グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ)   作:水郷アコホ

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17「アンナパート03・地下2階」

 ──地下2階に到着したアンナとカレーニャ。

 ──地上階とは打って変わって、些か寒々しい堅牢な石造りの、地下道のような空間に出た。

 

 

 

カレーニャ

「地下2階は、ぐるり一周する廊下一本と幾つかの部屋で構成されてますわ」

「まずは受付で申請せにゃなりませんので、ついて来てくださいな」

 

アンナ

「う、うん……」

 

 

 

 ──カレーニャからは、アンナが昇降機に乗り込む直前に感じた雰囲気は最早無かった。

 ──カレーニャから何かが抜けたのか、アンナのカレーニャを見る目が幾らか落ち着いたのか。十中八九、後者であろう。

 ──戸惑いを頭の隅に追いやりながら歩いていると、カレーニャが廊下の壁面に埋め込まれた小窓の前で立ち止まる。

 ──カレーニャが小窓の前に置かれたベルを鳴らすと、程なくして窓が開き、老年の男性がヌッとこちらを覗き込んだ。

 

 

 

カレーニャ

「あら、今日は館長さんが受付でしたのね?」

 

館長(小窓の老人)

「……なんだカレーニャか。予定は明日じゃなかったか?」

 

カレーニャ

「明日は明日。今日はお客人に図書館の案内してますのよ」

 

館長

「……は? 客? お前のか?」

 

カレーニャ

「あーら、どういう意味ですのぉ?」

 

 

 

 ──心底意外そうな顔の「館長」と呼ばれた老人と、意地悪そうに笑って受け答えるカレーニャ。どうも2人は慣れた間柄のようだ。

 

 

 

館長

「……いや何でもない。それよりその客ってのは……ああ、そこの赤髪の?」

「これはこれは……あ~失礼、お嬢さん。年をとると物覚えが悪くってな。どちらの家の方だったかな」

 

カレーニャ

残念(ずぁ~んねん)、Not貴族の観光客でしてよ」

「入館規定に引っかかるイモいおべべでしたから、この私手ずから仕立て直して差し上げましたの」

 

館長

「なっ……チッ。勿体ぶりやがって」

「しかし……だから客人か。なるほどな」

 

アンナ

「あ……あのぉ……」

 

カレーニャ

「あら失礼、話し込んじゃいましたわね」

「ご紹介しますわ。こちらこの図書館の館長さん。決まった仕事が無い閑職だもんで、たまにこうやって業務の代行なんか押し付けられてますの」

「そして館長さん、こちらアンナさん。プラトニアの名声に惹かれて遥々訪れた魔女さんでしてよ」

 

館長

「そうかい。まあ、ゆっくり楽しんでいくと良い」

「それとカレーニャ、その誤解招くような説明はやめろ」

 

 

 

 ──彼は確かにプラトニア図書館の館長だそうだが、運営が職員代表の合議制に移った現在、実質的に名前だけの役職らしい。

 ──元々、図書館館長という役職も、現・館長の祖先が図書館建造のために土地を提供した縁で設立・任命された名誉職の側面が強く、本業は代々高名な学者にして魔導士の家系らしい。

 ──今では特別な職務を任される事もなく、給与も微々たるものだが、現・館長の自主的な厚意から、職員のシフトに穴が空いた時にサポートや穴埋めを買って出る事があり、こうして地下2階の受付をしているのもそのためである。

 

 

 

館長

「まあ、この図書館が好きでタダ働きしてる変わり者だ──とでも理解してくれれば良いさ」

「それより、設備利用の申請が確かに1件届いているが、お前らが使うって事で間違いないな」

 

カレーニャ

「そーいう事。アンナさんがこれからドンパチなさるんですの」

 

館長

「じゃあ実験じゃなく訓練用の方か。ほれ鍵。場所は解ってんだろ?」

 

カレーニャ

「ええ、ありがとうございますわ。それじゃあお昼頃には一旦上がりますので、よろしくお願いしますわね」

 

館長

「おう。モノ壊すなよ」

 

カレーニャ

「ご心配なく(し~んぱぁいな・く)。誰かさんじゃござあませんもの」

 

 

 

 ──何やら冗談を交わしあいながら館長と別れ、廊下に立ち並んだ扉の1つを解錠したカレーニャ。

 ──通された部屋は、丁寧に切り取られた石が敷き詰められた直方体の空間だった。

 ──どこからか空調が通っているのか、寒気や湿気の類はそれほど感じられず、壁際には様々な用法を想定してか、用途も定かでない様々な器具が並んでいる。

 ──ここまで連れてきたグラスの鳩から4階で借りた書物を取り出すカレーニャ。

 

