風の戦士伝   作:理系@セン

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初陣 1

 この地獄に、あまりにも心もとない小隊がひとつ——————俺たちだ。一人は臆病者で戦うはおろか魔法を使うのは今日が初、一人は非常に強い魔法使い、一人はドジ天使、一人は高貴で短気な天使さんだ。後者二人は地獄なんざ慣れっこといった具合で突き進み、前者ふたり——————俺たちはというと…………「ゲボォッ……」「オエェッ……」大量にゲロをぶちまけていた。「だ、大丈夫ですか」「……うん、なんと……ウッ、ゲロォ…………」「そ、創太……ハァ、ハァ、情けねぇな、吐いてば……ゲロォ……」ルヒエルの心配もむなしく、再び吐いた。先に進めば進むほど、血肉、臓物、人骨が増えていき、とてもじゃないが耐えられるようなものではなかった。どんなにグロテスクなものでも、これに匹敵するものや上回るものなんてそう多くはないだろう。そんな中、「はぁ……情けないわねぇ、このくらいで何へばってんのよ!!まだ何もしてないのよ!!ああ、こんなのじゃ先が思いやられるわ!」気高い熾天使さん(ウリエル)からヤジが飛んでくる。そういわれても困るよ……人の惨殺死体の山だ。へばるな、情けないって言われても無理だ。少々にらみつけるような目で熾天使を見つめるが……「うぐっ!!」やはり吐く。「ああ、いい加減にしなさいよ!なんでまだ吐くのよ!ルヒエル、あんたもなんか言ったら?」「そ、そういわれても、私たちと違って(・・・・・・・)彼らは死体の山なんて初めてなんですよ!!さすがに無理を言いす…………グェロォォォォォォォ」「なんであんたまで吐くのよ!?」俺らを庇うつもりが貰いゲロ。「あぁ、この役立たずども、吐き過ぎよ!さっさと慣れなさ……ウゲェッ…………」————なんでおまえまで貰いゲロするんだよおぉぉぉ!————ヒーローとヒロイン改め、ゲーローとゲロインがここに誕生した。

 ————2000年後(Two thousand years later)、というのは冗談で数分後、「……全員スッキリした?」「……そうみえますか、熾天使さんよぉ」「……私も同感です、創太さんは?」「……まだ無理」全員、気持ち悪さを抱えたままだった。「……ルヒエル、アレ」「……『安らぎ(tranquillitas animi)』」先ほどの回復魔法でとりあえず気持ち悪さを取り除き、ゲロ臭さが少し残るが、「……先に進むわよ、時間ないんだし」と先へ進もうとした時だ。「……やっぱ止まって、その場で伏せろ!!」ウリエルはいきなり命令し、炎に包まれた弓を俺たちに向けてきた。「まじかっ!!」よく見ると臨戦態勢に入ってるのはルヒエルもだった。どうやらお説教ではなく、ガチらしい。二人で急いで伏せた途端、後ろからリリン共が飛び掛かってくるではないか。先ほどよりも厄介で、手などに魔法で作った火やら風やら水やらを纏ったり、攻撃用の魔法陣展開などをしている。「汚らわしいわね、さっさと焼かれて爆ぜなさい!!『神炎焼却・浄悪火矢(Incineratio Dei・Purificacionem ignis)』」魔力で形成された炎の矢は、放たれると同時にリリンの数———5本に分裂して、それぞれ胸のど真ん中に突き刺さる、と同時にリリンの全身が炎で飲み込まれ、ものの1秒ほどで十字の炎を上げながら塵ひとつ残らず焼き消されてしまった。「はあぁぁぁぁっ!『風精霊の舞踏会(Syldhides` chorus)』!!」ルヒエルが剣を振るうと、纏っていた風が魔法陣を通してたくさんの青白い少女の精霊として実体化し、どこからともなく聞こえる美しい歌声、子供っぽい笑い声とともにリリンに向かい、触れるたびに奴らの体を軽快に切り傷をつけていく、まるで舞踏会でダンスを踊るかの如く…………「ルヒエル、まだ来るわよ!」「きゃっ、ほ、ほんとだ……じゃあ精霊さん、今のやつもお願い!あー、あと『聖なる風よ、我が主の敵を打ち砕け(Sanctus venti, interficere diabolus)』」「援護するわ!!『魔を追い殺せ、太陽よ(Tracking sagitta)』」今度は精霊たちはルヒエルの指示通りに飛び回る。さらには大きな風が吹き、敵を刻むだけでなく吹き飛ばして叩きつけた。ウリエルの放った矢は宙に舞った敵を、たとえ直線状でなくとも追尾していき焼き殺していく。「す、すっげぇ」俺が尊敬する、あの龍神でさえこの反応だ。間違いなく、ここで繰り広げられているのはなかなかお目にかかれない、高度な魔法戦闘。次々に、しかし無駄なく魔法と武器を使う。あれほどドジなルヒエルも、精霊任せでなく自身も剣を振るい、その美しい殺陣に見惚れてしまうほどの戦いっぷりである。

