グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ) 作:水郷アコホ
――プラトニアに到着した一行は、逸るアンナを半ば追いかけるように街へと繰り出していた。
アンナ
「わあぁ~~……わあぁ~~~~~~……!」
カシマール
「オマエサッキカラ『ワー』シカイッテネーゾ……」
──アンナは行く先々で、店のショーウィンドウの中の装飾品から軒先に飾られた小物まで一つ一つに目を輝かせ、感嘆の息を漏らしている。
──団長達はそんな先行くアンナを見守りながら、のんびりと後に続きつつ語らっていた。
ビィ
「ハハッ! 言葉もねェってこの事だな」
ルリア
「アンナちゃん、本当に嬉しそうです。私も、艇から見た時よりもこの島がすっごく綺麗で大っきくて、ビックリしてます」
カタリナ
「技術と発展の証として、自然を残しながらも島全土を開発したとは聞いていたが──これほどとはな」
「島だけでなく、グランサイファーが小さく見える程の巨大な港というのも、そうあるものではない」
「私も正直、驚きと感動を隠せないでいるよ。噂以上の繁栄ぶりだ」
ビィ
「それにしても何なんだろうな。さっきからあっちこっちで透明なモンが空飛んだり物運んだりしてるけど?」
――そう疑問を口にするビィの横を、鳩をデフォルメした様な形と大きさの透明な塊が、宙を滑るようにしてすれ違う。
──更に眼前でアンナが眺めている店の入口でも、透明なトロッコのような物に積まれた荷物を店員が中に運び入れている。
──しかもそのトロッコは、坂道の途中だと言うのに支えも無しにピタリと、その場で静止してみせている。
カタリナ
「私も本物を見た事は無かったが、あれが恐らく『
ルリア
「まどーグラス? 確かに見た目はガラスっぽいですけど……」
カタリナ
「話に聞いた限りでは、十数年ほど前からプラトニア国内でだけ流通している、魔力を燃料にして動くガラス細工らしい」
「こんな当たり前のように多く見かけるという事は、きっと今ではこの島に欠かせない物なのだろうな」
――先ほどビィの横を通り過ぎた物と同じ形のガラス鳩が一件の建物の前で、宙に浮いたままじっとしている。
――間もなく窓が開き、そこから伸びた家人の手が、持っている封筒をガラス鳩に当てると、鳩は自身が水であるかのように手紙をその内部に飲み込んだ。
――封筒の幅は縦も横も鳩より確実に大きかったが、角一つ飛び出したりはしていない。もちろん差込口のようなものも見当たらない。
――そのまま鳩は何事も無かったかのように宙を滑り、対面から向かってくる団長ら一行を丁寧に避けて、向こうへと通り過ぎていった。
ビィ
「あ、あれ本当にガラスかぁ? スライムか何かじゃねぇのか?」
カタリナ
「う、うむ。魔導グラスというからには、ガラスのはずだ。詳しい仕組みは見当もつかないが……」
ルリア
「でも、ちょっと可愛いですね。ガラスの鳥の郵便屋さんみたいで」
「とっても便利そうなのに、どうして他の島では使われてないんでしょうか?」
カタリナ
「確か、製造元と国とで何か諍いがあったという事は覚えているんだが……」
「ダメだ思い出せん。艇で偉そうな事を言っておきながら情けない……」
カシマール
「オーイ、オマエラー、ボサットシテネーデコッチキヤガレー!」
――ガラス鳩に釘付けになっていた一向に声がかかる。先程見た時と同じ店で、ショーウィンドウの前に蹲っているアンナの方からだ。一行が駆けつけるも、アンナはショーウィンドウを注視したまま振り向かない。
──ウィンドウの向こうには色取り取りのアクセサリーが所狭しと飾られ、大きな帽子を被った人形が隅に座って、心配するかのようにアンナの方を向いている。
アンナ
「え……えへへへぇ……」
ビィ
「どうしたんだアンナのやつ。この店のモンに随分夢中みてェだな?」
カシマール
「ムチューナンジャネー、ネッチューナンダ!」
カタリナ
「ネッチュウ……まさか!?」
「アンナ、立てるか。気分が悪かったりしないか?」
アンナ
「だ……大丈夫ぅ。ちょっと、はしゃぎすぎちゃったから……休憩してるだけぇ、だから……」
――カタリナがアンナの顔を掴んで振り向かせると、その顔は至福とばかり緩んだ笑みを浮かべているが、頬が上気し、心なしか目の焦点が合っていない。
カタリナ
「……いかん。どこか、日陰の休める所へ。ルリアとビィ君はどこかで水を買ってきてくれ!」
ルリア
「は、はい!」
アンナ
「ほ、本当に大丈夫だよぉカタリナ……」
カシマール
「タテネークライツカレテルノヲ、ダイジョーブナンテイワネーヨ!」
――カタリナがアンナを背負い、ルリアとビィが売店へ走り、団長が近くの路地裏にベンチを見つけた数十分後。
──介抱されたアンナはようやく正気を取り戻し、まだ多少ふらつきながらも歩けるまでに回復していた。