 

 

カレーニャ

「さあて。ここでなら派手にぶっ放しても心配ありませんわ。思う存分、お暴れなさいな」

 

アンナ

「あ、暴れはしないけど……ありがとう、カレーニャ。が、頑張るね」

 

カシマール

「アンナノツヨサヲ、ソコデヨークミテヤガレ!」

 

カレーニャ

「ハイハイ、期待してますわよ”パルクール”」

 

カシマール

「”カシマール”ダッツッテンダロ!!」

 

 

 

 ──そんなこんなで、魔法の実技訓練を始めたアンナとカシマール。

 ──カレーニャが手伝い、居並ぶ器具から的や木偶を次々と活用していく。

 

 

 

カレーニャ

「次のご注文は?」

 

アンナ

「ちょ、ちょっと待って。えっと──この、炎で一箇所だけ燃やして周りを燃やさないようにするの、試してみたい」

 

カレーニャ

「どれどれ──ンだったらこう、当たりの的の周りをハズレの的で囲むようにして──」

 

 

 

 

 ──記された技術から興味や難易度、とにかく気になった物を片っ端から打ち込み、時折繰り返して再確認するアンナ。

 ──書物の知識を一朝一夕では体得できないと解っていても、少しでも身体に覚え込ませ、糧にしようという前向きな意思が感じ取れる。何より、アンナ自身が楽しそうだ。

 

 

 

カシマール

「ワッショーイ!」

 

アンナ

「ワ、ワッショイ!」

 

カレーニャ

「……何ですの、その”わっしょい”って?」

 

アンナ

「こ、こうすると、もっと、強い力が出せる感じがして……」

 

カレーニャ

「あー……まあ、気合は大切ですわね。頑張って」

「──さぁ……て」

 

 

 

 ──何でもない会話を交わしつつ、カレーニャはアンナ達に気付かれないようにしながら器具群の一角へと移動する。

 ──その顔には、一向に出会ってからこれまでに何度か浮かべてきた、意地の悪そうな笑みが滲んでいる……。

 

 

 

アンナ

「──ふぅ。な、なんとか上手くできた……」

 

 

 

 ──幾つ目かの課題をこなし、炎を止めて一息つくアンナ。

 ──練習していたのは、至近距離で高出力の炎を照射し、目標1点のみを焼き、ぶつけた後の火の粉1つとて周囲を延焼させないというもの。

 ──そして今、その応用編を成功させた。梱包・埋没した状態の目標物を、炎で外殻を穿ち露出させ、かつ目標物を焼かないと言うもの。

 ──例えるなら氷の柱に炎を当てて溶かし、閉じ込められたリンゴを焦がす事無く、リンゴまで一直線のトンネルを形成するというテクニック。

 

 

 

アンナ

「カレーニャ、次は──カレーニャ……?」

 

 

 

 ──珍しく燃えに燃えてきたアンナが次の技に挑戦しようとカレーニャを呼ぶが、肝心のカレーニャの姿が見えない。

 ──どこかの器具の陰にでも隠れているのかと当たりを見回すアンナ。そこに……。

 

 

 

カシマール

「ウシロダ! アンナ!」

 

アンナ

「えっ──?」

 

 

 

 ──カシマールの警告に振り向いたアンナの足元から轟音が響き渡る。

 ──音の主は目の前にあった。全長3メートルを(ゆう)に超える硝子の巨人が、拳を地面に突き立てていた。透き通った内部で光が強く屈折し、向こう側がろくに見えない。

 ──直立二足歩行で重量を感じさせるガニ股気味の姿勢。人型のフォルムである以外、つるりとした滑らかな曲面にさしたる特徴は見出だせない。

 ──何が起きているか解らず立ち尽くすアンナに、巨人が再び拳を振りかぶる。

 

 

 

カシマール

「ボサットスンナ!」

 

 

 

 ──アンナの腕の中からカシマールが手を伸ばし、振り出された巨人の腕を打ち払った。巨人が体勢を崩し膝を突く。

 

 

 

アンナ

「──ハッ!? あ、ありがとうカシマール……」

 

カシマール

「イーカラコイツヲナントカスルゾ!」

 

 

 

 ──我に返ったアンナは一歩飛び退き、周囲に炎を展開する。状況はまだ察しきれないが、戦うべきなのは間違いなかった。

 ──カシマールが追撃を加えているが、巨人は小さくよろめきながら確実に反撃の準備を整えている。

 