 「なあ、創太……俺、体、震えちまってるぜ」「……え?」よく見ると、今までにない震え方。「体が、全身が、やべぇって言ってきやがるんだ……」だが、見たところ、恐怖による(・・・・・)震えじゃない。「わかるか……もう、こういうレベル(たっけ)えこと、俺もしたくてウズウズしちまってんだ!!」おそらく、リスク承知でのことだろう、彼の表情には好奇心ただそれのみが見受けられた。「りゅ、龍神お前……」「ああ、死にたかねぇさ、だけどここまで見せられちゃ、エンジンかかってきちまうんだ!!」瞳を覗く、どうやら軽いノリではなく、本気(マジ)。なら、変に調子はこかないだろうから、心配は無用だ。俺も、ここで腹を括る。さすがに無駄に戦闘意欲があるわけではないが、魔法を使うには十分だ。「そこでへばってる愚図共!!いつまで寝てんのよ、早く戦闘に参加しなさい!!」「よし、行くぞっ!!」「おうよ!!かましてやるぜ!!」熾天使の怒号を合図に、俺たちのデビュー戦が開幕した。

 起き上がってすぐ、「龍神、右!!」「おうよ!『炎を宿せ我が拳(バーニング)』!!」右拳でアッパーを食らわせて、そのまま「『発火(アルデント)!!』」体から炎を出し、奴に着火し、「『火脚・突蹴(ひきゃく・とっしゅう)!』」蹴り飛ばす。「まだ来るぜ、創太、お前の方もだ!」左手には別に二体。「うぉあ、マジか!」「グルル……ガウ!!」「バアァ!!」噛みつきの斬撃と、別のやつが口からはいた火の玉が飛んでくる。「やっべ!」急いで横へ飛び、「龍神、後ろ!!」「あいよ、攻撃だろ……なら」そのまま突っ立って、直撃。だが、何ら驚くことはない。なぜなら……「へへー、わりいな化物……」彼の体は……「炎になれるんだ(・・・・・・・)、俺」たった今、炎そのものに変わった(・・・・)からである。「『状態変化・炎』、俺の体はこんなんじゃやられねぇ!!」状態変化は超高度な魔法の一で、まず自らを構成するものの性質を丸々変え、さらに形状変化・維持などなど、それに集中力も必要なほどであり、慣れてないと、もって数秒だ。それをあいつは長時間、激しい戦闘でも乱れず、形状まで高い自由度をもって変化させたり、部分的に変化、解除を行う、自身の状態変化が元の炎を体の周りに大量に纏わせるなどもできるうえ魔法陣展開や詠唱もすっ飛ばして扱える。時々魔法陣無しに展開する魔法も、もとは彼の体から出した炎の時もあるくらいだ。もはや、無意識的領域。この年であまり苦労せずにここまで使える人は、そう多くはいない。「さあ、お返しだ!」そのまま左右の腕付近を炎にし、炎を纏った二つの拳を胸のど真ん中にめり込ませた。断末魔が響き渡り、釣られて」湧いてくるように別のやつも来る。「よおし、俺だって…………『御子の大聖骸布(トリノ・シュラウド):第一形態・聖遺物収納庫(デュランダル)』」まずはこれ。次に「『同時展開:第二形態・罪人よ、赦しを請え(ディバインド)』」マフラーの先が敵に向かって伸び、周りを囲み、本体から独立してから一気に締め上げる。「グギッ!!」この拘束はよほどの魔法攻撃でない限り無理やり外すことはできない。人であれば悔い改めるまで解けることはなく(そのため当然ながら罪人、悪党にしか使えない)、悪魔(リリン)超の付くほどの悪党(エグリゴリ)に関しては絶対にほどけることはない。少々ずるいが、一方的な攻撃ができる。「『風刃剣』」先と違い、しっかりとした風の刃を聖遺物収納庫に纏わせ「やあああああぁぁっ!」動けない敵を斬る。後ろから足音、それにも反応して「せいやあぁぁっ!」斬る。血が飛び散り不快だが、何とか戦える。「はあ、はあ」とはいえ、慣れてない動き。どうにも座学知識だけではわからならないことのおかげで大変だ。だが、この調子でいけば必ず乗り切れる。そう思いながら一体、また一体と、地獄に送り返してやった。

 




アルファベット表記:グーグル翻訳を使ったラテン語

ディバインド:造語


技名考えるのだるシング

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