グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ)   作:水郷アコホ

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10「ニコラとドリイの事」

 ──早くもカタリナの変装がバレてしまい、カタリナ達自身、自らボロも出してしまった。

 ──この策は効果的ではないと考え、何とも言えない気分で俯くカタリナと、それを宥めようとするニコラ。

 ──そこに試着室の向こうから、カレーニャのコーディネート完了の雄叫びが響く。

 ──皆、反射的に今までの話を放り出し、試着室の扉へ意識を集中させた。扉から会話が漏れてくる。

 

 

 

ドリイ

「本当に……本当にお疲れ様でした。アンナ様。最後に鏡をご確認下さい」

 

アンナ

「うぅ……や、やっと終わっ──」

「……ぇ……えぇえ!?」

「こ、こここ、こ、こ、こ……ボ、ボボ、ボ……ボ……!?」

 

カレーニャ

「お気に召したようで何よりですわ」

「ほら、面白い鳴き声あげてないでとっとと出ますわよ」

 

アンナ

「で、ででで出る!? ……って、こ、この……か、格好、で……?」

 

カレーニャ

「当たり前でござあましょうが。むしろこれで通用しない場所があるなら教えて欲しいくらいですわ」

 

ドリイ

「大変よくお似合いですよ。皆様、きっと羨むくらいに。さ、こちらへ──」

 

 

 

 ──まだ何事かアンナの呻きが届きつつも、ドアが開かれ、押し出すように3人が出てきた。

 ──苦戦ぶりを見せつけるように、中年の如く肩首を回す硝子の椅子のカレーニャの後から、ドリイに励ますように肩から手を添えられたアンナが懸命に視線を下に向けながらおずおずと出てくる。

 ──この時点で、既に仲間達はアンナの姿に一斉に息を呑み立ち尽くしていたが、アンナはそれに気付く様子も無くきょろきょろと視線を巡らせ、傍らの椅子に預けられすっかり大人しくなった一番の親友を捉えた。

 

 

 

アンナ

「カ……カシマール~!」

 

カシマール

「ハッ! アンナ……アンナ~~~!!」

 

 

 

 ──椅子に駆け寄ったアンナがカシマールを抱え上げ、()()と抱きしめた。さながら十年後しの再会である。

 

 

 

アンナ

「ああ……会いたかったよぉ、カシマール……」

 

 

 

 ──アンナの具体的な装いについては、各自想像で補完していただきたい。

 ──とにかく、会心の出来だった。アンナの周りだけ光線が純度を増しているようでさえあった。

 ──比較的控えめな装飾を交えて「少女のちょっとした余所行き」の枠に留めつつ、恐らくはアンナの希望で露出を控える事で生地のシナジーを存分に発揮させ、樹海の枝のようにうねる髪質との調和を果たしている。

 ──強いて指摘する点があるなら、着替える前より魔女らしさは幾分抜けている事か。仕立てた人間が人間だけに、魔法を嗜むお嬢様と聞けば何の疑いも無い出で立ちだった。

 ──そしてアンナが再会を喜ぶその姿は、この装いにカシマールが加えられる事さえも想定済みである事を示していた。

 

 

 

ニコラ

イヨッシャア!!

「……ハッ、し、失礼しました! 出来栄えについ興奮してしまって……」

「ともあれ──如何ですか! 正直私も、これ程までとは思ってもみませんでした!」

 

カタリナ

「何……だと……!」

 

ルリア

「…………キレイ……」

 

ビィ

「すっげぇなぁ……一瞬、別人が出てきたのかと思っちまったぜ」

 

アンナ

「ハッ! み、皆……」

「うぅぅ……は、恥ずかしいから……あんまり見ないで……」

 

主人公(選択)

・「すっごく似合ってる!」

・「ありがとうございます!!」

・「尊い……」

 

→「すっごく似合ってる!」

 

アンナ

「だ、だ団長さんまで……!?」

「う、嬉しいけど……やっぱり恥ずかしい……」

 

ニコラ

「カレーニャ! 約束通りこのコーデ、スケッチさせていただいても……!」

 

カレーニャ

「どーぞご自由に。(ワタクシ)ャちょっと休憩させていただきますわ」

 

 

 

 ──カレーニャの言葉を受けたニコラは、興奮気味にアンナを椅子へ導き、対面でその姿を絵に収める。後学か、今後の販売戦略に活かすのだろう。あるいは純粋に趣味かもしれない。

 ──鼻息荒くペンを走らせるニコラに興味を示したルリアとビィは、視線を浴びるアンナを励ましながらニコラのスケッチブックを覗き込み感嘆を漏らしている。

 

 

 

