グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ) 作:水郷アコホ
──食事を終えて、一息つく一行。
──早速ルリアがデザートを追加注文しに行き、カタリナと団長もルリアに付き添い、ビィは他の客の邪魔にならない程度にゆったりと室内を飛び回っている。
カレーニャ
「──アそうだ。忘れる所でしたわ」
「ちょっとドリイさん。アンナさんも」
ドリイ
「何でしょう、カレーニャ」
アンナ
「ボ、ボクも──?」
──2人を招き寄せた後、カレーニャがドリイに相談する。
カレーニャ
「アンナさん向けの書物なんですけど、私が探すのではどうにも役者不足みたいですのよ」
ドリイ
「なるほど。では少々お待ちを」
──すぐさま意図を察したドリイがアンナに向き直る。
ドリイ
「恐れ入りますが、アンナ様のご専門を伺ってもよろしいでしょうか」
アンナ
「ご……ごせんもんって、えっと、その……」
カレーニャ
「ソコそんな身構える所じゃござあませんでしょうが。要するに魔女としてどんな事できるかって話ですわよ」
ドリイ
「不必要な高圧的態度、一点」
カレーニャ
「んなっ? 説明したげただけでござあましょうよ!?」
アンナ
「あ、あ、あの……ボクも、教えてもらって助かったから……気にしないで、欲しい……です」
ドリイ
「畏まりました。では、ここはアンナ様に免じて取消とします」
カレーニャ
「ふぅ……。ほ、ほらアンナさん、ドリイさんに説明。すぐに手頃な本まとめてくださあますから」
アンナ
「あっ、う、うん。えっと──」
──魔女として出来ること、まだ出来ないこと。得意なこと、苦手なこと等、箇条書き気味に語るアンナ。
──慣れない自己PRに何度もつっかえるが、ドリイは臨機応変にフォローしながら聞き取っていく。
──しかもアンナの方から目をそらさず、応答にも間を開けず、それでいて全く並行して手帳に何事か次々に書き連ねている。
──あまりに迷いの無い筆捌きに、アンナの視線が度々ドリイの手元にチラチラと滑る。後半はむしろ手ばっかり見ていた気さえした。
──そしてアンナが一通り説明し終えると、書き込んだ手帳のページ何枚かを切り取りカレーニャに手渡した。
ドリイ
「ご協力ありがとうございました。アンナ様」
「アンナ様に見合う資料については、題名、所蔵書架、各資料の概要をまとめてカレーニャに預からせます。後ほどご確認ください」
「カレーニャ。印を付けた物は第二候補です。それ以外の資料がご満足いただけなかった場合に勧めて下さい」
カレーニャ
「はいな了解」
──そんなやり取りをぽかんと口を開けて眺めるアンナ。
アンナ
「あの……ほ……ほんとに図書館の本、みんな覚えてる……んですか?」
ドリイ
「全てとまではいきませんが、お恥ずかしながら館内蔵書の半分ほどなら、すぐにでも
カシマール
「ゼンブオボエテンノカヨ……」
アンナ
「す……すごい……」
ドリイ
「恐れ入ります」
カレーニャ
「ああ、それとグラスの事ですけど」
──カレーニャが何か言いかけるが、そこで口を閉じ、ドリイの返事を待ち始めた。
──ドリイもドリイで、それが当たり前のようにカレーニャに振り返る。
ドリイ
「私からしましても、魔導グラスと通常の硝子細工とは、見ただけでは区別が付きませんよ。カレーニャ」
カレーニャ
「ですわよねえ……」
アンナ
「ちょ……超能力……?」
──序文だけでカレーニャの言わんとする事を読み取り、確認するまでもなく返答したドリイに目を見張るアンナ。
──もしや人間では無いのではと、些か失礼とは思いながらそんな疑念が本気で頭を過る。
ドリイ
「驚かせてしまったようで、申し訳ありません」
「アンナ様が魔導グラスを鑑別なされた事は、カレーニャから伺っておりましたので」
「カレーニャとは常日頃から渡り合って参りましたので、私の見解を求めるタイミングはいつ頃か。何となく察しが付いただけの事です」
カシマール
「”ツーカー”ッテヤツダナ」
ドリイ
「流石はカシマール様。博識ですね」
カレーニャ
「あ~でもそういやあ、ドリイさんも魔法が使えるとは言え、早々に基礎かじり倒す道を選んだ変わり者って話ですし、余り参考には──」
──アンナの仮説通りに「魔法を修めていれば魔導グラスと硝子の区別がつく」を検証しようとしたが、ドリイが有効なサンプルで無い事に気付いたらしい。
──溜息混じりに語るカレーニャ。そこにルリアの声が割り込む。
ルリア
「お待たせしましたー!」
──ルリア達が
──誰が言うでもなく一流のウェイターの如く手早く料理をテーブルに並べ、台車を片付けに行く団長。場数が違った。
──もちろんルリアもお礼を忘れない。
ルリア
「ありがとうございまーす!」
「ん~……どれも美味しそうですぅ」
