まだ学園生活部ができて間もない頃…
ゆきは机を雑巾で掃除していた。
「う〜…もうだめー」
するとゆきはへなへなと机に寝そべった。
「あら」
近くでダンボールを運んでいるめぐねぇが、ゆきに気付いた。
「めぐねぇ力あるねー」
ゆきがめぐねぇの作業を見ながら言った。
「先生って結構肉体労働なのよ?」
めぐねぇは少し不満もあるような顔でゆきに言った。
「くるみちゃんも力あるし、りーさんは頭いいし、しおりちゃんもしっかりしてるしー」
「あらあらどうしたの?」
めぐねぇは机でうじうじしているゆきに聞いた。
「うーん。わたし、こんなのでいいのかなってさ」
うじうじしていたゆきが、急に不安そうな顔をした。
「ゆきちゃんにもいいとこあるわよ?」
めぐねぇは、ダンボールを机に置いた。
「どこどこ?」
ゆきは少し嬉しそうにめぐねぇに聞いた。
「その笑顔かな」
めぐねぇは自分の顔を指差してにこっと笑ってみせた。
しかしゆきは、
「……それ、あんまり嬉しくないかも」
そこまで嬉しそうではなかった。
「そんなことないわよ。笑顔があると元気が出るもの」
「そうなの?」
「そうよ」
するとめぐねぇは、ゆきにある質問をした。
「みんなどよーんとした顔してたら大変でしょ?」
それを聞いたゆきは、みんながどよーんとした顔をしている想像をした。
「う、そうかも……じゃわたしがんばる!すごくがんばる!」
最初は、どよーんとしていたゆきだったが、みんなのそんな顔を見たくないと思ったのか、元気を出した。
今はとてもキリッとしている。
「笑顔笑顔」
「おっと」
ゆきは、自分の顔をぐにぐにとほぐして、にへっとした顔をめぐねぇに見せた。
しかしめぐねぇは、「それは違う」と言いたげな顔をしていた。
「うーむずかしー」
「いつも通りでいいのよゆきちゃん……」
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ゆきはぱちっと瞼を開けた。
すると目の前には、
「ゆきちゃん」「ゆき……!」
ゆきの名前を呼ぶりーさんとくるみだった。
するとゆきはむくりと起き上がり、
「あ、おはよー!」
「よかった!」
「ど、どうしたの?」
心配そうな顔をするりーさんにゆきは驚いた。
理由を聞くと、
「ずっと寝てたんだぞ」
「そっかー」
ゆきは伸びをし、
「めぐねぇは?」
周りをキョロキョロ見始めた。
それを見た二人は、なんといえばいいのかわからなかった。
すると二人の後ろから、
「ゆき、さん…めぐねぇ…は」
しおりが伝えようとするが、
「あ、めぐねぇおはよー」
ゆきの言葉にかき消された。
しかしゆきが手を振っているところには誰もいない。
それを見た三人は、少し困惑したような顔をして、目を見合わせた。
するとゆきが、
「ね、ごはんある?すっごくお腹すいた。」
「もちろんよ。おうどんでいい?」
「うん。うどん好きー!」
りーさんは、その返事を聞くと台所へ向かった。
すると、一度振り向き、
「でも、食べ過ぎないようにね」
と、りーさんは優しく言った。
ー笑顔があると元気が出るものー
ゆきは、夢の中でめぐねぇと話した時に言われた言葉を思い出した。
「はーい」
ゆきは、めぐねぇに言われたように思いっきりの笑顔で返した。
部室で四人は、うどんを食べていた。
「おかわりー!」
ゆきは、丼ぶりをりーさんに渡すように前に出した。
「早すぎだ!病み上がりなんだからよく噛んで食べろよ」
くるみはゆきに注意した。
「ちゃんと噛んだよ〜」
ゆきはむーっとしながら言った。
「おかわりはないのよ。取りにいかないと」
りーさんはゆきに謝った。
「また肝試しか?」
くるみはりーさんに聞いた。
「ううん。購買部にはもうないから、外まで行かないと」
りーさんのその言葉にくるみは少し不安があった。
そして、ゆきの方をちらっと見た。
そして、不安そうな顔をしているのがもう一人いた。
しおりだった。
しかし、しおりはくるみとは違う不安だったのかもしれない。
だが、それに気付くものはいなかった。
「じゃあめぐねぇに聞かないとね」
「そうね。聞いてきてくれる?」
「うん!」
ゆきはりーさんに返事をすると、部室を後にし職員室へ向かった。
「外って……めぐねぇがいいって言ったらどうすんだ?」
くるみは、うどんをじゅるっと啜りながらりーさんに聞いた。
「いつかは出ないとね。足りなくなるのはうどんだけじゃないわ」
するとりーさんは、懐からチャリンと鍵を出した。
「そりゃそうか……しおり?なんかあったか」
「えっ……あ、どうして?」
「さっきから、元気がないけど…もしかして不味かったかしら?うどん」
りーさんは、心配そうに聞いた。
「いいえ…大丈夫、です。なんでも………です」
しおりは少し笑っていたが、まだ元気がないことにくるみは気付いていたが、何も聞かなかった。
