グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ)   作:水郷アコホ

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24「ディナーパーティー02」

 ──夕食会も一息付き、一行は食後のデザートを囲っていた。

 ──リンゴを使った物を始めとした色とりどりの菓子が居並び、初めて屋敷に来た時にも振る舞われたカレーニャ自慢のお茶が各人の元に配られている。

 ──夕食にリンゴで、デザートもリンゴであるが、ビィは全く問題なさそうだ。普段ならいざ知らず、魔導グラスに饗される雰囲気が助けになっているのかも知れない。

 

 

 

カレーニャ

「──ま、つまり……魔導グラスにはそう遠くない未来、例えばあの星晶獣にだって誰でもタメ張れる時代を(もたら)す──そんな可能性が秘められてるってえ話ですわ」

 

ビィ

「誰でも星晶獣と、かぁ……何だかスケールでかすぎて想像つかねえような──」

「アレ? でも以外と簡単に想像つく気もするぞ?」

 

アンナ

「そ……そんなに凄い物だったんだ……」

 

カレーニャ

「──って、アンナさんには図書館で軽くご説明して差し上げた(さしゃーげた)でござあましょうが」

 

アンナ

「う……そういえば、そうだったけど……」

 

 

 

 ──締めのお茶会は、魔導グラスの話題が主役となっていた。

 ──発端はドリイが、アンナに魔法についての話題を振った事だった。

 ──ドリイとしては、アンナが夕食中に一行のやり取りにワタワタしたりしながらも、これと言って発言する事が無かったための気遣いがあったようだ。

 ──が、そもそもこう言った場が得意でない故に口数に乏しかったのがアンナである。

 ──見る見る話題が尽きていくのを察したドリイが、魔法と絡めながら魔導グラスの話題にシフトさせ、気がつけばカレーニャによる魔導グラス説明会となっていた。

 

 

 

アンナ

「あの時は……星晶獣とかの話は、あんまり……出てきてなかったし……」

「あ、でも……えっと……星晶獣って、普段は団長さんと……み、皆で……力を合わせて戦ってるけど──」

 

 

 

 ──今回の魔導グラスの話では、グラスの純粋な力と、人類に齎す可能性についてに焦点が当たっていた。

 ──逆に、アンナに話した「時間と空間」を始めとしたグラス自体の可能性については全く触れられていない。

 

 ──自分達に身近な星晶獣が引き合いに出た事で、より魔導グラスという物をイメージしやすくはなったが、それでもアンナの理解では両者の説明を繋げられるには至っていなかった。

 ──昇降機前で説明を受けた時の、あの言い知れぬ不安に似た感情を、この賑やかな雰囲気の中で簡単には紐付けできなかった所もある。

 ──図書館と今。両者の話が同じ線の上に立っていると、カレーニャに指摘されてようやく理解できたくらいだった。

 ──最初に自分がスピーチ役に仕立て上げられた影響か、どうにか「星晶獣」方面で、話題が続けられそうな受け答えを絞り出すアンナ。

 

 

アンナ

「で、でも、それが1人ででも何とか出来たら……星晶獣が暴走して、困ってる島の人とか……とっても助かるかも……」

 

カレーニャ

「『普段は』……って、星晶獣ってそんなポコジャガ魔物みたいにヤりあう相手でござあましたっけ……?」

 

ビィ

「そう言われりゃそうだけど──オイラ達にとっちゃ、もういつもの事だな。星晶獣が暴れてるってなりゃ、ルリアを連れてかなきゃ始まらねえし」

 

カレーニャ

「ルリアさんが!? 純朴そうに見えて活け〆担当って事ですの?」

 

ルリア

「いけじめ……?」

 

カタリナ

「あ~……カレーニャ。私から説明しよう。実は──」

 

 

 

 ──カタリナからカレーニャに、一行について追加の自己紹介が入る。

 ──何度か星晶獣の暴走に立ち会ってきた事。その度に星晶獣を鎮めるために戦ってきた事。そしてルリアが星晶獣を従える能力を持っている事を伝えた。エルステとの因縁などの複雑になる部分は省きつつ。

 

 

 

カレーニャ

成る程(な~る)、そういう担当ですのね。納得しましたわ」

 