「あ、カレーニャちゃん達も一緒にどうですか」
カレーニャ
「”ちゃん”……ンェッヘンッ! お、お構いなく」
「見てるだけで胸焼けしそう……」
アンナ
「あ……じゃ、じゃあボク、この赤いの……良いかな?」
ルリア
「わかりました。ハイどうぞ、アンナちゃん」
アンナ
「ありがとう。ルリア」
ビィ
「おーい。──お、うまそうだな。このリンゴのやつ、オイラもらっても良いか?」
──散歩から戻ってきたビィが合流し、団長も同じく台車を片付けて戻ってきた。
──ルリアからデザートを受け取ったビィは、一口かぶりついて堪能した後、思い出したようにドリイに話しかけた。
ビィ
「おっと、忘れるところだったぜ。なあ眼鏡の姉ちゃん」
ドリイ
「はい。如何されましたか、ビィ様」
ビィ
「ちょっと変な事聞くけどよ──」
「この図書館って、8階のここが一番上の部屋って事で、あってるよな?」
ドリイ
「──ふむ」
──ビィの質問を受けて、ドリイの眼鏡が密かにキラリと光る。
カレーニャ
「そのはずでござあますけど、それがどうかしまして?」
ビィ
「だよなぁ? でも、何か変な感じがするんだよなあ」
ドリイ
「ビィ様。大変素晴らしい感性をお持ちですね」
カレーニャ
「は? ドリイさん?」
ビィ
「お。やっぱりこの図書館、何かあんのか?」
ドリイ
「そうですね──まずは、何故疑問を持ったか。具体的な経緯をお聞かせ願えますか?」
──にわかにビィがワクワクした様子で語りだす。
──思いがけず建造物に隠された秘密を見抜いたかもしれない。それも自分だけが。そんな状況に少年の魂が燃えているのだ。
ビィ
「んっとな、さっきその辺飛んでて、ちょっと窓の外に出て島を見てみたんだ」
ルリア
「わあ。良いですね。この部屋、景色もすごく良いですし。空が飛べるビィさんならではですね」
ビィ
「だろ? んで、外の景色もすごかったんだけどよ。ついでに、図書館もよく見てみたんだ。そしたらよ──」
「この図書館って、8階の下にでっかい時計が付いてるけど、上には何も無いだろ?」
カレーニャ
「確かにそういう造りですけれど、8階から上は屋根なんですから、何もへったくれも無いんじゃござあませんの」
ビィ
「いやそうなんだけどよぉ。でも、何かちょっと変なんだよなぁ……」
ドリイ
「ビィ様。もう一息ですよ」
「つかぬ事をお伺いしますが、8階直下の大時計と8階直上のその”何も無い”箇所。実際に見比べて何か気付いた事はございませんでしたか」
「例えば、『大時計を8階より上に飾ったらどうだったか』であるとか──」
ビィ
「ん? ──おっ。わかった!」
「8階の窓の上な、下の時計がそのままくっつけられるくらい壁が広かったんだ!」
カレーニャ
「壁……? あ~……言われてみれば、確かに屋根と窓の間、スペースござあましたわねえ」
ドリイ
「ご明察ですビィ様。ご覧の通り、カレーニャでさえ全く気付きもしなかった事です」
ビィ
「おぉ! オイラってもしかして、自分で思ってるよりアタマ良いのか?」
カレーニャ
「あぁん!? ちょっと! 別に建物のデザインくらい建てたその時々でござあましょうが!」
アンナ
「あっ──」
ルリア
「アンナちゃん? どうかしました?」
アンナ
「あ、う、ううん。何でもない。た、ただの……独り言? ……だから」
──つい先程、この地下2階で聞いた館長の言葉を思い出していた。
──重大な事を、多くの人が何度も目にしていても、意外と気づかれないものなのだ。
──加えるなら、あの場で気付く切っ掛けが重要か、答えを出す事が重要かで持論を振るったカレーニャが今、このザマである。
──カレーニャの抗議をスルーしてドリイとビィの問答が続く。
ドリイ
「ではビィ様。8階直上の不自然に広がった壁。実は故あってあのようになっているのですが、何故だと思われますか」
ビィ
「う~~ん、そこまでは……」
「もしかしてだけど……実は9階がある、とかか?」
「でも、もう1部屋ってほど高い壁でも無かったような……」
ドリイ
「フフフ──。カレーニャの完敗ですね」
カレーニャ
「勝手に競ってる事にしないでくださあますこと!?」
ビィ
「って事は……い、今のアタリなのか?」
ドリイ
「はい。厳密には9階ではございませんが、実は当図書館、この上に屋根裏部屋が設けられております」
主人公(選択)
・「ビィすごい!!」
・「あー気付いてたわー最初から気付いてたわー」
→「ビィすごい!!」
ビィ
「へっへーん。オイラだってたまにはヤるんだぜ!!」
カレーニャ
「屋根裏ぁ? ちょっと、初耳でしてよドリイさん」
ドリイ
「はい。私もしばらく前に当館の館長より伺い、初めて知った次第です」
「曰く、今でもその存在を知っているのは、自分を含めた少数の年配者だけだろう──と」
