グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ)   作:水郷アコホ

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18「8階、展望フロア」

 ──昇降機で、地下2階から8階まで一気に移動を終えたアンナとカレーニャとカシマール。

 ──出てきたアンナの顔色は些か気まずいが、カレーニャは構わず話しかけている。

 

 

 

カレーニャ

「そういえば忘れてましたわ。魔導グラスとそれ以外を見分けられるってアレ、本当に本当なんですの?」

 

アンナ

「う、うん……魔導グラスほどハッキリじゃないけど、魔力が篭った道具とかも……わ、解る、かな……」

 

カレーニャ

「は~、魔法使いってそんな事まで解るものなんですのねぇ」

「私なんて魔導グラスとガラス並べられたら動かして確かめるしか無いのに、まさかただの不勉強でしたなんて……」

 

アンナ

「ほ、本当に魔法を勉強してきたからなのか、ちょっと自信ない、けど……」

「そ、それより……よ……良かったのかなぁ……こんな事」

 

カレーニャ

「製造者ご優待ですわよ。むしろもっとお喜びなさいな♪」

 

アンナ

「で、でも……い、いくら急いでるからって、他の階飛ばしちゃうなんて……お客さん、待ってたのに……」

 

カレーニャ

「誰も気付きゃしませんわよ。昇降機なんて、待ってる方からすりゃいつだって理不尽な動き方するもんですもの」

「それよりほら、お仲間さん達いらっしゃあましてよ」

 

 

 

 ──食堂の一角で、団長達が何やら語らっていた。団長以外は何かと目に付きやすい出で立ちなのですぐに見つかる。

 ──展望フロア兼、食堂広場は見通しがよく、カフェテラスを思わせる洒落た開放感がある。

 ──軽く見渡す限り、魔導グラス独特の意匠は見当たらず、それがかえって自然の趣のようなものを感じさせた。

 ──訪れた客や職員の談笑からなる密やかな雑踏がどこか心地いい。

 

 

 

ルリア

「あっ。アンナちゃーん、こっちですー」

 

アンナ

「あ……ルリア。み、みんなも──」

 

 

 

 ──いち早くルリアがアンナ達を見つけ、手を振って応じた。待ち合わせに送れた気後れから、パタパタと小走りで駆け寄るアンナ。

 

 

 

アンナ

「み、みんなゴメン。お、遅くなっちゃって──」

 

ドリイ

「どうかお気になさらず。実は、我々も予定より少々遅れてしまって。今しがた席に着いたばかりですので」

 

アンナ

「そ、そうなんだ──。でもやっぱり、ごめ……あれ?」

「カ、カタリナ……? どうか、したの?」

 

 

 

 ──ゆったりとカレーニャが追いつく間に、ドリイに勧められて座席に腰掛けたアンナ。一行の中で明らかに雰囲気の異なるカタリナに気付く。

 ──心臓を締め上げられているかのような沈痛な面持ちだった。カタリナの周囲だけ暗いもやが這い回っているようにさえ見える。

 ──呼びかけられた事に辛うじて気付いた……あるいは、そこで意識を取り戻したという様子で、カタリナがうわ言のように一言だけ呟いた。

 

 

 

カタリナ

守れなかった……

 

アンナ

「ま、も……?」

「えっと……な、何を……?」

 

 

 

 ──問われてカタリナが「うう」と呻いて片手で目元を覆う。

 

 

 

ルリア

「あはは……実は私達、6階でゲームブックっていう本で遊んでたんですが──」

 

ビィ

「本の指示通りに読んでいって、主人公の勇者に囚われのお姫様を助けさせようって本だったんだけどな──」

 

ドリイ

「最後の最後、それまでの選択にたった一度だけ誤りがあり救出の条件を満たせなかったのです」

「姫君を攫った魔王は討ち果たせましたが、姫君はなおも抗う魔王を完全に封じるため、自らの身を捧げ還らぬ人に──」

 

ビィ

「何だかんだで姐さんが一番ハマっちまってよ。お姫様助けられなかったのが相当こたえちまったみてぇで……」

 

主人公(選択)

・「惜しかったねえ」

・「もう一歩だったのに……」

 

→「惜しかったねえ」

 

カタリナ

「私のせいなんだ……! 私があの時、目先の強さなどに目が眩まなければ、こんな事には……!」

 

ルリア

「そんな……カタリナは悪くないよ!」

 

ビィ

「いやぁ、そもそも本の中の話だしよぉ……」

「ともかく、オイラも姐さんばっか背負(しょ)い込む事ないと思うぜ」

「結局あの時、正解の方選ぼうとしてたの団長(コイツ)だけだったんだし」

 

 

 