カタリナ

「え? あ、ああ……」

「普通、もっと驚かれるものと思っていたが……」

 

カレーニャ

「ルリアさんは、星晶獣を実体化させたり、隠れた星晶獣を見つけたり、星晶獣の力を操ったり、星晶獣の力を取り込んで呼び出したりできる──で、間違いござあませんのよね?」

「まあどこにでもあるお話じゃござあませんでしょうけども──私、この島から出た(こた)ぁござあませんが、本を読むだけでも世界の広さを知るには充分ですのよ。そのくらい、あるかも知れないって思えりゃ信じるに充分ですわ」

「そもそも、この島で私にしか造れないモノ造ってる私が、オンリーワンが他所(よそ)にも居たくらいでびっくらこくなんざぁ、ケッタイな話じゃござあませんこと?」

 

カタリナ

「そこまで理解してもらえたのは嬉しいが……そういうものなのか?」

 

ルリア

「あ! じゃあ、私とカレーニャちゃんはお揃いって事ですね」

 

カレーニャ

”ちゃん”……

「……って、な、な、何を?」

 

 

 

 ──にわかにルリアが嬉しそうな声をあげる。

 ──カレーニャはルリアが何を言ってるのか全く解っていない。

 

 

 

カタリナ

「どちらも、この広い空で滅多にない能力(ちから)を持つ者同士と言いたいのだろう」

「フフ……どうだろう。これを機に、良ければ今後ともルリアと仲良くしてやってもらえまいか」

「分野は違えど、お互いに思い合える所があるかもしれないしな」

 

カレーニャ

「そんな安直な──」

 

ルリア

「カ……カレーニャちゃん!」

「あの──『お友達』に……なって、くれますか?

 

カレーニャ

「ぐぬ゛……っ」

 

 

 

 ──気持ち眉を落として、期待と不安につぶらな瞳を潤ませて見つめてくるルリア。何の鍛錬も打算も無く繰り出される神業である。空気が選択肢を許さない。

 

 

 

カレーニャ

「~~~……、お好きになさいな……」

 

ルリア

「わーい! よろしくお願いします、カレーニャちゃん!」

 

ビィ

「だったら、そのうちカレーニャが言ってた事も試せるかもな!」

「ルリアの星晶獣とカレーニャの魔導グラス、どっちが本当に(つえ)えか、オイラちょっと見てみたいぜ」

 

 

 

 ──ビィの脳裏では星晶獣と巨大魔導グラスロボが激戦を繰り広げている。少年魂を揺さぶられてワクワクが止まらない幼いドラゴンだった。

 

 

 

カレーニャ

「まあ、それは造り手として是非お願いしたいくらいですけれど──。まずは場所を見繕ってからですわね」

 

ルリア

「あ、はい。星晶獣はとっても大きいので、うんと見晴らしの良い所が良いと思います」

 

カタリナ

「いやルリア、流石に星晶獣をそんな軽率に召喚して良いものか──」

 

ルリア

「大丈夫! カレーニャちゃんのためになるなら私、頑張っちゃいます!」

 

カタリナ

「そういう事でなくて──」

「フッ……まあいいか」

 

 

 

 ──ルリアの意気込みに苦笑しつつも嬉しそうなカタリナ。

 

 

 

カレーニャ

「言っときますけれど、例え今日からでもカチ合わせたなら、勝つのはまずこの私ですので悪しからず」

「何故なら──誇りあるオブロンスカヤとして、お祖母様、お父様が担ってきた魔導グラスに敗北など有り得ないのですから!」

 

 

 

 ──ドヤ顔で勝利宣言をかますカレーニャ。

 ──その振舞いには嫌味の類は感じられず、魔導グラスへの確固たる自信と、家族への敬愛の情が伺える。

 ──そしてそんなカレーニャに団長が頷いてみせた。

 

 

 

主人公(選択)

・「”父さん”かあ……」

・「頑張れ、カレーニャ!」

 

→「”父さん”かあ……」

 

アンナ

「ボ……ボクも、お婆さまの事、とっても尊敬してるから……ちょっと、わかるなあ」

 

ビィ

「お、ルリア、団長(コイツ)もアンナもカレーニャの味方する気だぜ? 負けてらんねえぞォ」

 

