「勉強したいこと…か」
しおりはあるノートを見つめながら呟く。それは少し前にくるみに渡されたものだった。
りーさんにレポートを書くと言われノートを貰ったらしい。りーさんの授業に参加していなかったしおりの分はくるみが預かった。しかしくるみも何を書くのかは決まっておらず、考えをまとめるため散歩に行くと言って出ていった。
「考えたこともないな………聞いてみよっかな」
しおりは自室を出てある人の部屋へと向かう。
「それで私のところへ来たんですね」
「ごめんなさい…いつも相談に乗ってもらって」
「いつも言ってるでしょ?うれしいですよ」
しおりは六花を訪ねて部屋へと向かった。六花は快くしおりを部屋へと入れて座布団に座らせお茶を出す。
話の内容を聞いてしおりが何に悩んでいるのかがだいたい分かった様子だった。
「私はね、お父さんに憧れて法学部に入って弁護士を目指すようになったんです」
「憧れ…ですか?」
「はい。お父さんが弁護士として仕事をしている所をよく見せてもらったこともあります」
父親の話を聞いているうちに自分の父親の顔が浮かんでくるが、しおりは首を横に振って浮かんできた父親の顔を忘れようとする。
「しおりさんも、ご両親の職業などを参考にしてはいかがですか?」
「……はい。もう少し自分で考えてみます。失礼します」
しおりは座布団から立ち上がり、ドアノブに手をかける前に一礼して部屋を後にする。
「親の職業…か…」
「何呟いてるんですか?」
外の空気を吸うため屋上に向かい、フェンスに寄りかかり先程六花に言われた事を呟く。
その声が聞こえていたのか問いかけるものがいた。
「みきちゃん…」
「どうしたんですか?表情暗いですよ」
「うん。ちょっとね……でもだいじょうぶだからさ」
「嘘です。先輩がそういう顔をしている時は何か隠してます」
図星をつかれたしおりは何も言い返せず、両手を上げて降参する。
「実はね…レポート、悩んでるんだ」
「何を勉強したいかってやつですよね?」
「うん…何を書けばいいのか分かんなくってね、六花先輩は自分の両親の職業を参考にしたらって言われたんだけど…」
しおりは美紀に先程六花に言われたことを話すが、その続きを言う前にしおりはうずくまってしまう。
「よく分からないの…わたし両親、特にお父様とは家族らしい会話したのちょっとだけだから…さ」
「先輩…」
「ごめんね。今の話なかったことにして…」
しおりは立ち上がり急いでその場を後にしようとするが、美紀はしおりの腕を掴み止める。
「話してください。話して楽になることもあります」
「……ありがとう」
これはまだしおりが現在の平屋に住む前、実家に住んでいた時の話。小学二年生、くるみとも出会っておらず友達がいなかった。毎日毎日習い事で忙しかったしおりは自分の一番好きなことがなく、親がいない所では一人で本を読んでいるだけだった。
そしてこの日もいつも通りの日を過ごすのだろうと思いながら、今日読む本を探しに書庫を訪れる。
「しおり、ちょっといいかしら?」
「なんですか?お母様」
声をかけられ振り向く。そこにいたのはしおりの母親だった。
「今からお父さんの仕事場に届けものをするの。一緒にこないかしら?」
「でも、お父様が危ないから近寄るなって…」
「お母さんも一緒だから大丈夫よ。行きましょう」
警察官である母親は今日は仕事が休みで家にいた。父親の仕事場に行こうと言う母親の手をとり、車庫にある車に乗り父親の仕事場へと向かう。
たどり着いた先は軍基地。しおりの父親は自衛官であった。普段はこんなに近くで見たこと無かった基地に目を輝かせるしおり。母親と一緒に父親のいる場所まで向かう。たどり着いたのは射撃場、自衛官が訓練する場所だと父親に聞いたことがあったしおりは始めてみる銃、初めて聞く銃声に驚く。
「お父さん、かっこいいでしょ?」
「自衛官は、世のためになる仕事ですか?」
「よくそんな難しい言葉知ってるわね…まぁ人助けにはなると思うわよ。」
父親が銃を構える姿を見てその日初めて憧れを抱いたしおりは母親に問いかける。二年生とは思えない言葉を使うしおりに驚きながらもしおりの質問に答える。
「お母様…私自衛官になります。」
「いい夢を持ったわね。お父さんも喜ぶわ」
その日をきっかけにしおりは自衛官になるための勉強を始めた。母親の言う通り嬉しかったのか、父親自らの指導もあった。表情を表に出さない父親と二人の時は緊張もするが、こうして父親といられる時間ができて嬉しく思ったしおりだった。
