マトモな小説を書くと失敗するという謎の状態に俺は顔を覆っている。作り直すか…………このギャグで行くしか無いらしい。
「エンタープライズは此処かぁ!?」
「――――――――見つけたぞ、尋常に死ぬが良いエンタープライズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!」
扉が突然蹴破られた。この日ほどヤツに感謝した日はない――――――そう、高雄である。
入り口から見れば否応なく目に入るのは俺達の売れないトレンディドラマみたいなハグ模様。一瞬だけ高雄の眼が俺に向けてギラつく。
初めて殺意をセイレーン以外に向けられたので背筋が凍らせていると、高雄がすぐに視線を外した。
「貴様――――――いや、そなたはエンタープライズではないのか」
秒で見抜かれただって!? 何を見て判断したのか後で詳しく聞きたいところである。
いや高雄の心眼じみた観察眼は勿論びっくり仰天だし驚くべきタイミングなんだけどエンタープライズの顔が近い!? 近すぎる、辞めて!
完璧に脱力して抱き抱えられるままの絵面はハッキリ言って相当恥ずかしく、柄にもなく蚊の鳴くような声で
「ヘルプミー…………」
としか言えなかった。すかさず高雄が目を細める。
「…………助けを乞うているには気の抜ける空気感、指揮官殿か。何だ、どうなっている」
「洞察力が有るのは分かったから助けて! 近い、ああ辞めて!?」
どんどん顔を寄せてくるエンタープライズを手で押しのけるが力が思うように乗らない。背筋の凍るような気色悪さに頭がメチャクチャだ。
高雄は暫く俺と顔を見合わせるなり能面のように固まっていたが、赤城を背負ったまま暴走するエンタープライズの姿に何かを見出したのだろう。小さく口角を上げて眼がまたギラつく。
「何となくだが、珍しく拙者の暴力が正当化される展開だな! よしブッ叩いてやろう、覚悟は良いか!?」
「もう何でも良いから早くして…………」
委細承知、と呟く刹那に高雄が目の前まで詰め寄った。その速度は数メートルを一足に詰める程の、まさしく「一瞬」。
――黄金に燃える瞳が僅かに揺らめくと、気づけばその手は竹刀を両手で強く握っていた。眼でもなく、顔でもなく、ただ全体像を見据えて射殺さんばかり。
エンタープライズがすぐさま俺から手を離した。
「――――――捕捉。竹刀の歪み、想定内。姿勢に綻び無し。呼吸の乱れ、調整範囲内」
まるで機械がアクション前に確認でも取るような呪文、流れるような息遣いのまま続いていく。
「我が一撃、他物を殺すに非ず。唯『斬る』のみ」
飛び込みながら大きく構えたその竹刀が、歪んで見えるほどの速度でエンタープライズに疾走る。まるで体の一部のように力の逃げが視えない。
眼すら閉じた其れはまさしく心技一体。視覚ではなく脳による空間理解だけに依存した一撃は、確かに尋常の反射神経では回避不可能な軌道を描いていた。
だが相手は尋常ではない。エンタープライズは直感的に首に向かって横に振られる竹刀を察して、背を向けながら思いっきり走り抜ける。
赤城の靡く髪が数本程切れた。
「指揮官の体であろうとお構いなし、か…………ッ!」
「甘い。命令であれば、拙者は指揮者であれ殺してみせよう。『刀』に斬る相手など関係無し」
決意に煌めく眼を見ると、エンタープライズは話など無意味と悟る。
竹刀を手早く持ち直した高雄が目を瞑り、静かに剣先をエンタープライズに構える。
「その足捌き、見事だ。では――――――これはどうする」
目を見開いた高雄が、ツェッペリンの後ろの窓目掛けて全力疾走するエンタープライズにまた一度の跳躍で目前まで到達。
後ろに引いていた竹刀を凄まじい勢いで突き出す。エンタープライズと高雄の身体の正中線をなぞるような軌道は正確で美しく――――また恐ろしい。
「殺す気なのか、高雄――――!?」
冷や汗を流したエンタープライズはまた人ならざる奇妙な身のこなしで横に躱す。
高雄が其の目を睨む。
「殺そうとしてやっと半殺し。拙者は常に貴様を殺すつもりで追っているに決まっておるだろう――――ッ!」
続いて構えに入った高雄に目を剥きながらエンタープライズが窓から飛び降りていく。
二階だから心配はないと思いたいが――――と思考が元に戻る瞬間、我に返って身体が崩れ落ちる。遅まきに状況判断をしてしまったらしい。
すぐさま駆け寄った高雄に支えられる。
「流石に指揮官殿を捨て置くことは出来ぬ、か――――――チッ、次に会った時はブッ叩く」
