次の日、キャンピングカーが大学へ向かって走り出す。
現在の運転手はしおりで、助手席にはマップを持ったゆきが座っている。くるみは奥の席でシャベルの手入れをしていて、りーさんと美紀は窓際の席で外で血まみれ学生帽が転がっていくのを見つめるりーさん。美紀は窓に寄りかかりながら俯いた顔をしていた。
「美紀さん、どうかしたの?」
「ちょっと夜更かしです」
「…そう。無理しちゃだめよ」
そんな美紀を見て問いかけるりーさん。
美紀は夜更かしだと答えた。理由は昨夜のことだったが、りーさんにそのことは伝えなかった。
りーさんは美紀に注意するが欠伸をする美紀。
「きゃっ」「わっと」
するとキャンピングカーは急ブレーキをして止まる。
それに驚いて声をだす二人。
「大丈夫ですか?」
「うん大丈夫。大したことないよ」
「運転代わるか?」
「うん……」
運転席にいるしおりに声をかける美紀。しおりは大丈夫だと答える。そしてくるみは奥から運転席へと歩きながら運転を代わるかと問いかける。
しおりを見てどこか心配そうにする美紀。
「私、やります!運転、覚えたいんです」
美紀は手を上げて自分が運転をすると言う。
「……うん。じゃあお願い」
「はい!」
そんな美紀を見て微笑みながら運転を頼む。そして席を代わり運転の説明を始める。
それをみて大丈夫だと思い席へ戻るりーさん。しかしその顔は疲れ切っていた。
りーさんはキャンピングカーから出て、近くにある電柱に額を当てる。そして辺りを見回しボロボロになった街をみてため息をつく。キャンピングカーに戻ろうとするとその先の景色は先程までとは違い綺麗になっていて車や人も通る街になっていた。
「りーねー」
景色に目を見開いているりーさんの前から声が聞こえた。
そこにいたのは小さな人影だった。
「りーさん。危ないよりーさん」
「るーちゃん」
「え?」
ゆきの声にハッとしてよく見ると、前にいたのはゆきで、後ろを向けばボロボロになった街を徘徊する『奴ら』。
「あ……」
「いこ?」
「そ、そうね」
「たっだいまー」
「ただいま」
「おかえりなさい」
「ここからは私の運転です」
キャンピングカーに戻ると運転席に座る美紀とその横にはしおりがいた。どうやら説明は全て終わったようで運転は美紀に代わるらしい。
それを聞いたゆきは近くにあったクッションで頭を抑えて「わわっ」と言う。
「運転、期待してるわよ」
「任せてください」
「早く学校に帰りたいものね」
「え?」
「屋上の菜園、大丈夫かしら」
りーさんのふとした呟きを聞き不思議そうにりーさんを見つめる美紀。りーさんは菜園の話まで始める。
すると美紀の視線に気付き話を止めるりーさん。
「じょ、冗談よ」
「…りーさん何でもできるのに冗談は下手なんですね」
「はは…」
りーさんは慌てて冗談だと言い話を逸らす。くるみはそれを聞いて苦笑いをする。
「そうよ。冗談……」
それから昼食をとっている時もりーさんはみんなと楽しく食べていたが時々どこかを見つめている様子があった。
キャンピングカーから出て近くで腰を下ろすりーさん。その目に映るのは先程の小さな人影。顔を伏せるりーさん。
「りーさん」
「え!?」
「わっ!?」
急に声をかけられて驚くりーさん。しかしそんなりーさんの声を聞いてゆきも驚く。
「ご、ごめんなさい。びっくりしたから」
「ううん。あ、これ」
「ありがと」
ゆきはりーさんに水の入ったペットボトルを渡し、りーさんはそれを受け取り笑顔で答える。そんなりーさんをみて安心したような顔をするゆき。
「…私ね、妹がいたんだ」
「おお、リアルお姉さん!」
「?」
「えっと、りーさんお姉さんっぽいなって思ってたらほんとにお姉さんだったんだね」
