満月の明かりが真っ暗な校舎を照す。
りーさんは息を切らしながら廊下を走る。しかし隣で走るるーちゃんが疲れているのに気づき立ち止まる。
辺りを見回して[大教室]がある事が分かり、中へと入る。
なぜこんな状況になったのか、それは少し前に遡る____________
「おーい、ちょっと誰かいるかい?ねぇ?人間には生理的欲求というものがあってだね。頼むよ、誰かいないのかい?」
リセは先程の部屋にて一人呟く。
両手は縄で縛られ、パイプ椅子と繋がっている。リセはパイプ椅子を上げて扉の前までいき、扉についている窓で外の様子を確認する。
しかしそこには武闘派はだれもいなかった。
「…ふむ、トーコとヒカとアキ、千鶴と六花に新しい子たちを入れて十人。それだけ取り押さえるには人手がいるから…見張りを残す余裕はないかな」
リセはガシャガシャとパイプ椅子を鳴らしながら元いた場所へと戻ろうとするが、ふと窓に目がいく。
「ないといいんだけどね……うーん、いけるかな?」
そしてぐっ…と力を入れてリセはあることをする。
リセのいた部屋からは硝子が割れる音がしたが、それに気づくものはいなかった。
「どういうこと?」
アキはヒカと同様にシノウにアイスピックを突きつけられていた。
二人の前にいるタカヒトに問いかけるアキ。
「騒ぐな」
「トーコを放して!」
アキはアヤカがすでに捕らえたトーコを放すよう言う。
トーコの口元はガムテープで封じられていた。
すると、アヤカがもう片方の手で持っているオルゴールがヒカのものだと気づく。
「そのオルゴール…ヒカの…!」
「騒ぎを起こせば喜来も殺す」
その頃千鶴は六花の手を引っ張りながら廊下を走っていた。
今の状況が全く理解出来ていなかった六花は千鶴に問いかける。
「ねぇ千鶴?一体何なの、部屋に来たと思ったら走るなんて…」
「さっきヒカが捕まってるのを見た、武闘派のやつら動き出したんだよ!」
「だからって…なんで走ってるの?」
千鶴は六花の問いかけに答えるべく一度立ち止まる。
普段運動をしている千鶴とは違い、ずっと室内にいる六花は息切れをしていた。
「私さ、あの子たちが来た時から思ってたことがあったの…」
「…それって、しおりちゃんのことでしょ?それは前にも話したじゃない、本人がいいたくないことは無理に関わらない方がいいって」
六花の意見を聞いた千鶴は頷く。
そして、背負っていたリュックを前に持っていき中を探りながら六花に言う。
「でもそれはさ、私の性格じゃ無理なわけですよー…だからさ、私はしおりを探しに行く。六花は安全なところに隠れてて」
千鶴は軽く会釈をして六花を残しその場を後にしようとするが、六花は千鶴の手を掴み動きをとめる。
「私にとって…一番安全なところは千鶴の隣だから…一緒に行く」
「…わかった。でも私の側から離れちゃダメだからね」
「千鶴と違ってどこかに一人で行ったりしないわよ」
顔を赤くしながら自分の答えを千鶴に伝える六花。
千鶴は微笑んで六花の手を握る。
二人は手を繋ぎ、空いたもう片方の手で木刀を一本ずつ持ち歩き出した。
ゆきはトイレから出てきて、ハンカチで手を拭きながら自分の部屋に戻ろうと歩き出す。
すると向こうのほうからヒカが修理していたオルゴールの音が聞こえ、ゆきは音のする方へ向かう。
「先輩!」
ばっとそちらを向いていたのは、ヒカでもなく他の先輩たちでもなく、武闘派の三人だった。
その場にいた全員が驚いた。
「声を出すな!」
「これで四人目ね」
慌ててゆきに声を出すなと言うタカヒト。
アヤカは持っていたオルゴールをパタンと閉じ、くすっと笑いながら呟く。
声を出すなと言われたゆきだが、怯えながらもすうっと息を吸い、大声で悲鳴をあげる。
その声は自室で寝ていた美紀にも聞こえ、胸騒ぎを感じながら美紀は起き上がる。
「ゆき先輩っ……?」