窓の方向を睨む高雄に思わず抱きつく。
「うわ!? な、何だ気色悪い!」
「あ”り”か”と”う”! こ”わ”か”っ”た”ぁ”!」
男に迫られるってこんな急に怖くなるもんなんだな、腰抜けた。これから痴漢撲滅運動とか参加してみたくなる勢いだった。
いきなり抱きついてきた俺はさぞ気持ち悪かったことだろうが、高雄は表情を七変化させるなり俺を引っ剥がそうとして手付きに迷ってしまう。エンタープライズなら竹刀でブッ叩かれてるんだろうなあ、と何だか冷静な俺が居た。
人の好意に甘えている感じがしてすごく自分でイラッときたが忘れておこう。
「はぁ…………駆逐艦の前で情けないことを言われても困る。アレぐらいもいなせずして如何様にこの鎮守府で生きるつもりなのだ」
「あそこまで生理的恐怖を覚える目つきされると俺もどうしようもない」
アイツ高雄が来るのが遅かったら俺にマジで何をする気だったのか分からないし想像したら寒気がして顔を気絶するまでくさやでしばき倒したくなる。
もう泣くのも止まらないまま抱きつきっぱなしの俺に変な事もできないと思ったのだろうか、バツが悪そうに頭を激しく掻くと折れの頭をグシャグシャと撫でる。
「ううむ…………よく分からんが、そこまで大の男に大泣きされては無碍に出来ぬ。もう好きにして下され――――――こういう態度は対応に困るぞ」
惚れた。
「さて、だいぶ落ち着いたから取り敢えずケッコンしようか高雄」
「指輪は力に繋がると聞く、良いというのなら一向に構わない」
「よし今持って「待て! 卿もそれはダメだと言っておったろう!? せめて熟慮の上で渡すべきだ要するに落ち着けと言っておるのだこのチョロイン気質め!?」
――――――――そうじゃん!? 渡したら1000チャンぐらいで鎮守府が崩壊したりしなかったり。多分崩壊する。
危ない危ない、俺はギャップに極端に弱いんだ。
「という訳で若干迷うがごめん。無理そうだ」
「いや、拙者も己の力のみで
「ルビでは誤魔化せない「ブッ叩きたい」の文字列破壊力」
何か殴るのに美学とか有るんですかね、俺はもう其処らへん恐ろしくて聞くに聞けないわ。
取り敢えずお菓子は増やすという旨だけ伝えて帰ってきた。実は軍から金をちょろまかしているのでその程度なら足も出ないという寸法である。
お偉方はメンタルケアの費用の考慮が皆無なのでちょろまかすのも致し方なし。
「ところで、指揮官は何故高雄を此処まで連れてきたのだろうか」
今は暇らしく、どうせならとついてきたフィーゼちゃんが無軌道に俺に尋ねてくる。
良い質問だワトソンくん。
「いや、あのエンタープライズ――――――というかケダモノから護衛を頼みたくてな」
「拙者が、か? 守るより殴った方が速いぞ、意識を飛ばせば良いだけの事だ」
「其処は抑えて「了解した」とか言って欲しい」
何で暴力的解決案しか模索できないんだお前は。
ツェッペリンが俺達の漫才を見ている内に疲れてきたのだろう、大きな溜息をつくと部屋を後にした。
「我はもう休もう――――――」
最初はお大事に、程度に思っていたが扉を出てすぐに
『ま、待て!? ここから朗読か!? 我も流石に体力の限界が――――――待て、待て魚雷だけは容赦せよ!?』
と中々可哀想な声をこちらにお届けしたが『おい、卿も聞いておるのだろう!?助けろ!』、正直面白いので放置することに『憎んでいる、全てをッ!!!!』した。
フィーゼが扉を指さしてキョトンと俺に尋ねる。
「グラーフは放っておいて良いのか?」
「良いんだよ。ああいう輩はたまに痛い目を見るぐらいでちょうどいいし、ギャグ小説的にもバランスが取れるからね」
「そうなのか、では仕方ないな」
『聞こえておるからな!? おのれ、マトモな死に方が出来るとは思うなよ――――ア、ハイ。イクノデギョライダケハ』
それはコッチのセリフだ煽動厨。お前の罪はエンタープライズだとか加賀だとかよりはよっぽど重いことをご自覚下さいだバカヤロー。
段々と遠ざかっていく声に頷きながら席に着く。
「よし、じゃあ高雄が今から秘書艦ということで!」
「まあそれは構わぬが、随分久しぶりだな。そなたの執務を監視するのは――――――」
そういやコイツ意外とそこら辺厳しいんだった。「仕事は仕事、遊びは遊び」というタイプだ。遊びは仕事、仕事は遊びの俺とは其処らへんが噛み合わない。
俺の知ってる高雄と随分違うと常々思うのだが、ここだけは唯一よく知っている性格だ――――いや全員全然俺の知ってる艦ではないがな?