カタリナ

「これは、確かに驚いたが……しかし公共施設に赴くだけにしては、まだ些かその──飾り過ぎでは?」

 

カレーニャ

「年中鎧で過ごしてそうなセンスからすれば、(シナ)と腕が良すぎて見えるってだけですわ。プラトニア図書館は(めか)して来る客も珍しくないですもの」

 

カタリナ

「ぐっ……!」

 

ドリイ

「カレーニャ。侮辱行為更に一点」

 

カレーニャ

「不当ですわ! こちとら仕立てだけは誠心誠意尽くしましたのよ、それをもが──!?」

 

ドリイ

「カレーニャ。店内ではお静かに」

 

 

 

 ──カレーニャの的外れな抗議を物理的に封殺しながら、ドリイはカタリナに問いかける。

 

 

 

ドリイ

「ところで”リーナ”。その姿、ニコラ様には見抜かれてしまったのでは──?」

 

カタリナ(リーナ・カーター)

「──ッ!」

 

ドリイ

「その様子ですと、図星のようですね」

 

カタリナ

「やはり、こんな小手先では──」

 

 

 

 ──しかし、カタリナが眉をしかめるより早く、ドリイが笑顔で言葉を被せる。

 

 

 

ドリイ

「図星でしたら──全く問題ないでしょう」

 

カタリナ

「……は? い、いやしかし──」

 

ドリイ

「ニコラ様以外の方からは、指摘や訝しまれるような振る舞いは無かった。お間違いないでしょうか」

 

カタリナ

「あ、ああ。そうだが……」

 

ドリイ

「であれば、問題ありません」

「ニコラ様は幼少からカレーニャを見知っているだけでなく、連れ立ってここへ通う機会の多い私とも、この店で最も交流の深いお方です」

「こと、彼女は私とカレーニャの事に関しては、プラトニアで最も身近で、それ故に特例であると言ってよいでしょう」

「彼女に看破される事は、この店を目的地に選んだ──即ち私がこうして一時”リーナ”の元を離れる可能性を予見した時点から想定されていた事です」

 

カタリナ

「ニコラ殿以外にバレてさえ居なければ支障は無い……と?」

 

ドリイ

「そういう事です」

 

カタリナ

「──フフッ」

 

ドリイ

「ご安心いただけましたか?」

 

カタリナ

「いや、そこは正直まだ半信半疑なのだが──」

「そういえばニコラ殿も同じような事を言って、私を励まそうとしていたな、と」

「ドリイ殿が一緒に居れば、プラトニア兵だって気付きはしない──と。これがドリイ殿の計らいである事さえもだ」

「だのに耳も貸さず一方的に思いつめていた自分が、何だか可笑しくなって──な」

 

カレーニャ

「ふんっ。もがも、もがもがももも」

 

 

 

 ──口を塞がれたままカレーニャがふんぞり返っているが、何を言っているかは全く聞き取れない。

 

 

 

ドリイ

「先程私が申し上げました旨、ご理解頂けたかと」

「それにカレーニャの言う通りです。お恥ずかしながら(わたくし)、ニコラ様に嘘や隠し事を貫けた試しがございません」

 

カタリナ

「通じてたのか、今の……」

「しかし、それも少々意外だな。初めに出会ってからドリイ殿はずっと落ち着き払っていて、私達の中で一番理知的だろうと思っていたのだが」

 

ドリイ

「恐れ入ります。しかしながら私、見かけよりまだまだ未熟者ですゆえ」

 

 

 

 ──どこか嬉しそうに応えるドリイ。

 ──ニコラのスケッチが終わるまで、一同は和やかな空気を過ごした。そして……

 

 

 

ニコラ

「本日はご利用誠にありがとうございました。こちら、お会計になります」

 

 

 

 ──今日一番と言って間違いないだろう、満足振りが溢れ出るツヤツヤした笑顔のニコラが伝票を持ってきた。

 ──反して、何気なく額面を覗き込んだ一行は過去数度も無いレベルで目玉を飛び出させた。

 

 

 

ビィ

「ひえっ……オ、オイラ、買い物でこんなに数字が並んでるの初めて見た……」

 

カタリナ

「相応の店だろうからと覚悟はしていたが……!」

 

ルリア

「な、名前が……聞いた事ない名前が並んでて、どれがどれの事やら……」

 

アンナ

「あ、あわわわわわ……」

 

 

 

 ──固まる一行を縫って、ドリイが何食わぬ顔で一枚の紙切れをニコラに差し出した。

 

 

 

ドリイ

「試着の時点で品目は確認済みでしたので、予め小切手を切っておきました」

 

ニコラ

「えーっと……はい、ピッタリ丁度ですね。いつもお会計早く済んで助かります」

 