 

 

アンナ

「これで……!」

 

 

 

 ──訓練で心身ともに温まった今のアンナは、疲労以上に高揚と自信が勝っていた。心なしか炎もいつもより激しく躍って見える。

 ──蛇のようにうねる火柱を幾筋も飛びかからせるアンナ。しかし、硝子の巨人は炎を両腕で受け、着弾点に橙色の熱を孕みながらもなお動き続けている。

 

 

 

カシマール

「シツコイヤローダ!」

 

アンナ

「なら──もっと強く!!」

 

 

 

 ──赤熱した両腕を振りかぶる巨人。そこへカシマールが巨人の頭部に一撃を見舞う。重心が傾き、バランス制御を優先する巨人。隙を突くには充分だった。

 ──極太の炎を(はし)らせたアンナ。炎の中心部は白く輝き、先程よりも一層の熱量を伺わせる。

 ──炎が巨人の上半身とぶつかり合い、勢いのままに呑み込んだ。

 ──火柱が全て宙に散った頃、巨人の腕と頭が地面に転がっていた。いち早く胸元が溶けて消え去り、支える物が無くなったのだ。

 ──残った足腰が立ち尽くし、ピクリとする気配も無い。

 ──上半身の大半が蒸発し、背中部分の表面を構成していたのだろう薄い硝子板が元・巨人の腰から頼りなく伸び、その向こう側を透かしていた。

 ──しかし、巨人の撃退に安堵するより先に、気がかりなモノが目に留まった。その透けた硝子板の向こう側……。

 

 

 

アンナ

「カ……カレーニャ?」

 

カレーニャ

「あらやだ瞬殺……」

 

 

 

 ──アンナ達を気に留めること無く、カレーニャは、かつてグラス人形の上半身があった場所を呆然と見上げていた。

 ──例のグラスの椅子で宙に浮いて、グラス人形の背後でそうしているカレーニャ。もういい加減、大体の察しがついた。

 ──カレーニャが魔導グラス人形を操作して襲いかかったと見て、ほぼ間違いなかった。

 

 

 

カシマール

「オマエノシワザカ! イキナリナニスンダコンニャロー!」

 

カレーニャ

「あら人聞き悪いですわね”ギルバーグ”。せっかく実戦形式のトレーニングを用意して差し上げたのに」

 

カシマール

「”カシマール”ダ!!」

 

アンナ

「だ、大丈夫だよカシマール。怪我しなかったし、カレーニャもボクのために──」

 

 

 

 ──ガチャン! と、甲高い騒ぎを押しのけるように、低く重たい金属の音がした。この部屋の扉が開く音だ。

 ──見ると、入ってきたのは先程の”館長”だった。

 

 

 

館長

「よっ。思ったより派手にやってるようだな」

 

カレーニャ

「あら、アレくらいで受付が駆けつけるものでしたかしら?」

 

館長

「一応、報知機が反応するようだったら見回りに行くって規定なんでね」

 

カレーニャ

「あらやだお硬いことー。今時、警報一発程度で律儀に見に来る係員なんていらっしゃいませんわよ」

 

館長

「国と国民が決めた事だ。住んでる以上は、かかる面倒も責任持って受け入れるのがスジってもんさ」

 

アンナ

「あ、あの……う、うるさくしちゃってたら、ごめんなさい」

 

館長

「ああ心配なさんな。魔力とか温度とか──ある程度以上の強い力が部屋で発生したら受付に連絡が行って、念のため見回りに行くって決まりなのさ」

 

カレーニャ

「安全基準がどーたらで神経質でござあましてね。このくらいのドッタンバッタンは日常茶飯事で建物だってビクともしないのに、受付にポンポン警告が入るんですのよ」

「だからこのくらいでわざわざ本当に見回りに来るのなんて、それこそ館長さんくらいの──」

「そうそう館長さんですわよ! 御覧なさって館長さん、この有様。アンナさんの大活躍を!」

 

 

 

 ──何だか非常に楽しそうに、グラス人形の残骸を指差すカレーニャ。館長も見上げるなり「ほう」と声を漏らす。

 

 

 

館長

「こりゃあ驚いたな。また気持ちの良い壊し方してくれたもんだ」

 

カレーニャ

「でしょう? 牽制に何度か仕掛けてくれたと思ったら、続く大技一発でこのザマですのよ!」

「こぉれはタダじゃ済まされないんで無くって? 館・長・さん♪」

 