「ただいまー」
ゆきが部室の扉を開けて帰ってきた。
「どうだった?」
「いいけど、ちゃんと文書にして提出しなさいだって。大げさだね」
「いやいや。めぐねぇだって職員会議とかあんだろ」
くるみがゆきの言葉を否定するように肩を竦めて言った。
「そっか。とりあえず今日は何やろ?」
「手紙とか出してみない?」
りーさんが三人に聞いた。
「え、お手紙?でも郵便局は外だよ?」
ゆきがりーさんに疑問を言った。
「だから、学校から」
りーさんは人差し指を出して言った。
「手紙といえば伝書鳩だな!」
くるみが目を輝かせながら言った。
「伝書鳩いないじゃん」
ゆきはしらっとした顔で言った。
「捕まえるんだよ」
くるみはシャベルをビシッと構えて言うが、ゆきはそれをスルーして、
「はいはい。お手紙といえばこれよね!」
ゆきがそう言ってリュックから出したのは、
「お、それあの時の」
「そ、この前の肝試し」
ゆきは出した風船を息でぷぅぅぅ〜っと膨らますが、
「いや、息で膨らませても飛ばないだろ」
「はっ!」
呆れたくるみが言った言葉に気付いたゆきは膨らますのをやめた。
「理科室にヘリウムガスがあったかも」
りーさんが言った
「んじゃ取りにいってくるぜ」
「私…も…」
そう言って2人は部室を後にした。
「私も……」
ゆきはそう言って立ち上がるが、
「ゆきちゃんはお手紙書いたら?」
りーさんにそう聞かれ、
「あ、そだね!」
再び席に着いた。
「書くよ、すごいの書く!」
ゆきはそう意気込みながら紙とペンを持った。
するとりーさんが地図帳をペラっと開いた。
目的のページを見つけ、それを見ながら何かを書き始めた。
ゆきはそれを見ると不思議そうに、
「何それ?」
そう聞いた。
「私たちはここにいますよってね」
そう言ったりーさんが持っている紙には暗号のようなものが書いてある。
「ふーん」
「うーん……」
あれから数分が経つとゆきが唸り始めた。
「どうしたの?」
りーさんがそう聞くと、
「改まって書くと恥ずかしいよね。わたし、字が汚いし…」
ゆきがそう言うとりーさんはこう答えた、
「ゆきちゃんが道ばたで風船拾ってお手紙がついてたらどう思う?」
「びっくりする!あと嬉しい!」
「この人字が下手だなぁとか思う?」
「ううん。手紙だけですごく嬉しいよ?」
「でしょ?」
「そっか!」
ゆきは納得したのかパァッと顔が明るくなった。
同時刻 廊下
「家庭科室から糸と籠はとったから、あとは理科室だけか………なぁ」
「えっ…な、に」
先程から何も言わないしおりにくるみは言った。
「行きたくなかったら、言えよ」
「うん……でも、学園…生活部だから…」
何かを我慢しているしおりにくるみは手を出した。
「…何かあったら、あたしがいるし…心配すんなよ」
しおりはそれに答えるように手を握り、微笑みながら、
「あ…がと…」
「ただいま!」
くるみとしおりがヘリウムガス等をキャスターに乗せて戻ってきた。
そこには伝書鳩を捕まえる罠もあった。
ゆきとりーさんが手紙を書いている間、くるみとしおりは伝書鳩を捕まえるため屋上に来ていた。
第1案
「背後に忍び寄ってシャベルで叩く!」
「……失敗、しそう」
しおりの予想は案の定、気づかれ鳩には逃げられてしまった。
第2案
「餌で釣って籠で捕まえる!」
「………(ちょっと、まともになった)」
くるみは即席の罠を仕掛け、鳩が来るのを待った。
すると、
「よしっうまく入った!しおり、ゲージ取ってこい!」
「………うん」
捕まえたことに喜んでいるくるみとは真逆に表情一つ変えずしおりは、ゲージを取りに行った。
捕まえた鳩を学園生活部の部室に連れて行くが…
怒った鳩がゲージから出てしまった。
「よっしゃあ!」
「いよいよね」
「鳩子ちゃんもがんばってね」
ゆきが鳩にそう言いかけるが、鳩は首を傾げている。
「ちょっと待て。誰が鳩子ちゃんだ」
「その子だよ。鳩錦鳩子ちゃん」
ゆきは鳩を指差して言った。
「鳩子ちゃんじゃない!こいつはアルノーだ」
「ええーわたしも名前つけたいー」
「間をとってアルノー・鳩錦でどうかしら?」
「オッケー!」
三人が名前について話し合っているが、その本人である鳩は唖然としていた。
「なんかハーフっぽいな」
「アメリカとかまで行くかもしれないよ」
鳩の名は、アルノー・鳩錦で決まったようだ。
「よし。アルノー・鳩錦、飛んでくれよ!」
そう言うと、鳩はバサバサと羽を羽ばたかせて飛ぶ準備をしていた。
「じゃ、1、2の3でいくよ?」
「1…2の…さんっ」
ゆきたちは持っていた風船を空へと放った。
「届くかなー返事あるかなー」
「来るわよ」
「来なかったらまた出せばいいじゃん」
「だね!くるみちゃん賢い!」
「……きっと、来るよ…」
しおりは空を見上げながらそう言った。