ゆきと美紀の件があった次の日、学園生活部の部室にて全員集まっていた。各々のやることをしているため話し声は聞こえない。
すると、本を読んでいたゆきが隣に座っている美紀の肩を肘で小突く
それに気づいた美紀は頷いた。
「ちょっといいですか?」
美紀は手を挙げて全員に話を振る。
「あら、どうしたの?」
りーさんは家計簿を使っている作業をやめて美紀に問いかける。
くるみもシャベルの手入れを止めて美紀の方を向く。
「学園生活部に正式に入部したいと思います」
「へー」
「え?」
「いけませんか?」
「もちろん歓迎よ」
「よかったねみーくん」
りーさんは美紀の入部を歓迎した。
ゆきは美紀の背中にポンッと手を当てる。
「みーくんじゃありません」
「なんかあったのか?」
くるみは美紀の心変わりに興味を持ち、心境の変化の理由を問いかける。
「内緒です」「内緒だもん」
二人は息ぴったりに内緒だと答える。
「ねー」
ゆきは美紀の方を向いて笑顔で言った。
美紀もどこか嬉しそうだった。
「言ったろ。心配ないってさ」
くるみはりーさんにそう呟くと、りーさんはため息をして
「…いいけどね」
納得はしていたがどこか後味が悪そうな顔をしていた。
「あ、そろそろ昼休み終わるじゃん」
ゆきは時計を見て午後の授業が始まってしまうと慌てて椅子から立ち上がる。
「おう、先行っててくれ」
「うん。じゃまた放課後ね」
「またね」
ゆきはパタンと扉を閉じ、部室を後にした。
「それで、どういう風の吹き回しなの?」
りーさんは少し間をあけて美紀に理由を問いかける。
「どうってほどじゃありません。ゆき先輩と話して納得しただけです」
「納得って?」
「あの人も頑張ってました」
「…そうよね」
りーさんは美紀の話す心変わりの理由に納得する。
「あの人はあのままでいいって、そう思えたんです」
「人にやる気を出させるってのも才能だと思うぜ」
「癒し系ですか。わんこみたいな…」
美紀は首を傾げながら考える。
「そこまで言ってないけどな」
「わんこ……」
りーさんはぼそっと美紀の言ったことを言った。
「…ゆき先輩ってちょっと犬みたいですよね」
美紀は咳払いをして再び言った。
今度は[わんこ]ではなく[犬]と言った。
しかも犬の部分を強調して。
「わんこ」
りーさんはくすっと笑いながら言った。
美紀はむっと頬を張り、
「わんこかわいいじゃないですか。悠里先輩は…」
「りーさんでいいわよ」
「りーさんは嫌いですか、わんこ?」
美紀はむすーっとしながらりーさんに問いかける。
「そうね……好きだけど」
「ゆきの前では言わないほうがいいかもな」
「何かあったんですか?」
くるみの言葉を疑問に思い、理由を問いかける美紀。
「犬も感染するの。鳥は違うみたいだけど哺乳類はまずいみたいね」
「あ……」
りーさんの言ったことに大体のことを察した美紀。
「ゆきちゃんが…昔、連れてきてね……」
「迷い犬だったよ。どこから来たんだろうなぁあいつは」
学園生活部が始まってしばらくした頃、ゆきが部室の扉を開けて入ってきた。
ゆきはどこから拾ってきたのかは分からないが子犬を両手で抱き抱えていた
「ね、この子飼お?飼っていいでしょ」
ゆきは部室にいる全員に問いかけた。
子犬は尻尾を振っている。
「おいっその犬どっから!」
一番最初に反応したのはくるみだった。
くるみは椅子から勢いよく立ち上がり、ゆきに近づく。
ゆきはなにかされるんじゃないかと思い子犬をくるみから遠ざける。
「丈槍さん、ちょっと見せて」
その様子を見ていためぐねぇが椅子から立ち上がり、ゆきに子犬を見せるように言う。
「めぐねぇいじめない?」
「ええ。ふーん…そうねえ」
めぐねぇはゆきから子犬を受け取る。
子犬の口元を抑えて体を確認する
めぐねぇの後ろにはシャベルを構えるくるみ。
めぐねぇは子犬の首元をみる。
そこには、噛み傷のような跡が着いていた。
噛み傷の近くには首輪の跡のようなものもあった
「この子、飼い犬ね。首輪の跡があるわ」
めぐねぇはゆきに噛み傷ではなく首輪の跡があることを伝えた。
「……ってことは……」
「飼い主がいるわね」
「なーんだ」
ゆきはがっくりと肩を落とす
「飼い主が見つかるまで……ダメ?」
「……そうね、いいけど」
「やった!」
めぐねぇはゆきに飼い主が見つかるまで学校に犬を預けるのを許可した。
「じゃ、おまえの名前は…」
「だめよ。飼い犬なんだから勝手に名前つけたら」
「そっか……」
子犬に名前を付けようとするゆきを止めるめぐねぇ。
「じゃあこの子は先生が預かります」
「ずーるーいーよー」