館長

「ほざけ。お前ほど捻くれちゃいねえよ」

 

 

 

 ──何やら館長も笑っている。一方、張本人のアンナは気が気でない。

 ──冷静になってから考えてみると、状況が状況だったとは言え、図書館の備品……しかも見るからに消耗品には計上されなさそうな代物を損壊せしめたのだ。

 ──受付でもついさっき、館長が「モノを壊すな」と言っていたはず……。

 

 

 

アンナ

「あ、あの、あの──こ、こ、これ、壊し、ちゃ……ま、まずかった、です、か?」

 

館長

「おっと、そうだった。安心しなお嬢さん」

「このカレーニャ(意地悪)の煽りを真に受けないように気をつけな。元々、このグラス人形は魔法やら武器やらで年中ぶっ叩かれて壊されンのが役目なんだ」

「確か、他のグラスならここまで壊れたら魔力に戻って消えちまうが、細かいパーツを固めてるから、こんな有様でも消えずに残骸が残る──だったか?」

「まあつまり、造り手も壊れる前提で用意してんだ。ビタ一文払う必要は無いさ」

「ただ残骸を見た感じ、こいつは新しく造ってすぐの新品だ。そいつを一度でぶち壊したって奴はそうそう居ないってんで、はしゃいでるだけさ」

 

アンナ

「ほっ──よ、よかった……」

 

カレーニャ

「違うでしょ~館長すぁん? そんな芸当やってのけたのは、今まで館長さんただ1人きりって話でござあましょうが」

 

アンナ

「か、館長さんが……?」

 

カレーニャ

「ええ。館長さんの家系は代々、プラトニアでも指折りの魔法と学問の大先生ですの」

「ほぉら館・長・さん。観光客の小娘に並び立たれて、どぅぉ~んな気分でしゅのぉ~?」

 

アンナ

「ボボ、ボク、な、なんか、えっと……す、凄いこと? しちゃった……のかなぁ……?」

 

 

 

 ──アンナがソワソワキョロキョロしている。期待やら恥じらいやら申し訳なさやら、自分でもどんな感情を持てば良いのかわからないと全身で表現している。

 

 

 

館長

「お前はもうちょっと慎みってものを持てって言ってんだろうが」

「まあなんだ。強いて言うなら……お嬢さん。ちょっとこの年寄りに、2,3ご教授いただいてもいいだろうかね?」

 

アンナ

「ハハ、ハ、ハイ! ──アッ、じゃなくて、えっと、ボ、ボクなんかで、よければ……」

 

館長

「大丈夫、落ち着きな。誰も腹ァ立ててなんかいないさ。むしろ嬉しくて年甲斐もなくワクワクしてるくらいだ」

「なに大した事じゃない。いやね、お嬢さんの実力を疑うわけじゃないが、年寄りってのは意固地なのが悪い癖でね」

「俺がアレを叩き割った時はそりゃあ苦労したもんだ。もしかしたら、お嬢さんの戦い方がアレを壊すのに向いてたんじゃないかって思うのさ」

「生憎と現場を見そびれちまったんで、良かったらどうやってアレと渡り合ったか、聞かせてもらえんかね」

 

アンナ

「は、はい。えっと──」

 

 

 

 ──アンナは館長に先程までのやり取りを説明した。

 ──と言っても、話す事などそう多くない。戦闘はごく短時間で、ただ真正面から攻撃していただけなのだから。

 

 

 

館長

「ふむ……なるほどね」

 

カレーニャ

「あら? あれっぽっちで何か解りましたの?」

 

館長

「ほほう、造り手が見当つかないとは。こっりゃァ光栄だね」

 

 

 

 ──先程の意趣返しとばかりに皮肉をタップリと仕込んだ抑揚で語る館長。

 

 

 

カレーニャ

「む……ハイハイ。お手上げですからお聞かせくださいましな」

「私もアンナさんがここまでやるとは思ってもみませんでしたもの。素直に興味津々ですの」

 

館長

「フフン。良いだろう。まあ、ここまで勿体つけてハズレだったら赤っ恥だ。盛大に笑う準備でもしとけ」

「ガキでも解るくらい単純な事しかしてないのにコトは起きた。つまりだ。少なくとも再現は難しくない──」

 

 

 

