グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ) 作:水郷アコホ
──ニコラと別れ、プラトニア図書館へ向かった一行。そして……
ルリア
「わぁ。すっ……っごく、広いです!」
──ルリア達はドリイの言っていた通りすんなりと受付を通り抜け、図書館へ足を踏み入れた。
──館内は静かで、清涼な空気がゆっくりと循環している。どこかに空調設備もあるようだ。恐らく魔導グラス製の。
──建材は木造を石や漆喰で塗り固めているようだが、壁という壁に磨き抜いた大理石のように滑らかな素材が使われており、ひやりとする清潔感に満ちている。
──それでいて、壁に触れてみると仄かに暖かい。これも魔導グラスかと思われるが、ドリイの事前の説明からすると、恐らく異なる。
──図書館の落成は100年以上昔との事だった。その頃にはまだ魔導グラスは無く、つまりこの建造物の基礎はプラトニアが脈々と研鑽してきた、純粋な魔力と幾らかの自然素材から造り上げた「学術と技術」の結晶なのだろう。
──かつて訪れた「叡智の殿堂」とは趣の異なる雰囲気にルリアの興味が探検的な意味で高まっている。
ビィ
「すっげぇなぁ。ここからてっぺんの屋根まで全部見渡せるぜ。こういうの『吹き抜け』って言うんだろ?」
カレーニャ
「惜しいですわね。昔はそうだったのですけど、今は一階層ごとに転落防止のために魔導グラスの天井が張られてますの」
ビィ
「うぇ!? マジかよ、言われたってオイラ全然見えねぇぞ」
「ほんとは天井なんて無くて、からかってるだけなんじゃねぇのかぁ?」
カレーニャ
「フフン。傍目に景観の邪魔にならないよう透明度にこだわりましたから。見えなければ見えない程、造った甲斐があるってもんですわね」
「ああ、ついでに今見えてるフツーな素材の天井もテッペンではなく最上階の床板兼用ですわ。あの上に更にもう1フロア。いつだったかの改修工事で洒落た形にしたそうですから、錯覚するのも無理ござあませんけど」
ルリア
「でもカレーニャちゃん、島中の魔導グラスを一人で造ってるって言ってましたし、本当かもしれませんね」
カレーニャ
「ええもちろん。今じゃ島の魔導グラスは水道管から指輪の装飾まで全てこの
ビィ
「なあなあ。その天井にあるっている魔導グラス、飛んでいって触ってみても大丈夫か?」
カレーニャ
「別に怪我はしませんけど、触ると係員に『何かぶつかった』連絡が入ってすっ飛んでおいでなさいますわ」
ビィ
「そっかぁ。あんまり迷惑かけちゃ悪いよな……」
ルリア
「あ、じゃあアンナちゃんに、天井に本当に魔導グラスがあるのか確かめてもらうのはどうでしょう。ねえ、アンナちゃ……ん?」
アンナ
「……」
カシマール
「アンナ、ヨバレテルゾ?」
アンナ
「……あぁ……」
──アンナは目を潤ませながら、目の前に広がる光景にため息を漏らしている。
──ルリア達さえ最早意識に無い。ただただ念願の知識の宝物庫、そして宝物庫そのものに凝らされた技術の粋に一口目から酔いしれてばかりだ。
カレーニャ
「
ルリア
「あはは……アンナちゃん、ここに来るだけでも大変でしたから。きっと本当に嬉しくて堪らないんですね」
ビィ
「確かに大変だったなぁ。街歩いてるだけで3回くらい声かけられてたし、受付の兄ちゃんもアンナ見た途端にボーッとしちまうし」
ルリア
「通り過ぎる人達もみんなアンナちゃんを見て振り返ってました。ただ道を歩いてるだけなのに本当にキレイでした!」
ビィ
「姐さんが着てるのと同じ緑のローブ着た奴らとか、メチャクチャ必死にローブバサバサ見せつけてたよな。オイラちょっと笑っちまったぜ」
「そういやついでにルリアに声かけてきた兄ちゃんも居たな。姐さんと
カレーニャ
「
ビィ
「かえってアンナが困ってたけどな……」
「そういえば、姐さんと眼鏡の姉ちゃん遅えなあ……」
ルリア
「受付の人が話したがってるって言ってましたけど……」
「カタリナ以外はみんなドリイさんが言ってた通りにちょっとのお話で済んでたのに……心配です」
カレーニャ
