グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ) 作:水郷アコホ
──5階に到達した一行。5階は歴史書フロアとなっていた。
──結論から言って、この階は早々に切り上げる事となった。
──主な理由は2つ。
──1つは、純粋な知識の宝物庫たる「叡智の殿堂」に訪れた事もある一行にとって、島独自の星晶獣を持つという事もないプラトニアの蔵書には特段に目を引く資料というものが余り無かった事。
──もう1つは、それでも探せば有益な資料もあったかも知れないが、ビィが欠伸を始め、ルリアがオーバーヒートしかけたために、これでは観光として本末転倒となったためだ。
ルリア
「うぅ……ごめんなさい」
カタリナ
「別に謝るような事じゃないさ。私達はアンナほど確たる目的があって来たわけでも無いんだから。皆が楽しめる事の方が大事だ」
──何も問題は無いと笑い飛ばすような口調でルリアを励ますカタリナ。
──おどけて見せていながら、生まれ持っての素材に裏打ちされたクールな笑顔を向けていたが、何か思い出して途端に顔全体がとろける。
カタリナ
「それに眠たげなビィ君というのも、私としてはなかなか貴重な収穫だった……!」
ビィ
「うぅ……思いっきり見られてたと思うと、ちょっと恥ずかしいな……」
主人公(選択)
・「口の中までばっちり見てたよ!」
・「次はどこに?」
→「次はどこに?」
ドリイ
「お次は、6階をご案内致したく。昇降機は今回も階が離れていますので、今しばらくご足労を願います」
──ドリイに連れられてやってきた6階は、ここまで見た他の階とは趣が異なっていた。
──まず利用者の数と客層があきらかに異なる。親子連れや、散歩ついでに来たような幾分着崩した格好の客が目立ち、視界から途切れる事がない。
──静かではあるが時折子供のはしゃぎ声やそれを咎める親の声、咳払い等が届く。のどかな公園に訪れたような幾分気安い空気が漂っている。
──そして間取りにも違いが見受けられた。5階には無かった、数人ほど入れそうな個室が幾つか儲けられている。
ドリイ
「こちらは6階、児童書・一般書のフロアです。大衆向けの娯楽用の書籍や絵物語、ゲームブックなども所蔵されております。近年の蔵書では、スフィリア等で出展される──」
ビィ
「ゲームブック? ゲームができる本なのか?」
──「ゲーム」と言う単語にビィが食い付いた。慣れた様子で話題をゲームブックに切り替えるドリイ。
ドリイ
「はい。本の指示通りのページを開く事で話が進み、本を通して冒険を始めとした悲喜こもごもを体験できるという物です」
「他に、数人でのパーティーゲームをまとめた本や、各人で役割を決めて本の世界の人物になりきるゲームの説明書、その他にも様々に取り揃えております」
ビィ
「おお! 何だか聞いててワクワクしてくるぜ」
ドリイ
「6階は学術としてではなく、書を通じた交流や楽しみを分かち合う事を重視した構成です」
「受付に申し出れば、個室を借りてゲームに興じる事も可能ですよ。ただし、特に防音に配慮しているとは言え、節度にはご協力願います」
主人公(選択)
・「ゲームブックか……」
・「絵物語か……」
→「ゲームブックか……」
ルリア
「私、そのゲームブックっていう本なら、ちゃんと読めるかもしれません!」
カタリナ
「それは本というよりゲームに興味があるだけじゃないのか……?」
ドリイ
「とても良い事ですよ、カタリナ様」
「書物を嗜むためには、まず書物に親しまねばなりません。いつ、如何なる書物が切っ掛けでも、それは誇らしい出会いなのです」
カタリナ
「な、なるほど。一理あるな……」
ドリイ
「ではルリア様、ビィ様のご希望に沿ってご案内致します。ゲームブックでしたら、ここからですと14の棚へ向かい──」
──ドリイの案内でゲームブックの所蔵された棚を見つけた一行。
──書架に居並ぶ背表紙の列に目を輝かせ、ルリア、ビィ、そして団長は片っ端から開いてみては冒険の行き先を見繕い始めた。
──年相応の顔を見せる彼らを微笑ましく見守るカタリナ。そこでふと、彼女はブティックでのニコラとの一件を思い出した。
──店員が遠巻きに交わしていた言葉。その意味をドリイに、二人きりの時に聞いて欲しいと説明したニコラ……。
──今、団長たちとは距離があり、しばらくは本探しに夢中になっている。
──あの一件はやはり気のせいだとしまい込む事も出来たが、ニコラの言葉が引っかかったカタリナは、ここがチャンスかと踏み込んだ。
カタリナ
「その……時に、ニコラど──」
子供
「おかあさんはやくー!」
カタリナ
「!?」
