「ふーんふふーんふーんふーんふーん」
りーさんは一つの空き教室の掃除をしていた。カーテンをハタキで綺麗にし、椅子と机、ホワイトボードを準備する。
そんなりーさんを見てるーちゃんは不思議そうにしていた。
「きょう、しつ?」
「そうよ。大学っていうのはね、みんなでお勉強するところなの」
空き教室から出て、ドアに[学園生活部 教室]と書かれた紙を貼る。
するとゆきが歩いてきた。しかしりーさんに気づきさっと隠れる。
「?ゆきちゃんおはよう」
「……お、おはようりーさん。何してるの?」
「空き教室を改装して教室にしたの。大学生なんだから勉強もちゃんとね」
「は、はいっ」
りーさんはどうしてゆきが隠れたのか分からないが声をかける。ゆきはそーっとりーさんに近づき挨拶する。
結局断りきれず、りーさんの指導のもと勉強が始まった。
その間るーちゃんは絵本を読んでいる。
するとゲーム機を持ったままくるみが教室に入ってくる。すぐにりーさん達が何をしているのかを察し、ドアを締めようとするがりーさんに止められ、結局りーさんに無理やり連れていかれゆきの隣で勉強することになった。
「ふあー……」
「つ、つかれた…」
あれから数時間、ぶっとうしで勉強をしたゆきとくるみ。机や椅子にぐでーっと寄りかかる二人。
「二人ともだいぶ忘れてるわね…もっと時間かけないと…」
「はい!」
「なぁに?」
りーさんが勉強をもっとやらないとと行った時、ゆきは慌てて意見を言おうと手を挙げる。
「だ、大学の勉強ってあの、高校と違ってほら、言われるまま勉強するってのは何か違うっていうか」
「そうそう。自主性っていうか、何を勉強するか自分で考えるみたいな?」
「……確かにそうね」
ゆきとくるみの意見を聞いて納得したりーさんを見て二人の表情はパーっと明るくなる。
「じゃ、二人とも何を勉強したいのか、まずそれを決めてレポート提出ね」
「おぉ、レポート!大学生っぽい」
「えー」
「レポートですか?」
「そうなんだよーみーくんも一緒にやろっ」
ゆきはレポートのことを話に美紀の部屋に来ていた。ゆきは美紀にレポート用のノートを見せて一緒にやろうと誘う。
「だめですよ。自分で決めないと」
「でもでも、急に言われても……やりたいことってそんなないよね」
「じゃあ先のことを考えてみたらどうですか?」
美紀はパラパラとノートをめくり終え、自分でやらないとだめだと言いゆきにノートを返す。
しかしゆきは最初は乗り気だったが今思えば何をすればいいのかと考える。
「先のこと?」
「将来何をしたいのか、何になりたいのか、そのためには何がいるのか……」
「将来かー……」
美紀の提案を聞いてしばらく考えるゆき。
「あった!」
「な、何ですか?」
「あのね」
するとゆきは横を向き急に叫ぶ。それに驚く美紀にこそこそと耳打ちをする。それを聞いた美紀は目の前にいるゆきをみつめる。
「いいんじゃないですか。先輩ならきっとなれますよ」
「うん!」
「いっぱい勉強しないとですね」
「は、そうか」
美紀の言葉に笑顔で答えるゆきだが、勉強の一言で盲点をつかれたような顔をする。
「じゃ、行きましょうか」
「え?」
「レポート書くんでしょう?」
すると美紀はその場から立ち上がる。どこへ行くのかと疑問に思う。
そして二人はある場所に向かう。
「図書館?無事ですよ」
「おおおお図書館でレポート!大学生っぽい!」
「別に高校生でもできます」
ゆきと美紀の二人は六花の部屋に来ていた。六花に図書館が無事かと問いかけると、問題ないと答える。そしてゆきは図書館でレポートを書くと聞いて目を輝かせる。
「もーみーくんはわかってないなぁ大学図書館だよ?」
「うちにもありましたよ」
「あれは図書室ー」
「あ…行くのでしたらヌシに気をつけてくださいね」
六花は少し呆れた顔をして言うが、二人にはどういう意味なのかが分からなかった。
「ぬ、ぬし?」
二人は図書館にたどり着き、扉を開ける。
図書館の中もボロボロにはなっているが、他と比べるとそうでもなかった。血痕もなくただ本や筆記用具が散乱して荒れているだけ。
「マンガあるかなー」
「違うでしょ…えーと、300番台だからあっちですかね」
ゆきはマンガを探そうとうろうろするが、そんなゆきを止めて目的の本がある棚を探す美紀。
すると奥に何かがいた気がしてそちらを振り向き懐中電灯を向けるが誰もいなかった。
「どうしたの?みーくん」
「いえ、気のせいだったみたいです。行きましょう」
