グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ)   作:水郷アコホ

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21「1階にて」

 ──午後は至って平和な時間が流れ、気づけばもうすぐ日が赤みを差そうかという頃だった。

 ──当初の予定通りに1階で昇降機を降りたアンナとカレーニャ。

 ──急ぎ足気味で出てきたアンナに、グラスチェアーに腰掛けたままぐーっと伸びをしながらカレーニャが続く。

 

 

 

カレーニャ

「──ん~、実に有意義な時間でしたわ」

「もうすぐ大きな暇が取れますし、その時にでももうちょっと魔法を齧って見ようかしらね」

「なんたって……こーんな素敵なセンスのカタマリ見せつけられたら黙っていられませんもの♪」

 

 

 

 ──見るからに上機嫌なカレーニャが、背後からアンナの肩に手を置き褒めちぎる。

 

 

 

アンナ

「だ……だから、ボクなんてそんな……そこまでの事……」

 

カシマール

「ナニイッテンダヨ、アンナ。イッペンコイツヲビシットミカエシテヤレ!」

 

カレーニャ

「こればかりは”マタドール”の言う通りでしてよアンナさん」

「ご家族に誇れるアナタになりたいなら、まずは嘘でも良いから、アナタがアナタを認めて差し上げにゃあ始まりませんことよ」

 

カシマール

「”カシマール”ダ!!」

 

アンナ

「そ……それは、そうかもだけど……あんまり、そんな……褒められると……恥ずかしい……」

 

 

 

 ──受け答えながら、アンナはしきりに視線を周囲に配る。

 ──昼にも時間のルーズさを見せたカレーニャが案内役なだけあって、今回も予定時刻を若干オーバーしていたのだ。

 ──翻って、向こうはデキる女ぶりを遺憾なく発揮するドリイに保護者役のカタリナもついている。ほぼ確実に、団長らは先に1階で待っているはずである。

 ──大広間の人だかりの中に緑のローブと青い髪、何よりいの一番に団長の姿を認めたアンナ。団長達もこちらに気付き、お互いに手を振り合う。

 

 

 

ビィ

「お、二人とも来たみたいだぜ」

 

アンナ

「うぅ……みんな、何度もごめんね……」

 

 

 

 ──合流するや、まずは仲間たちに謝罪するアンナ。

 

 

 

ドリイ

「カレーニャ。お客様をお連れしながら、二度の遅刻は感心しませんよ」

 

カレーニャ

「ハイハイ、今回ばかりは悪うござあましたわ。あんまり熱が入ってわざと時間踏み倒しちゃいましたし」

 

カタリナ

「まあ、ドリイ殿。2人にとって有意義だったなら、我々としても異論はないさ」

 

ルリア

「私も全然気にしてません。それより、アンナちゃんの方はどうでしたか?」

「魔法の事はよくわからないですけど、その……お、お勉強になる本とか、ありましたか!?」

 

 

 

 ──慣れない言葉を捻り出そうとして、何だか全身に力がこもるルリア。

 

 

 

アンナ

「う、うん。えっと……は、初めて知った事とか、解らなかった事の答えとか……えっと……」

「だ……駄目だぁ……沢山ありすぎて、言葉にできない……」

「で、でも……図書館に来て、本当に良かったと思う……」

 

 

 

 ──満足の程が見て取れる自然な笑顔のアンナ。更にカレーニャが持ち上げる。

 

 

 

カレーニャ

「見てるこっちも圧巻でしたわ。4階にも簡単な実験設備ありますわよって教えたら、午前中にも大暴れしなすったのに()()()()()食いついてきて──」

「そうそうドリイさん! プラトニアの叡智、アンナさん1人に半分くらい追いつかれてましてよ」

 

ドリイ

「まあ。それは私、大層お見逸れ致しました。職員としてもお恥ずかしい限りです」

 

 

 

 ──言葉とは裏腹に嬉しそうに頭を下げて見せるドリイに、アンナが大慌てで否定する。

 

 

 

アンナ

「い、いいいいえあの、だ、だだって……プラトニアだと、ボ、ボクみたいな魔法はもう殆ど使われてないって……カ、カレーニャが……!」

 

ルリア

「えっと──どういう事ですか?」

 