――団長がアンナに肩を貸しながら、一行は路地の出口へと向かっていた。まだ先程の熱が抜けきっていないのか、アンナは未だ頬や額がうっすら赤く、口元は穏やかだが緩んだ笑みを浮かべている。
アンナ
「だ、団長さん……あり、がとう……」
カシマール
「アリガトーヨリサキニイウコトアルダロ!」
アンナ
「あ、う、うん、そうだった……み、みんな、ごめん、なさい……」
ビィ
「良いって事よ。アンナが元気になって何よりだぜ!」
カタリナ
「それにしても、まだそんな暑くなる時期でもなし。帽子まで被っていて熱中症にかかるとは……」
アンナ
「あ、あのね……街が、あんまり凄くって……」
ルリア
「確かに素敵な街ですけど、街が凄くて熱中症に?」
アンナ
「ち、違うの。えっとね……」
「ボク、こういう賑やかな所とか、ちょ、ちょっとだけ苦手で……人も、沢山いて……」
「で、でもね。ひと目見て、わかったんだ。家の一件一件も、歩いてきた道の石畳も、売り物も、もちろんあの動くガラス達も……」
「服とか食べ物飲み物以外、みーんな、魔力で出来てるんだ、って」
ビィ・ルリア・カタリナ・団長
「!!?」
――驚きの声と視線が一斉にアンナに集まる。
ルリア
「ぜ、全部……ですか!?」
カタリナ
「確かに、売られていた道具や小物は皆、独特の意匠が施されて、この島独自の物だろうとは思っていたが……家までもとは……!」
アンナ
「あ、でも、全部魔力って事じゃなくって……お家とか、お店の備品とか、大きな物や複雑な物は多分……木とか、石とか鉄が半分くらい混じってる……かな」
「でも、ちょっとしたアクセサリーとか……後、あの動くガラスとかは、魔力だけで作られてるみたいなんだ」
ビィ
「マジかよ、姐さんが艇で言ってた通りじゃねぇか! て言うかアンナ、そんな事見ただけで分かるのか!?」
アンナ
「え? う、うん。魔法を勉強してたら、いつの間にか分かるようになってたから……多分、魔法に詳しい人なら、大体見分けられる……」
「……んじゃない、かな……た、多分……」
ルリア
「す、すごいですアンナちゃん……」
アンナ
「そ、そそそうかな……えへへ。あ、ありがとう、ルリア」
カタリナ
「しかし、それと熱中症とどう関係が?」
アンナ
「あ……そうだった。それが、その……あ、あんまり街が賑やかで、人が一杯いて……森に居た頃はそういう所、全然、見た事も無かったから……」
「ちょっと、その……息苦しいなーって思ってたんだけど……でも、そんな事気にしてられないくらい、街が、どこを見ても凄いものばっかりで……」
「何を見ても頭がふわふわしちゃって、街もキラキラしてて、ガラスもキラキラしてて……何だか、頭の中までキラキラで一杯になっちゃったって言うか……その……」
ビィ
「するってーと、つまり……?」
カタリナ
「慣れない環境で、度を超えた感動に晒され続けて……ついでに昨夜の寝不足も祟ったか。とにかく、ストレスと驚きで脳がオーバーヒートした……と言った所だろうか」
「これは一種の知恵熱……という事に、なるのか?」
カシマール
「マチガマブシスギテ、アヤウクトケテキエチマウトコロダッタッテコッタナ!」
アンナ
「と、と、溶け!? カ、カシマール、そんな言い方、あんまりだよぉ!」
ルリア
「あはは……あ、ここを曲がったら通りに出られそうです。アンナちゃん、体調はもう大丈夫ですか?」
――路地の突き当りが見え、道が左右に伸びている。この路地は丁字路になっていたようだ。
──未だ先が見えない分かれ道のどちらからも、街の喧騒が響いてくる。
──団長の肩を借りるどころか、気づけば半ば寄りかかるようにしていたアンナがハッと我に帰る。
──どちらに進んでも、あの絶え間なく眩しい知恵熱通りへと続いているのは想像に難くない。
アンナ
「あ、そ、そっか。……えっと、えっと……ま、まだ……あの、もう……ちょっと……」
――モゴモゴと言いかけた所で、アンナの目に団長の心配そうな顔が映り込む。
アンナ
「ッ……!」
「だ、だだだ、だ、大丈夫! ほ、ほほら、もうこんなに歩けるし、ちょっと気をつけてれば、もう、し心配いらないから……!」
――カツウォヌスの跳ねるが如く、パッと団長から手を離し、ほんの少しふらつく脚を小躍りで誤魔化しながら、少々強張った笑顔を見せつつ突き当りへと突き進むアンナ。だが……
ルリア
「あっ、アンナちゃん、後ろ!」
アンナ
「え……?」
???
「え……?」
――ちょうどアンナが一行の方を向いて進んでいた時、死角から通行人が現れる。ルリアの声にすくんだ脚がもつれ、アンナは反射的にバランスを取ろうと、更に背後へステップを踏む。
???
「あっ……」
――アンナの背が人影の肩を叩いた。
──人影の傍らの丸く大きな影……否、光を弾く何かがその手から零れ落ちる。
ガシャーーーーーン
――硬く、脆く、重いものが細かく砕ける音がアンナの背後で響いた。距離を置いたルリア達が思わず耳を塞ぐほど大きく。
――アンナの表情が一瞬で凍りついた。