ルリア

「むむ~っ……い、いーですよーだ。私だってビィさんとカタリナがついてるんですから!」

 

 

 

 ──談笑に沸き立つ一同。

 ──皆につられて小さくクスクスと笑うアンナ。しかし一行を見つめるアンナの瞳には、どこかしみじみとした、純粋な楽しさとは別の色が滲んでいる。

 ──ふと、アンナの肩を軽く叩くように誰かの手が置かれた。元々小さな声を同じく小さく呑み込みながら振り向くと、その手は食器を片付けに出ていたドリイだった。

 

 

 

アンナ

「ド、ドドドドリイさん……? び、びっくりしたぁ……」

 

ドリイ

「あら。これは大変失礼しました」

 

アンナ

「あ……う、ううん。こ、こっちこそ……ごめんなさい……」

 

 

 

 ──心ここにあらずだったために必要以上に心臓を跳ねさせてしまい、途端にばつの悪さに駆られるアンナ。ドリイも振り向いたアンナの表情に、少し申し訳なさそうに手を引っ込めた。

 ──カレーニャとルリアの微笑ましい張り合いの最中、他の面々はアンナとドリイに気付いていない。

 

 

 

ドリイ

「──皆様、(つつが)無くお楽しみ頂けていらっしゃるようで何よりです」

 

あんな

「う、うん。ルリアなんて、もうカレーニャと仲良くなれたみたいで……」

「……皆、本当にすごいなあ……」

 

ドリイ

「アンナ様──?」

 

 

 

 ──賑わいを見つめるアンナの様子に、何か含む所があると察したドリイ。

 

 

 

ドリイ

「……思う所がある時は、(つと)めて言葉にするのが良いと聞きますよ」

 

アンナ

「あ……う、ううん、そ、そういう……その……そういう、事じゃ……」

 

ドリイ

「私が『どういう事』を指摘致したのか、心当たりがお有りなのですね」

 

アンナ

「あ……」

 

 

 

 ──思わずドリイを見上げるアンナ。眼鏡の下で慈母のような微笑みがアンナを見下ろしている。

 

 

 

ドリイ

「今は、誰も聞いておりません。私で良ければ誠心誠意、お伺い致します」

「余り自慢できた事ではありませんが、私、忘れる事も得意なのですよ」

 

アンナ

「え……?」

「──クスッ。ありがとう……あっ、ござい、ます……」

 

ドリイ

「私と話される時も、どうか改まらず、皆様と同じようになさって下さい」

「アンナ様はカレーニャの大切なお客様ですので」

 

 

 

 ──少し緊張の解けたアンナ。一息入れるとポツリポツリと話し始めた。

 ──アンナ自身が思うよりも吐き出したがっていたのか、辿々しいながらも、ドリイの相槌も待たずに言葉は続く。

 

 

 

アンナ

「えっと、ね……ボクが、だ……団長さん……達と、会った時も……こんな、感じだったんだ……」

 

「ボ、ボク……ずっと、森の中で暮らしてて……お祖母様以外の人とは……ぜ、全然、顔も合わせた事なくて……」

 

「それで、……団長さん、達の事、うらやましいな……って……そしたら皆……すぐ、『じゃあ、一緒に行こう』って……」

 

「そ……それからも……団長さんも、ルリアもビィくんも……皆、沢山の人と、すぐ……と、友達になれて……本当に、色んな人と……」

 

「それで……」

「あ、あれ……? ボ、ボク……えっと……な、何が言いたかったんだっけ……お、おかしいね。あは、は……」

 

 

 

 ──自嘲で誤魔化すアンナ。気付いているのか居ないのか、聞き流してしまいそうなほど僅かにだが声が震えている。

 ──アンナ自身に対してのものか、あるいは身近な誰かに対してのものか、その本心は未だ心の内から連れ出しきれていない。

 ──しかしドリイはアンナの言葉に何か感じる物があったらしい。

 ──アンナの独白を、再び肩に手を置いて制するドリイ。今度は驚かさないよう、抱くようにゆっくりと。

 

 

 

ドリイ

「──時にアンナ様。図書館でのカレーニャ、何か粗相はございませんでしたか?」

 