 ──励ますルリアとビィ。現場に居なかったカレーニャとアンナは、まだ今ひとつ話についていけない。カレーニャがドリイに詳細を尋ねた。

 

 

 

カレーニャ

「色々と聞きたい所はありますけれど……とりあえずその『謝った選択』ってのは、なんぼなものですの?」

 

ドリイ

「はい。その前に少々の説明から入らさせていただきます。作品の道中、立ちはだかる強敵と戦うため、勇者は最大で10の武器を身につける事ができます」

「その武器の強さを数字で表し、数字の合計が求められる値を超えれば敵を倒したり、あるいは罠を跳ね除けたり──と言った具合に」

 

アンナ

「へえ。ちょっと、面白そうかも──」

 

ドリイ

「ええ。皆様、計算や勇者の取るべき行動の選択など、とても楽しんでおられました」

「しかし手持ちの武器が10を超える場合、それまでに持っていた武器のどれかを捨てる事になるのですが、終盤で2つの武器どちらか1つだけを手に入れるという出来事がありました」

「この時、団長様以外は皆様、より強力な方の武器を取るべきだと考え、結果そのように選択されました」

「しかしこの作品に登場する武器は、1つ1つに額面の強さ以外にも戦いや危険が迫った時に発揮される特殊な力を秘めていたのです」

 

アンナ

「特殊な力──?」

 

ドリイ

「例えば、ある武器は10の力を持ち、障害物を押しのける時だけ倍の20として計算でき、またある武器は5の力しかありませんが、魔物と戦う時だけ10倍の50として計算できるのです」

 

アンナ

「そ、それだと、どこかで計算間違えちゃいそう……」

 

ドリイ

「単純な計算ミスでしたらカタリナ様が適切に指摘なさっていたのですが、未来に求められる状況に応じて計算を──となると、中々容易とはいかないものです」

「その時の勇者の装備では、数字では劣るもう一方の武器を選べば、実戦で算出される値が僅かに(まさ)っていたのです。しかし団長様が違和感を感じられた以外に気付かれる事無く──」

「魔王の力を完全に押さえ込むためには、求められる数値に僅かに届かない。そう気付かれたのは最終決戦の直前となってからでした」

「それでもなお戦う選択肢を選んだ結果、最高と呼ぶには今一歩至らぬ結末と相成ってしまい……」

 

アンナ

「それで、一番頑張ってたカタリナが、あんな風に──?」

 

ドリイ

「はい。お思いになる所があったのか、作中の姫君の行動にそれはもう文字通りの一喜一憂を」

 

カレーニャ

「バッドエンド分岐のゲームブックとか、初心者がエグいの掴みましたわねえ」

 

ドリイ

「より深くお楽しみいただけるよう、読み応えのある書物をと思ったのですが、刺激が強すぎたようですね。不甲斐ない限りです」

 

カレーニャ

「──って、あなたが勧めたんですの!?」

「流石にあんな凹ますようなブツよりはもうちょっと──」

 

 

 

ぐ~~~~……

 

 

 

 ──カレーニャが続けて何事かツッコミを入れようとしたが、突然の重低音に遮られた。

 ──カタリナを励ましていたルリアが、顔を赤くして固まっている。

 ──腹の虫で空気がリセットされ、ドリイがにこやかに場を取り仕切った。

 

 

 

ドリイ

「では、皆様お集まりになった所で、まずはお食事にしましょう」

 

ルリア

「はうぅ……」

 

ビィ

「そうだな。姐さんも、腹空かしたまま落ち込んでたって良い事無いぜ」

 

ドリイ

「同感です。心残りであれば英気を養い、再び皆様で挑まれるのがよろしいかと」

「惜しくも姫君の救出ならぬまま時間を迎えてしまいましたが、過ちを知った次こそはきっと上手くいきますよ」

 

ルリア

「そ、そうですよ。カタリナなら、絶対大丈夫です!」

 

カタリナ

「みんな……!」

 

 

 

 ──カタリナの瞳に再び光が宿る。賑やかな食堂の片隅で、感動の第二幕が上がろうとしていた。

 

 

 

カタリナ

「そうだ……私はもう、あんな結末は繰り返さない。繰り返させはしない!」

 

ビィ

「おう。その意気だぜ姐さん!」

 

アンナ

「えっと……よ、良かった良かった?」

 

ドリイ

「立ち直られたようで何よりです」

「当食堂は、お客様が厨房前のカウンターで注文し、料理を受け取って各々の席でお食事を楽しんでいただく形式となっております」

「実際の細かな手続き等はカレーニャが同行し実演致しますので、何卒お付き合いの程、よろしくお願い致します」

 

カレーニャ

「……へ?」

 

 

 

