思い付き短編集 作:ゆっくりRUISU
1話
バァンッ!と、観音開きの扉が勢いよく開かれた。
「朝ダ、起キロ」
「一応上司なんだから加減してくれよ…。その対応、罪人に向けるノリだぜ?」
起こしに来た重巡リ級にそう答えつつ、永谷喜一はベッドから起き上がった。
さて、重巡リ級が起こしに来る辺りで気づいたと思うが、言っておこう。
ここは深海の鎮守府、というよりは泊地。
人間と艦娘、これらに敵対する深海棲艦であるが、資材のやりくりまで含めて指揮出来る程の能力を有する鬼や姫を、全ての拠点に配属するのは資材消費や戦力面、何より絶対数の面から得策ではない。
故に、地上に潜り込んだ潜入班が選定した人物を拉致し、こうして指揮官として祭り上げるのだ。
逃げられないのか、という点については、過激派等のもっぱら『今の社会を気に入っていない者』を選出することでリスクを下げている。
…それでも、たまに脱走しようとする者が出るのだが。
そうして連れてきた人間に対し、信頼が置ければ鬼・姫の力を使えるようになるネックレスを渡すのである。
喜一は、既にこのネックレスを首から提げている。
つまり、信頼を得てこの泊地にいるのだ。
…本人は、死ににくいと不満の様だが。
ともかく、喜一はリ級と共に食堂に向かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ヘイラッシャイ。
リッサンハ塩風味ダヨネ。
司令(仮)ハドウスル?」
「いい加減その(仮)外せって。
んで、今日は軽めでいい。昨日出てないしな」
「リッサンモヤメロ。
…後、塩風味デイイ」
「アイヨー。司令(仮)ハ変身シトイテネ」
「…もういいや。変身っと」
相変わらず司令(仮)と呼んでくる雷巡チ級に諦めつつ、喜一は深海棲艦に変化する。
喜一はその限りでは無いが、戦艦棲姫等の大型の艤装を持つ深海棲艦を引き当てた人間が手狭な食堂で艤装を展開した所、食堂が全壊したという余所での過去の経験から、この変化形態が追加されたのである。
閑話休題。
変身を終えた喜一は、補給を受け取ると席に着く。
そう、補給。
この泊地では、悠長に食事を作る余裕などなく、燃料や鋼材、弾薬などを経口で-有り体に言えば、食って補給している。
腹を満たすと同時に補給を済ます、というブラック度合いだが、贅沢は言っていられない。
故に、喜一はコップに注がれた燃料を飲み干し、若干の鋼材を喰らって補給を済ませると執務室へと向かっていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
喜一が書類仕事をしていると、ドガァンッ!と扉が吹き飛んだ。
「オイ、緊急事態ダ」
「扉は非情事態だっ!」※誤字じゃないよ!
ノック代わりに扉を壊して入室したのは、戦艦タ級。
「…んで、緊急事態って?」
「艦娘ガ領海内ニ攻メテキタ」
「マジな方の緊急事態かよっ!?
編成どうなってんの?」
「大和ト武蔵、瑞鶴ニ北上ト木曾、島風。オマケニ赤城ト加賀、金剛ト比叡、ソレニ伊勢ト日向ダ」
「呉第一鎮守府のガチな連合艦隊じゃねぇか、容赦ねぇな!
…攻撃されてんのか?」
「マッスグコノ泊地ニ向カッテイル」
マジか、と頭を抱えたのは数秒、喜一は立ち上がった。
「とりあえず迎撃準備!
タ級はル級とヲ級にチ級、後リ級にも声掛けといてくれ、俺は時間稼いでくる!」
「死ンデコイ」
「上司に向ける言葉としちゃおかしいなぁ!?」
「ア、ソロソロレッサーガ戻ッテクルゾ」
「…逝ってくる」
「逝ッテラ。レッサート一緒ニ裏取リシテ仕掛ケル」
「それでよろしくっ!」
そう言い残すと、喜一は海面へと向かって行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「…艤装、展開」
そう呟くと、喜一の艤装が生み出される。
手に1枚ずつ保持する2枚の大盾と、頭・肩・胴・腰を覆う直線的な装甲。
足回りは、海面に立つ為の最低限のみ。
そして、鎖骨の辺りに装甲を兼ねる鞘ごとマウントされた剣2本と、頭部の装甲に内蔵する逆探。
これが喜一こと『要塞棲鬼』の艤装の全てである。
主砲も魚雷も、艦載機も持たない。
尚、服装に関しては黒いライダースーツをイメージして頂きたい。
「…サテ、行クカ」
そう呟き、喜一は海上に飛び出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
海上に飛び出した瞬間、喜一は大量の砲門を向けられた。
「ソウ来ルヨナッ!」
言いつつ、砲撃能力のない喜一は海面を踏み締め-跳躍。
横っ飛びで強引に一斉砲撃を回避した喜一は、筋力強化を使用して駆け出す。
続けて放たれた金剛型と伊勢型による砲撃を、両腕の盾で防ぎ、受け流す。
何発か防ぎきれないが、上半身を覆う硬化した装甲に阻まれ、致命傷にはならない。
だが直後、喜一の脚は魚雷に吹き飛ばされ、鮮血が海面を青く染めた。
「…甲標的カッ!」
雷撃をしたと思われる艦娘が近くにいないので甲標的と推定した喜一は、しかし最早動けない。
…普通、ならば。
数秒ほどで足を再生させた喜一は、再び跳躍して雷撃機からの魚雷と爆撃機による跳躍爆撃を回避する。
そのまま盾を構え直し、疾駆。
だが数秒後、その盾に大和型による46cm砲が命中した。
接近せざるを得ない喜一にとっては、近づくにつれて砲撃の威力は徐々に強まる。
故に、今の46cm砲は、カタログスペックよりも火力が増しているのだ。
しかし、盾は軋んで悲鳴を上げながらも耐え抜いた。
そのまま強引に接近し。
-射程に捉える。
「ソノ主砲、貰ウゾ」
直後、喜一は上半身の装甲をパージし、盾も投げ捨てた。
一気に身軽になった喜一は、パージした装甲から2本の剣を引き抜いて艦娘達へと向かって行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「いやぁ、疲れた疲れた…。
こっちの損害は?」
「私ノ艦載機ガ消耗シタノト、リッサンガ中破シタ程度デス」
「リッさん呼びは固定か…。
てか、なんで呉はあんなガチ編成で攻めてきたんだ?」
「サァ?アチラノ事ハアチラニシカ分カリマセンシ」
そう言われ、喜一は思考を放棄した。
「…まぁいいや。リッさんは一旦修復拠点まで下がらせといて。レッサーは?」
「『俺ノ尻尾ハッ、飢エテイルッ!』
ダソウデス」
「尻尾だけならまだセーフ。本体が飢え始めたら凸らせる羽目になる」
「…デスネ。
ソレデハ、失礼シマス」
そう言い、ヲ級は退出した。
「…さて、資材含めてやりくりせんとな。今日は寝れそうにねぇや」
そう言い、喜一は書類を捌き始めた。
「後方基地ガ墜チタッ!」
「致命傷だぁ!?」
喜一はぶっ倒れた。