思い付き短編集 作:ゆっくりRUISU
呉第一鎮守府。
通常であれば艦娘が集まるそこには現在、珍客がいた。
「ソウイウワケデ、一時的ナ休戦ヲ頼ミタイ」
「えぇ…」
深海棲艦リ級は、愛梨目掛けてそう提案した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
事の発端は数日前。
喜一が遠征に出した深海棲艦たちが、損傷した状態で帰投したのだ。
しかも、話を聞くに深海棲艦に襲われたのだという。
確認のために襲撃された辺りの泊地に問い合わせたが、やはり謎の深海棲艦によって被害を受けたという。
念のため深海本部に報告しようとしていた所で、問題が発生した。
喜一が問い合わせた件の泊地が、壊滅したのである。
それも、複数。
更に調べると、恐るべき事実が発覚する。
壊滅した泊地の順番から察するに、謎の深海棲艦の艦隊は喜一が率いる泊地に向かっているのだ。
これを受けて喜一は再び泊地の放棄を決定、報告を入れてから他の泊地へと逃走を開始した。
が、しかし。
逃走を続ける喜一たちを嘲笑うかのように、その深海棲艦の艦隊は進路を変更して先回り。
喜一たちが退避先に選んだ泊地を壊滅させてしまった。
咄嗟に喜一たちは進路を変更。
呉第一鎮守府目掛け逃走した。
しかし。
飛ばしていたヲ級の偵察機が、1隻の深海棲艦の突出を捕捉した。
「敵艦接近、数ハ1。海面ヲ走ッテクル」
それを聞いた喜一は、『自分が相手をするべきだ』と直感し、叫んだ。
「リ級!全員連れてとっとと鎮守府まで逃げろ!俺が時間を稼ぐ!」
乗っていたイ級から飛び降りつつ、喜一は艤装を展開する。
そして、突撃槍を右手で構えて突撃した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
突撃して数分、喜一はその深海棲艦を捕捉した。
やけに外装が分厚く、そして主砲を三門備えている。
更に、艦載機を現在進行形で発艦させている辺り、戦艦と殴り合える空母といったところ。
気にせず、喜一は海面を踏み締める。
そして、筋力強化をフルに発動させた全力でソイツ目掛け突撃する。
喜一の突撃槍が、謎の深海棲艦に向かい。
その穂先を、深海棲艦は苦もなく掴み取った。
「ナッ…」
「ヌルイゾ」
そして、要塞棲鬼となっている喜一をいとも容易く放り投げた。
放物線を描いて宙を舞った喜一は、水柱を上げながら着水する。
「大シタ事ハ無イナ、ロートル」
「何…?」
そう言った深海棲艦は、砲門を喜一に向ける。
それを見て取った喜一は、筋力強化を使って射線から逃れる。
だが、射線から逃れた喜一の顔面を、深海棲艦は蹴り飛ばす。
「速ッ…!?」
「遅イ」
吹き飛ばした喜一に対し、そのまま副砲を放つ。
爆炎に呑まれながらも、喜一は突撃槍を構えて突っ込む。
しかしその突撃は、深海棲艦の装甲に突き刺さった所で止められる。
直後、突撃槍は深海棲艦の拳によって柄をへし折られた。
得物を失った喜一は、咄嗟に噴進砲を深海棲艦の顔面に発射した。
視界を奪うために放った噴進砲は、狙い通りに深海棲艦の頭部で炸裂する。
その隙に喜一は、バックステップで距離を取りつつ砲弾を手に取って投擲した。
要塞棲鬼の腕力で投げられた砲弾は、口径こそ小さいが初速によって戦艦のそれとほぼ同等の威力となる。
だが。
喜一の目の前の深海棲艦は、戦艦の主砲程度なら自身の装甲と自己修復によって無力化できた。
故に、投げ続けられる砲弾を無視して突撃し、喜一をはね飛ばした。
「ガッ…!」
そして、主砲で喜一を照準する。
「冥土ノ土産ニ覚エテオケ。
我ガ名ハ、要塞棲姫ダ!」