カレーニャ

「ドリイさん選りすぐりの資料の大半、アンナさんにはとっくに通り過ぎた知識だったって事ですわ」

「午前の実技の方は首っ引きの練習し通しでござあましたのに、知識と応用力の方は素直に脱帽モンでしたわ」

「ぶっちゃけ掛け値なし、我が国で教鞭取れるレベルですわね」

 

ルリア

「はわ……!」

 

アンナ

「だ、だだだからそんな、おおおおお大げさすぎるよぉ……」

 

ドリイ

「確かにアンナ様の扱われる技術は、プラトニアでは古典に分類されております。現役の術者も数える程で、他島ほど現在の水準は高いとは言えないかもしれません」

「しかしながら、古典は現代に至る源流として、研究分野としては国内でも特に盛んなものの1つでもあります。私が紹介致しました資料も、我が国の歴史を代表する誇り高き集合知です」

「カレーニャの言葉通りその半分を解し、あるいはご存知であったなら……もしアンナ様が学者の道を志されれば、遠からず我が国でも十指に数えられるであろう期待の新星と目されたかと」

 

アンナ

「う……うええぇぇぇえ!?」

 

ビィ

「ア、アンナって、そんなに凄ェやつだったのか……!?」

 

主人公(選択)

・「うんうん」

・「アンナはウチの団員ですので!」

 

→「うんうん」

 

ビィ

「ハハッ! 何だよ団長(オマエ)まで急に『知ってた』みたいな風にしてよォ」

 

ルリア

「でも、そう言われてみれば──私達がアンナちゃんと出会った切っ掛けも、『何でも知ってる魔女さんが居る』って噂を聞いたからでしたね」

 

アンナ

「そ、そそれは、お、お婆様の事で、ボクなんてぜ全然──!」

 

カレーニャ

「ご先達がいらっしゃったのなら尚更納得ですわ。ご丁寧に素人の私にも解りやすいレクチャー付きでしたし──」

「かてて加えて、本で得た知識だけですぐさまこ~んな腕飾り(アミュレット)まで私に……」

 

 

 

 ──ごく軽い鉱物が擦れる音と共に、手首の腕飾りを誇らしげに見せつけるカレーニャ。淡い色彩の石を干し草を撚った紐で連ねた、如何にも魔女らしい一品だった。

 ──アンナが、ネコ科動物が突如背後に現れた野菜に飛び退くような挙動でアミュレットを覆い隠そうとするも、グラスチェアーが右に左にアンナをかわす。

 

 

 

アンナ

「わわわっ、た、試しに、作ってみただけ、だから、他の人に、見せ、ちゃ……駄目ってぇ……!」

 

ルリア

「わ~、綺麗。アンナちゃん、今度、ぜひ私にも作ってもらえませんか!」

 

主人公(選択)

・「同じく!」

・「これは絶対に流行る(*´ω`*)」

 

→「同じく!」

 

アンナ

「ち、ちが、こ、これはそんな、あの……」

「も……もぉみんな勘弁してぇ~~……」

 

カシマール

「ソ、ソノヘンニシネート、アンナガホントーニトケルカラナ!?」

 

カタリナ

「ほらみんな。カシマールもこう言っている事だし──」

 

 

 

 ──笑いながらもカタリナが止めに入り、ひとまずアンナを冷ましつつ雑談に話題を切り替える一行。

 ──ルリア達が6階でのゲームの様子を語り、アンナも段々と落ち着いてきた。

 

 

 

ビィ

「──でよォ、今度は団長(こいつ)がムキになっちまって、『ここは絶対こっちだー』って」

「そんで言う通りにしてみたら、なんと落とし穴に引っ掛かっちまったんだ。勇者も仲間もまとめて泥だらけだぜ」

 

アンナ

「えぇ!? じゃ、じゃあ……また……し、失敗……?」

 

ルリア

「いえ。大怪我とかにはならなくて、その後はゲームもちゃんと最後まで行けました」

「でもあの時の……プフッ」

 

ビィ

「ページ開いて落とし穴に落っこちた絵ぇ見た時の団長(こいつ)の顔ときたら、なあ……クヒヒヒ……」

 

主人公(選択)

・「もう忘れてくださいっ!!」

・「だ……誰にでも間違いはあるから……」

 

→「もう忘れてくださいっ!!」

 

ルリア

「ご、ごめんなヒャい……でも、あんな顔するとクフッ……は、はじめて見て……」

 

アンナ

「フフ……みんな、楽しそうで良かった」

 

カレーニャ

「あらあら団長さんたら。年の割に出来たお方と思ったら、見かけ通りに可愛らしい所もあるんですのねぇ」

 

カシマール

「オメーハモーチョットカワイゲヲモテヨナ」

 

アンナ

「こ、こらカシマー……」

 

 

 

 

 

 

女性の声

キャーーーーーッ!!