しかしそれから二年半たった頃事件が起こった。一緒に住んでいた祖母が急に倒れた。医師からは持病の悪化だと言われしおりは学校から帰ればずっと祖母に付きっきりだった。そのため父親との時間もだが、自衛官の勉強も止まってしまった。祖母は大丈夫だと言って勉学に励むよう言うがそれすらも振り切りそばにいた。
それからしばらくした頃、祖母もだが祖父も今後心配なため引っ越すことになった。二人に負担のかからない平屋にだった。引越し準備をしている間、しおりは父親にある話をしていた。
「お父様、私は自衛官になることを諦めることにします。将来はお婆ちゃんとお爺ちゃんの生活の支えしたいと思っています」
「良いだろう…お前が決めたのなら何も言わん。そしてこれからもだ。行く学校も、仕事場も何も言わない。好きなところに行きなさい」
きっとその日が最後だったのだろう。二人で話したのは…
「厳しい方なんですね、先輩のお父さん」
「うん…学校から帰ってもおかえりって言うだけで必要な挨拶だけするの…前の私ってさ、今と全然違うでしよ?多分あれ、お父様と話さないうちに周りとの会話も減っていってね…無口になっちゃったの」
ここまでの話を聞いて、しおりの家族のことを聞いて前までのしおりの姿を思い出しだいたい分かってきた美紀。
「でも、今はなんて言うか…明るくなりましたよね?」
「うん…学園生活部が始まった頃はゆきちゃんとりーさんのことよく知らなかったからね。でも、色んなことしていくうちに楽しくなって、みんなとならなんでもできるって思えたの」
みきは今の言葉を聞いて何かを考え始める。
「もう一度、自衛官目指してみませんか?みんなもきっと支えてくれますよ!」
「でも…」
「やってみましょう!やれるところまでやって足掻きましょ!無理は承知の学園生活部ですよ?」
美紀はしおりの手を握り自分の気持ちを伝える。[無理は承知の学園生活部]これはゆきが運動会の時に言っていた言葉。それを聞いて驚きながらも微笑む。
「ふふっ…可愛い後輩にそこまで言われたら、頑張るしかないよね」
しおりは美紀に抱きつき、もう一度自衛官を目指すと言った。美紀は抱きつかれたことに照れながらももう一度頑張ると言った言葉に嬉しく思う。
次の日、しおりは美紀の案内の元図書館に向かった。
この日初めてきた大学の図書館に少しドキドキしながらも中へ入る。
「おや、美紀くんじゃないか。そっちにいるのは別の先輩かな?」
「は、はい。柊汐莉です…あの、」
「この間、言っていた図書館のヌシであるリセさんです」
少し歩いているとリセに出会った。初めて会ったしおりは一礼して自己紹介をする。美紀からリセのことを聞いてなんとなくこの間ゆきが図書館について話しているのを思い出す。
「それで、しおりくんはなんの本を探しに来たんだい?」
「あの、軍事学などの本を探しに…」
「……なるほどね、こっちだよ」
しおりはリセに自分が求めている本の場所はどこかと問いかける。リセは何かを察したのか微笑んで本棚の場所まで案内する。
「ここだよ。色々あるから好きなだけ持って行っていいよ」
「ありがとうございます」
本棚へと到着してしおりはリセに一礼して必要な文だけ本を探す。しおりが本に夢中になっている中、リセは美紀の耳元で話す。
「将来は軍事か…立派な先輩だね」
「はい。尊敬する大切な先輩です」
それからしばらくして二人は校舎に戻った。
「私、りーさんとゆき先輩に聞いて見ますね」
「うん。でもやっぱりみんなに手伝ってもらうのは…」
「だめですよ。みんなで一緒に頑張りましょう」
美紀は昨日話したみんなと一緒に頑張るという結論に至ったため、ゆきとりーさんにしおりのことについて話に行くと言うが、しおりはやっぱりいいと言う。美紀はダメと言ったあとに笑顔で言う。しおりはその笑顔に負け頷いた。
「くるみーちょっと開けてくれない?」
しおりは本を沢山持っているためドアノブに手をかけることが出来ず、中にいるであろう同じ部屋にいるくるみに声をかける。しばらく経たないうちにドアが開く。
「あーおかえ……なんだこれっ全部本かよ…よっと」
ドアを開けて目の前に本を抱えたしおりをみて驚く。そして、そこから半分ほど本をとる。表紙を見れば軍事学の本だと気付いた。
「軍事学って…しおり…」
「もう一度足掻くことにしたの。みきちゃんに言われてね…あの、みんなに支えて貰えば頑張れると思うからさ、手伝ってくれないかな?」
しおりの言葉を聞いてきょとんとした顔をするくるみ。すると急に笑いだした。
「な、なんで笑うの!?」
「ははっ…だって今更すぎるだろ。あたしがそういうこと断ったことあったか?答えはYESだよ。足掻いてやろうぜ」
「うん!」
くるみの答えを聞いて満面の笑みで答える。いつか父親のようになるために。