グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ)   作:水郷アコホ

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09「ニコラとカレーニャの事」

 ──アンナがカシマールを残して試着室の奥に消え、15分ほどだろうか。

 ──ニコラが通算3つ目のラックを引いて試着室に運び入れ、入れ替わりに中から別のラックを引き出し店の奥へ片付けに言った。

 ──並ぶ服の色合いから見て、最初に運び入れたラックである。早くも全て候補から外れたらしい。試着室内に便利かつ迅速な着替え装置でもあるのかも知れない。

 ──試着室からは引っ切り無しに声が漏れている。主にカレーニャの熱の入った声と、アンナの悲鳴。時折、ドリイの声も微かに聞こえる。

 

 

 

アンナ

「こ、こ……こんなの、恥ずかしいぃ~……!」

 

カレーニャ

「オフショルくらいで(ぬぁに)ヘナチョコ抜かしてますの田舎娘!」

「ちったあエルーンを見習いなさいな。そのデコルテ持ち腐れるおつもり!?」

 

アンナ

「デ、デコ……?」

 

ドリイ

「カレーニャ。落差が大きすぎます。せめてケープ等を合わせては……」

 

カレーニャ

「O・BA・KA! この色と柄に上から乗っけて合う被せモンが有るってんなら出して御覧なさいな!」

「……っだぁ~もうだからシャンとなさい! 背すじ伸ばしてこそ映えるように選んでますのよ!」

「女が背中(せな)を丸めて良いのは(なお)も突き出すモノを身にツけてからですわ! ヒューマンならD以上!!」

 

アンナ

「デ、デ……Dは無理だよぉ~……!」

 

 

 

 ──試着室の外では、団長、ルリア、カタリナ、ビィ、そしてカシマールが漫然と扉を見守っていた。

 ──最初は皆、気が気でなかったが、次々と押し寄せる綺麗な服やアクセサリーの数々にルリアが目を奪われた辺りから、緊張の糸が続かなくなっていた。

 

 

 

ルリア

「カタリナ、『でぃー』って何の事でしょう?」

 

カタリナ

「さ、さあ~何だろうなあ。た、多分、魔導士の間で通じる隠語の類とかじゃないかな……」

 

ニコラ

「ただいま第四弾を~……っと、白熱してますね。この調子ならそろそろ決まりそうです」

 

 

 

 ──ニコラが新たなラックを引っ張ってやって来た。

 

 

 

ビィ

「店員の姉ちゃん行ったり来たりでもう汗だくになってるぞ。大丈夫か?」

 

ニコラ

「このくらい服飾店員なら日常茶飯事ですよ!」

「それにカレーニャが久しぶりに既成品でコーデ希望してきたんです。疲れてる場合じゃありません!」

「あ、そうだ。待っている間、退屈なようでしたら何かお飲み物など……」

 

カタリナ(リーナ・カーター)

「いや、大丈夫だ。むしろ君が水分をよく採った方が良い」

「それとその……わ、私はこの島に来て日が浅いのでよく解らないのだが、カレーニャのあの熱の入り様は一体……?」

「他人の服を選ぶのなら君達こそ本職だろうに、今のニコラ殿の言葉はむしろカレーニャの行動を待ち望んでいたかのようだし……」

「迷惑という事では無いのだが……ブレーキ役を申し出たドリイ殿もむしろ協力的なようで、少し面食らってしまってな」

 

ルリア

「言われてみると、カレーニャちゃんがアンナちゃんを連れて行った時、ドリイさんが……えーっと、『なんとかいってん』とか、また止めに入ると思ってました」

 

カタリナ

「差し支えないようだったら、少し話を聞いても良いだろうか」

 

ニコラ

「あ、はい。そういうことでしたらお任せください!」

「その前に、ちょっとだけ失礼しますね──」

 

 

 

 ──ニコラは今しがた持ってきたラックを試着室に運び込む。開いたドアの向こうはカーテンがかかり見えないが、喧騒が一層はっきりと聞こえてくる。

 

 

 

カレーニャ

「だーからガーターで吊りゃあお望み通り生脚隠せるってんでござあましょうよ!」

「何でソコだけそこまで抵抗なさあますの!? ドロワ原理主義!?」

 

アンナ

「だ、だだ……だから、せめて一人でやらせてってぇ……」

 

ドリイ

「カレーニャ。不可視の領域まで見立てるのは行き過ぎです。我々の本分を──」

 

 

 

 ──バタン。

 ──ニコラが爽やかに汗を拭きながら、引きつった苦笑を浮かべる一行の元へ戻ってくる。

 

 

 

ニコラ

「お待たせしました!」

 

カタリナ

「……アンナの身が、色々な面で心配になってくるな」

 

