グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ)   作:水郷アコホ

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27「異変」

 ──廊下に出たアンナとカシマール。

 ──今更通る人も居ないのに、別に悪い事をしている訳でもないのに、つい辺りを見回してしまうのは人の性である。

 

 

 

アンナ

「あれ──?」

 

 

 

 ──通路は両側に部屋が設けられてあるため、窓は突き当りの小さなバルコニーに繋がるそれだけである。

 ──アンナの使っている最奥の部屋の前だけは、バルコニーから差し込む月明かりに照らされているが、そこから奥へは月では力不足だ。

 ──消灯しきった屋内は真っ暗だが、明かりも持たずに飛び出した後ですごすご引き返すのも何だかイヤだった。手探りで進むのを覚悟していたアンナだったが……。

 

 

 

アンナ

「明かり──あそこは、カレーニャの部屋だっけ?」

 

 

 

 ──ぼんやりと、暗闇の中に一筋の明かりが灯っていた。蝋燭の類とは異なる寒色。光量は月明かりよりはハッキリとしている。

 ──カレーニャから受けた説明では、光源の場所にはカレーニャの寝室が位置しているはず。

 ──暗闇の中の光明というだけで、吸い寄せられるには充分である。何の気なしに近づいていくと……。

 

 

 

???

「では……しい……ですね」

 

???

「ええ……」

 

アンナ

「話し声……カレーニャ、まだ起きてるのかな?」

 

 

 

 ──徐々に光源の方から聞き慣れた声が漏れてくる。ドリイとカレーニャだ。

 ──近づくにつれて、カレーニャの寝室の扉が薄っすらと開いており、そこから光が漏れているのだと解る。しかし、光の正体は不明のままだ。

 

 

 

カシマール

「オキテンナラ──モガッ!」

 

アンナ

カ、カシマール、しーっ!

 

 

 

 ──別に2人に隠れて何かしている訳でも無いが、ついカシマールを押さえつけてしまうアンナ。思わず息を止めて耳を澄ます。

 ──カシマールの言わんとしている事は解っている。起きているなら、グラスの不調を伝えて飲み物を頼むなり、充分な気分転換だったと引き返すなりすれば良い。

 ──しかし気分はすっかり潜入任務(スニーキング・ミッション)である。たった1人の家族以外に満足に交流を持たず、誰に憚る事もない一人暮らしを続けてきた彼女には、他所様の家を出歩くだけでも大冒険なのかもしれない。

 

 

 

アンナ

「(ちょ……ちょっと、様子を見てみて……み、見つかったら……素直に話そう……)」

 

 

 

 ──期待と背徳感と、一抹の諦めとを胸中でシチューのようにかき混ぜながら、何だか急に力の入りづらい足を抜き上げ、差し込み、忍ばせて、扉の薄明かりへ歩み寄る。

 

 

 

ドリイ

「ところで……ーニャ。そちらの……まとめ……り込んでしまっても?」

 

カレーニャ

「ん? あぁ……ずかっといて下さる? また……時にでも返……さいな」

 

ドリイ

「畏まりました……時にカレーニャ。今宵の……」

 

カレーニャ

「ドリイさん」

 

ドリイ

「はい」

 

カレーニャ

「く・ど・い」

 

ドリイ

「はい──」

 

アンナ

「(何の話だろう──?)」

 

 

 

 ──気にはなるが立ち聞きするつもりも無い。

 ──少し様子を見て、どちらも気付いていなければ廊下に出てしまおう。ついでにこっそり団長だけ起こして手伝ってもらおうか……。

 ──そんな余計な事も考えながら、アンナは光が漏れるドアの隙間をそっと押し広げ、中を覗き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──最初に目に写ったのは、光の正体……部屋の大半を埋め尽くし、床と天井に根を張るようにそびえる巨大な魔導グラスの柱だった。

 ──グラスの中を泳ぐように、脈打つように、朧げに尾を引く虹色の光が現れては消えていく。グラスの表面も氷が輝くような、冷めた光を放っていた。

 ──次に、グラスの柱の前に立ち、威容を見上げるドリイの後ろ姿。そしてその足元から……追えば壁に、天井にと続いていく夥しい赤黒い染み。

 ──最後に……否、それは本当の一番最初に、アンナの瞳が捉えていたはずだった。

 ──頭が理解する前に、逃げるように視線を泳がせ、それからは見えない振りさえしていた。

 ──グラスの中をカレーニャが眠るように揺蕩っている。もとい、平常時のグラスにそこまでの流動性は無いはずだ。生き埋めになっている。

 ──そしてグラス越しのカレーニャのドレスは、部屋中にぶちまけたように広がる染みと全く同じ色に染まっている。

 