 

 

 

 ──突如、遠方から絹を裂くような声が響き渡った。

 ──厄介事には慣れたもの。団長らがすかさず声の届いた方角を見ると、何人かの客が通路から飛び出してくる。

 ──客達は自分達が出てきた通路の奥を見やりながら、こちらの方へ駆けてくる。

 ──興味なさげに軽く通路に目を向けたカレーニャが、意味深げな冷めた態度で呟いた。

 

 

 

カレーニャ

「あぁ。大方、『また』ですわね……」

 

ドリイ

「トラブルのようです。ここは我々職員で対処致しますので──」

 

ルリア

「いえ。困っている人がいるなら、放っておけません!」

 

ドリイ

「お気持ちは大変嬉しく思います。しかし皆様は──」

 

 

 

 ──問答を抑えつけるように、群衆の方角から()()と、複数の大声が重なり合う独特の音波が押し寄せる。

 ──そして次の瞬間、ルリア達の間を横切って、何かが図書館の床にぶつかり、高い音を立てながら大きく跳ねた。

 ──余りに速すぎて、誰もがソレが横切ってから事態を認識した。……否。1人、察知していたようだ。

 ──ソレの軌道上に最も近かったルリアの周囲を薄く、透明な壁が取り囲んでいる。

 

 

 

ルリア

「こ、これ……水?」

 

ドリイ

「初歩的な水の防護壁です。それよりも、お下がりくださいルリア様」

 

 

 

 ──答えながらドリイが視線を向けた先には、魔導グラスの鳥の姿があった。

 ──街中で手紙を取り込んで配達していたのと、ほぼ同じ物体である。

 ──しかし様子がおかしい。宙に浮いたその佇まいは、滑るように静かに移動していた記憶の中の姿とは程遠い。

 ──力一杯に握りしめた拳のように細かく、素早く、無軌道に震えている。

 

 

 

ルリア

「あの魔導グラスさん、何だか様子が……キャッ!?」

 

 

 

 ──ルリアが悲鳴を上げた時には、事態は既に終わった後だった。

 ──人の反射神経より遥かに速く、グラスの鳥はまず、自ら床へ急降下し、床材を削り取りながら弧を描いて急上昇。

 ──続いて天井にめり込む程に激突しながら、ただ跳ね返っただけかのように軌道を変更し、ルリアの顔面へと飛んできた。

 ──しかしルリアと衝突する直前、先程のドリイの「水の壁」が間に立ちはだかった。

 ──物理法則を超えた高密度の水がグラスを受け流し、軌道を曲げられた鳥は近くのテーブルを粉々に砕いて、再び空中で痙攣を始めた。ルリアの悲鳴はこの後に発せられたものだ。

 

 

 

ドリイ

「ルリア様、お怪我は!」

 

ルリア

「だ、大丈夫です。ありがとうございます。でも……あの魔導グラスさんは……?」

 

ドリイ

「暴走しており、大変に危険です。カタリナ様、皆様を遠くへ」

 

ルリア

「ぼ、暴走って?」

 

カレーニャ

「説明は後。ドリイさんが黙らせますから、ほら行きますわよ」

「……って、ちょっと団長さん!?」

 

 

 

 ──制止も聞かず、団長が魔導グラスに飛びかかる。

 ──受付で武器の持ち込みに制限がかかっており、咄嗟に扱える状態ではない。故に実質の丸腰である。

 ──それでも団長は、宙で震える魔導グラスを捕まえ、抱きかかえるようにして抑え込んだ。

 ──しかし、グラスの馬力の方が優っていた。グラスは抵抗するように再び知覚外の速度で虚空を跳ね、その勢い1つで団長の拘束を文字通り弾き飛ばした。

 ──投げ出された団長にルリアとビィが駆け寄る。グラスが鳩尾(みぞおち)かどこかを押し潰したらしく、(うずくま)ってすぐには動けそうにない団長。

 