──背後で声が上がった。持ちかけようとした話題が話題だけに、何か咎められているような気分に一瞬、肩が跳ねるカタリナ。
──振り向くと、幼い少年が呼びかけた方向から、母親と思しき女性が歩み寄ってくる。
母親
「そんなに急がなくたって本は逃げないわよ。それより今度こそ間違いないの?」
子供
「わかんないけど……この前ここで見つけたから多分だいじょうぶ!」
──会話の内容から、何か本を探して回っているようだ。
──ドリイが率先して親子に声をかけた。
ドリイ
「もし。何か、お探しでしょうか?」
母親
「あら、ドリイさん。すみませんが手伝ってくださる? この子が──」
子供
「あ、ドリイさんだ! こんにちは」
ドリイ
「はい、こんにちは。とても良い挨拶ですね。今日は、どうしましたか?」
──少年に話しかけられるや否や、しゃがみ込んでにこやかに目線を合わせて応じるドリイ。
子供
「あのね、こないだ見つけたゲームブック探しに来たんだけど、見つからなくって……」
ドリイ
「なるほど。その本の名前や見た目は、何か覚えていませんか?」
子供
「えっと……”なんとか”ゲイトって名前で……あと、本に鎌を持った骸骨が描いてあった!」
ドリイ
「その本は、私もまだ読んだ事がありませんね……ですが、それだけ覚えていれば大丈夫ですよ」
「見つけ方をお母様に説明したいのですが、よろしいですか?」
子供
「うん!」
──しっかりと子供の了承を得た上で目線を外し、母親に向き直るドリイ。
ドリイ
「事情は把握致しました。個別に書物をお探しでしたら受付か、お近くの魔導グラスにお問い合わせください」
「ただ今回の場合、魔導グラスに任せるには情報が些か抽象的な部分もございますので、受付にてご子息から直接問い合わせていただくのが確実かと」
母親
「あらそう? この子の物覚えだけじゃ却って迷惑させちゃうかと思ってたのですけど……」
ドリイ
「いいえ。とても利発なお子様ですよ。部分的ながらも、目に付きやすい特徴をちゃんと覚えておられます。手に取った事のある職員ならすぐに解る事でしょう」
「今後とも係員に申し付けて下されば、所蔵されている書物なら必ずこちらで探してお渡し致しますので、是非、遠慮なくご活用ください」
母親
「わかったわ。いつも親切にどうも」
ドリイ
「お役に立てれば光栄です」
──言い終えると、再びしゃがんで子供に語りかけるドリイ。
ドリイ
「お待たせしました。お探しの本の事を、受付の人に説明してみてください。貸し出し済みの本で無ければ、きっと図書館の皆で見つけてみせますので」
子供
「みんなで!?」
ドリイ
「はい。あなたのために、みんなでです。ですがもし探すのに時間がかかってしまうと言われてしまったら、他の本を探したり、8階で休憩したりして、お待ちいただけると嬉しいです」
子供
「わかった、ちゃんと待つ! ありがとうドリイさん」
ドリイ
「どういたしまして。素敵なお返事ですね」
──親子に手を振って見送るドリイ。
──ここまで傍らで見ていたカタリナは、すっかり聞き出す気が削がれてしまった。
──そもそも、今のように不意に人が通りかかる場と解った以上、二人きりの話を切り出すのは相応しくない。
ドリイ
「さて──。お待たせしました。カタリナ様」
カタリナ
「え? あ、いや、あーその……」
ドリイ
「何かお話があるご様子だったと記憶しておりますが」
カタリナ
「あ、あぁうん。た、大した話ではないというか、その……」
──声をかけていた事は、しっかり聞き取っていたようだ。
──当初の話題がボツになって、咄嗟に代わりの話題が用意できるほどカタリナも柔軟ではない。
──見るからにしどろもどろになりながら、どうにか言葉を捻り出すカタリナ。
カタリナ
「えーと、何だ、その……魔法。そう、魔法の事で少々、な」
ドリイ
「まあ。カタリナ様も魔法に
カタリナ
「そういうのともちょっと違うというか……その、だな」
「……そう、ドリイ殿の事だ。ドリイ殿は、魔法を嗜んでおられるのか?」
ドリイ
「私ですか? はい。半ば趣味の側面もありますが、カレーニャの身の回りを支えるためにも少々修めております」
「プラトニアは国家の方針として、魔法の探求には特に力を入れています。一般への普及率も、他の島と比べて決して低くないものかと」
カタリナ
「そ、そうなのか……ん?」
──どうにか話題を繋げねばと、ドリイ繋がりで必死に記憶を掘り起こすカタリナが、1つネタになりそうな記憶を発見した。
カタリナ
「そういえば、最初に君たち2人と出会った時の事だが──」
ドリイ
「はい」
カタリナ