アンナ

「え? う、ううん……ちょ、ちょっと、時間の事、とかは……その……アレだった、けど……」

「で、でも……ボクのために、色々……か、考えてくれて……」

「魔法の事も……い、色々……上手く出来た事とか……出来なかった事、とか……ちゃんと解ってくれて……」

「それに……あの……凄いって。ボクのやった事に、とっても嬉しそうで……ボクも……凄く、う、嬉しかった……」

 

ドリイ

「──そうですか。良い結果となられたようで、私も安心しました」

 

 

 

 ──独り、浸るように視線を落としながら語るアンナ。

 ──距離を置いてみれば落ち込んでいるようにも見える姿だったが、その顔は言葉が本心からの物であるのを証明するように、はにかんだ笑顔で一杯だった。

 

 

 

ドリイ

「アンナ様。実の所、私はヒトの心というものを察する事は、余り得意ではございません」

「しかしながら、今のアンナ様について、私はこのように考えるのです」

「アンナ様も『カレーニャとお友達になりたい』のでは、と──」

 

アンナ

「──……」

「……うん」

 

ドリイ

「もしそのようにお望みであれば、私としても大変に喜ばしい事です」

「是非、打ち明けてしまうのがよろしいかと」

 

アンナ

「……あり、がとう。でも……それ、は……いいんです……あ、い、いいの」

 

 

 

 ──敬語に言い直したら敬語は要らないと言われた矢先、今度は先に敬語が出てしまい慌てて言い直した。

 

 

 

ドリイ

「──それは何故?」

 

アンナ

「団長さ──。ル、ルリア、の……と、友達に、なって……くれるなら……きっとボクも、な……仲良くなれる、から……た、多分」

 

ドリイ

「……なるほど」

「私はこういった話題に疎いもので、軽々に口を挟むべきでは無いのかもしれません」

「しかしお言葉ながら、私にはアンナ様が『そのように』される必要は無いと。そう思えるのです」

 

アンナ

「え……?」

 

ドリイ

「既にアンナ様自ら、先んじて準備を整えておられます。お互いに一歩が足りないだけで──」

 

アンナ

「えっと……な、何の話──?」

 

ドリイ

「──少々お待ち下さい」

「残る手筈がアンナ様の重荷となるようでしたら、カレーニャに整えさせます──」

 

 

 

 ──見慣れた人好きのしそうな笑顔を締めに、アンナとの会話を切り上げるドリイ。次の瞬間にはドリイの姿はアンナの隣から消え、見渡せば、始めからそこに居たかのようにカレーニャの隣に佇んでいた。

 ──実の所ドリイにはもう一つ思い当たる所があった。

 ──アンナを差し置いて「団長と友達になるカレーニャ」、「カレーニャと友達になる団長達」に心をざわめかせているのでは無いかと。

 ──しかし、そこまで考えるのは邪推である。流石に無粋と判断する弁えがあった。

 

 

 

ルリア・ビィ・カタリナ

「!?」

 

 

 

 ──カレーニャと語らっていた一行は、この時点で初めてドリイの存在に気付き驚きの声をあげる。

 

 

 

カレーニャ

「……? 何よ、皆さん素っ頓狂な(ツラ)ぁなすって……」

 

ビィ

「いや、う、後ろ後ろ!」

 

カタリナ

「ドリイ殿……戻っていたのか」

 

カレーニャ

「あぁ……」

「あなた本当、神出鬼没がお好きですのねぇ」

 

 

 

 ──リアクションから理解したカレーニャは慣れた様子でグラスチェアーの脇を覗き込み、ドリイの存在を確認した。

 ──どうやら日常的に「風属性の加速の応用」を行使しては見る人を驚かせているらしい。

 ──ドリイは大して気にする様子もなく話し始める。

 

 

 

ドリイ

「偶然が重なるだけですよカレーニャ。それより──」

「そちらの腕飾り、随分とお気に召されているようですね」

 

カレーニャ

「ん? あぁ、これ」

 

 

 

 ──ドリイの視線がカレーニャの手元を示し、カレーニャが軽く袖を捲る。

 ──その手首にはアンナが作ったアミュレットが収まっており、()()()と硬くも優しい音を立てた。

 

 

 

カレーニャ

「そりゃあも──」

 