 

 

職員

「皆さん、ここは職員が対処します! 危険ですので……うわっ!?」

 

「おい、あれ『暴走』だろ。”今度こそ”……ひぃっ!?」

 

 

 

 ──グラスは明後日の方向へ一瞬で長距離を移動し、野次馬の群れの足元へ突っ込む。

 ──大小の瓦礫が飛び散り、散弾銃のように野次馬を襲うが、これも唯一グラスに対応できているドリイが水の壁を展開し防ぎきった。

 ──ドリイ含め、職員達は来客を守る事に手一杯なようだ。離れろと呼びかけているのに見物人が増える一方とあっては無理もない。

 ──カタリナがドリイの隣から一歩前へ出て、剣の柄に手をかけた。

 

 

 

カタリナ

「ドリイ殿。勝手で申し訳ないが、皆は君1人に任せるつもりは無いようだ」

「それに、あれ程の速さと質量……どこへ退避しようとグラスの進路上に入ってしまった時点で無意味だ」

「君は人命の保護に集中していてくれ。要はグラスを無力化すれば良い。その認識で問題ないな」

 

ドリイ

「はい。魔導グラスは形状と機能とが密接に関係しています。2割程でも原型を損なわせれば機能不全で停止します」

「──しかしカタリナ様だけは、何があろうと、館内で剣を取る事はご遠慮願います」

 

カタリナ

「何故だ!?」

 

ドリイ

「あなたは研修生の”リーナ・カーター”ではありません。エルステ騎士”カタリナ・アリゼ”様です」

 

カタリナ

「あっ……クソ!」

 

 

 

 ──ごく自然に振舞い続けて、カタリナ自身すっかり忘れていた。

 ──彼女は今、プラトニアの役人の証であるローブに隠れてこの場に立っている。

 ──仮に、ここでカタリナの活躍で事態が一件落着したとして、図書館がこの件の事後処理を取りまとめる段になれば、その事を誤魔化しようが無くなってしまう。

 ──待っているのは、同僚達を騙し、エルステ兵の装いをした者を不当に入館させたドリイの責任問題である。もちろん、カレーニャにも(るい)が及びかねない。

 ──苦々しげにドリイの元を離れ、団長達を庇うように立つカタリナ。彼女自身が先程分析した通り、どこに居ようとグラスに狙われたらどうしようもない。

 ──そしてここは広間のど真ん中。ルリアとビィと、何より自由の効かない団長を連れて通路や館外へ逃げようとした所で、その間にグラスは幾度でも飛び回って見せるだろう。安全な場所へ退避するための安全が無い。

 ──せめて自分が盾になるのが精一杯。そしてカレーニャと、意外にも団長の元に駆け寄らなかったアンナに呼びかけるカタリナ。

 

 

 

カタリナ

「二人共、こっちに来て私の陰に入るんだ!」

 

ビィ

「お、おい姐さん!?」

 

カタリナ

「悔しいが、ドリイ殿に要らぬ迷惑をかける訳にもいかない……」

「なあに。このローブの下は自慢の鎧さ。あの程度の1発や2発、受け止めて見せるさ」

 

 

 

 ──落ち着き払った笑顔で宥めるカタリナ。

 ──甲冑で身を固めた相手には、ハンマーのような鈍器で鎧ごと変形せしめる打撃が有効であるなどとはとても言えない。

 ──だが、カタリナの指示に対して異議が申し立てられた。

 

 

 

アンナ

「ま……待って!」

 

カタリナ

「待っても何もあるか! いつ魔導グラスが動き出すか……」

 

アンナ

「そ……それでも、待って」

「カレーニャ。あの魔導グラス……こ、壊しちゃっても、本当に大丈夫……なの?」

 

カレーニャ

「は……? まあ、壊した所で魔力になって空気中に還るか、私が修理して元通りですけど……」

「それより、私も逃げるなり隠れるなりなさる方に賛成ですわよ。ああなると私にも制御が──」

 

アンナ

「わかった……!」

 

カレーニャ

「あ、ちょっと、あなたまで……!?」

 

 

 

 ──その返答は、カレーニャの「説明」にであって、「意見」にではなかった。

 ──走り出したアンナはドリイの横に付き、尋ねた。

 