 ──完全に不意を突かれたようで、数拍おいてから間抜けな返事を返し、自らを指差すカレーニャ。

 

 

 

カレーニャ

「わ、(ワタクシ)がやりますの? そこは普通ドリイさんが──」

 

ドリイ

「折角のご賓客との同行ですから。保護監査官として、社交のセンスも審査しませんと」

「私はカタリナ様が落ち着かれるよう、付き添っていますので」

 

カタリナ

「いや、心配してくれるのはありがたいが、私はもう大丈──」

 

ルリア

「じゃあ、カタリナの分は私が買ってきます!」

 

カタリナ

「ル、ルリア──?」

 

 

 

 ──少し持ち直して常識も取り戻したカタリナだったが、やる気満々のルリアに気圧され言葉に詰まる。

 ──小声でカタリナに囁くドリイ。

 

 

 

ドリイ

皆様を安心させるためにも、少しの甘えがあってもよろしいかと

 

カタリナ

「む……」

「──そうだな。では頼む。注文はルリアに任せるよ」

 

ルリア

「──!」

「ハイ! 任せてください」

 

カレーニャ

「──ハァ。もー文句言える流れじゃないでござあませんの……」

「ハイハイ。いっちょやったりますわよ。ついてらっしゃいな。それと、注文なんてそんなに意気込む程のもんじゃござあませんので」

 

アンナ

「あ、カレーニャ。ボクも……」

 

ビィ

「オイラも面白そうだしついてくぜ。手伝える事あったら言ってくれよな!」

 

カレーニャ

「だあから手伝うもへったくれもござあませんてば。聞いてませんわね人の話……。そんじゃあ、ドリイさんとカタリナさん以外、ついてらっしゃ──」

 

ドリイ

「カレーニャ」

 

カレーニャ

「いぃ……っと、出鼻に何ですの?」

 

ドリイ

「しっかりと、見ていますからね」

 

カレーニャ

「ぐっ……ほ、ほら、行きますわよ皆さん!」

 

 

 

 ──カタリナに任される事が無性に嬉しくなり、踊りださんばかりのルリアと、それを横目に完全に観念するカレーニャ。

 ──グラスの椅子を傍らに置いて、歩いてカウンターへ向かうカレーニャに一行が続く。

 ──座席にはカタリナとドリイのみが残り、カウンターへ向かう若者たちを見守っている。

 

 

 

カタリナ

「──心のどこかで、『それでもこれは、本の中の話だ』と。そう思っている自分が居たのだろうな」

 

ドリイ

「カタリナ様?」

 

カタリナ

「いやなに。あの本の結末にショックだった事に嘘偽りはない。しかし、ルリア達をあんなに心配させていたとは思いもしていなかったんだ」

「何と言うかな……こう、本当は作り話だと解っていたからこそ本気で悲しんで、『落ち込む自分に夢中になっていた』んじゃないかと。私もまだまだ未熟だな」

 

 

 

 ──微笑んで返すドリイ。

 

 

 

ドリイ

「カタリナ様のせいばかりでも無いと、(わたくし)にはそのようにも思えますよ」

 

カタリナ

「と、言うと?」

 

ドリイ

「皆様、とてもお互いを信頼なさっているように見えます」

「それ故にカタリナ様の悲しみを、皆様誰もが我が事のように汲み取ろうと親身になられたのでしょう──カタリナ様自身まで戸惑うほど、真剣に」

 

カタリナ

「……そうか──そうかも知れない」

 

 

 

 ──くすぐったそうに、穏やかに微笑むカタリナ。

 ──ふと、思い出したように話を変えるカタリナ。先ほどより、わざとらしく声が低い。

 

 

 

カタリナ

「ところでドリイ殿。あのゲームブック、確か君が選んだものだったな」

 

ドリイ

「はい。お楽しみいただけて、職員冥利に尽きます」

 

カタリナ

「できればもう少し、手心を加えてくれても良かったんじゃないか?」

 

ドリイ

「あら──」

 

 

 

 ──わざとらしく驚いて見せながらも、口元の笑みは隠さないドリイ。

 ──しかし抗議するカタリナの口も、いたずらじみて緩んでいるのを最初からドリイは見逃していない。

 

 

 

ドリイ

「読みかけの書物の先を語ると、争いの火種にもなりますから」

 

カタリナ

「だからって、私達から意見を求められて眉1つ動かさないなんてあんまりじゃないか」

 

ドリイ

「ただ皆様に、ありのままをご判断いただこうと務めておりました」

 

カタリナ

「とんだ名役者だ」

 

ドリイ

「恐れ入ります」

 

 

 