何もないと言い先を進むがそんな二人を追いかけるように歩き出す人影があった。
「やぁ何してるの?」
するとある人物がゆきと美紀の肩にぽんっと手を置き問いかけるが、二人は急なことだったので大きな叫び声が響いた。
「そうか、トーコたちとはもう会ったんだね」
「はい。先輩……」
「リセでいいよ」
「リセ先輩はこちらで暮らしてるんですか?」
いろいろと落ち着いたところで二人と一緒に目的の本がある棚を目指すピンク髪の女性、リセ。
「うん。食事の事とかは戻るけどこっちで寝泊まりしてるよ」
「すごーい!本が大好きなんですね」
「ああ、この図書館の本を全部読むのが夢なんだ」
リセの生活や夢を聞いて感心したような顔をするゆきと美紀。
「私はね、世の中の素晴らしい本はすべて読み通したいんだ。世の中に自分が読んでない素晴らしい本があると思うと胸が苦しくなる。でもね、困ったことにどれだけ本を読んでもすぐ新しい本が出てしまうんだ。たからね、私はこうなって少しだけ安心してるのさ、だってもう新しく本が増えることはないだろ?」
リセはそっと本棚に手を添えて語り出す。最初は感心して聞いていた二人も、リセの話している内容が進む事に表情が変わってくる。
そして最後の言葉の時点で二人は、天に恵まれているような顔をするリセを前にして呆れたような顔をする。
「本好きにとってはいい時代だよね。さ、探してる本ならここだよ」
そう言ってゆきの目的である[教育学]の本棚へたどり着いた。
「用があったらまた呼んでね」
「ど、どうも…」
リセは美紀の肩にぽんっと手を置きその場を後にする。
「なんか変わった人だね。みーくん?」
「いえ……」
ゆきはリセを変わった人だと言うが美紀は何かを考えていた。
「うーん……」
「どうしたの?」
「わたしってさーあんまり本好きじゃないのかも」
ゆきは図書館から必要な分だけ本を持っていき、学園生活部の教室へと戻るが、ノートとにらめっこをしていた。
隣でるーちゃんと絵本を読んでいるりーさんがゆきに問いかけると、ゆきは自分は本好きじゃないと呟く。
「ゆきちゃんはどっちかっていうと漫画よね」
「そうだけど!そうじゃなくてあのね、さっき図書館で……」
「…ってことがあったの」
「すごい先輩ね…」
ゆきは図書館で起こったことをりーさんに話すとりーさんもリセのことをすごい先輩だと言う。
「でね、わたしダリオマンの続き読みたいんだけど、それって本が好きじゃないってことになるのかなーって。だってさ、最新刊ではダリオマンが目玉壊すマンと戦うところで終わったんだよ!続き気になるよね!」
「そ、そうねぇ。昔の本も読みたいけど新しい本もないと寂しいわよね」
「だよね!やっぱ新しい本をどんどん作らないと」
ゆきの話を聞いていたりーさんはよく分からなそうな顔をするがゆきの意見に賛成するような呟きをする。
美紀はもう一度図書館を訪れた。そこにある一角にはリセの生活スペースがあり、ソファや布団、机と椅子があった。
ソファに座り本を読んでいるリセの所に気まずそうに来る美紀。
「また来てくれたんだね。どうしたんだい?」
「……これ、どうぞ……」
美紀がリセに手渡したのは自分たちで制作した卒業アルバムをコピーしたものだった。
「これは君たちが?」
「はい。コピー機使わせていただきました」
「卒業アルバムか。915日本文学 日記 書簡 紀行あたりかな。うんありがとう、読ませてもらうよ」
「あの私、本が好きですけど。やっぱり新しい本も読みたいです。本がもっともっと増えるといいなと思うんです」
美紀は先程リセが言った意見とは反対の意見をリセに伝えると、リセはそんな美紀を見つめ、卒業アルバムをめくる。
「そうだね。私も続きを読みたくなったよ」
「まだ一冊ですけど……もっとたくさん読めるようにしたいですよね」
「そのためには……うーんと、まず書く人が増えないとダメだね。つまり人工増大だ。そのためには食料の安定供給と衛生と教育…文明復興だね。結構大変だよ?」
「はい。でも、そのための本ですよね」
リセの正しい意見に納得している美紀だが、ふと周りにある本棚を見つめてそう呟く。
「あ、すいません。偉そうなこと言って」
「いやいや楽しかったよ」
「失礼します」
「気をつけてね」
美紀は少し照れくさそうにリセに謝罪すると、一礼をして図書館を後にする。
リセはそれを見送ると、片手に持つ卒業アルバムを見つめる。
「そのための本…か」