「あの時、路地は例の魔導グラスの球が地面を埋め尽くすように砕け散っていた」
「だが、私達がアンナの元に駆け寄ろうとした時、すぐさま君が私達の前に立って止めたな」
「君はカレーニャと一緒に、グラスの向こう側に立っていたはずなのに、まるで瞬間移動したかのように……」
ドリイ
「把握致しました。その件についてでしたら──」
──ドリイの言葉が終わるか終わらないかの内に、カタリナの眼前から彼女の姿が消えた。
──面食らって辺りを見回すカタリナだが、見つからない。
──が、すぐさま背後に気配を感じ、思わず戦場で染み付いた条件反射で体が総毛立つカタリナ。
──振り向くと、カタリナの背中と密着せんばかりの位置に居たドリイが何食わぬ顔で歩き出していた所だった。
──消える直前まで立っていた場所で足を止めると振り返り、お辞儀をして見せてから口を開いた。
ドリイ
「騎士様の背後を取った無礼、お許しください」
カタリナ
「い、いや、構わない。私の不覚だ」
「しかし、今のは一体何が……?」
ドリイ
「ごく基礎的な魔法です」
カタリナ
「基礎? 一瞬で消えたように見えたが……」
ドリイ
「ご存知でしょうか。魔法は幾つかの属性に分かれており、風属性の初歩的な魔法の中に、身体の動きを早める魔法がある事を」
カタリナ
「ああ。昔、座学で習った事がある。肉体の動作を瞬間的に加速させて──加速って……まさか?」
ドリイ
「はい。
「先の路地の件も今しがたの事も、一足の動作をより早く、より遠くに、よりしめやかにと効率を高めた、初歩的な加速の魔法です」
「ごく短距離ではありますが、虚を突けば人が気付くより速く移動できますので、咄嗟の事故に対応する時などに重宝しています。応用すれば、壁面を足場にすると言った事も造作もありません」
──日常生活で活用するほど当たり前のように瞬間移動する人間など、カタリナ達の出会ってきた人間どころか人外に枠を伸ばしてもそうは居ない。
カタリナ
「そ……それは、プラトニアではその……よくあるものなのか?」
ドリイ
「はい。プラトニア以外でも基礎分野の研究は魔法に関して少なからず重要な……」
カタリナ
「そうではなく。君のそういった……同じ分野で、君ほどの技術の持ち主は、プラトニアで他に前例はあるのか?」
ドリイ
「お恥ずかしながら、私の聞き及ぶ限りでは寡聞にして存じ上げません」
「ただ当時、私の技能を審査した魔導士の方々も大層驚いていた様子でしたので、ともすれば過去のプラトニアにおいても……」
カタリナ
「……魔法の事は専門外だが、君もカレーニャに負けず劣らずの逸材かもしれないな。色々と」
ドリイ
「身に余るお言葉です」
──恭しくお辞儀を返すドリイ。謙虚なのか天然なのか、ドリイの態度には嫌味のようなものは一切感じられない。
──広い空の下、それが出来る人は幾らでもいて、たまたまプラトニアでは彼女1人だけだった。奢る事も疑う事も無くそう認識しているといった様子だった。
ビィ
「おーい、眼鏡の姉ちゃーん!」
──そこにビィ達が幾つかの本を抱えて駆けて来る。
──ドリイは彼らの方を振り向き、優しい笑顔のまま唇の前に人差し指を添えてみせた。
ビィ
「おっとと、わりい。静かにしないとだったな……」
ドリイ
「お楽しみいただけているようで何よりです」
ルリア
「あの、ゲームブック、幾つか面白そうなの見つけました。けど、全部読むのはちょっと大変かなと思って──」
「だから、もしドリイさんが知っててオススメの本があったらまずはそれを読んでみようって。みんなで話してたんです」
ドリイ
「まあ。光栄です。今お持ちの中からで、私の知っている物となると、そうですね──」
「そうだ。今の時間なら個室も1つくらいは空いているはずですので、よければご利用なさいますか」
ビィ
「いいなそれ。ちょっとくらい騒いじまっても大丈夫なんだろ?」
ドリイ
「はい。他にも、ゲームブックを楽しみやすくする小道具なども室内にございます」
ルリア
「わあ。楽しみです」
カタリナ
「何から何まで済まないな。何分、遊びたい盛りの子たちで……」
ドリイ
「あくまで図書館職員としてのもてなしで、他意はございません。どうかお気になさらないでください」
──その後、団長達は待ち合わせの時間まで、ゲームブックの攻略を楽しんだ。
──ちなみに、最も熱中していたのはカタリナだったという。
※ここからあとがき
「魔法」なのか「魔術」なのか、原作でもどうやら表記揺れがあるようで安定していない印象です。
一応、某ゲームの世界観のような2つの単語における厳格な区別とかは無いと判断し、それでも一応、今回はなるべく「魔法」で表現を統一するように意識しました。