りーさんの急な呟きに目を輝かせて答えるゆき。そんなゆきをみて疑問に思っているりーさんを見てどういう意味なのかを伝える。
「うんうん。やっぱ本物は違うね」
「……そうじゃないの。私、忘れてた……あの子のこと……今までずっと……」
そんな呟きを聞いたゆきは飲もうとしていたペットボトルを口の近くで止めてりーさんの方を見る。
「ひどいよね……お姉ちゃんなのに……ずるいよね、自分だけ助かって……ごめんね、るーちゃん……」
どんどん声が掠れていた。そして妹への謝罪の時に涙を流すりーさん。その姿を見て不安そうな顔をする。
「あの子ね、ちっちゃいのに元気で、一緒に散歩してもすぐに迷子になって……私、真っ青になって探すの。隣町まで迎えに行って聞いたらね、お気に入りの帽子が風に飛ばされたんだって。それでずっと走っていったんだって」
「うん」
「ゆきちゃんみたいだよね」
「わたし?」
りーさんは妹との思い出をゆきに話す。そしてふとゆきみたいと呟き、ゆきも不思議そうに問いかける。
「ずっと思ってた。ゆきちゃん妹みたいだなって。本当の妹のことは忘れてたのに。私、ずっとあなたをあの子の代わりにしてたのよ」
「りーさん」
「思い出したくなかったからゆきちゃんを身代わりにして!忘れて!汚いよねこんなの!」
「りーさんっりーさん!」
どんどん声を荒らげて話し出すりーさんは持っていたペットボトルを握りしめる。先程から呼びかけていたゆきはりーさんの頬を掴み、無理やりこちらを向かせる。
「え……」
「りーさんは頑張ったよ。りーさんがいなければわたしもみーくんもくるみちゃんもしおりちゃんもここにいないよ」
「……でも……」
ゆきはりーさんの頬をつかみながら、りーさんに伝えたいことを話す。しかしりーさんはそれを否定しようとする。
「りーさんがずるいならわたしだってずるいよ。ずるくたっていいじゃない」
「……でも……」
「るーちゃんのこともっと教えて」
「………うん」
その日の夜。ゆきとりーさんはすでに寝ており、くるみ、しおり、美紀の三人はマップを広げていた。
「…鞣河小学校」
「わりとすぐ近くですね」
「だから思い出したのかもな」
「でも……どうするのがいいんでしょうね」
りーさんが妹のことに思い出したのかを考える三人。マップにはここから近い小学校に目を向ける。
しかしそこからどうすればいいのかと呟く美紀。
するとしおりは立ち上がる。
「先に行って見てくるね」
「ならあたしも…」
ついて行こうと立ち上がるくるみだが、しおりは首を横に振る。反論ができず言葉がとまる。
「無理は禁物ですよ。先輩」
「大丈夫だよ」
キャンピングカーから出て紐を跨いで外に出る。
するとがさっと音が聞こえ、そちらを向くと人影があった。
人影をじっと見るとあるものが目に入る。
[なめかわ小学校にいます。たすけてください。ごはんとお水さがしてます。]
と書かれたスケッチブックを首から下げていた。
「あ、あの」
マチェットを構えながら声をかけるが、その人物はすでに『奴ら』になっており、不気味な声をあげる。
「そうだね……そうすれば帰れなくても助けを呼べるもんね。すごいよ」
すると『奴ら』はしおりに襲いかかる。しおりはマチェットをもう一本取り出し背後に周り、一本のマチェットで『奴ら』を押し倒し、動けないようにする。
もう一本で倒そうとするが動きがとまる。
あの文字をみたしおりは思った、この『奴ら』は子供だと。
所々平仮名が多く、身長も低かった。そんなことを考えて動きが止まっていると、音がする。
そこに居たのはりーさんだった。しかしりーさんの目に見えていたのはしおりでも『奴ら』でもなく。小さな人影だった。