けさせた。

 

「……………………」

 

彼女達の視線の先には、真っ黒な防水性の羽織物を身に付け、黒色のトレンチコートを着こなし深々と被ったフードの下に見える妖弧の面を着けた男が立っていた。

 

「……………………」

 

「ッ……いらっしゃいませー!ドーゾこちらに!!」

 

その時、固まった空間を突き破った漣がその男の前にたって『いつもどうり』の接客を始める。

 

(そ、そうだ。一般客として扱わないと帰っちゃうんだった!)

 

曙は二階に駆け上がり、今すぐにでも下に降りたい艦娘達を引き留めて清掃を再開させる。

もうみんな気付いている、提督が来ていることに、だからこそいつもどうりにしていなければならないのだ、絶対に。

 

「おしぼりです、お品書きもどうぞ!」

 

「……………………」

 

「コースは二式膳改ですよね、ドリンクをお選び下さいな」

 

漣は他の艦娘がまともに動けるまで自分一人でなんとか提督をリードしていた。

提督は店内に貼ってある装飾を見渡しながら一階のカウンター席に座って漣から受け取ったおしぼりで軽く手を拭き、お品書きを広げて無言のまま人差し指を滑らせる。

 

「ドリンクは『ネルソンタッチなラム酒』のロックですね!コース料理はこれからになりますが追加注文はありますか?」

(や……やっべぇ…ご主人様だと実感してから漣の甘えたい欲望が膨れ上がって来た……我慢、がまんだぞよ漣ちゃん)

 

「……………………」

 

「ふむふむ『秋刀魚・提食』ですな!ほいさっさー!」

 

そこでやっとリーダーの三人が動く、霞は音速で調理を開始し、満潮はお酒の用意、曙は提督の目の前で串物を焼き始め揚げ始める。

普通に考えてまともに動けるハズがない、だがそれは疲労ではない、黒羽鎮守府の艦娘ならあと一人程度なら難なくこなせるだろう、だが今日は朝方の店準備から丸一日提督の姿を見てなければ声も聞いていないのだ。

つまり、彼女達が動けないのは提督に甘えたい、今すぐにでも褒めてもらいたい衝動を抑えているためである。

そして漣が満潮から受け取ったラム酒を提督の前に置いたその時、提督は左手でお面を外した。

 

「ふむ、まぁ……いいんじゃないか?」

 

「ッッ……!!!」

 

「よくこんな時間まで頑張ったな、状況はイェソドから聞いてるよ、俺の勝手な請け負いに付き合ってくれてありがとう、すまなかったな」

 

お面を外し、皆の苦労を労おうと口を開く優しい声と顔は彼女達の張り詰めた疲れをさらに解放した。

 

「…………んがー!!ご主人様ぁぁぉぁあ!!」

 

「おいおい……勘弁してくれ」

 

「しれぇー!雪風、とっても頑張ったんですよ!」

 

「司令!時津風も!時津風も!」

 

「そうかそうか、頑張ったか、よくやったぞ二人とも」

 

「…………むぅ」

 

「……ぽぃぃ……」

 

「ん……時雨、夕立…ありがとうな、おいで」

 

「ッ……うん!!」

 

「ぽい!!」

 

そのあとはなし崩れになっていた、提督に甘える者、泣き出す者、最後まで提督に尽くす者それぞれだ。

 

「それにしても司令、ちょっと来るの遅かったんじゃないの?」

 

「そうだな朝雲、本当はもう少し早く来る予定だったんだが……少し立て込んでてな」

 

「そうなんだ……」

 

「だが今回の結果には文輝も十分に満足していたからな、なにも言うことはあるまい」

 

そう言って深創は箸で曙が焼いてくれた秋刀魚の塩焼きの身をほぐしてじっくり味わう。

 

「……旨いな、こいつはうまいぞ……」

 

「ッ!当然でしょ!なんてったってこの私が焼いたんだから!美味しくないわけがないわよ!」

(えへへ……いま、美味しいって……えへへ…………)

 

さらに深創はドヤ顔の曙をこっちに来るように手招きする。

 

「……なによ?」

 

「ん、ほら、お前も食え。うまいぞ」

 

「んむ!?!?」

 

『な…なにぃぃぃぃぃぃィィィイ!?!?』

 

深創は顔を近付けてきた曙の口に秋刀魚の身をあーん方式で食わせてやる。

もちろん不味いわけがない、とても美味だ、だが曙はそれどころではなかった。

 

「ッ~~~~!!!」

(た……食べさせてもらっちゃった…しかも間接キスだし……!?)

 

「だ、駄目だよ提督!僕も!!」

 

「は?」

 

「提督さん!夕立もあーん!!」

 

「ん?」

 

「しれぇ!!雪風も食べたいです!」

 

「落ち着け、お前達は自分で食べればいいじゃないか」

 

そこである意味で怒り心頭の二人の副リーダーが口を挟んできた。

 

「そんなの曙だって一緒でしょ!?」

 

「なに!?差別してるの!?」

 

「おいまってくれ…そんなつもりじゃない。曙は無茶をしているようだぞ」

 

「え…?」

 

「そ、そんなわけないわよ!あたしはまだまだー」

 

「左腕、痛いのだろう?」

 

「ッ……!?」

 

深創は曙の左腕を掴んで優しく撫でる。

曙は常に左腕にうちわを持って秋刀魚を扇ぎ、汗を掻きながら配膳や調理をする艦娘を扇いでいたため筋肉が痙攣して激しい激痛を伴っていたのだ。

軍手を取れば硬い布で擦れて出来た赤く痛々しい縄跡や青紫色に腫れ上がった手首が見える。

 

「ボノ……」

 

「曙ちゃんずっと動いてたからね……」

 

「…………こんなの別にー」

 

「曙………」

 

「……?」

 

「本当にすまない、俺のわがままでお前を……お前達に無理をさせてしまったな。これは俺の落ち度だ、本当にすまなかった、頭が上がらない」

 

そう言って席を立った深創は己の部下達に深々と頭を下げて謝罪する。

艦娘達が慌てて頭を上げるようにせがんだのは言うまでもない。

皆が店内で眠ってからしばらくリーダーの三人だけで飲み食いしてると、深創は腕時計を確認して急に仕込み刀を手にとって立ち上がった。

 

「さて、じゃあそろそろ引き継ぎをして帰ろう」

 

「そうね、さっさと帰りたいわ」

 

「ん、じゃあ皆を起こしてくるわね」

 

「なら私はお皿を洗ってくる」

 

「俺も皿洗い手伝おうか曙」

 

「別に………じゃあお願い」

 

「ああ…やろうか」

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