グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ)   作:水郷アコホ

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19「カレーニャとプラトニア」

 ──今、ドリイとカタリナ2人だけの場が設けられた意図を理解したカタリナ。しかし……。

 

 

 

カタリナ

「い、いや──あの時の話題は、ちゃんとあの時に……」

 

ドリイ

「本当にそれだけでしょうか──」

「受付で指導した通りですよ。”リーナ”」

「なまじ隠そうと意識してしまうから、隠し事があると見抜かれてしまうもの、と」

 

カタリナ

「うっ……」

 

 

 

 ──咄嗟の話題逸らしはやはり見抜かれていたようだ。

 

 

 

カタリナ

「その……気持ちは有り難いが、この空気で話すような話題では……」

 

 

 

 ──ドリイの表情に含むものは感じられない。

 ──今しがた隠し事を見抜いて見せた彼女自身の心をこちらが読み返すと言うのも自信に欠けるが、あくまで親切心からの追求と判断して間違いないようだ。

 

 

 

ドリイ

「お言葉ですが、なればこそ今しか無いと考えます」

「ご様子から、ルリア様や団長様の前では申し上げにくい事と察せられます」

「しかし今後、カタリナ様と皆様とが離れて行動される機会は極めて少ないかと」

「先程から、皆様の仲についてお聞きするにつけ、尚更に」

 

カタリナ

「う、む……」

「……わかった」

 

 

 

 ──カタリナは極力、余計なしがらみを切り捨て迅速に答えを出した。

 ──ドリイが話題を切り出し、自分がとぼけた結果、今こうして残り時間が僅かながらも無為に消費された。

 ──お誂え向きに、カウンターではカレーニャ達とその先客らの列が、調理に手間取っているのか渋滞気味になっている

 ──このまま時間切れを待って有耶無耶にするような選択は、カタリナの個人的なプライドが認めなかった。

 ──何よりブティックのあの時……ニコラは自ら告げた言葉を、確かめてもらいたがっているように思えた。ニコラの真意に、自分なりに応えたい意思が確かに有った。

 

 

 

カタリナ

「服屋でな。アンナの服を選んでもらった後の事だ──」

「本当に偶然だった。店員達が、何か話しているのが聞こえたんだ」

「途切れ途切れにしか聞こえなかったが……余り、人聞きの良い話題では無いように感じられた」

「それで、その──……その──どうも、その話題が私達の事のようでいて、しかし……あー……」

「つまり、観光客の事では無いようだった……んだが……」

「……うまく、”言えない”のだが……この事が、どうにも気になって、な」

「何か……何かを、私は見落としているような。そんな気がしてならないんだ」

 

 

 

 ──無意識に頭を掻いてみたり、両手の指を擦り合わせたりしている自分に気付かないカタリナ。

 ──こうして改めて言葉にして初めて、自分のやろうとしている事にかなり無理があると気付く。

 ──そもそもは、些細な事として忘れるつもりだった。そんな切っ掛けをタネに、ニコラのために聞き出そうとしていながら、肝心のニコラに関わる部分は伏せてしまうのでは、相手を納得させられる道理がない。

 ──そして辻褄が合うように話を脚色するような柔軟さもカタリナにあろうはずがない。

 ──坂道を転がるようにカタリナの声が休息に小さく弱々しくなっていく、が……。

 

 

 

ドリイ

「……そう言うことでしたか」

 

 

 

 ──ドリイは至って真剣に聞き入っている。見る限りは冷静な無表情を繕っているが、聞き出そうとしたドリイ自身への後悔からか、気まずそうな雰囲気が隠しきれない。

 ──カタリナは拙い自分の話術で会話が進んでくれた事に安堵しつつも、少し後悔した。

 ──逆に考えれば、これほど要領を得ない話でさえ、明確に紐付けされてしまう。そのような話題を知らず突っついてしまったのだ。

 

 

 

カタリナ

「(やはり、このような場で話すべきでは無かったか……)」

「自分で言うのも何だが、こんな話し方で、まともに聞いてくれるとは思わなかったよ」

 

ドリイ

「幾つか打ち明けにくい点があるように見受けられました。しかしながら、私に話さねばならない事情がある事も、同じくカタリナ様から見て取れたので」

「また……申し上げにくい事ですが、大いに心当たりのある事柄です」

「もしやカタリナ様。その店員の会話、思いの外に強い言葉が用いられ、私に打ち明けるにあたってその旨を(はばか)っておられるという事は?」

 