ドリイ

「普段でしたら、お食事前に装飾品は取り外されているものと記憶しておりますが」

 

 

 

 ──カレーニャの言葉に露骨に被せてきた。

 

 

 

カレーニャ

「──だから今それを答えようとしてるんでしょうがよ……」

「まあ、お高いモノを無闇に汚してしまう趣味はござあませんし、いつもは見せびらかすような相手もいらっしゃいませんし?」

 

ドリイ

「『汚してしまっても構わない品』と言う事ではございませんね」

 

カレーニャ

当たり前(あったりめぇ)でござあましょうが。何ですのその言い草……」

「私だって良い歳のレディですもの。日頃から万一に備えはしても、物食べる(たんび)に袖口汚すなんて真似は致しませんわ」

 

ドリイ

「『カレーニャ自ら配慮してでも身につけていたい品』という事ですね」

 

カレーニャ

「遠回しに人を物ォ大切にしないド外道みたいに呼ばないでくださる!?」

「何ですのさっきから。アンナさんからの戴き物ですし、お陰で私も魔法に俄然興味出てきた所ですのよ?」

 

ドリイ

「では──」

 

カレーニャ

「ええハイハイ。そりゃあもう気に入ってますし、当分は四六時中でも着けていたいくらいですわよ。気に入って何かおかしい事でも?」

 

ドリイ

「いいえ。保護監査官として、とても喜ばしく思います」

「でしたらカレーニャ。そのお返しは済ませましたか」

 

カレーニャ

「お返しぃ……?」

 

ドリイ

「はい。頂くばかりでは貴族としてもよろしくありません。価値に代わるモノでなくとも、気持ちとしてのお返しがあって然るべきかと」

 

カレーニャ

「そのくらいもうとっくに──んん……?」

「い、いや、ちょっとお待ちなすってよドリイさん! そんなはず──」

「あ、あるはずですわ! だって、そんなお返しだとか今の今まで気にも……だから、ええっと~……」

 

アンナ

「あ、あの……」

 

 

 

 ──「お返し」に値する何かが、既にあったと思いながらも1つも例示出来ないカレーニャ。

 ──そんなカレーニャに何か声をかけようとするアンナ。

 ──見返りが欲しくてアミュレットを贈ったつもりは毛頭ない。何よりその贈り物は、服やら図書館やら諸々へのアンナからのせめてもの「お返し」と言っても良い。カレーニャに自覚が無いだけで、立場は逆のはずなのだ。

 ──しかしアンナが異議を唱える前に、先んじてドリイが視線で制してきた。

 ──人差し指を口元にあてて沈黙を求めるドリイに従い、大人しく成り行きを見守る事にしたアンナ。

 ──団長達の視線が、何が起きているか解らないままドリイの視線の先を辿ってアンナに刺さる。非常に居た堪れない。

 

 

 

ドリイ

「カレーニャ。確かに『お返し』はあったのかもしれません」

「しかしその確証が持てないなら、『贈り物』で無くすれば良いかと考えます」

 

カレーニャ

「はぁ?」

 

ドリイ

(ささ)やかな言葉遊びです。資産の出入りとしての『贈り物』ではなく、恒久的な親睦を深め合うための『贈り物』──」

「後からであろうと、そのような関係であると確約なされるなら、必ずしも受け取るばかりが不実とはなり得ず、今後の『お返し』も明確な形を取る必要は無いかと」

 

カレーニャ

「……何言ってるのか全然(ぜんっぜん)解りませんことよ?」

 

カタリナ

「──ああ」

「フフ……確かに、これでは回りくど過ぎるな……」

 

 

 

 ──カタリナだけがドリイの言葉の趣旨を理解し、苦笑した。この場でカタリナだけが、ドリイの胸中というものをこの場の誰よりも少しだけ理解していたからだ。

 

 

 

ビィ

「あ、姐さん何かわかったのか? オイラ、難しい言葉ばっかりで何が何だか……」

 

カタリナ

「まあな。これも勉学の賜物というやつかな」

「ドリイ殿。カレーニャ自身から察して欲しいのだろうものと思うが、こういう事は結局、はっきり告げてしまうのが一番では無いかな」

「失礼ながら、このままでは何時まで経ってもカレーニャには伝わらないと思うぞ」

 

