グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ) 作:水郷アコホ
──つつがなく資料探しを終えた2人は、4階から地下2階へ移動するため、昇降機が来るのを待っていた。
──カレーニャの傍らには、グラス球と加えて、団長達が往来で見かけたグラスの鳩が浮いていた。
──地下への持ち込みを認められた書物を、まとめて鳩の中に預けて輸送しているためだ。
──昇降機の待ち時間に流れる沈黙に気まずさを感じたアンナが、プランも無しに口を開いた。
アンナ
「そ、その……カ、カレーニャ……」
カレーニャ
「何か?」
アンナ
「えっと……あの……何でも、ない」
カレーニャ
「何ですのよ。話しかけといて」
アンナ
「ごめん……な、何か、話した方が良いのかなって、思って……」
カレーニャ
「別にお仲間と一緒に居るのでも無し、余計なお世話ですわよ」
「
アンナ
「ご……ごめん……」
カレーニャ
「何べんも陳謝ばっかり出てくる会話もね」
アンナ
「ご──うぅ……」
「えっと、えっと……あ、そうだ。あの、ね……」
カレーニャ
「だぁから無理に話すこたあござあませんっての」
アンナ
「えぅ……」
──今度は何か話題を用意していたらしい事を察したカレーニャ。「しまった」と言った顔で少し考え込み、やがて大きく深くため息をついて誤魔化すように返した。
カレーニャ
「ハイハイ聞きますわよ。怒りもはぐらかしもしませんから。ほら、言ってご覧なさいな」
アンナ
「う、うん……」
「えっと……カレーニャの持ってる、その丸い魔導グラスなんだけど……」
カレーニャ
「これ?」
──言うなり、グラス球が2人の間に入り込むようにスイッと宙を移動する。
──グラスの中では、泳いでいるのか明滅しているのか、虹色の光が垣間見える。
アンナ
「う、うん。魔導グラスって、それぞれ色んな役目があるみたいだけど──」
「カレーニャの持ってるそれは、どんなグラスなのかなって」
「と……とっても、大切な物みたいだけど……」
──割った時の事をまだ若干引きずっているのか、語尾のトーンが落ち気味のアンナ。
カレーニャ
「ああ。そんな事」
「まあ、そうですわね。これは特別の一品で色々と機能がありますから、一言では何とも……」
「とりあえず機能の1つとしては、さっきみたいな遠隔操作ですわね」
「私ことカレーニャ・オブロンスカヤ製の魔導グラスでしたら、この
アンナ
「へえ。だからあんな風に……はっ」
「そ、そういえば、試着室に入る時も確か……」
カレーニャ
「ンそういう事♪」
「もともとグラスチェアーに手枷機能なんてござあませんから、球から命令送って椅子自体を変形させましたのよ」
「ですから、まさかあんな仕掛けが飛び出すとは思いもよらなんだでござあましょ?」
アンナ
「むう……」
「あ……で、でも、椅子自体を変形って、結構すごい事なんじゃないかな?」
カレーニャ
「アラご明察。既成のグラスの形や機能を即座に書き換えられるというのがこの球の真骨頂ですわ」
「それだけに燃費もかかりますけれど、私一人しか使う予定の無い現状、さして問題にはなりませんわ」
アンナ
「あ。だから、ずっと持ち歩いてるの?」
「触って、いつも魔力を溜めておけるように」
カレーニャ
「んん~、半分当たりで半分ハズレですけれども……」
「ふむ……ま、良いでしょう。本当は企業秘密ですけれども、もうちょっとだけお教えしちゃいますわ」
アンナ
「え!? あ、あの、そこまで聞きたかったつもりじゃあ……」
カレーニャ
「お構いなく。私が、こういうのハッキリしとかないと落ち着かない性分ですので」
「それにアンナさん、こういう事話しても人にうっかりバラすようなタイプじゃなさそうですもの」
「合ってます?」
アンナ
「う、うん……多分……」
カレーニャ
「そういうお返事が一番信用できますの♪」