カタリナ

「い、いや。最初は聞き違いか、仕事に疲れての愚痴か、その程度で済ますつもりだったが……」

「──というか、それ程の、その……”心当たり”が?」

 

 

 

 ──ドリイは「カタリナが実際に遭遇した会話は、聞くに堪えないような悪口雑言だったのではないか」と懸念している。

 ──思いも寄らぬ所に無用な配慮を受けるカタリナ。否定するもドリイの顔色は晴れない。

 

 

 

ドリイ

「……恐れながら……」

「もし、言葉にすべきでないような思いをなされたのであれば、島の者として、予め深くお詫び致します」

 

 

 

 ──音もなく席を立とうとするドリイ。

 ──流れからして、身振りを交えての格式張った、即ち深刻な意味合いでの謝罪を行おうとしている事が予想できた。

 ──カタリナが大慌てで引き止め宥める。

 

 

 

カタリナ

「ま、待ってくれ! 本当に、切っ掛けは本当に何でもない事だったんだ。それだけで誰かの責任だとか……そんなもの必要ない、それっぽっちの事だ!」

「頼むから落ち着いてくれ。例え、その……”然るべき対応”が必要だったとしてもだ。まずはその理由を説明してくれないか」

「何より、君の方から人目については本末転倒だ……そうだろう。な?」

 

ドリイ

「……仰る通りです。失礼致しました」

 

 

 

 ──腰を下ろし直したドリイにホッと胸を撫で下ろす。

 ──先程まで語らっていた時とは打って変わっての極端な行動に、もしや大声1つ上げただけでもまた何かしでかすのでは無いかと、カタリナの脳髄が混乱しかける。

 ──自らを胸中で叱咤するカタリナ。仮に今ドリイの対応が行き過ぎていたとしても、そのようにさせたのは自分の言葉だ、と。そのケジメは自ら着けねばならない。

 ──ルリア達が帰ってくるまでに、話をまとめてみせなければと、冷静さを装いながらドリイに続きを促す。

 

 

 

カタリナ

「落ち着いてからで構わない。まずは、私が気になっている事を、ドリイ殿はどのように受け取り、それにはどのような背景があるのか。聞かせてほしい」

 

ドリイ

「畏まりました」

 

 

 

 

 ──そっとカウンターを見やるドリイ。先頭のカレーニャが料理の到着を待っている。

 ──視線をカタリナへ戻した。彼女の見立てでは、説明する時間はまだ充分あるようだ。

 

 

 

ドリイ

「カタリナ様のお言葉から察するに、店員の会話には、少なくとも顧客を疎んじる内容が含まれていたものと考えます」

「例えば、『やっと帰ってくれた』等と」

 

カタリナ

「途切れ途切れだったものだから断言は出来ないが、そう受け取れるようには聞き取れたな……」

 

ドリイ

「同時にカタリナ様方、島外からのお客様の事ではないようであると」

「こちらはカタリナ様が何を(もっ)てそう判断なされたか、私には察しがつきかねます。しかし、十中八九その判断は間違いないかと」

 

カタリナ

「私の言いたかった事をほぼ間違いなく受け取ってくれている。そこは率直に有り難く思う」

「その上で──自分で言うのも何だが、これだけの情報で『間違いない』と言える根拠は何だ?」

 

ドリイ

「仮にも国内有数の店舗においてまで、あるまじき言葉を口にされるような対象……プラトニアにおいては、1つしかありません」

 

カタリナ

「それは、一体……?」

 

 

 

 ──相変わらず冷静な表情のドリイだが、そこで一瞬、口をつぐみ露骨に目が泳いだ。

 

 

 

ドリイ

「……少し、例え話をさせてください。屋敷でカタリナ様がルリア様方に語ったように」

 

カタリナ

「ああ。構わない」

 

 

 

 ──呼吸1つ分の間を設けて、「例え話」が始まる。

 