カタリナ

「ド、ドリイ殿!? まさか、全額……?」

 

 

 

 ──既にバレているニコラ以外、都合が良すぎるくらいに周囲に店員の影は無い。

 ──遠慮なく「カタリナ・アリゼ」として振る舞う彼女がドリイに待ったをかけた。

 

 

 

カレーニャ

「あぁら。失礼ですけど、お空の路銀に併せてこれも支払うってなったらタダ事じゃ済まないんじゃござあませんこと?」

 

カタリナ

「そ、それは……いや、そういう問題では無くてだな……」

 

ドリイ

「カタリナ様。元々、私共の勝手に付き合って頂いているようなものですので」

「割り切る事は些か難しいかもしれませんが、お互いのためを思えばこそ、ここは私共に支払わせていただきたく」

 

カタリナ

「……? どういう意味だ?」

 

ドリイ

「下世話な話になりますが……この島を支える資源を一手に担う、その見返り──ご想像いただけますでしょうか」

 

カタリナ

「……いや。『想像もつかない』としか、想像がつかない……」

 

ドリイ

「お察しの通りです。如何に奔放なカレーニャと言えど、流れ込む資産の量は、人一人では慈善事業に寄付してもなお余りに多大で──」

 

カレーニャ

「プラトニアに長者番付とかあったら何年連覇してるのかしらねえ」

 

ドリイ

「語弊を恐れず申し上げてしまいますと、資産管理の一端を担う私自身、時折目眩がする程です」

「かと言って、人々の生活のための魔導グラスが経済を滞らせては本末転倒ですので……」

 

カタリナ

「散財しなければ、却って金銭の流れがカレーニャの元で堰き止められてしまうというのか……」

「事情は……理屈では理解したが……スケールが違いすぎてこっちまでクラクラしそうだ……」

 

ルリア

「と、とにかく、物凄いお金持ちさんなんですね……」

 

カレーニャ

「はいはい、解ったらとっとと図書館行きますわよ。お(ぜぜ)の話なんて続けた所で(ろく)な事になりませんわ」

 

ニコラ

「かしこまりました。では、出口までお見送りさせていただきます」

 

 

 

 ──そうして歩き出した一行。出口へ近づくにつれ、試着室では通りがかりもしなかった店員達と幾度もすれ違う。

 ──偶然一行の最後尾を歩いていたカタリナがふと、通路の一角で、最初に出迎えていたベテラン風の女性店員が別の店員と2人で何事か小声で語り合っているのに気付いた。

 ──傍らで帽子を被った女の子が一人、店員達を見上げて会話を立ち聞きしているようだが、2人は全く気付いていない。

 

 

女性店員「あら、ほら……見……やっと帰って……」

 

別の店員「ほんと……なんて……いい加減に……」

 

カタリナ「……?」

 

 

 

 ──何となく、足を止め店員の方を見やるカタリナ。店員がこちらに気付く様子はない。聞こえたのは本当に偶然としか言いようのない距離なので無理もない。

 ──そこに、明るい声と共にニコラが駆け寄る。

 

 

 

ニコラ

「あ、”リーナ”様。ほらほら、お連れ様方、もう先へ行っちゃいましたよ」

「商品に見惚れちゃうのは私達としても光栄ですけど、はぐれちゃうと皆様心配なされちゃうかもですので。ほら、こっちです」

 

カタリナ

「へ? いや私はそんなつもりでは……って、ニコラ殿。そんなに押さなくても……」

 

 

 

 ──ニコラはするりとカタリナの背後に回り込み、その背を押して案内する。

 ──先程も見知ったその快活ぶりに困惑しながらカタリナも歩みを進めると、ニコラが背を押しながら小さく語りかけてきた。

 ──明るさを保とうとしながらも、少し暗い声だった。

 

 

 

ニコラ

「──お店の者が、失礼しました」

「でも、どうかお気になさらないでください。カタリナ様達の事ではないので」

 

カタリナ

「──!」

 

 

 

 ──その言葉と、頑なに背を押そうとする意図を察したカタリナは、傍目におかしな道案内を受け入れながらニコラに小声で返す。

 

 

 

カタリナ

「──聞き間違い、という事にするつもりだったのだがな……」

 

ニコラ

「……ごめんなさい。でも、お客様に嫌な思いと不信感──どっちか持たせてお送りしなくちゃならないとしたら……って思いまして」

「本当に、カタリナ様達の事じゃないんです。ただ……」

「もし、やっぱり気になるようでしたら……ドリイさんに聞いてください。二人っきりの時に」

 

カタリナ

「ドリイ殿に……この店の事をか?」

 