 ──言うなり館長の周囲に火の粉が舞う。……否、火だけではない。

 ──水の塊が宙に形成され、小さな竜巻が館長を軸に周回し、その渦の内側では幾つもの小石が館長を守るように飛び交っている。

 ──火の粉はどんどん膨れ上がり、赤・白・青と3色の球となり、水の塊から氷と霧が生み出されていく。

 ──ついでに館長の表情は絶体絶命の窮地に立たされた熱血青年の如く、年を思わせぬ「ニヤリ」とした強気の笑みを浮かべている。

 

 

 

アンナ

「カ、カ、カレーニャ……あ、あれって──まさか……ぞ、属性、全部?」

 

カレーニャ

「そ。言ったでしょ、『指折りの魔法の大先生』って」

「私、魔導グラス専門だから詳しくないのですけど──普通は魔法って、自分に合った属性1つを突き詰めてくものなんですってね?」

「でも館長さんの家は教え方までこだわって、そんじょそこらと格が違いますから。代々多くて4属性、まとめていっぺんに一人前のレベルで修得なすってますの」

「見ての通り、同じ属性でも条件の違う現象を同時に呼び出すなんてのもお手の物」

「まあ最近は寄る年波に負けて、燃費に身体がついていけてないそうですけれど──」

「の、割に随分燃えてますわねぇ。やっぱりちょっと張り合ってますわね。アンナさんと」

 

アンナ

「ボ……ボク、そんな大した事は……」

 

カレーニャ

「とりあえず、後学になると思ってじっくり見ときなさいな」

 

 

 

 ──館長を取り巻く諸々の自然現象が、人形の残骸に打ち込まれた。

 ──しかも全てが残骸の異なる部位へ。属性別だけでなく、同じ炎でも色別。氷と水も距離を置いて違う箇所へと攻め込む。

 ──直後、霧に粉塵に風に熱波にと、煩わしいものが一斉に部屋中に舞い上がり、思わず顔を伏せるアンナとカレーニャ。攻撃が収まり、顔をあげると……

 

 

 

館長

「はーっ、はーっ……ゲェッホゴッホ! あ゛ーったく、流石にちょっと調子乗りすぎた……」

「だが……まあ、実験は成功だ。見てみろ」

 

 

 

 ──開けた視界の先になおも立ち尽くすグラス人形。しかし、変化がある。

 ──白と青の炎が直撃した2箇所が蒸発してクレーターが形成され、赤い炎を撃ち込んだ1箇所が真っ赤に熱を帯びて、少量のグラスが溶けて雫となり表面を伝っている。

 ──それ以外、水属性の余波で霜を被っている箇所などもあるが、いずれも人形の原型を損ねる程のダメージは与えられていない。

 

 

 

館長

「俺が立てた仮設は、つまりこう言うこった。『魔導グラスは魔力の炎に弱い』」

「いや盲点だった。考えてみりゃあ魔導グラスの普段の振る舞いが硝子に近いとは前々から解ってた事だったが──」

「意外と、やって見るまで気づかんモンだな。なまじ凡百な火力なら耐えられるもんで、見過ごされてたんだろう」

 

カレーニャ

「な、ななななな──!?」

 

 

 

 ──膝に手をついて息を整える館長の横を抜け、カレーニャがグラス人形の残骸を間近で観察しだした。

 ──たちまち漏れてくる「うぐぅ」だの「ぬふぅ」だのの呻き声が、顔中のパーツを中心に集めんばかりにしたような表情をしているだろう事を背中越しからでも容易に推察させる。

 

 

 

カレーニャ

「ぐぬ、ぬぅ──(ワタクシ)の、完璧な魔導グラスのはずが……認めたくないけど、確かにこれは──」

「ッ! アンナさんッ!!」

 

アンナ

「ひゃ!? な、なな、なに──?」

 

カレーニャ

「ちょいとこちらへ……」

 

 

 

 ──アンナに顔を向けぬままチョイチョイと手招きするカレーニャ。おずおずとアンナが歩み寄ると……。

 

 

 

 ガシッ!