その深海棲艦は、喜一と同じような名を名乗ってから砲撃を放つ。
その砲弾は、46cm砲にも耐えた喜一の装甲を紙かなにかのように撃ち抜いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
喜一が要塞棲姫に負けた頃。
リ級たち一行は呉第一鎮守府に辿り着き、ここで冒頭に戻る。
と、ヲ級が口を開いた。
「リ級。司令ガ負ケタ」
「何?奴ガ負ケタ?」
「偵察機カラノ情報。
タイマンデ負ケテ主砲喰ラッタ」
それを聞いた艦娘たちに、動揺が走る。
以前要塞棲鬼が侵入してきた時には、捕獲用の装備を含めて艦娘をほぼ総動員して捕獲したのだったが、迫っている深海棲艦はその要塞棲鬼をタイマンで圧倒したという。
「…ともかく、情報を精査する必要があります。一時的に拘束します」
「構ワナイ」
そう言うと、リ級たちは地下牢へと連行されていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日、這うような速度で要塞棲鬼は呉第一鎮守府の哨戒海域に辿り着いた。
「うわ、要塞棲鬼!」
「ネ、燃料ヲクレ…」
哨戒していた艦娘、川内に曳航されて喜一は呉第一鎮守府へと到着する。
そのまま連れていかれた地下牢は、部下の深海棲艦たちで溢れていた。
「オッ、司令(仮)!案ノ定死ニゾコナッタネッ!」
「シバクゾ?…アァ、ソウソウ。槍折レチマッタ」
「ノォォォォォ!?」
喜一が槍が折れた事を伝えると、チ級は崩れ落ちた。
と、そこに愛梨が降りてくる。
「…要塞棲鬼。情報共有したいんだけどいいかしら?」
「構ワナイ。…ット、ソウイヤコレ聞キ取リニクインダッケ?」
そう言うと、念のため喜一はリ級に確認の視線を向ける。
コクリ、とリ級が頷いたのを見て、口を開く。
「…艤装解除」
直後、喜一は黒いもやに包まれた。
そのもやが晴れると。
「…これでいいか?」
人間に戻った喜一が立っていた。
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「…て感じだな」
チ級と明石、夕張が要塞棲鬼を改造し始めた中、喜一が要塞棲姫の情報を話し終えると、愛梨が口を開く。
「戦艦と殴り合える砲戦能力に、正規空母並みの艦載機運用能力、加えて自己修復能力と要塞棲鬼を上回る運動性…。
ちょっと欲張りじゃない?」
「でもって深海棲艦を襲うと来た。深海本部は要塞棲姫の一派に対して敵対勢力と認定した」
「ちょっと訂正。襲うのは深海棲艦だけじゃないわ。他の鎮守府の話だけど、艦娘も襲われてるし、民間船も襲われてるらしいわよ。大本営も要塞棲姫を敵対勢力として見なしてる」
それを聞いた喜一は、ふと考えてから再び語り出す。
「…となると元の艦は、ほとんど動かずに沈んだらしいな」
「どういうこと?」
愛梨の疑問に、喜一は答える。
「たまにだが、深海棲艦は元の艦の影響を強く受ける個体が生まれる。あまり戦おうとしなかったり、機械弄りが趣味だったり」
「そんなもんなの?」
「そんなもんだ。
…んで、その内『艦として稼動した経験』がほとんどない奴が元の深海棲艦は、手当たり次第に『動く物』を攻撃するようになる」
「…けど、随伴艦がいるのは?」
「随伴艦は作ったんだろう。沈んだ艦の残骸に姫級が思念を流し込んでやれば意思のない深海棲艦は作れる。
この思念が強ければ強いほど作れる深海棲艦も強くなる。奴等は既に複数の深海棲艦の泊地を壊滅させてる辺り、相当強い思念だな」
「なんてこと…。守りきれるかしら」
「守りきれなきゃ全滅だ」
スッパリと喜一は言いきった。
以上。
明日も更新する…筈。