ニコラ

「大丈夫です。カレーニャも鬼じゃありませんので。……多分

「えーと確か、『何故カレーニャを誰も止めないか』でしたね」

「率直に申し上げますと──アンナ様にはちょっと申し訳ないのですが……『カレーニャのため』、ですかね」

 

カタリナ

「『カレーニャのため』? ……つまり、アレは敢えて誰も咎めていないと?」

 

ニコラ

「はい。お店としてはカレーニャが上得意様と言うのもあるのですが……ま、そういうアレは別としてですね──」

「まず、そうですね──実は当店の衣装や小物、何点かはカレーニャのデザインを元に売り出されてる物なんですよ」

 

ルリア

「え! じゃあ、カレーニャちゃんファッションデザイナーさんなんですか!?」

 

ニコラ

「はい。今日も皆様お連れでいらっしゃる前に一度来られて、新しいデザイン画を頂いたり、実際に形にした衣装について打ち合わせしてたんですよ」

「あ、でもこの事は他言無用でお願いしますね。カレーニャの要望で、売り出す時に名前は伏せられてるので」

 

カタリナ

「ああ、構わないが……しかし国一つを魔導グラスで支えているだけでなく、服飾業までこなしていたとは……」

 

ニコラ

「はい! ……ん? あ、あーいえそのぉ……すみません。ちょっと嘘つきました」

「正確に言うと、お仕事としてカレーニャにデザインを依頼とかはしてないんですよね……」

 

ルリア

「……? お洋服を作って、商品にして、でもお仕事じゃない……?」

 

ニコラ

「……カレーニャの趣味なんです。幼い頃から、新しい服を考えたり、誰かを綺麗に着飾ったりするのが」

「カレーニャの家庭で、その……色々あってからは彼女、魔導グラスに付きっきりで──」

「大好きな服の事は、たまにデザイン画を私に見せに来るか、出来た服の出来を見るために組み合わせてみるくらい……」

「このお店、カレーニャのご家族に昔から贔屓にして頂いてまして。だからそのよしみで、カレーニャと昔から面識のあった私がデザイン画を受け取って、良いものがあるとカレーニャと合意の上で、たまにお店に並べてるんです」

 

 

 

 ──いかにも話しづらそうに、視線が右に左に泳ぎ、手をソワソワとこすり合わせ、手近に触れたピンキーリングをクイクイと軽く回すように撫でたりと忙しない。良く言えば、見てて退屈しない。

 

 

 

カタリナ

「そうか……そういえばカレーニャのご家族は……」

 

ビィ

「あのハチャメチャっぷりですっかり忘れてたぜ……」

 

 

 

 ──カレーニャが家族を失った身である事を思い出し、しんみりとした空気が降りかかる。が……

 

 

 

ルリア

「あ! だから、『カレーニャちゃんのため』なんですね」

 

カタリナ

「ルリア?」

 

ルリア

「カレーニャちゃん、アンナちゃんのために久しぶりに綺麗なお洋服を選びたくなって、お店に来て──」

「だからニコラさんもドリイさんも、皆カレーニャちゃんを元気づけたくて協力してるんですよね」

 

ニコラ

「はい。……って、そういえばそんな話をしてたんでしたね」

 

 

 

 ──バツが悪そうにニコラが笑う。どうも少し勢い任せな所があるようだ。

 

 

 

ニコラ

「アンナ様は人見知りされるタイプみたいでしたから、悪いかなーとは思ったんですが……」

「でも、素敵な自分をお探しに来たならどの道、って……」

 

ビィ

「いやぁ、だからってあんなに振り回されるの黙ってみてるってのは……」

 

ニコラ

「その辺は、身内として本当に申し訳ないですハイ……」

「でもです! 出来は期待して頂いて大丈夫です! 先程も申し上げましたがカレーニャのセンスは、プラトニアでも一流の当店で十分通用するレベルですから!!」

 

カタリナ

「うーむ……難しい所だが、確かにアンナの新しい服を見繕う必要はあったし、アンナの自主性に任せるのが難しかっただろう事も事実ではあるな……」

 

ニコラ

「更に申し上げるなら、カレーニャはメイクも着付けもバッチリですので」

「出来上がった服の調整とか出来栄えの確認は、いつもドリイさんで取っ替え引っ替えしてますから」

 

カタリナ

「ハハ……つくづくドリイ殿は苦労しているな……」

 

ビィ

「ん? なら結局、服作りも着せ替えもちゃんと続けてたって事なんじゃねえか?」

 

カタリナ

「仕事の一環と趣味とでは全く違うものだ、と聞くからな」

「合間合間の僅かな息抜きとか、勘を鈍らせないための作業的なものじゃなく、カレーニャが純粋に楽しんで打ち込めているか。周りからすれば重要なのはその一点なのだろう」

 

