グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ)   作:水郷アコホ

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26「深夜」

 ──ゲームブック会も終わり、一行がそれぞれの個室に戻って静まり返った真夜中。

 ──アンナはカシマールを抱きしめながら、もう何十回目かの寝返りを打っていた。

 

 

 

アンナ

「う~~ん……ぜ、全然眠れない……」

 

カシマール

「ウナッテネーデ、オトナシクシテリャイーンダヨ」

 

アンナ

「うん。解ってるつもりなんだけど……」

「今日は色んな事が沢山あって、何だか頭の中がグルグルしちゃって……」

 

 

 

 ──興奮冷めやらぬアンナは未だ一睡も出来ていなかった。

 ──押し寄せる記憶を全て思い返していたら、感想に浸る間に夜が明けてしまいかねないほどだ。

 ──プラトニアの街中、カレーニャとの出会い、綺麗な服、図書館、グラスの暴走、友達、そして……。

 

 

 

アンナ

「ねえカシマール。あのゲームブックの終わり方、どう思う?」

 

カシマール

「マオーヲヤッツケテハッピーエンドダロ?」

 

アンナ

「そうだよねぇ……そうなんだけど……」

 

 

 

 ──あのゲームブックの結末は、2つだけでは無いかもしれない。少なくともアンナはそう信じたかった。

 ──カタリナ達が図書館で体験したものは、魔王の封印と引き換えにお姫様がその身を犠牲にすると言うもの。

 ──そして今日、アンナとカレーニャを加えて挑んだ結果は、また別の結末だった。

 

 

 

アンナ

「魔王を呼び出したのが、お姫様だったなんて……」

 

 

 

※回想

 

 

 ──とうとう君は魔王を打ち倒した。

 ──城を震わす咆哮と共に地に伏す魔王。その体は最早ぴくりとも動かない。

 ──君は魔王の最期に安堵する。だが、今や事切れた魔王に駆け寄る影があった。

 ──姫だ。姫は君が止めるのも聞かず、魔王が完全に息絶えているのを確認すると、そっと躯に手を添えた。

 ──「ごめんなさい」。姫は一言呟き、そして静かに語った。

 ──なんと、魔王をこの地に呼び寄せたのは、囚われていた姫自身だったのだ。

 

 ──姫は生まれた時から「この国で最も強く勇敢な者と結婚する」事を父王に運命づけられていた。

 ──王の求めるまま、誰よりも美しく聡明で幸せな姫として、彼女は何の疑問も無く育てられてきた。

 ──しかし年頃になった姫は、そんな自分を日に日に嫌うようになっていった。

 ──「私は私の望むままに生きたい」。いつしかそう思うようになっていたのだ。

 ──姫は、かつて王宮の魔法使いに習った召喚の魔法を使った。

 ──魔法の世界に生きる、最も力強い者を。最も猛々しい者を。その願いが魔王を呼び寄せたのだ。

 ──魔王にわざと拐われる事で、姫は初めてお城の外の世界を知った。

 ──そして、王宮と同じ暮らしが出来るよう魔王に城を築かせ、世界中の本を呼び寄せた。

 ──王様が姫を諦めたその日に備えて、外の世界を学ぶために。

 

 ──全てを語り終えた姫は、灰となって崩れ落ちる魔王に背を向けた。

 ──「ですが、ようやく解ったのです。こんな事は間違いだったのだと」

 ──笑顔で語る姫の瞳には大粒の涙が溢れていた。

 ──「私は魔王を呼び、国を陥れた女です。どんな罰でもお受けします」

 ──そう語る姫の肩を、君は優しく抱き寄せた。姫は君の心を理解したのか、強くその抱擁を受け入れた。

 ──「帰りましょう。あの国へ。私は姫。そして、あなたは王国の最も勇敢なお方。私の……勇者様」

 ──ここに居たのは、悪しき魔王と、清く美しい囚われの姫の2人だけだ。

 ──君は姫を抱き上げ、悠然と王国への帰路を歩むのだった……。

 

 ──完

 

 

 

カタリナ

「ふぅ……。どうやら、今度こそ姫を救い出せたようだな」

 