 

 

アンナ

「……ぇ……ぇ……?」

 

 

 

 ──「何を見ているのか」は理解が追いついた。だが、「見ているのは何なのか」はどこにも理解を繋げるアテが無い。

 ──アンナに気遣う訳もなく目の前の光景は変化し、グラスの柱が醸し出す光が強まる。

 

 

 

 ──瞬きも忘れたアンナの目の前で、カレーニャが色を失っていく。

 ──文字通りにである。纏っている汚れたドレスもろとも、それこそガラスのように身体が末端から透けていく。

 ──思考は置き去りとなり、不安を感じる機能も痺れ、腕の中のカシマールが僅かにずり落ちかける。

 ──時間にすれば十秒にも満たない長い長い時間をかけて、カレーニャだった影は光の屈折でぼんやりと判別できる程度になり……そして、完全にグラスの中に溶けて消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???

如何(いかが)なされましたか。アンナ様」

 

アンナ

!?

 

 

 

 ──アンナはドアから飛び退き、そして背後を振り返った。

 ──呼びかけられたのは、確かに前方からだった。だが、カレーニャが消えて以降、景色は何一つ移ろってはいなかった。アンナを呼べるはずの、視界に唯一人残った人物は背を向けたまま微動だにしていない。

 ──心が「まさか」と訴えていながらも、他の誰かを探さずには居られなかった。「振り向かずに呼んだ」と言うごく平凡な答えさえ、今は明らかに異常だった。

 ──部屋からの明かりで辺りを見回すには充分。当然、誰一人そばには居ない。「じゃあ何なのだ」と部屋の中へと向き直れば、声の主が今にも鼻面が触れんばかりの距離に立っていた。

 

 

 

ドリイ

「寝付けませんか。何か、暖かい物でもお持ち致しましょうか?」

 

 

 

 ──何一つ変わらない笑顔だ。

 ──何一つ変わらない対応だ。

 ──隙間から覗いていただけなのに。

 ──ドアを開けたりなんかしなかったのに。。

 ──何の音もしなかった。

 ──声なんて出す間も無く。

 ──悲鳴よりも胃液がこみ上げる。

 

 

 

アンナ

「………………うぐ……………………」

 

ドリイ

「あら。顔色が優れないようですね」

「何か、悪い夢でもご覧になられたのでしょうか」

 

 

 

 ──ドリイが見つめる少女の瞳は、裂けんばかりに見開かれ、こちらを注視していながらその中心は細かく上下左右に震えている。

 ──柔和な笑顔に、魔導グラスの冷たい逆光がかかる。

 ──心から人を安心させたいという気持ちが伝わるような穏やかな口調。

 ──アンナの肩にドリイの手が添えられる。夕食の時にそうしたのと、全く同じ優しい手付きで。

 

 

 

ドリイ

「落ち着いて──目を閉じて──ゆっくりと息を吐いて下さい」

「そしてゆっくりと息を吸い、肩を落とすようにしながら吐く──幾らか、気持ちも鎮まるはずです」

「何か安らげる物を持って参りますので、まずはお寛ぎください」

 

 

 

 ──小さな子どもをあやすように、やや屈み、片腕を背に回し、もう一方の手のひら一杯でアンナの後頭部をゆったりと撫でる。

 ──顔はアンナの横を抜けて耳元へ。そっと抱きしめるような姿勢になり、ドリイの陰に阻まれていた、開け放たれたドアの向こうの光景が、再びアンナの視界に飛び込む。

 ──グラスの柱に群がるように、床に、壁に、絵画に、窓に。冗談のように広がる血糊と、鼻腔に訴える確かな生々しさ。

 

ドリイ

「どうぞごゆるりと。カレーニャの寝室とはいえ、決してご遠慮はありません

 

アンナ

……ぃ……イヤァッ!!