ニコラ

「私の口からは……ごめんなさい」

「さっき聞いた事──ドリイさんに話せば、カタリナ様にならきっと説明してくれるので」

「くれぐれも二人っきりの時に。でないと話してくれないと思います。それと……私がそう言ってたって事は、どうか秘密で」

 

カタリナ

「──解った。しかし、一つだけ答えて欲しい」

「君から聞いたという事を伏せる理由は何だ。君はドリイ殿達とは親しいと聞いている」

「確かに面白い話では無いように聞こえたが、わざわざ君の事を隠す必要は無いと考えるのだが?」

 

ニコラ

「……人が、居ますから」

 

カタリナ

「人……?」

 

ニコラ

「はい。これから行かれる、街中にも、図書館にも……。誰が聞いてるか、解らないので」

 

カタリナ

「それは……確かに店の信頼というものもあるだろうが、そこまで神経質にな──」

 

 

 

 ──言いかけた所で、聞き慣れた声が耳に届く。

 

 

 

ルリア

「あ、来ましたよ! カタ……もが!?」

 

ドリイ

「遅いですよ、”リーナ”」

 

ビィ

「姐さんが迷子になるなんて珍しいな。一体どうしたんだ?」

 

 

 

 ──気づけば出口手前まで来ていた。

 ──うっかり本名を呼びそうになったルリアの口をドリイが優しく、どこか艶かしく塞ぎながら、カタリナとニコラの話など露程も知らぬ一行が楽しそうに2人の到着を待っている。

 

 

 

ニコラ

「お待たせしました! いやー、当店の商品をお気に召されているところに申し訳ないとは思ったのですが」

 

カタリナ

「な……いや、だからそんな理由で立ち止まったのでは……」

 

 

 

 ──ルリア達への誤解を正そうとするカタリナの背から抜け出るニコラ。その顔は既に、先程から見慣れた、快活で少しズレた店員そのものだった。

 

 

 

ルリア

「カ……じゃなかった。”リーナさん”もやっぱりお洋服、気になってるんですね!?」

 

カタリナ

「いや、そうじゃなくてだなル……」

 

ドリイ

「それは良い事ですね。実の所、リーナは少々華に欠けると思っていた所です」

「ぜひ次回は、リーナも服を見立ててもらいましょう。ええ、ぜひとも」

 

カタリナ

「ドリイ殿まで……と言うか今の言葉、何か他意を含んではいまいか!?」

 

ニコラ

「良いですねえ! その時にはぜひ私めにお手伝いを! 出来たらアンナ様もご一緒に──!」

 

 

 

 ──怒涛の三段重ねに逐一ツッコミを返そうとするカタリナ。同時に、最早ニコラからあの声の面影が完全に失せている事に気づく。

 

 

 

カタリナ

「(やれやれ。これ以上は話を聞けそうにないか……)」

 

 

 

 ──カタリナの胸に一抹の疑問を残しながら、一行はブティックを出て、プラトニア図書館へと向かうのだった。




※ここからあとがき

 アンナさんのコーデについては、文章とキャラのリアクションで想像願います。
 逐一文章にしても、長ったらしいだけにも思えたのと、詳しくもないファッションを下手に指定してしまうと、筆者にとって似合ってると思うものでも読者から見て果てしなくダサい事だって充分あり得るので。
 ここは想像の余地を残す方が正解という事で。



 それでも敢えてテーマを考えるとするなら、アンナさんの元来の服装の要素として、「ロウソク」、「大きく広がって隠すもの」、「赤系統」などが考えられます。
 これに准ずるとして、ロウソクは今回の設定上、本物は持っていけないので、魔導グラスのロウソク型イルミネーションなどが精々でしょうか。
 「控えめな装飾」に収まる程度に「視線を隠す小物」もあると思われます。日傘にした方が大きさを確保出来ますが、入館規定との擦り合せを考えると帽子でしょうか。

 筆者の好みで考えるなら、赤系統でない服で髪の色を映えさせ、長物が無いと落ち着かないかも知れないので本を隠すには厳しい細身の日傘かステッキ。それにベルジェールやマンティーラのような被り物、あるいはカクテル棒から濃いめのベール(しかし喪服っぽくなるかも?)で視線から隠してあげるとかでしょうか。髪型もバレッタ等で少し変えるのもアリかもしれません。

 しかしあくまでも想像にお任せします。



 着替えた後の帽子や箒の行方については適当に想像で補完しといて下さい。
 ニコラが預かってカレーニャ宅の応接用魔導グラスに届けたとか、団長が荷物持ちを請け負っているとか。

 きっぱりマクガフィンと割り切って、「アンナが図書館行きの条件をクリアした」とだけ認識して、脳内でいつも通りのアンナさんを動かしてしまっても、大体は問題ないかと。

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