ドリイ

「ええ。保護監査官としてお恥ずかしい限りですが、そのようです」

 

カレーニャ

(ぅわぁる)かったですわね……」

「本っ当~に何言ってるのか解ンないんで、そろそろ勘弁してくださいませんこと?」

 

ドリイ

「ではカレーニャ。単刀直入に申し上げます」

「ご友人として、友誼(ゆうぎ)を結ばれるよう申し出て下さい。貴方から、アンナ様へ」

 

ビィ&ルリア

「!」

 

アンナ&カレーニャ

「!!」

 

 

 

 ──咄嗟に顔を見合わせるビィとルリア。今度はドリイの言うことが理解できたのと、これはもう1つ楽しい事が訪れそうだと嬉しそうに。

 ──咄嗟に視線がぶつかるアンナとカレーニャ。お互いに相手の顔を思わず見た事が相手にバレてすぐさま目を逸らし、こちらは少し気まずそうに。

 

 

 

カレーニャ

「なっ……がっ……ンォッホンン゛!」

「あ、あのねえ。あなたと言いルリアさんと言い、ちょっと軽々しすぎませんこと?」

「単なる人付き合いと『お友達』ってなぁもうちょっと──」

 

ドリイ

「僭越ながら、カレーニャは逆に重く捉えすぎていると考えます」

「図書館での事、アンナ様から伺いましたよ。カレーニャが相手を尊重し、認め、その姿によい影響を受け──」

「そしてアンナ様も、カレーニャに記念のお品を……。私の語彙では、この関係を『友人』とお呼びする他に表現が見当たりません」

「ルリア様には誠に申し訳御座いませんが、ここはカレーニャの初めての『お友達』として、カレーニャ自ら追認を願いたいのです」

「何しろ先程も申し上げました通り、現在カレーニャは『贈り物』の借り主なのですから。筋を通されるべきかと」

 

カレーニャ

「い、い今サラッと論理の順序立てゴチャ混ぜにしましてよ!? もう友人だと言うならあーたが言った通り『贈り物』はチャラでしょう! 詐欺の論法ですわよソレ!」

 

ビィ

「初めての? ルリアが先じゃねぇって事か?」

 

カタリナ

「アンナとカレーニャの図書館での様子を聞いて、夕食会よりずっと前から2人はもう友達になっていたと、ドリイ殿は考えたのさ。2人が変に遠慮して気付かなかっただけで」

「そんな2人に『もう十分打ち解けている』と解らせるために、ドリイ殿はこうして少々強引で、しかも遠回りな手に出たのだろう」

「私はドリイ殿の考えに賛成なのだが──ルリアはどうだ。やはり、少し不満か?」

 

ルリア

「そんな事ありません。私とカレーニャちゃんが『お友達』なのは変わりませんし──」

「カレーニャちゃんに特別な人が出来るのなら、私もとっても嬉しいです!」

 

カレーニャ

「部外者ァ!! ちょっとお黙りなすってくださあます!?」

 

 

 

 ──屈託のないルリアの笑顔に、一抹の不安が拭われるのを感じるカタリナ。

 ──そしてカレーニャは何やら一杯一杯になりながら反論を捲し立て、ドリイはそれを(ことごと)くかわしている。アンナは肩を縮こませ、カレーニャ達をチラチラ見ては逸らすばかりだ。

 

 

 

カレーニャ

「それに第一、公的な貸し借りでも無しに期限なんてござあません事よ。『お返し』が必要だってんでしたら”後日”改めてでも──」

 

ドリイ

「……カレーニャ」

 

 

 

 ──ドリイがカレーニャを見つめながら僅かに目を細める。呼びかけた声も同じく僅かに低い。

 ──途端に、カレーニャが「しまった」とでも言うように一瞬、身を強張らせて視線をあちこちに泳がせ始めた。

 

 

 

カレーニャ

「あ……いゃ……ぅ……」

「……ッだぁ~~~モウ!!