「指揮官殿はいつも仕事が遅いからな、やればもっと早く出来るだろう」
「やらないから出来ないんだよ。やればどうとかいう想定が無意味」
「指揮官、それは正当化で使う論理ではないと私は思うのだが」
フィーゼちゃんのキレッキレのツッコミで俺が昇天する。耳が痛い事を言わないで頂けると嬉しいのですがね?
書類をざっと見てさっきまでの進捗を確認して取り掛かる。
「 何 も し て な か っ た な 俺 ! 」
「呆れたものだ、それでエンタープライズと乳繰り合っておったと…………?」
「乳繰り合ってないから!?」
やめろよ気色悪い――――――ああ思い出すだけでゾワゾワする!
両肩を抱いて気味悪さをこそぎ落とすような仕草を咄嗟にしてしまう。
アレ。何か俺、段々女っぽい動きしてきてない? いや気のせいだなそういう事にしておこう。
「ああ、キモチワル。さっさと仕事しよう」
「そうしてくだされ――――――はぁ、エンタープライズと話しておるようで疲れるな」
そう言われても対処法も見つからないわけだし。
仕事に戻ってみた感想だが、何気なく印を押すだけでも武骨な手とオサラバ出来るのは素晴らしきかな。どうせなら美少女の美しい手で生きていきたいよなそりゃあ。
声は男の頃の方が圧倒的に慣れてるから違和感が凄いが、カラオケとか行くときには便利そうな声帯をお持ちのようだ。ただ俺が喋ってるから口調とかが若干荒いけどな。
「ふぅ…………慣れない身体だと一々カルチャーショック的なサムシングを受けて集中できない」
「エンタープライズの声でそんな軽い喋り方をされると拙者もサムシングを受けるがな」
「フッ――――何だ、カッコをつけた方が良いとでも?」
精一杯の不敵なイケメンスマイル。声は宝○意識。
「いや気色悪いぞ指揮官殿」
「バッサリ行くな高雄は!?
うーん、気持ち悪い。だが咄嗟に出る言葉選びが段々と変わってきてるような…………。
高雄と見合わせて首を傾げていると、フィーゼが俺のスカートを軽く摘んでくる。
「先程から思っていたが――――指揮官の言葉のイントネーションは、若干だがエンタープライズに似てきていないだろうか?」
「えっ、何でそんなピンポイントで観察してるのフィーゼちゃんっていうかそれマジ?」
コクコク、と赤べこのように頷いて肯定される。
「語彙センスも僅かながら寄ってきている――――――もしや、身体の方に引っ張られているのではないか?」
「そ、そんな馬鹿な事が。幾ら言っても私は男だぞ――――――ああだから私じゃないって!?」
いや図星だわ、何か妙だぞ。
違和感がある。いつもの喋り方をしようとすると明確な違和感がある、しかもちょっとずつ抵抗感が強くなってきてる気がする。
これヤバくないか、ってことはアイツも――――――。
「――――――ハッ! 指揮官、どこだ捨てないでくれ!」
「ひゃあ!? な、何だ加賀か」
「明らかに女の悲鳴だが指揮官殿、大丈夫か?」
やかましいわ! お、俺は男だぞ! 多分。
ガバリと突然起き上がった加賀がキョロキョロと辺りを見回す、やはり俺が一目では判別できないらしい。高雄がおかしいんだ。
凄い勢いで俺をロックオンしたかと思うとかけてやっていたチェスターコートを顔に押し付けてきた。
「い、息。息が」
「私を子供扱いするんじゃない!!!!!!!!!」
いやしてないんだけど。
窒息死寸前でお見せできない青い顔をしている俺など何処吹く風、フィーゼが無軌道に考察を挟んでくる。
「成る程。今のは俗にいう「ツンデレ」か、加賀は子供扱いされて嬉しさ半分恥ずかしさ半分という事らしい」
「違うぞZ46!!!!!!!!!」
顔を真赤にして一人百面相されながら反論されてもなあ。やめろ、コートをさらに強く押し付けてくるな息できない!?
正直な所、女としては見てない。所詮男なので色々負けるタイミングは有るだろうが、根本的に女に見えないのとポリシーの問題だ。
最後は上官であるべきだとこれで弁えてるんだよ。
「あの加賀さん? 窒息死する」
「――――――――ああ、悪かったな」
押し付ける力が一気に抜ける、急いで肺に空気を入れながらチェスターコートを着た。暑いけど、まあキャラ的にな?