「大丈夫ですわよ。ドリイさんが付いてますもの。それに大方、入館規定と全く関係ない話ですわ」
「何ならほら、近くによってみなさいな。聞かれても心配ない雑談しかしてないでしょうから」
──カレーニャがクイと受付を指差す。カタリナとドリイが受付の男性と何か語らっている。
──重苦しい雰囲気は感じられない。それどころか、カタリナはローブのフード部分を取り、素顔でにこやかに受付と言葉を交わしていた。
──ルリア達はカレーニャに促されるまま、カタリナ達の元へ近づいてみた。
──アンナは未だ音信不通のため、やむなく置いていくことにした。
受付男性
「それにしてもドリイさんに指導してもらえるなんて、あなた幸運ですよ。良い人でしょう、ドリイさんは?」
リーナ・カーター(カタリナ)
「そうだな。思えばここに来てから、ドリイ殿には助けられてばかりだ」
ドリイ
「フフ──とんでもない。私はほんのきっかけを手伝っているだけです。貴方の努力あってこその事ですよ、リーナ」
受付男性
「またまたぁ。そう言う謙虚な所が素敵なんですよ。リーナさんもそう思うでしょう?」
「一昨年だったかな? いつからか国中から信頼される素晴らしい旅人がいるって初めて知って、気付けば異例の早さで国が永住を認めて政府の役人に迎え入れてって──まるでお伽噺のヒーローですよ」
「私も妻も、息子にいつも言ってるくらいですよ。『ドリイさんのような人になれ』ってね」
ドリイ
「まあ。いやですわ、お恥ずかしい──」
リーナ
「ハハハ。本当にドリイ殿は有名人なのだな」
──3人は朗らかに談笑を交わしていた。
──特にカタリナは、ローブの下にエルステの鎧を纏っている事など忘れたかのように自然体で振る舞っている。
ビィ
「流石姐さんだなぁ。図書館に入るのあんなに気にしてたのに、いざとなったらすげぇ肝っ玉だぜ」
ルリア
「でもカタリナって、ああいう演技とかあんまり得意そうな感じじゃなかったのに──。急にどうしたんだろう?」
──驚く二人を余所に、カタリナ達の会話が終わりに向かっていた。
ドリイ
「では、私達はそろそろ──」
受付男性
「おっと、そうでした。お引き止めしてすいません。良いひと時を」
カタリナ
「しかし、本当に武器はこのままで良かったのか」
受付男性
「ええ。ちゃんと規則でも認められてますのでご安心を」
「館内で万が一があった時は我々役人が止めに入らなきゃなりませんし。何より”あの”カレーニャのお目付け役ですしね」
カタリナ
「そ、そうか……」
「ともかく、ありがとう。ご子息の立派な成長を期待しているよ」
受付男性
「こりゃあご丁寧にどうも。リーナさんも、頑張ってくださいね」
──笑顔で手を振って受付を離れるドリイとカタリナ。
──そうしてルリア達の所までやってくると、一気に力が抜けたように大きくため息をついた。
カタリナ
「フゥ……。我ながら驚いたな。本当にやり過ごせてしまうとは……」
ドリイ
「お疲れ様でした。カタリナ様」
ビィ
「すっげぇぜ姐さん。オイラなんかヒヤヒヤしてたのによお」
ルリア
「私も、いつ鎧とか見えちゃうんじゃないかと……」
カタリナ
「ハハ。実は私もだよ。こういった事は本当に自信が無くてな。いつ膝が笑いだしてもおかしくなかったくらいだ」
「だが、話をしに行く直前にドリイ殿にちょっとしたコツを教わってね。その通りにしたら何とかなった」
ルリア
「コツ……ですか?」
カタリナ
「あぁ。何でも──……」
「ハハ……やっと解放されたと思ったら言葉が全然出てこない。ドリイ殿、すまないが──」
ドリイ
「はい。喜んで。カタリナ様はゆっくり心を落ち着けてください」
「では、先程カタリナ様にお話した事と同じ内容になりますが、ご説明致します」
──カタリナが近くの椅子に腰を降ろす。ルリアとビィは興味津々にドリイの話に詰め寄る。
ビィ
「なんだなんだ。何か便利な魔法でも使ったのか?」
ドリイ
「いいえ。魔法ではありません。結果としてカタリナ様には魔法の言葉となったようですが」
「カタリナ様には、1つ”おまじない”を──『これから得意な事をする自分の振り』をなさるよう、お勧めしました」