「手続きがいるのよ」
「頭撫でていい?」
ゆきはめぐねぇに子犬の頭を撫でていいかを問いかける。
めぐねぇの後ろで不安に思う三人
「いいわよ、優しくね」
めぐねぇに許可をもらいそっと手を近づけるゆき。
その様子を見て息を呑む三人
ゆきの手が子犬の頭をそっと撫でる。
子犬はそれが嬉しかったのかわんっと吠えた。
特に何も起こらなかったことに一安心する三人
くるみはシャベルを降ろす。
あれから数日、めぐねぇは空き教室である作業を行っていた。
プリントの様なものの一部の文字をペンで塗りつぶす。
すると教室の奥の音に反応するめぐねぇ
その先には、鎖で繋がれた子犬がギシギシと鎖を噛み砕こうとしている。
その姿は数日前とは異なり、とても凶暴になっていた。
噛み傷から体にウイルスが満映して感染してしまったようだ
「無理だったか…ごめんね、ゆきさん」
「え、もう?」
「ええ、昨日の晩飼い主が来て」
「そうなんだ…」
子犬の飼い主が引き取りに来たとゆきに伝えるめぐねぇ
ゆきはどこか寂しそうだった。
「太郎丸、元気でいろよー」
「……なんだそりゃ」
「わたしがつけた名前!もういないから言ってもいいよね?ね?」
ゆきは子犬につけた名前を今なら言ってもいいかとめぐねぇに問いかける。
「……いい名前ね」
「うん!」
「それでその犬、どうしたんですか?」
ここまでの話をきいて疑問に思ったことを問いかける美紀。
「めぐねぇが遠くに捨ててきたって言ってた」
「…仕方ないですね」
「それで…終わりだったら良かったんだけど…ね」
しおりはまだ続きがあるような話し方で言った。
「まだ、あるんですか?」
あれから更に数日たった頃、学園生活部の面々は朝食をたべていた。
するとゆきが立ち上がり、
「ねぇ、なんか音しない?」
「聞こえないぞ」
「静かに…ほら」
ゆき以外の四人は言われた通りに静かにする。
すると扉の奥からカリカリと音が聞こえた
「ね?」
「ちょっと見てくる」
「何かな?」
「なんだろね」
くるみは扉を少し開ける。
そこに居たのは数日前よりも感染が進んでいた子犬がいた。
その子犬の辺りには血溜まりがあった。
その姿を見て硬直するくるみ。
その後ろから悲しそうな顔をして子犬を見つめるめぐねぇ
「帰ってきたんですね」
「帰巣本能…ってのも違うな。とにかく戻ってきたんだ」
「心が、あるってことですか」
するとくるみは美紀の言葉を否定するように言った
「いや、ただの記憶だろ」
「思い出だけが残ってて、気になるところに戻ってくるのよ」
「わかるんですか?」
「なんとなくね。この学校にこれだけ学生がいるのもそういうことなんじゃないかな」
「気になる場所、ですか」
美紀は暫し黙り込む。
するとふと思ったことを問いかける
「そういえば私を連れてきた時怖くありませんでした?」
「正直警戒はしたな。ゆきもおまえもヤバそうだったし」
「手錠だけ、つけさせてもらったわ」
「…私たちが……ああなったら始末してました?」
美紀は沈黙しながらも恐る恐る問いかける。
「わからないな」
「私ね、悩んだ時はめぐねぇならどうするかなって思うの」
「はい」
「でも、めぐねぇでもどうするかは分からないわ。その時になってみないとね」
「そうですか。そうですよね……めぐねぇって方会ってみたかったですね」
美紀はめぐねぇがどんな人なのかを知らない。
なので会ってみたかったと呟くと同時にどんな人だったのかを想像する。
「そうね。きっと喜んだと思うわ…」
それからしばらく経った頃、美紀は部室にある書類棚。
美紀はそれを開け、何冊かの冊子を手に取る。
「これかな?」
冊子をパラパラとめくる。
そして気になった冊子を四冊机におく。
「めぐねぇは先のことはどう考えてたんでしょうか?」
「あの頃はみんないっぱいいっぱいだったからなぁ」
くるみはぼーっと昔のことを思い出しながら言う。
「ノートに書いてあるかも」
「ノート、見ないんですか?」
りーさんはノートの存在自体は知っていたらしい。
しかし中身までは知らなかった。
「見ようと思ったんだけど…なんとなく、ね」
「あぁ……そうですか。私が見ても?」
「お願いするわ」
「頼むよ」
美紀は数時間前の会話を思い出しながら、一冊ずつ確認していく。
すると一冊の本に目がいく。
それは、図書室にて美紀が借りようとしていた本だった。
次に美紀はめぐねぇのものだと思われるノートを手に取る。
パラッと開くと一冊の冊子が落ちた。
美紀はそれを拾おうとする。そして冊子の表紙に書いてあったことに唖然とする。
「これ……」
職員用緊急避難マニュアルと書いてあった。