 

 

 

 ──大声を上げるなり、蹴飛ばすようにグラスチェアーから降りるカレーニャ。

 ──フカフカの絨毯に少しでも足音を響かせようと健気に大股を踏みしめながらアンナの元に歩んでいく。

 

 

 

アンナ

「あ、カ、カレっ、ニャ、あ、えと、まっ、ちょ、あの、えと……?」

 

カシマール

「ママママチヤガレッ! ト、トトト、トケルゾ! モエルゾ! ソレデモイイノカー!」

 

 

 

 ──カレーニャの進軍に気付くなり、身振り手振りをワチャワチャさせながら、意味にならない言葉を絞り出すアンナ。

 ──アンナとしては、ルリアのように友達と認め合う形を取るにしても、せめてもっと2人で静かで豊かな時と場合にして欲しかった。それならちゃんと冷静に対応できたかもしれない。

 ──しかし、こんな仲間たちの視線が集まる中で舞台の中心に据えられては、既に予定されているのであろう仲間の歓喜と祝福まで含めてもはや羞恥の最終地獄である。

 ──加えて、同じく渦中のカレーニャが如何にも不機嫌そうに迫って来て、頭がもうどうにも止まらない。

 ──しどろもどろで、逃げ出そうにもこっ恥ずかしさが足腰に来て既に椅子から立つのもままならないアンナ。気絶できない自分が理不尽にさえ思えた。そうしてパニクっている間にカレーニャが眼前に立ちはだかっていた。

 ──カレーニャは威嚇するネコのような音を立てている。

 

 

 

カレーニャ

「フー……フー……!」

 

アンナ

「あ……あ、ぅ、ぁ……カ……カ…………」

 

カレーニャ

「……ハァ……全く──」

 

 

 

 ──若く瑞々しい眉間にこれでもかとシワを集めて見下ろすカレーニャ。対するアンナは顔が赤かったり青かったり涙が滲んでたり息の吐き方が解らなくなったりしている。

 ──カレーニャは、本当に仕様が無さそうに溜息を吐くと、引ったくるようにアンナの手を取った。

 

 

 

アンナ

「ひぃぃっ!?」

 

カレーニャ

「せめてもう少し品のある悲鳴にしてくださる?」

「で、アンタはお邪魔っ!」

 

アンナ

「あぁ、カシマール……!」

 

 

 

 ──ついでにアンナの腕の中に佇むカシマールをふん掴み、テーブルの手近なスペースに置くカレーニャ。

 ──引き離された親友に気を取られたアンナを呼び戻すように、引ったくった手に半ば叩くようにしてもう一方の手を添え、両手で包み込む形を取るカレーニャ。

 

 

 

アンナ

「あぅ──」

 

カレーニャ

「ほら、腹ぁ(くく)る! この程度の同調圧力なんざ生きてりゃ物の数にも入りませんことよ」

 

アンナ

「あ、あの、ボ、ボク……こ、こ、こんな事、しな、く、ても……」

 

カレーニャ

「”オトモダチニナッテクダサイナ”! ハイ返事ィ!!

 

アンナ

「ひっ、は、は、はい!」

 

 

 

 ──脊髄反射じみたアンナの返答を聞くと、カレーニャは投げ出し気味にアンナの手を開放して、再び目一杯に床を踏み鳴らそうとしながらグラスチェアーへ引き返していった。

 ──カレーニャの渾身の怒号に静まり返っていた一行だったが、ドリイが何食わぬ笑顔で拍手を贈り始めた。

 ──これを受けて、カタリナがやや無理しながら精一杯に拍手を合わせ、程なくしてアンナが危惧した通りの喝采がやって来る事となった。

 ──当の2人はと言えば揃って顔を真っ赤にし、カレーニャがすっかりヘソを曲げ、アンナは終始あたふたするばかりだったが、概ね楽しい雰囲気で晩餐会はお開きとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カレーニャ

「何なのよこれは……」




※ここからあとがき

「カレーニャとアンナが友達になる」という展開を消化するだけのはずが、何だか少しややこしくなってしまったかも知れません。
 より率直に言えば、書いてるこっちが恥ずかしくなりました。

 構想を元に書き出そうとしても、「どう動かしたら自然に予定通りの事をさせられるか」は構想を練っている時点では忘れがちです。
 カタリナがドリイにブティックでの件を聞き出す際の「無理」も、本文書いててようやく気付いた部分だったりします。

 何事も経験として、出来はどうだろうと、まずは完成目指して頑張りたいと思います。
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