「りーさん起きてください。様子が変です」
美紀は制服に着替えて、りーさんの部屋の扉を勢いよく開ける。
「起きてるわ。さっきの悲鳴…」
「はい、ゆき先輩の声でした。しおり先輩とくるみ先輩も…部屋にいないんです」
「…わかったわ」
美紀からゆきの声だったことと、しおりとくるみが部屋にいないことを聞いて、大体の状況が理解出来たりーさんだが、表情は焦っていた。そんなりーさんをみて不安そうな表情をみせるるーちゃん。
「トーコさんたちの部屋も確認したほうがいいでしょうか」
「…いえ、あまり無闇に動くと危ないわ。一旦ここから離れましょう」
「はい、でもどこに…」
「地下の倉庫…巡々丘高校のと同じなら籠城できそうだわ」
りーさんは前にトーコが話していた地下倉庫を思い出し、そちらに向かい籠城することを提案した。
「武闘派の人でしょうか……」
「音を立てないのは人間でしょうね」
「…何かの間違いだといいんですけど……」
階段を下りながら、この騒ぎの一件が武闘派の人達が起こしたことなのかと考える美紀。
りーさんは人間なのは確実だと言う。
美紀の呟きを聞いてりーさんは手を繋いでいるるーちゃんを見る。そしてりーさんはるーちゃんに微笑んでぎゅっとそばに寄らせる。
「そうね。そうだといいわね」
「はい……本当に……」
しかしそんな願いは叶わず、美紀の後ろには上からこちらへ飛び降りてきたシノウ。
シノウはそばにいた美紀の首に腕をまわして動かないようにする。
「美紀さん!?」
がっちりと抑えられ、アイスピックも突きつけられているために逃げることすら出来ない美紀は声を上げてりーさんに向かって叫ぶ。
「…りーさん!!走って!!!」
一度は拒んでしまうりーさんだったが、しばらく考えてるーちゃんの手をぐっと握って走り出す
「美紀さん…!ごめんなさい!」
床に頭を無理やり付けられアイスピックをシノウに突きつけられながらも、走っていくりーさんをみて微笑みを漏らす美紀。
______そして今に至る
りーさんはるーちゃんを連れて大教室に入る。
机と机の間に隠れながら休む。
うとうととうたた寝をするるーちゃんをみて微笑みを漏らすりーさん。
寝息を立てているるーちゃんをみてぎゅっと抱きしめる。
「今度は……絶対に守るからね」
そうるーちゃんに呟くりーさんだが、扉の奥から足音が聞こえ、別の扉から逃げるため、るーちゃんを起こして上の方へと駆け上がる。
その姿を追わずただ見ていたシノウは不思議そうな表情をしていた。
ばっと扉を開けて廊下へ飛び出すりーさんだが、待ち伏せていたアヤカの足に引っかかり転ぶ。
その拍子にるーちゃんも飛ばされる。
シノウに抑えられるりーさんはるーちゃんの名前を叫ぶ。
「るーちゃん!」
床に倒れるるーちゃんに近づき頭に足を乗せるアヤカ。
「やめてっ!」
「……これ、そんなに大事なの?」
「りーねー」
アヤカの足がぐりっとるーちゃんの頭の上で動く。
涙目になりながらりーさんの名前を呼ぶるーちゃん。
「……っるーちゃん!」
「……ふーん」
つまらなそうに呟くアヤカだが、次の瞬間るーちゃんの体を足で蹴り始める。
苦しむるーちゃんをみてりーさんはるーちゃんの名前を呼び続ける。
「うるさいわねもう…シノウ、早く運んで」
「……さないっ絶対に許さないっ!」
りーさんは今までにないくらいの表情でアヤカを睨みつける。
抑えていたシノウでさえも驚くくらいに。
「行くわよ。大したことなかったわね」
微笑みを漏らしながら歩き出すアヤカに続くようにりーさんを抑えながら歩き出すシノウ。
シノウに抑えられながらもるーちゃんの名前を呼び続ける。
「るーちゃん!るーちゃん!るーちゃん!!」
しかしその場に残っていたのは、一人の女の子ではなく、
ぼろぼろになったグーマちゃんのぬいぐるみだった_______