加賀が俺と高雄を交互に何度も何度も見たかと思うと、頭を捻って手で顔を覆って大変難しい顔になる。
ジョジョ立ちみたいな奇妙なポージングで長考に入った加賀などなんのその、高雄は当然のように俺と加賀に茶を寄越すと部屋の端にもたれかかる。
「うん? う~ん?? う~~~~~~~~ん????????? 気のせいかそうだな、まさか高雄が秘書艦などと」
「いやそうだけど」
「おい!? 自殺するぐらいなら相談しろ、朝昼晩の食事も着替えのチョイスも全て私が解決してやるぞ!? いやむしろ解決させろ!?」
「自殺願望じゃねえから!?」
まだ言ってるのかよ其れ。お前も中々しつこい女だな。
加賀が慌てふためいて俺の両肩を持ったりするものだから、不機嫌そうに歩いてきた高雄が俺達に向かって呆れた顔をして尋ねる。
「おい、拙者は何だと思われているのだ」
「「くびかりぞく」」
何かバトルアックス持って変なステップ踏んでるアイツみたいなイメージだな。
「何故此処まで言われねばならぬ…………まあ、エンタープライズから守り抜く為だ」
ほうほう、と言った後に加賀は訳がわからんと言わんばかりに俺の方を見る。
「アイツ何かしたのか」
「俺を襲った」
「いつものことじゃないか、何を今更」
全くもっていつもの事じゃねえよ!? まあ盗撮写真買い占めたり逆プロポーズ連発したり挙動不審なのは事実だとしてもこんな直接的で酷い手段には手を出してないだろ!?
エンタープライズは一体何だと思われてるんだ…………。
「…………というかだ。エンタープライズの身体なら振りほどいて骨を103本折るのも容易ではないか、護衛は不要だろう」
「いやアッチが私の身体だから…………い、言いにくいが若干危なかったんだよ」
「何だと!? つまり私も籠絡可能と見て良いのだなそうなんだな!?」
いや、否定は出来ないがそう食い気味に言われてもな…………。というか頼むから辞めろ。
――ああ~思い出したくもない。俺としたことが男にオチかけるなど何たる不覚、しかも中身エンタープライズで自分の顔だぞ。一生黒歴史だわこんなもん。
加賀がまーた騒ぐなりに息の掛かる距離まで詰めてくる。
「………………どうだ!?」
「どうだじゃねえよ、私だって伊達で指揮官はやっていないぞ」
――――私? 不味い、本格的に戻れなくなってきてる気がする。
加賀も此方を見るなり言いにくそうな顔をして少し考えた後、絞り出すような声で指摘する。
「――――なあ。お前、雰囲気がエンタープライズに似てきてるぞ」
「辞めてくれないか!? わた――――俺はまだ男だ! た、多分…………」
クソ、魂と身体は容易に切り離せないとは言うがまさかこんな事になるとは。
これはいよいよ早く何とかしないと不味い、私は男だ。信じろ、男のはず…………多分な。
「指揮官殿、何かこうなった理由に思い当たる節は無いだろうか」
「わ、分からない…………朝起きたらこうだった、としか」
「イントネーションも若干似てきているな、面白いぞ指揮官――――いや、
「違う! オレは指揮官だ!?」
ああもう自分でもどっちだったか若干あやふやだ! やってられないなこれは!
乱雑に頭を掻きながら立ち上がる。
「おい、何処に行く気だ」
「取り敢えずエンタープライズを捕まえないとどうにもならない! 私の力なら捕まえれば勝ちだ、行ってくる!」
「落ち着くのだ指揮官殿! 取り敢えずアタリぐらいつけて――――ああ面倒だ! 纏めてブッ叩く!」
「クソ、この流れは私も放置とは行かないな!」
何かぞろぞろとついてきた。
ちょっと前までマトモな話書いてたから勢い無いかもしれないけど、勢いはともかく話の粗さみたいなのはそろそろ整理していきたい。
恋愛とかシリアス書いてるほうが…………ウケが悪い…………だと!?
もうギャグ混ぜちゃおうかなあ。無理って訳でも無いしぃ…………みたいな事を考えている内に時間が経った。コレのせいで妙なギャグだけは出来るけど一発ネタなんだよなあ…………。
という感じでかなり意味不明な伸び悩みに苦しんでます。これどうしようかな、「ハリボテの指揮官」もそうだけどギャグが有ったほうが良いのかもしれない。
分かってんだよ…………ぶっちゃけギャグ無しは向いてないってことはよぉ…………ッ! 諦めねえぞ…………。
今回聞いていたのはZガンダムの主題歌「Z~刻を超えて~」。昔から妙に好きなんですよ。
後異色ですがヴァイオレット・エヴァーガーデンのBGMの「A Simple Mission」。後者は聞いてもどうやったらこれが出来るかわからない良BGMなので機会があれば是非。