──何となく、「口が堅い」とかでなく「そもそも話す相手が居ない」という意味だろうなと邪推して複雑な気分のアンナ。
カレーニャ
「良いですこと。そもそも魔導グラスの真髄は、便利な道具にできるって俗な物じゃあござあませんの」
「それはあくまで出来る事の一部。本当に重要なのは、その中に魔力を封じ込める事が出来るという事ですわ」
アンナ
「そ、そう? でも、魔力を閉じ込めた宝石とかよくあるし、それに……余り詳しくないけど、星晶とかも、似たようなものじゃないかな?」
カレーニャ
「だと思うでしょう? ところが、魔導グラスの場合、魔力を取り込む媒体自体、魔導グラスという天然に存在しない魔力の塊ですの」
「この意味がおわかり?」
アンナ
「えっと……魔力で、魔力を閉じ込めてる?」
カレーニャ
「惜しい。魔導グラスの中に閉じ込められた時点で、その魔力はこの空のあらゆる物質から断絶された環境にあるって事ですわ」
「言い換えるなら、魔導グラスの中には、この空ではありえない場所に置かれた魔力が存在するって事ですの」
アンナ
「それって……すごい事なの?」
カレーニャ
「ええ。ゆくゆくは全空がひっくり返るくらいに」
「魔力がこの空の元素と関わりあって魔法が発生する。逆に考えれば、この空で元素に影響されない魔力は存在しようが無い」
「そのルールを打ち破るのがこの魔導グラスですわ。この中で魔力がどんな振る舞いが出来るか、オブロンスカヤ以前に知る者は1人として居ないんですのよ」
「しかも魔導グラスは、その内部に閉じ込めた魔力を加工する事もできる」
アンナ
「加工?」
カレーニャ
「例えば、魔力に渦を巻かせるとかそんな感じですわ。魔力をガラス状に固めるのも然り。ただしスケールが桁違いですの」
「例えば、そうですわね……星晶獣も消しされるような膨大な魔力を溜め込んで砂粒ほどにまで圧縮したり、魔導グラスという狭い領域の中だけで大爆発させたり」
アンナ
「うぅ……全然想像がつかない……」
「えっと……その”加工”をすると、何が起こるの……?」
カレーニャ
「理論上、ですけれど……時間と空間を捻じ曲げる程の力が、魔導グラスの中に生まれる」
アンナ
「時間と、空間……?」
カレーニャ
「ええ。例えば過去や未来──いえ、この空とは全く違う世界にすら繋がる穴ができたり……ね」
「そしてこの球の最も大切な機能は、内部の魔力を加工する過程と、その結果を外から観測できるという事」
「隔離された環境でしか起きない事をその目で確認できる。探求する者としてこれ以上の事はござあませんわ」
「そのための膨大な魔力を確保し、そしてその過程をも観測するため、こうして充填し続けてますの。何日も、何年も──」
アンナ
「それって……そんな事できたら……」
──言いかけた所で、ガラガラと金属が滑らかに擦れる音が響いた。
──眼の前では、到着した無人の昇降機が鉄格子を開き、乗客を出迎えている。
カレーニャ
「あら、これはラッキーでしたわ。丁度空いてるなんて」
アンナ
「あの……カレーニャ」
カレーニャ
「ごめんあっさーせ。秘密のお話はひとまずお開き。ここからはアンナさんのお勉強が優先ですわ」
アンナ
「……」
──思わせぶりに笑いながら昇降機に乗り込むカレーニャ。「ほら」とでも言いたげに手を差し伸ばしてくる。
──アンナの想像を超えたグラスの可能性の話が、頭の中で反響していた。狭く、窓もないゴンドラの中から差し伸ばされた手が、ただ招き寄せる以上の意味を持っているような気がして目が離せない
──アンナは伸ばしかけた手を中途で引っ込め、カレーニャの手を取る事無く、自分の足で昇降機に入った。
──カレーニャから見てそれはアンナの毎度の人見知りでしかなく、気にも留まらなかったようだ。
──アンナの胸中では、カレーニャに対する何か底知れない、畏れのような、感動のような表現し難い感情が渦巻いていた。