ゆきの夢
ゆきは何もない教室で一人泣いていた。
すると、めぐねぇそっと肩に手を乗せ、
「先生ね、悠里ちゃんと決めたの。」
「りーさんと?」
「そう。とっても楽しいことよ」
めぐねぇはゆきの耳元で囁いた。
「楽しいわけ…ないよ……」
ゆきは、めぐねぇの言葉を否定した。
しかしめぐねぇは話を続け、
「部活を始めるの!みんなで一緒に!」
ゆきはその言葉に反応したのか、めぐねぇの方を振り向き、
「ぶ…かつ…?」
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「むにゃ…」
ゆきは夜中にむくっと起き上がった。
学園生活部 部室
ゆきは、目を擦りながら部室の扉を開けた。
「どした?」
部室には、くるみと、くるみの膝で寝ているしおりがいた。
「めぐねぇは?「ん?職員室だろ?」そか……」
ゆきは寝ぼけながら、もじもじしていた。
「寝ぼけてんのか?」
「んっと、トイレ」
ゆきが起きた理由は、トイレだった。
「OKちょっと待ってな。しおりちょっと悪い」
「ん……」
くるみは、立ち上がるためにしおりを起こした。
「いいよ。一人で大丈夫だよーくるみちゃんの過保護っ!」
「うっせーな決まりだろ」
くるみは、手袋と、膝当てをつけて言った。
すると、扉が開き、
「学園生活部心得第三条!」
りーさんが言うと、
「「第三条夜間の行動は単独を慎み常に複数で連帯すべし」」
ゆきとくるみはビシッと手を挙げ、学園生活部心得を言った。
「よくできました」
「りーさんおはよー」
「夜中、一人でうろついてると顧問の責任問題になるそうよ」
「めぐねぇも大変だねぇ」
「他人事みたいに言うな!」
「すぅ…すぅ…」
しおりは、周りなど気にせずに再び寝た。
ゆきとくるみは部室の扉を閉め、トイレに向かった。
ー夜の学校は好きだ。しーんとしていてなんにも聞こえない。まるで、世界中の人がいなくなって私たちだけになったみたい……なんてねー
くるみは窓に目をやると、
「まだ降ってるなー、お」
「!」
二人は奥に誰かいるのに気付いた。
「……ね、誰か来るよ」
ゆきはくるみのうしろにささっと隠れながら言った。
「不良じゃねーの?」
くるみはぎゅっとシャベルを握った。
しかし不良なんてのは嘘で、本当は『奴ら』なのをくるみは分かっていた。
「ど、どうしよ」
「静かにして、目を合わせんな」
「う、うん」
「1、2の3でいくぞ」
くるみはゆきに伝え、じりっとシャベルを構えた。
「1、2の3!」
その掛け声とともに、二人は女子トイレに入った。
女子トイレ
「怖かったー。不良の人トイレまでは来ないよね」
ゆきは、洗面台に腰を下ろし、へとーっとため息をついた。
「あ、でも不良だから来るかな」
ゆきはビクッとした。
「誰か呼んでくるわ。ゆきはここで待ってな」
「え、危ないよ」
「平気平気、不良の一人くらい一撃だって」
くるみはシャベルを構えて言った。
「不良の人が危ないよ!いい不良かもしれないじゃん」
「いい不良ってなんだよ!」
くるみは、ゆきが言っていることの意味が分からず問いかけた。
「子犬とか拾う人?ほら、雨だし」
やっぱりゆきの言葉の意味が分からないくるみは一度沈黙したが、
「……わかったからとにかく鍵かけとけ」
「う、うん」
少し不安そうな顔をするゆきに、くるみはぽんっと肩に手を乗せ、
「大丈夫だって、すぐ戻ってくるから動くなよ」
「……ん」
ゆきはズキンと頭痛がした。すると、
ーー丈夫よ……
大丈夫よ すぐ戻ってくるから
くるみの言った言葉と似たようなことを言う誰かの声が頭に響いた。
しかし頭痛はスッと消えた。
「あれ?」
「ん?」
「あ、うん。なんでもない」
ゆきは、くるみに言われたように、トイレの個室に入った。
鍵をかける前に、ゆきはくるみの方を振り向き、
「くるみちゃん、ほんとにほんとに気をつけてね」
「心配すんなって!」
「うん……」
くるみの言葉に少し不安は残ったゆきだったが、ゆきはトイレの個室に入り、鍵を閉めた。
くるみは結っている髪をさらに結い、邪魔にならないようにした。
そして、勢いよくトイレの扉を開けた。
しかし、周りにはわらわらと『奴ら』が集まってきていた。
『奴ら』はギギギっと不気味な音を出しながらくるみに向かってくる。
「やっべ…」
危険だと思ったくるみはふと先日のゆきとの会話を思い出した。
ーうん。運動部が雨宿りしてるもんー
それを思い出したくるみは顔を引きつった。