 

 

 ──結末を読み終えたカタリナは大きく安堵の溜息を吐いた。相変わらず読み入っていたようで、腕を大きく上に挙げて伸びをしている。

 

 

 

アンナ

「え……こ、これで……終わり……なの……?」

 

ルリア

「そんな……」

 

 

 

 ──しかし、一方で表情の晴れない2人。アンナが納得の行かない様子で続きを捲るも、ページは既に末尾。後には奥付と遊び紙しかない。

 

 

 

カタリナ

「どうした2人とも。何か気に入らない部分でもあったか?」

 

アンナ

「だってこんなの……あんまりだよ……!」

 

ルリア

「そうです、お姫様が可哀想です!」

 

カタリナ

「可哀想? 魔王も倒して、助け出せたのにか?」

 

 

 

 ──どうも3人の会話が噛み合わない。喧々諤々となる前に、カレーニャがパンパンと手を打って注意を向ける。

 

 

カレーニャ

「はーいはい。そんでは穏便にご意見箱設置ですわ」

「順番に皆さんでエンディングの感想語らって、それから煮詰めましょう。誰からになさいます?」

 

ルリア

「わ、私から、お願いします!」

 

 

 

 ──若干食い気味にルリアがビシッと手を挙げる。カタリナの理解を得られないのが大分ご不満のようだ。

 

 

 

カレーニャ

「はいな。そんじゃルリアさんから時計回りでって事でよろしいですわね。どうぞ」

 

ルリア

「ハイ! お姫様が可哀想だと思うんです!」

 

カレーニャ

「だぁから何で可哀想なのかって聞いてんですのよ。このお話がカタリナさんの主張とどう違ってらっしゃると?」

 

ルリア

「何故って……だってお姫様は、王様の決めた人と結婚するのが嫌で、お城の外に出たくて……それで魔王さんを呼んだんですよね?」

「それなのに、魔王さんをやっつけて、お城に連れ戻すなんて……ちょっと、ひどいです」

 

アンナ

「あ、あの……ボクも、ルリアと大体同じ……かな」

 

 

 

 ──アンナが割り込む。順番の上でも次はアンナの番だったので、そのままアンナの主張を聴く一同。

 

 

 

アンナ

「えっと……ま、魔王は、お姫様の精一杯の……て、抵抗……だったんじゃないかな……あのまま、王様の決めた一生を生きていく事への」

「さ……最後にお姫様、泣いてたの……ちょっと、解る気がする。お姫様なりに、沢山頑張ったのに……結局、王様の決めた勇者様に、全部……無駄にされちゃったんだって……」

 

 

 

 ──アンナの言葉に腕を組むカタリナ。次はカタリナの番だ。しばし考え込んでから、言葉を選ぶようにゆっくりと口を開くカタリナ。

 

 

 

カタリナ

「言われてみれば、そういった解釈は、確かに一理ある。だが──」

「2人の意見を否定するつもりは無い。それでも、だ。国王はなにも、姫君を獣のように飼い殺しにしていた訳じゃない」

「……ああいや、この例えは極端にしてもだ。確かに若い姫君には窮屈だったかも知れないが、立派な教育を受けていたからこそ、魔王を呼ぶ技術を持てたと言っても良い」

「話の冒頭では国民も家臣も皆、国王を信頼していた。私には国王の行いは、安全な環境で、人並の家庭を築いて欲しいという、そんな自然な親心だったのだと思う」

「それに、自由のためにと言っても魔王を呼んで世界に混乱を招くのは、幾ら何でもやりすぎだ」

「姫君の涙は、そういった己の行いを悔い改めた──そういった意味合いではないだろうか」

 

アンナ

「それは……そ……そうかもしれないけど……」

 

ルリア

「で、でも! 結婚する人を生まれた時から勝手に決められちゃうなんて、酷いです!」

 