 ──ある国に、とても大層な富豪の一家がありました。

 ──富豪の裕福さときたら、その豪邸には国王の金庫よりもずっと沢山の金銀財宝が眠っていると、誰もが噂するほどです。

 ──なぜなら富豪はその国に、他のどんな国にも負けない便利な魔法をかけて豊かにしてくれているからです。

 ──しかし誰かが言います。「富豪の一家は、そのお金を自分達のためにしか使わない」。

 ──確かに一家は、必要な服や食べ物にしかお金を使いません。大きな家を持っているのに、なぜか使用人の1人も雇おうとしません。

 ──豊かな国でも尚も貧しい人達が確かに居るのに、富豪は自らのお金で助けてやろうとはしませんでした。

 ──誰かが言いました。「あの一家がお金を独り占めするから、私はパンを買う事もできない」。

 ──また別の誰かが言いました。「亭主がロクな仕事につけないのは、あの一家がお金惜しさに亭主を雇ってくれないからだ」。

 ──誰かが言いました。「私が屋敷に忍び込んで便利な魔法を盗み出してやる。皆が便利な魔法を使えれば誰も悲しまない」。

 ──今日も誰かが言います。「便利な魔法さえ無かったら、あんな一家なんて──」

 

 

 

ドリイ

「……以上です」

 

 

 

 ──例え話が終わった頃には、カタリナはテーブルに肘を突き、その手で頭を支えて項垂れていた。

 ──何に(かこ)つけた話なのか。ここまでの事を思い返せば、状況証拠は充分だった。

 

 

 

カタリナ

「……”カレーニャ”か」

 

ドリイ

「正確には、”オブロンスカヤ”です」

「聞く限りでは、魔導グラスが普及し始めた約20年前から、ずっと」

「もちろん、全ての島民がとは申しません。現に私は”そう”ではありません」

「しかしながら、決して見過ごせぬ数、そのような声があるのは確かです」

「『オブロンスカヤ家は、魔導グラス利権を独占し、島全体から搾取している』と」

 

カタリナ

「にわかには信じられないというか、信じたくないな……」

「ここに来るまで、街ゆく人々を何度も見てきた。皆、穏やかで優しい顔をしていた。憎しみなどとは無縁そうに──」

「いやしかし……そうか。あの店員の会話も、路地で出会った男がカレーニャに因縁を付けるような口ぶりだったのも……それにそんな世論があるなら、屋敷に使用人を入れず魔導グラスで賄っているのも──」

 

ドリイ

「それらの点につきましては、一概にお答えできる事情では無いので私からは……」

「しかしこれでも、カレーニャのご両親に不幸が有ってからは、少なくとも表立っての”声”は随分少なくなりました」

「皆様がカレーニャと共に過ごされても、気付かれずにお楽しみいただけた程度には」

 

 

 

 ──カタリナは、今しがたドリイが”然るべき対応”を取ろうと席を立ちかけた理由を察した。

 ──カレーニャは島の誰かにとって敵なのだ。それもカレーニャ独りにはいかんともし難い経緯によって。

 ──そんなカレーニャと連れ添って往来を歩けば、カレーニャを快く思わない者に出くわし何を言われるか、あるいはされるかも解らない。

 ──それでも自分達をもてなそうとしたのはカレーニャの気まぐれか、ドリイの「カレーニャを誰かと仲良くさせたい」親心が踏み切らせたか。事情は定かではない。

 ──しかし結果として、リスクを承知でこうして店を、通りを、図書館をと案内を請け負った。その綱渡りの気苦労は計り知れない。

 ──彼女はカタリナの話を聞いた時、何より「欺瞞を暴かれた」事を気にしていたのだろう。

 ──ニコラにせよドリイにせよ、「全てはカレーニャを思っての事」と考えれば、少なくともカタリナにとっては一通りの事に辻褄が合う。

 

 

 

カタリナ

「(つくづく愛されているのだな。カレーニャは──)」

 

 

 

 ──理由はどうあれ、このような話を聞き出した罪悪感はまだある。島の居心地も何となく悪くなった。

 ──しかし、カタリナはどこか清々しい気分も感じていた。

 ──少なくとも一行の年長者としては、知らぬままよりは知っていた方が良い事を知れたように思えた。

 ──ニコラも、カレーニャと当たり前のように接する自分達にこそ知って欲しかったのかも知れない。

 ──ドリイは尚も視線を下ろしたままでいる。このまま受付に立っていたらお構いなく語りかけてしまいそうな程、精巧な人形の如く涼しげな佇まいを装っている。しかしこうして話をした後では、印象もだいぶ異なる。

 

 

 

カタリナ

「今日の事、とても感謝している」

 