ニコラ

「まさにその通りです! それにカレーニャ、近頃はドリイ様みたいな大人向けの服のデザインばかりでしたし──」

「年頃の近い方をモデルにする今回は、きっと特に燃えてるんじゃないかと思うんですよ!」

 

 

 

 ──ニコラの顔はまるで自分の事のように嬉しさで綻んでいる。

 ──その様子にカタリナの頬が緩む。

 

 

 

カタリナ

「愛されているのだな。カレーニャは」

 

ニコラ

「え、あ、いえそんな……アハハ……」

 

 

 

 ──カタリナの言葉に、くすぐったそうな複雑そうな照れ顔でニコラが笑う。

 

 

 

ルリア

「あ! 普段はドリイさんでお洋服を仕立ててたって事なら、カタリナの服も選んでもらったらきっと凄く綺麗にしてもらえるんじゃあ……!」

 

カタリナ

「ルリア!? そもそも、今回はアンナのためにここに来たのであって──」

 

ニコラ

「いえ、大変興味深いです!」

「ローブの上からでも隠しきれないそのライン……そして整ったお顔のきめ細かい肌ツヤ……ドリイ様に勝るとも劣りません!」

 

カタリナ

「か、からかうのはよしてくれ! 私はそういうのは──」

 

主人公(選択)

・「カタリナの分も選んでもらおう!」

・「リ……リーナさん?」

 

→「リ……リーナさん?」

 

カタリナ

「──ッ!?」

 

 

 

 ──ビィもルリアもハッとする。カタリナの身分は、ここでは「リーナ・カーター」とする段取りだった事を、全員すっかり忘れていた。

 ──こういった店では熱がこもりやすい。カタリナも無意識にフードをずらし、少々汗ばんだ素顔がすっかり見えてしまっていた。

 ──カタリナが慌ててニコラに弁明を試みようとする。ルリア達の発言を許しては正直、墓穴を掘りかねない。しかしかといってカタリナ自身、何も言葉が出てこない。

 

 

 

カタリナ

「あ、いや……ニコラ殿……今のは、その……」

 

ニコラ

「へ……? あ、そうか。そういえば先程は『リーナ・カーター』さんとお伺いしてましたっけ」

 

カタリナ

「い、いや、その件については、何、というか……」

 

ニコラ

「あ、いえいえ。ご心配なさらないで下さい」

「お客様の事は『保護監査官研修のリーナ・カーター』様としか伺ってませんし、他にお客様の事で私共、何も見知ってはございません」

「まだまだ若輩でも私、一流店の従業員ですからね!」

 

カタリナ

「……口ぶりからして、最初から気がついた部分はあったようだな」

 

ニコラ

「それは、そのォ~……何故と訊かれますと、ちょっと説明しづらいのですが……」

「一目見た時から、カタリナ様も含めて皆様は島の外の方だな、と」

「それと先程からお話していて、カタリナ様については多分ドリイ様がそうするよう取り計らってくださってるのかなー、とも……」

「あ、でもそのお姿については全然大丈夫です。最初お会いした時から、何にも気になる所とかありませんでしたので! 本当に!」

「ドリイ様が一緒ならきっと、プラトニアの兵隊さんだって気づきません! 大丈夫です!」

 

カタリナ

「ありがとう……しかし、事実こうして見抜かれてしまうとな。ドリイ殿の手引きという事まで知られてしまうようでは……」

 

ニコラ

「い、イエイエイエイエ! ででで、ですからそれは──」

 

 

 

 ──ニコラが慌てて何か否定しようとしたその時……

 

 

 

カレーニャ

ぃよしオッケー! 一丁上がりですわ!!

 




※ここからあとがき


「ファッションデザイナー」の語句が出た時点で、



ルリア
「コルワさんみたいな!?」

ニコラ
「お。コルワさんが引き合いに出るなんて、カレーニャ喜びますよ」



 と言ったやり取りを挟もうかと思ったのですが、キャラのセリフで出したならば、ナレーションで少しは言及しなければならないかと思い、カットしました。
 レ・フィーエやセルエルはナレーションで名前と設定を引っ張ってきただけで、このお話の団長達との関わりを考える必要はありませんが、セリフで出すなら別です。
 あくまで筆者の個人的なラインの問題ではありますが。

 筆者が未加入のワーさんについてどう説明したものか。
 この作中でコルワは今、騎空団に居る事になっているのか、ただ面識があるだけか評判を知っているだけにするべきか。
 考えたら色々と面倒くさくなりました。

 既にイベントクエスト基準では多すぎるテキスト量と思われるので文字数は今更気にしていませんが、設定は大切なので。
 中途半端に触れるくらいなら始めから書くべきでないと判断した訳ですわ”シャムシール”。

 すみません。ふざけました。
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