カタリナ

「それも、魔王が世に現れる以前から決めていた事で、そして何を基準に『勇敢な者』とするかはハッキリしていない」

「姫君は自分の在り方に疑問を持った日から、国王に結婚相手を自分に選ばせるよう訴える事も出来たはずだ」

「私だって、姫君の気持ちが全く解らない訳じゃない。だがだからこそ、魔王を呼んで国の敵となる思い切りがあるなら、もっと被害の無い方法だって選べたはずだと思う」

「夢のない話になるが、恋の相手さえ勝手に決められる不満を民に打ち明けてしまえば、反対運動を起こせたかもしれないし──例えば城の兵士を味方に付けて国を出て、運命の相手を探す旅に出る事だって出来たかもしれない」

「人生を他人に左右される辛さはもっともだ。だが、だからって何をしても美談になる訳じゃない」

「結果として、魔王を呼んだ事で、国王の決めた婚約者たる人間を浮き彫りにしてしまった。これはやはり、姫君の若気の至りとしか……」

 

アンナ

「うぅ~……」

 

ルリア

「じゃ、じゃあビィさん、ビィさんはどうですか!?」

 

ビィ

「うえぇ! オ、オイラぁ?」

「う~~ん……ややこしい終わり方すんなぁとは思ったけど、オイラ読み終わった時は『やっとクリアできたー』としか思わなかったし……」

「……やっぱオイラ難しい事よく解んねえし、パスで良いか?」

 

ルリア

「むぅ~……」

 

ビィ

「い、いやそんな顔されてもよぉ……」

 

 

 

 ──余程この結末が気に入らないのか、それとも仲間内で意見が相容れないのが受け容れられないのか、頬を膨らませて恨めしそうにビィを見つめるルリア。

 ──そんなルリアにお構いなしとでも言いたげな、涼しい声が投げ込まれた。

 

 

 

カレーニャ

「次は私ですけど、概ねカタリナさんに同意ですわ」

 

ルリア

「!?」

 

カタリナ

「カ、カレーニャ。こんな時に火に油を……」

 

アンナ

「そんな……カレーニャまで……」

 

カシマール

「ウラギンノカテメー!」

 

 

 

 ──口々に抗議が投げつけられる。やれやれと肩をすくめて軽く息を吐くカレーニャ。

 

 

 

カレーニャ

「良いですこと? 先に言っておきますけれど、意見の交換で『お友達』の馴れ合い持ち出そうなんてのは、愚かを通り越して卑怯者のやり口ですわ」

「そして議論ってモンは、どんなに大切なお仲間に真っ向から文句付けられようと恨みっこなし。終わった後も蒸し返さない」

「見るも思うも人それぞれなんですから、絶対の答えなんてござあませんの。『そういう考えもありますわね』で済ます、これが鉄則! お解り?」

 

ルリア

「ぅ……はい」

 

カレーニャ

「アンナさん?」

 

アンナ

「は……はい」

 

カレーニャ

「よろしい」

 

 

 

 ──縮こまるルリアとアンナ。カレーニャの言い分を理解したというより、とりあえず『叱られた』と言う認識の方が強いようだが、とにかく2人とも、少しは頭が冷えたようだ。

 

 

 

カタリナ

「場を納めてくれた事はありがたいが、何と言ったものか……ドリイ殿のような口ぶりだったな」

 

カレーニャ

「少しは頭の良さそうな事も言えるでござあましょ?」

 

カタリナ

「い、いや、断じてそんなつもりでは……!」

 

カレーニャ

「口喧嘩と討論を間違えないのが、探求する者として最も大事な事ですわ。え~え、それはもう何よりも。さておき──」

「私はこのお話、もう少し距離を置いて観察してみたいと思いますの」

 

 

 

 ──何事も無かったかのように考察を語り始めるカレーニャ。ルリア達も少しバツが悪そうにしながらも耳を傾けている。

 

 

 

カレーニャ

「まずこのお話。魔王討伐、お姫様救出ってテーマからして、最初から『やっつけるべきモノ』があるってのが大前提だと思いますの。皆さんだって、『魔王をやっつけるぞ』と。まずそこから読み進めたでござあましょ?」