ルリア
「得意な事をする自分……の、振り……ですか?」
ドリイ
「これもカタリナ様にお話した事ですが──仮に、カタリナ様がお料理を得意としていらっしゃるとしますね」
ビィ
「お、おう……」
ルリア
「あはは……」
ドリイ
「カタリナ様が、その中でもひときわ得意な料理に、隠し味を添えて皆様に提供されるとします」
「この時カタリナ様は皆様と語らいながら料理をお作りになるとします。その間カタリナ様は、隠し味を足そうとしている事、あるいはどのような隠し味を足されたか、皆様に見抜かれる事を恐れたりなさるでしょうか」
ルリア
「うーん……私がカタリナの立場だったら、多分、そんな事気にしないと思います」
ビィ
「そうだな。隠し味の事を教えないようにするっつっても、そればっかり考えたりしないと思うぜ」
ドリイ
「ご明察です。カタリナ様も同じ様に答えておられました」
「隠し事は、その事ばかりに気を取られずとも自然にできる事です。得意な事をしている時なら気にも留めません」
「今回、受付の方は新たな保護監査官候補の”リーナ”に純粋に興味を示されていただけの事ですので──」
「カタリナ様には『人との雑談が得意な自分を演じる』あるいは『これから話す相手はこの後カタリナ様が料理をお出しする相手と思う』、と。そのような心構えを提案致しました」
ビィ
「うーん……ちょっとややこしいけど、自信持って話せば大丈夫って意味だよな?」
「もしオイラだったら、変に頑張っちまってボロ出しちまいそうな気がするぜ……」
ドリイ
「意外と上手くいくものですよ」
「見抜かれてしまう大きな一因となるのは、知られたくない事があると言う、そればかりに気を取られ、無闇に誤魔化すような振舞いをしてしまう事です」
「『隠し事が露見しないようにする』事から『堂々と人と接しようとする』と言う事に意識を逸らすだけで人に与える印象も大きく変わります」
「多少、大げさな振舞いをしてしまったとしても心配はありません。人付き合いで図らずも空回りしてしまう事は珍しくありませんし、大体の方はそういった事に寛容ですから」
ビィ
「言われてみると、確かにアガっちまったりでちょっとくらい変になってるやつと話したってそこまで気にしたりは──」
「そうだ! アンナのやつ置いてったままだった!」
──カタリナの名演技で、アンナの存在はすっかり忘れ去らていた。
──受付から先程の場所まではそう距離は無い。しかし心ここにあらずだったアンナが我に帰った時、辺りに誰一人居ないとなれば少なからず焦るだろうし、順路と逆方向に位置する受付の事は無意識に頭から抜け落ちかねない。
カタリナ
「ん? そう言えば姿が見えないと思っていたが、アンナはどうしたんだ?」
ルリア
「アンナちゃん、図書館に来た嬉しさで、私達の声が届かなくなっちゃってて……でも、カタリナの事が心配で、そのままにして来ちゃったんです」
「どうしよう。私達の事見失っちゃったかも……」
カレーニャ
「大丈夫じゃござあませんこと? アンナさんには”ピサソール”がついてらっしゃいますもの」
カシマール
「”カシマール”ダーーーー!」
カレーニャ
「ほーらね」
アンナ
「み……みんなー……。ハァ、ハァ……この靴、走りづらい……」
──届いた大声に、ルリア達だけでなく周囲の数人も音の先に視線を向ける。
──皆がどこへ去っていったか見届けていたカシマールは、我に返ったアンナに往くべき道を示していたようだ。親友を抱えたアンナが小走りでこちらに向かってきた。
アンナ
「ハァ、ハァ……ご、ごめんみんな……ボ……ボーッとしちゃってた……」
ルリア
「こっちこそごめんなさい。せめて手紙か何か残しておいてたら……」
カレーニャ
「しっかし存外に耳がよろしいお友達ですこと。でも図書館で大声はいただけませんわよ」
カシマール
「ダレノセーダトオモッテヤガンダ!」
カタリナ
「まあまあ。とにかくこうして全員揃って入館は果たせたんだ。続きは歩きながら話そうじゃないか」
──喧騒の音量に各自注意しながら、一行は図書館巡りを開始した。