 

 

 

 ──と、引ったくるようにアンナの手を取るカレーニャ。そのまま両手で握った手をブンブンと縦に振り回す。

 

 

 

カレーニャ

「あなた凄いわっ! 本当に凄い! 魔導グラスが生まれてから20年、誰も気付きもしなかったのに……あなたのお陰よ! この日にあなたに出会えた事は奇跡だわ!」

 

アンナ

「ふぇ? あ、ああの、えぇ……?」

 

カシマール

「ジャクテンミツカッテ、ナニガソンナニウレシーンダコイツ……?」

 

カレーニャ

「大発見だからですわよ。この弱点を改善できれば、魔導グラスは更に完璧に近づきますわ。あなたにもこの造る側の喜びが解りまして”ポムドール”?」

 

カシマール

「ソーイワレルトチョットワカルケド、オレサマハ”カシマール”ダ!!」

 

 

 

 ──カレーニャの表情は高揚に満ち溢れ、輝く瞳から嘘偽りのない歓喜が叩きつけるように伝わってくる。今にも抱きついてキスでも降らせんばかりである。

 ──呆気にとられながらも、珍しくこうも大仰に感謝される事に面映ゆくなるアンナ。

 

 

 

館長

「おいこらカレーニャ。気付いたのも実証したのも俺の方だぞ」

 

カレーニャ

「アンナさんが仕出かして下さらなければ(だぁ~れ)も気付きませなんでござあましてよ」

「気付きさえすりゃあ確かめるのは館長さんで無くても良かったんじゃありませんことぉ?」

 

アンナ

「カ、カレーニャそんな言い方──」

 

館長

「ヘッヘッヘ。相変わらずなこって。いいさ、心配無用だお嬢さん。コレの憎まれ口は元気な証拠だ」

 

 

 

 ──やれやれと言った笑みで答える館長。どうやら本心からの言葉のようだ。

 

 

 

館長

「それよか、俺からも一言、お嬢さんに礼くらい言わせてもらおうかね」

「カレーニャの言う事に一理ない事もないが、それよりこんな大はしゃぎするカレーニャを見るのは初めての事でね。当分は思い返して面白がってやるさ」

 

アンナ

「い、いえ。そんな、ボ、ボクなんか──」

 

カレーニャ

「へぁ……!?」

「う……うっっっわ、キモさ天井知らずですわッ! いい歳の紳士がうら若い乙女を思い浮かべてニヤつこうだなんて!」

 

館長

「ハッハッハ、好きに言ってろジャジャ馬娘」

 

 

 

 ──露骨に照れ隠しを捲し立てるカレーニャ。自分の興奮ぶりに自分で気付いていなかったようだ。

 ──その後少しの間、アンナをおだてたりカレーニャを嗜めたりと談笑する3人と1体。ふと気付いた館長が懐から古びた懐中時計を取り出す。

 

 

 

館長

「おっといけねえ……あーやっぱりな。もうすっかり昼時だ」

 

アンナ

「え? い、いけない。団長さん達、待たせちゃってるかも……」

 

カレーニャ

「どおれ……ああ、まだ大丈夫ですわ。このくらいなら、急いで昇降機乗って8階行けば遅刻の内にも入りませんわよ」

 

カシマール

「ケッキョク、ヨテイノジカンスギテルッテコトジャネーカ!」

 

 

 

 ──カレーニャも真新しい懐中時計を取り出して時間を確認した。こちらは館長の物と違い、全部品に透き通った光沢があり、着色した魔導グラス製である事を伺わせる。

 

 

 

館長

「だったら、余計な時間使わせた穴埋めだ。後片付けはこっちでやっとくから、アンタらはとっとと連れの所に行っちまいな」

 

カレーニャ

「あーら、気が利いてくるものですのねえ。年をとると」

 

館長

「一言余計だってんだ、とっとと行け」

 

アンナ

「い、良いんですか……? あ、あの、まだ……つ、疲れてるんじゃ?」

 

カレーニャ

「良いんですのよ。どの道、エチケット違反のお客が放ったらかしで出てったら係員が片付ける決まりですもの」

 

館長

「そうとも。それに誰も俺1人でやるなんて言ってないぞお嬢さん」

「もうそろそろ次の係員に交代なんだ。そいつに任せちまえば良いってな」

 

カシマール

「ヒッデー……」

 

館長

「ハッハッハ。良いんだよ、この国の連中は基本的にはお人好しでな。こういう事だけは本当に親切なんだ」

「俺みたいな時代に乗り切れん手合いは、無理せず厚意に甘えとくのが無難ってもんさ」

 

 

 

 ──結局、館長とカレーニャに押し切られ、その場の始末は館長に任せて昇降機へと向かったアンナ達だった。

 

 




※ここから後書き

 属性と魔法の解釈は本作オリジナル設定です。話を盛り上げるためにその場その場で考えているものですので、食い違いがあっても大目に願います。

 それと、アンナさんが火を放つ描写はなるべく細かく書かないようにしています。
 奥義以外でどんな風に炎を出しているかが不明瞭なので、いっそ書かない方が読者側がイメージしやすいかなーと。
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