「アンナさん達が着目なすった『お姫様のお悩み』が主題であるなら、事情があるから魔王をやっつけないって選択肢だってあるはずですわ」

「それが少なくとも今回の冒険ではおくびにも出なかった。であれば、これは『魔王は倒される』として話がまとまるよう作られた──と考えるのが妥当と考えますの」

「アンナさん達の解釈も結構ですけれど、見ての通りこの本、最終ページの後は奥付だけで後書きもへったくれもござあませんでしょう?」

「これが不親切なバッドエンドだとしたら、そんなもんクライマックスに用意しといて弁解も無いなんてのは不自然ですわ」

「大方、これが正規の終わり方でしたけど、作者が締切に追われて後書き省いて脱稿したか、その拍子に紛らわしい表現が校正されないまま出版されたと言うのが私の仮説ですわ」

 

ビィ

「長くてよく解かんねぇけど──『魔王をやっつけてハッピーエンドな本だから』って事か?」

 

カレーニャ

「あらまっ、ビィさんが理解なされるなんて!」

 

ビィ

「どういう意味だよ!!」

 

カタリナ

「しかし──賛同してくれていると言うのにこう言うのもなんだが、その……冷静な見方過ぎると言うか……」

 

カレーニャ

「お話に切り込んだ方が宜しかったかしら?」

「だったら、魔王が『倒してスッキリするための悪役』で無かったりしたら──例えば他に魔王なりの事情やキャラ立てが有ったってんでしたら、それだのにお姫様の都合で呼ばれてボコられるだけでオシマイなんて、立つ瀬無さすぎでござあましょうが」

「持論ですけども、悪は悪として輝き倒される。それがせめてもの、退場する人物への手向けってもんですわ」

 

ルリア

「うぅ……魔王さんの事は、考えてなかったです……」

 

カレーニャ

「ほらほら。それより最後のご意見、伺った方が宜しいんじゃなくって?」

 

 

 

 ──皆の視線が最後の1人……団長に集まる。団長()の答えは……。

 

 

 

主人公(選択)

・「アンナ達に賛成」

・「カタリナに賛成」

・「オイラよく解んねぇや……」

 

→「?????」

 

 

 

※回想終わり

 

 

 

アンナ

「結局、皆の考えは纏まらなかったけど……」

「でも、やっぱりあれは、良い終わり方なんかじゃ無いと思うんだ……」

「だって、先にカタリナ達が読んだ時は、お姫様は倒された魔王を封印するためって言って……自分で呼んだ魔王を、自分から……」

「そんなの、まるで……」

 

 

 

 ──思い返す間にも、5回、6回と寝返りを繰り返したアンナ。頭につられて身体も全く落ち着いてくれない。既に何十分経っただろうか。

 

 

 

アンナ

「……うぅ……やっぱり眠れそうにないや。お水でも飲んで一息つこう……」

 

 

 

 ──枕元に待機する魔導グラスに触れたアンナ。

 ──カレーニャの説明では、触れれば起動し、望む品物の単語を言えば持ってきてくれるのだという。

 

 

 

アンナ

「こうして……『お水』」

「…………あれ?」

 

 

 

 ──呼びかけてみるも反応が無い。ピタピタ触り直しながら、言い方が悪かったかと抑揚や表現を変えて「お水」を連呼してみるも結果は変わらない。

 ──そもそもカレーニャが実演して見せた時は、触れてカレーニャの魔力で満たされたグラスは淡く虹色に光って起動を知らせていた。しかし今はウンともスンとも言わない。

 

 

 

アンナ

「おかしいなあ。確かこの子、寝る前にドリイさんが新しいのに替えてくれてたから、魔力切れなはず無いし──」

「……仕方ないか。自分で汲んで来よう」

 

カシマール

「ダレカヨンダホーガイーンジャネーノカ?」

 

アンナ

「もう夜も遅いから、起こしちゃ悪いよ」

「それに、少し歩いた方が、気分転換にもなるかなって……」

 

 

 

 ──悩み通しで脳が興奮状態なのか、夜更かしがそうさせるのか。今夜のアンナは少し大胆だった。

 ──アンナはなるべく音を立てないように、そっと個室のドアを開いた。

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