 ──どちらともなく笑いが溢れる。

 ──静かに、しかしひとしきり笑い終えた2人。カウンターを見やると、レクチャーを終えた一行がカレーニャを先頭にカウンターに並んでいる所だった。

 ──そろそろ全員の注文を終えた頃かとカタリナは予想していたが、幾分か進行が遅い。

 

 

 

カタリナ

「おや? まだそれ程しか経って居なかったかな?」

 

ドリイ

「勝手の異なるビィ様と、意気込みが少々空回ってしまっているルリア様への対応に、カレーニャが幾分か手間取っておりました」

 

カタリナ

「そうだったのか? いかんな。話すのに夢中になりすぎたか……」

 

ドリイ

「いいえ。私が元々、こういった並行業務が得意なものですから。カレーニャにもちゃんと見ていると約束しましたので」

「──いえ。少々、失言でした。決して、カタリナ様とのお話を疎かにしたつもりはございませんので、何卒悪しからず」

 

カタリナ

「ん? あぁいや、全然気にしてなんていないさ。むしろドリイ殿の仕事振りに感心していたくらいだ」

「しかし、キミは冗談も中々達者なのだな。こう言っては何だが、少し意外な一面を見られた」

 

ドリイ

「お恥ずかしいですわ……」

 

 

 

 ──笑みは崩さないまま、いかにも少し困ったような仕草をしてみせるドリイと、その姿に思わずまた「ふふ」と笑うカタリナ。

 

 

 

カタリナ

「しかし……私がどうこう言えた立場ではないかもしれないが──」

「カレーニャに多少、失敗があったとしても、ここは余り厳しい点を付けずにおいてもらえないだろうか」

「折角のみんなでの食事だ。できれば楽しく卓を囲みたいのだが──」

 

ドリイ

「そちらについてはご心配なく。審査云々は建前なので、初めから罰点を与えるつもりはございません」

 

カタリナ

「と言う事は──ルリア達と注文を取りに行かせるのが目的だった、と?」

 

ドリイ

「はい。あのように振る舞ってはおりますが、カレーニャは常日頃から魔導グラスに付きっきりで、人と充分な交流を持つ事が殆どありません」

「お気づきかも知れませんが、人との距離感や礼節と言ったものを忘れている節さえあります」

「こうして、同じ年頃の方々との交流に至っては、恐らくは私とカレーニャが出会うずっと以前から、ただの一度も……」

 

 

 

 ──話しながら視線が段々とカタリナから外れ、何かを誤魔化すようにカレーニャに遠い目を向けるドリイ。

 ──ドリイの目的を察したカタリナが、少し割り込み気味に努めて明るく応えた。

 

 

 

カタリナ

「そういう事ならちょうどいい!」

 

 

 

 ──ハッと我に帰って視線を戻すドリイ。カタリナは屈託のない満面の笑顔だった。

 ──ドリイは話しながら自分の世界に入っていた事にそこで初めて気付いたようで、、半ば条件反射で、初めから綺麗に収まっていた眼鏡を更に直した。

 

 

 

カタリナ

「ルリア達なら、友達はいつでも大歓迎だ。きっと今も何だかんだ、カレーニャとうまくやっているさ」

 

ドリイ

「──『お友達』、ですか。……お心遣い、痛み入ります」

 

カタリナ

「心遣いなんかじゃないさ。誰かと仲良くなれる事は、私にとってもルリア達にとっても純粋に嬉しい。それだけだ」

 

ドリイ

「……はい。ありがとうございます」

 

 

 

 ──カレーニャを想うドリイに、「まるで母親のようだな」と想うカタリナだったが、言葉にはしないでおいた。

 ──単純な話、カタリナと同年代かやや年上程に見受けられるドリイに、カレーニャ程の歳の娘というのは流石に不釣り合いだったからだ。

 

 

 

ドリイ

「思いがけず取り乱してしまい、失礼致しました」

「話題を戻しまして──カレーニャを皆様の案内につけたのは、私の私情もありますがもう1つ、少々のお節介のためです」

 

カタリナ

「お節介?」

 

ドリイ

「はい」

「──カタリナ様には、まだ何か、私に伝えたい事がお有りなのではないかと」

 

カタリナ

「ドリイ殿に伝えたい事──? はて、ここまで随分話しているが……」

 

ドリイ

「6階で1度、私に何か用向きがございませんでしたか?」

 

カタリナ

「6階──」

「……ッ!」

 

 

 

 ──6階をキーワードに、すっかり隅に追いやっていた記憶が芋づる式に引き出される。

 ──6階、ゲームブック、2人きり……そして、ニコラの言葉。

 

 

 

『本当に、カタリナ様達の事じゃないんです。ただ……』

『もし、やっぱり気になるようでしたら……ドリイさんに聞いてください。二人っきりの時に』

 

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