ドリイ

「カタリナ様──」

 

カタリナ

「まあ、始めは少しバタバタしたが──きっと、ルリアもアンナも……みんな同じように思っているはずだ」

「私達はただの観光客で、こうして至れり尽くせり助けてもらって、島を楽しく満喫している。それだけさ」

 

ドリイ

「──こちらこそ、返すお言葉も……」

 

 

 

 

 

 

ビィ

「おーーい、姐さーーん!」

 

 

 

 ──座席からやや距離を置いて、ビィが呼んでいる。

 ──見ると一行が料理を受け取り終えて、座席へと運んでいる──が。

 ──ルリアがトレーを2つ抱えてヨタヨタと歩み寄ってくる。取り巻く一行もハラハラして見守っていた。

 

 

 

ビィ

「悪ぃけどちょっと手伝ってくんねーか。ルリアが──」

 

ルリア

「だ、だ……大丈夫ですビィさん!」

「カ、カタリナも……そこで、待ってて……!」

 

カレーニャ

「運搬用の台車が自由に使えるって言ってんのにコレですもの。何がしたいのやら……」

 

カタリナ

「お、おいおいルリア。そんな無理しなくても──」

 

 

 

 ──どうにかこうにか、カタリナと自分の分を、意地と元気で無事に運び終えたルリアだった。

 ──ただし団長が運んだルリアの「前おかわり」分は数えないものとする。

 ──テーブルに料理を並べ終え席に着き、カタリナの隣で胸を張るルリア。しかしすぐにカタリナの顔をキョトンとした表情で覗き込む。

 

 

 

ルリア

「カタリナ──何か、ありました?」

 

カタリナ

「ん? 何かって──何がだ?」

 

ルリア

「うーん……気のせいかもなんですけど」

「何だか今のカタリナ、怒ったり悲しい顔をしたすぐ後みたいに見えて」

 

 

 

 ──直感か、それとも日頃から顔を合わせているからなのか。ぎくりと僅かに身体が固まるカタリナ。

 ──先程の話はまだルリア達には……ましてやカレーニャの居る前で悟られる訳にはいかない。

 ──平静を装いながら取り繕う。気休め程度に、受付でドリイに教わった心得など思い返しながら。

 

 

 

カタリナ

「あ、ああ実は──ほら。例のゲームブックの事を話していて、そうしたら、その……」

 

ルリア

「ゲームブック……あ、そういえばドリイさん、あの本の中身、最初から知ってたんじゃ──?」

 

ビィ

「あっ、そういやそうだ! あの本、眼鏡の姉ちゃんが教えてくれた奴だし」

 

カタリナ

「それだ! ……じゃない。そうなんだ。それに気付いたら、大人げないとは思いながらつい……な?」

 

 

 

 ──努めて声色に笑いなど交えながら、半ば助けを求めるようにドリイの方を見やるカタリナ。

 ──先程までのガラス細工のような表情はどこへやら。見慣れたにこやかな彼女がお任せあれとばかりに応じる。

 

 

 

ドリイ

「皆様がよりお楽しみいただけたなら、私も嬉しく思います」

 

カレーニャ

「無駄ですわよ。この人、ポーカーフェイスなら全空一でござあますから」

 

ビィ

「いやいや。つってもせめて最後の武器選ぶ所くらいはよぉ……」

 

ルリア

「でもあの時ドリイさんに聞いたら確か、『心のままに選ばれると良いかと』……でしたっけ?」

 

ドリイ

「はい。あの時点まで順調に読み進めた皆様ですので。皆様それぞれがご自身を信じていただくのが最良かと」

 

主人公(選択)

・うんうん

・やっぱり間違ってなかったのに……

 

→やっぱり間違ってなかったのに……

 

ルリア

「はわ! わ、私そういうつもりじゃ──」

 

ビィ

「あんまり拗ねんなって相棒。今度はちゃんと話聞くからよぉ」

 

カタリナ

「ハハ。しかし──ドリイ殿」

 

ドリイ

「はい?」

 

カタリナ

「申し訳なかったとは思うが、それでも、話してみて良かったよ」

 

ドリイ

「──はい」

 

 

 

 ──どこの国でも話しづらい事情の1つや2つあるものだと、先程の話題はひとまず置いて食事を楽しむ事にするカタリナだった。

 

 

 

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