ドアノブを握る直前に手が止まるタカヒト。
ふと横を見れば、そこに浮かぶのはまだ平和だった頃の廊下。スマホを弄りながら歩く人や、友人と出会って手を振るものもいた。
その日タカヒトはパソコン室にて友人達と話していた。
スマホを弄りつつ友人と話すタカヒトは、外が騒がしいことに気づく。窓から覗けばまるで地獄絵図のような光景だった。
-俺は選ばれたのだ。生き残ることが全てだった、武器も食料も何もかもが足りなかった。決断が必要だった。誰かが上に立つ必要があって、俺しかいなかった-
今になって思い出す過去。こんな世界になったばかりの頃は今よりたくさんの大学生がいて、『奴ら』一匹でも三人係で確実に倒していた。大学内の食料が減れば車を使って近くのコンビニに取りに行く。しかし日に日に人が減り、コンビニの中にある食料も減ってしまう。それを考慮するために、逃げ遅れた学生は外へ取り残し内側からバリケードを貼り犠牲にしてきた。
もう一度見れば、誰もいない殺風景な廊下。今ここにいるのはタカヒトただ一人。目を瞑ってドアノブに手をかけ開く。
-俺は……選ばれたのだ-
部屋にいたのは椅子に座り本を読んでいるリセ。その部屋はまるで取調室のようだった。
「カツ丼がほしいところだね」
「……面倒なやつだ」
タカヒトが入ってきたことに気づき、カツ丼を要求するリセ。そんなリセに椅子に座りながら呆れるタカヒト。
「私はずっと図書館にいたよ。アリバイはないけど、私たちが君らを襲う理由はないよね」
「だとすればおまえたちは愚か者だ。食料は無限ではない、いつかは尽きる。仲間が増えた分俺たちを間引こうとしたのではないか?」
「なるほど、そう考えるんだね。でも、人手が増えた分食料の増産とかができる可能性もあるよね?」
リセの話す言葉を聞いたタカヒトは、机をダンっと叩きつけて愚か者だと言う。
疑問を浮かべているリセにさらに問いかけるタカヒト。
タカヒトの意見を聞いて一理あると言うように納得するリセ。
「現実から目をそらした楽観論だな」
「どうして?」
「確度の低い投資を行えば全滅の確率が上がる」
タカヒトの楽観論の言葉にどうしてかと問いかけるリセ。さらに呆れたような表情で答えるタカヒト。
「全滅しないことだけが目的ならいつかは負けるよ。だって私たちはいつかは死ぬし、人類だっていつかは滅びるんだからね。問題は何をするかじゃないかな」
「図書館にひきこもってるやつがよく言う」
「それを言われるとつらいね。生き残るために色々なやり方を試す…それでいいと私は思うんだけど」
「リソースが潤沢ならそれも一つの解だろう。だが今はそうではない。貴様らを遊ばせておく時間は終わった」
険しい顔をしながらそう呟くタカヒト。そして椅子から立ち上がり部屋を後にする。
「…………美紀くん」
「どうだった?」
「…あいつは何も知らん。出る前に縛っておけ」
「わかったわ」
外側から扉の鍵を二重に閉めるタカヒト。そんなタカヒトにリセはどうだったかと問いかけるアヤカ。
アヤカにリセは何も知らないことと、リセを縛って置くよう伝えてその場から離れるタカヒト。
「それと出発の準備だ。タカシゲが戻り次第行くぞ」
「…了解……難しい顔。なんで笑わないのかしら」
-学校が嫌いだった、ずっと嫌いだった。決まりきった毎日、先の見えた人生、窒息しそうな毎日、何がそんなに楽しいの?-
平和だった頃の世界、アヤカは今では掛けないメガネを付けて教室で淡々と勉強をする静かな毎日。周りにいる同年代の女子学生は、仲良く近くの席に座って楽しそうに話す。アヤカはそんな姿をみて何が楽しいのかと疑問に思う。
しかし世界が一変すればそんな考えは消えた。
血塗れの教室内でペタペタと足音を立てながら徘徊する『奴ら』。周りにいた自分とは違う毎日を楽しそうに過ごす人達は全員入ってきた『奴ら』に噛まれ、殺され、『奴ら』になった。
しかしアヤカだけがその教室内で生き残った。アヤカは『奴ら』を殺しながら、この世界が素晴らしいことを知る。
-なんて素晴らしい!あいつらは死んで、私は生き残った。私は自由だ。何をしてもいい、何をしても!-
世界が壊れてしばらくした頃、アヤカは窓から見えるお墓を眺めながらニヤッと笑う。
アキが見ていることに気づき問いかける。
「どうしたの、楽しくないの?」
「いや…ア、アタシ用があるから」
アヤカの問いかけに困るアキ。すると持っていた袋を机にだんっと置いてその場を後にする。
-こんなに素晴らしい世界なのに、あいつらはそれがわからない。そうだきっとこの世界は私のために、私だけのためにあるんだ。私は……選ばれた。私は死なない、私は無敵-
「あいつらはどうかな……」
穏健派校舎ヒカの部屋。
ヒカは壊れたオルゴールの修理をしていた。
-私は……選ばれなかった-
世界が壊れてすぐのこと、首をフェンスにつけた鎖で動きを封じられた『奴ら』。
そんな『奴ら』をまえに包丁を持ちながらもぞもぞと殺すのをためらってしまうヒカ。
そばにいたタカシゲに何かを言われても、包丁を持つ手は震えてしまう。無理だと言うように首を横に振ると、タカシゲはヒカから包丁を取り、足で蹴飛ばす。
そして髪を掴み包丁を『奴ら』に突き刺す。
『奴ら』から出る血飛沫をみてヒカはその場から動けなかった。そしてヒカは武闘派から不要とされた。
-彼らは有用な人材を求めていた。私は選ばれなかった、私は不要だった-
最後にきゅっとネジを閉めてしばらくオルゴールはカチカチと音を出し始める。
そしてそこからすぐに音楽が流れ始める。直ったことに喜ぶヒカ。
「無駄じゃない、よね」
ヒカはオルゴールの音を出しながら部屋を後にし、歩き出す。
上機嫌に歩くヒカに忍び寄るシノウ。
そしてシノウはスッとヒカの首元にアイスピックを突きつける。そして、廊下の奥から姿を現すタカヒトとアヤカ。
「声を出すな」