「くそっ雨宿りってこれかよ!」
一方ゆきは、トイレの個室にじっと座っていた。
すると、ぽちゃん…と蛇口から雫が一つ落ちた。
「んーおっそいなぁ……」
ゆきはそ〜っと扉の隙間から覗いた。
すると、
「丈槍ゆきさん」
ふと、後ろからゆきの名前を呼ぶ声が聞こえた。振り向くと、
「めぐねぇ!」
めぐねぇがいた。しかし普段の優しい顔とは異なり、真剣な顔のはずだがどこか悲しそうな顔をしていた。
「どうしたの?一人で外に出たらだめでしょ」
「で、でもくるみちゃんが……「恵飛須沢さん?」」
「わかったわ。先生が探してきます」
「う、うん」
めぐねぇはさっとゆきの横を通り過ぎ、扉を開けようとする。
すると、
「……あの」
ゆきがめぐねぇのワンピースの裾をぎゅっと掴み、
「なあに?」
「わたし、これでいいのかな?わたしみんなのお荷物になってないかな」
ゆきは少し焦り気味な顔でめぐねぇに問いかけた。
するとめぐねぇはすっとゆきに抱きつき、
「そんなことないわよ。ゆきちゃんが頑張ってるの先生はよく知ってるもの」
ゆきに優しくそう伝えた。
「うん……」
ゆきは、その言葉を聞き涙が出そうになった。
「じゃ、行ってくるわね」
そう言ってめぐねぇはその場を後にした。
あれからどれくらいの『奴ら』を倒したのかも分からず、くるみはシャベルを引きずり走る。
制服にも、手足にも、もちろんシャベルにも、『奴ら』の返り血がついていた。
「どんだけっ!」
くるみは、『奴ら』を蹴り飛ばした。
「なろっ!」
周りから近づいてくる『奴ら』をシャベルで振り払った。
すると、部室の扉が開く音がした。
くるみはそれに気付きその音がした方を見た。
りーさんが騒ぎに気付いたのか、隙間から顔を出していた。
「りーさん無理だ!」
「!」
くるみはこの状況を再確認し、打破するのは無理だと伝えた。
「〜〜ッ」
りーさんは一度行こうとしたが、すっと扉を閉めた。
くるみは、ドクンと鼓動がした。
腹部を抑えながらくるみは壁に寄り添い、
「ははっいいんだよなこれで」
一方ゆきは、未だに帰ってこないくるみ、そしてめぐねぇを心配した。
扉に耳を傾けると、ドンッガキンッと金属音がした。
「くるみちゃん……めぐねぇ……」
ゆきは、ずるずるとしゃがんだ。
くるみは息を荒げていた。
『奴ら』は未だに不気味な音をさせながらじりじりと近づいてくる。
それを見たくるみは、諦めていた。
すると、
『下校の時刻になりました。まだ残っている生徒は速やかに下校してください。下校の時刻になりました……』
下校を知らせる放送がなった。
『奴ら』はそれに反応するように移動を始めた。
それに驚いたくるみだったが、チャンスだと思いシャベルを構えたが、
その行動を塞ぐものが現れた。
薙刀を持ち、『奴ら』を何匹か切りつけ、階段付近にいた『奴ら』は下へ誘導した。
「しおり!?」
「くるみ…。りーさんが…放送、流した…」
「そか…」
くるみは、安心したのか体の力が抜けた。
りーさんも来て、くるみに肩を貸した。
「騒ぎに最初に気付いたの、しおりさんなのよ」
「あぁ…さんきゅ、助かったわ」
しおりは、その言葉に照れたのか、被っているフードをさらに深く被った。
「ゆきちゃんは?」
「トイレで待ってる」
その言葉を聞き、りーさんは「ほっ」と安心した。
トイレ
「おーいゆき」
くるみは、ゆきのいる個室の扉をノックすると、ゆきががばっとくるみに抱きついた。
「くるみちゃん!よかった、よかったよ〜」
「イタイイタイ」
ゆきは思いっきり抱きついたので、くるみはズキズキと首が痛んだ。
「言っただろ、心配すんなって」
「心配くらいさせてよ」
くるみはその言葉にハッとし、
「わりぃ……」
ゆきに謝った。
「はいっ!学園生活部心得第四条!」
「部員は…いかなる、時も…」
「互いに助けあい支えあい」
「楽しい学園生活を送るべし!」
三人はりーさんの掛け声とともに、学園生活部心得を言った。
「あ、それでめぐねぇは?」
ゆきはくるみに聞いた。
「めぐねぇ?」
「遅いから、くるみちゃん探しにいったよ?」
「そっか、わりぃ」
「もー早くしないとめぐねぇ………あれ?早くしないと…なんだっけ…」
するとゆきに大きな頭痛が響いた。
「痛っ」
すると、いつの日かの記憶がフラッシュバックした。
ー放してっまだめぐねぇが外に、早くしないと……ー
「あれ?」
(なんだろう。今、大切な、すごく、大切なこと……なんだっけ……)
次の瞬間、ゆきの目の前が真っ暗になった。