「即ち、ビィ様はこの島の住民にさえ知られていなかった秘密を、ご自身の力で見つけ出されたのです。まさに快挙ですね」
ビィ
「そこまで言われると、オイラ照れちまうぜぇ……」
──そう言うビィの顔は緩みに緩んでいる。このまま全身もろとも液状化して「ビィ」という概念すら消失して宙に漂わんばかりである。
──その後、ドリイから簡単な屋根裏の説明があった。
──まだプラトニアが現在のような発展の影もなかった建設当初、図書館は単純な木造7階建てで、大時計は最上階の上に位置する構造だった。
──時代が進み、魔法と魔力の延長線上であらゆる産業を賄えるようになったのが約100年前。
──物資に余裕が生まれると同時に、島中に開発の手が伸び、災害用の避難所や倉庫を作ろうという運動が始まった。
──洪水や陸棲の魔物に侵入された時に備えて、図書館を大改築すると同時に、7階の上に避難所としての8階と、倉庫としての屋根裏部屋が増築された。
──しかし更にプラトニアが豊かになっていくと、倉庫や避難所はより安全で高度な物が島中に設けられるようになり、何十年も前に図書館のそれは役目を終えた。
──最近になって8階は展望フロアとして改装されたが、屋根裏は活用するには中途半端な空間で、持て余したまま改装工事完了に伴って出入り口も塞がれ、現在に至るという。
──そんな説明も話半分に、ビィを褒めそやして楽しむ一行。ドリイもそんな彼らが微笑ましいようだ。
──が、ドリイによって勝手に敗者にされたカレーニャはそうでもない。
カレーニャ
「ったく、何なんですの。いきなりクイズ大会なんておっ始めて……」
ドリイ
「この島の事でさえ、まだまだカレーニャの見知らぬ事は多い、という事ですよ」
カレーニャ
「んなこた当たり前でござあましょうよ。それがどうかなすったと?」
ドリイ
「そうですね──ではカレーニャ、屋根裏部屋の実態に興味は?」
カレーニャ
「あるわけ無いでしょうが」
ドリイ
「では、やはりカレーニャの完敗です」
──笑顔で応えるドリイ。訳が解らないとむくれながらドリイへの追求は諦め、一行の会話に割って入るカレーニャ。
カレーニャ
「はいはいお戯れはその辺に。それよりこの後のご予定、午前と同じ組み合わせで問題ござあませんの?」
──カレーニャの言葉に我に帰り、少し考え込む一同。
──アンナだけ置いて遊びに興じていた事に少々後ろめたさがあったようだ。
──かと言ってアンナについていった所で退屈してしまうだけなのは想像に難くなく、アンナとしてもそれは本意ではない。
カタリナ
「はっきり決めてしまうのなら、どのみち先程と同じく別行動に落ち着くだろうが──」
「……それで構わない……だろう、か?」
アンナ
「う、うん。仕方ない、かな──」
「ちょっと……寂しいけど……み、みんなが楽しんでくれてた方が……」
ルリア
「はうぅ……」
カレーニャ
「だぁから、なんだってそういちいち深刻そうになさるのよあなた方……」
ドリイ
「感情の分かち合いを求めるのが、人の
カレーニャ
「あー、はいはい。なーるほどねーえ」
──適当に聞き流すように冷めた調子で返すカレーニャ。
──そしてカレーニャとのやり取りなど初めから無かったかのように、ドリイがいまいち煮え切らない一行に声を掛けた。
ドリイ
「後ほど、ゲームブックの貸出を申請なさるというのは如何でしょうか」
「島外に持ち出さず、期日までに返却いただけるなら、多くの書物は手続きの後、図書館の外への持ち出しが可能となっておりますので」
カタリナ
「なるほど。それならアンナの調べ物が終わった後、今夜にでも皆で読む事ができるな」
ルリア
「アンナちゃんとも一緒に遊べますね!」
アンナ
「ボ、ボクも……そうしてくれるなら、楽しみ……かな」
ビィ
「だったら、午後は別の本読んだ方が良いかぁ?」
「姐さんはやる気満々だったけど、オイラ達だけ2度も読んでアンナだけ読んでないってのもなぁ……」
カタリナ
「あ、あれはひとまず忘れてくれビィ君……」
「もう頭は冷えたよ。楽しみは後に取っておくさ」
ドリイ
「では、午後は
カタリナ
「ドリイ殿。くれぐれも、次はもう少し素直に楽しめる物を頼む」
ドリイ
「畏まりました。入念に配慮致します」
──ドリイとカタリナの冗談交じりのやり取りにルリア達から笑みが溢れると共に、午後の方針が定まった。
──特筆するまでもなく、午前と同じ組み合わせ。アンナ達はドリイのリストを頼りに魔術書探し。団長達はドリイの案内でゲームと土産話探し。
──夕方頃に1階での合流を打ち合わせ、ルリアが吸い上げるように残りのデザートを片付け、一行は再び二手に分かれた。
カレーニャ
「ちなみに、一歩でも島から持ち出したり、借りた本汚したりしたら即刻弁償ですわよ」
ドリイ
「不必要な高圧的態度、一点」