 

 

アンナ

「あの……少しだけ、あの魔導グラスを魔法で閉じ込める事って、出来ますか」

 

ドリイ

「時間によっては、断言致しかねます」

「保証できる範囲としては、再びグラスが動き出した状態から、数秒ほどかと」

 

アンナ

「そ……それだけあれば、多分、大丈夫です」

「あの……えっと、えっと……」

 

 

 

 ──グラスの鳩の影が激しくブレた。

 

 

 

ドリイ

「退避を!」

 

「ひぃっ!」

 

 

 

 ──野次馬に呼びかけるドリイ、ほぼ同時に客の眼前で水とグラスがせめぎ合う。

 ──アンナが語りかける間にも現在進行系で魔導グラスが飛び回り、ドリイと職員が防衛にあたっている。

 

 

 

ドリイ

「どうぞアンナ様。お構いなく、そのまま続けてください」

 

アンナ

「あ……う、うん……。き、今日、えっと、ま、魔導……グラスは、えと……ま、魔力の火に、弱いって……その……カレーニャと……それ、で……」

 

 

 

 

 ──伝えるべき事を伝えようと焦っては、グラスの動きが気にかかり言葉が出てこない。

 

 

 

ドリイ

「把握しました。二次被害は私が全力で防ぎます。いつでもどうぞ」

 

 

 

 ──が、ドリイには意図する所が通じたらしい。

 

 

 

アンナ

「え……! あ、ああああの、い今のでホントに……?」

 

ドリイ

「多少の齟齬はこちらで調整します」

「今は、貴方が頼りです。まずは行動される事をお(すす)めします」

 

 

 

 ──油断ならない状況のはずなのに、アンナの目を見て、落ち着かせるように笑顔でゆっくりと語りかけるドリイ。

 

 

 

アンナ

「は……はい!!」

 

 

 

 ──応えるなり火球を作り始めるアンナ。その熱量を誇示するように火球の色が見る見ると白くなる。

 

 

 

カタリナ

「アンナ!? ここは図書館だぞ、火なんて起こしたら……!!」

 

カレーニャ

「あー、はいはい。ま~ぁ熱血冒険譚ですこと」

 

 

 

 ──カタリナが狼狽える一方、カレーニャは何だか皮肉げに笑みを浮かべて冷静に眺めている。

 ──ドリイに続いてカレーニャも合点がいったのだ。カレーニャはアンナがこれからやらんとしている事を「既に見ている」ためだ。

 

 

 

アンナ

「う……撃ちます!」

 

ドリイ

「畏まりました」

 

 

 

 ──火球の直径が人の頭一つ分ほどまで圧縮され、球の中心から噴き出すように細く火柱が伸び、グラスへと飛んでいく。

 ──火球から火柱が抽出されているとも表現できるだろうか。火柱が細く長く伸びるほどに、火球は僅かずつその体積を縮めている。

 ──火柱の発射を確認したドリイも魔法を展開。暴走グラスを梱包するように周囲の空間で激しく風が巻き起こる。

 ──グラスがまたも宙を走るが、空気の流れに弾かれて狭い空間をピンボールの玉のように目まぐるしく跳ね回るばかり。

 ──乱気流に躍らされる度にその勢いを受けてますます速度を上げる暴走グラス。

 ──今にも風を突き破って飛び出しかねん勢いだが、そこにアンナの放った火柱が飛び込んだ。

 

 

 

カタリナ

「燃え移……らない?」

 

カレーニャ

「ご心配なく。午前中に覚えたばかりの付け焼き刃ですけれど、こちとら腕前は身を以て確認済みですわ」

 

 

 

 ──レーザーのように収束させた炎がグラスに触れるや否や、鳥の尾羽根のように燃え広がり、鳩の全身を包み込んでいく。木製の椅子、図書館案内などが収まったラックが周囲に転がる中、グラスに至るまでの長い火柱からは火の粉1つも散らしていない。

 ──更にドリイの発生させた風が火勢を増幅させ、グラスはたちまち逆巻く火球に包まれ見えなくなった。

 ──炎が収まり、2人の魔法が解かれた跡には、拳1つ程の表現し難い形状の残骸を遺して、グラスは沈黙していた。

 ──誰ともなく、野次馬達から「おおーっ」と歓声が上がった。

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