 

 

 

 ──アンナ自身、何をどうしたのか記憶になかった。とにかくドリイを引き剥がして走り出していた。

 ──見た限りでは、今しがたの光景……カレーニャを消し去ったのはドリイと考えるより他にない。

 ──それでもあの惨状を見せつけて、何事もなく接するドリイ。とても正常とは思えない。

 

 

 

アンナ

「だっ……れか、……誰かっ! だ……団長さん!」

 

 

 

 ──仲間たちの部屋は廊下を挟んで向こう側。逃げながらも精一杯に声を振り絞るアンナ。一刻も早く誰かに気付いてくれないと、もうどうなってしまうかも解らない。

 ──足に思うように力が入らない。こうして走れているのも不思議なくらいだ。皆を起こさなくちゃならないのに、息ができているかも自信がない。

 ──廊下を横切り、団長達の個室が並ぶ暗闇へ飛び込むアンナ。団長達側の通路の奥はVIPルームが設けられ、完全に光源が無い。だが、部屋へ戻る前に皆がどの個室に入ったかは覚えている。1番手前は団長の部屋だ。大体の距離も把握している。

 

 

 

アンナ

「団長……さ……誰か起きて! た、たす……わぷっ!」

 

 

 

 ──もう後数歩と言う所で目の前の暗闇にぶつかる。

 ──行く手を遮られながらも、アンナは確かな安堵を覚えた。

 ──触れた感触、僅かに押された後に姿勢を保つように押し返す挙動。ぶつかったのは同じ人間だ。それも自分より長身。であれば、候補は1人しか居ない。

 

 

 

アンナ

「カ、カタ、リナ! た、助けて、カレ……ド、ドリイ、さんが、グラスっ、グラスがぁッ!!」

 

 

 

 ──手探りで再度見つけた”カタリナ”の腕に縋り付き、懸命に足腰を踏み留めながら助けを求めるも、気が動転して意味を成さない。

 ──背すじが訴えるままにガクガクと揺れるアンナの手に、包み込むように暖かな感触が触れ、食い込む程に込められた力を解きほぐす。

 ──”カタリナ”はもう一方の指で、アンナの目に浮かぶ涙をそっと拭いながら恐慌状態の彼女を宥めた。

 

 

 

???

「如何なされましたか。アンナ様」

「そんなに慌てられて──」

 

アンナ

「ぁ……ぁぁ……ぁ……」

 

 

 

 ──ダメ押しとばかりに、最も近くの壁にかけられた魔導グラス製のランプが1つ灯る。

 ──アンナの手を取る優しげなドリイを照らす明かりは、就寝前に見た暖色から変わり果て、今しがたカレーニャを呑み込んだアレと同じ冷たい色に染まっていた。

 ──とうとう限界に至り、膝からその場に崩れ落ちるアンナ。ドリイもアンナに合わせて、アンナを支えながら、けが人を座らせるようにゆっくりとしゃがみ込む。

 ──この底冷えのする光の中で唯一暖かに微笑むドリイの瞳からどうしても目を逸らせない。それが更にアンナの正気の底を掘り下げる。

 

 ──魔物に襲われるとか言う次元じゃない。

 ──こんなの普通じゃない。

 ──今、逃げてきたばかりなのに。

 

 ──耳の後ろあたりが焼けているような、重い靄がのしかかるような感覚。

 ──頭の中に重く粘る何かが大量につっかえている。

 ──髪の生え際から体温と意識が抜けていく気がする。

 ──ドリイの表情はこんなにも穏やかだ。優しい瞳が迫ってくる。もう全て投げ出してしまっても……

 

 

 

アンナ

「……ひっ……ぃ・ぃ……ぃぃ……」

イヤァァァーーーーーーーーーーーッッ!!!

 

 

 

 ──生存本能が理性を押し退け、命を懸けてなけなしの絶叫を引き出させた。

 ──呼応するように壁の向こうから、重い物がぶつかるような「ドン」とか「バン」と言った騒音が響き渡る。

 ──暗闇の向こうで一際強く、蹴破らんばかりにどこかの扉が乱暴に開き、新たに何かが迫る気配がする。

 

 

 

アンナ

「ひぃぃ!」

「や、やだ、もうやだあああ!」

 

 

 

 ──半狂乱のアンナは頭を抱えて蹲った。

 ──カシマールをどこかで落としている事にも気付いていない。解るのは「カシマールが居ない」事だけだ。どこにも居ない。

 ──暗闇の気配はあちらこちらの壁を殴るように音を立てつつ駆け足でこちらに迫る。夜闇に寒々しい、しかし幻想的な光がその姿を照らし出し……。

 

 

 

カタリナ

「どうした! そこに居るのは──ドリイ殿か!」

「今の悲鳴は痛ったっ……クソ、明かりは他にないのか!?」

 

アンナ

「あ……!」

 

 

 

 ──カタリナの声だ。飛びつくように顔を上げる。ドリイはアンナの期待に応えるように、スイと横にずれてアンナに視界を届けた。

 ──今度は姿も間違いない。暗闇に目が慣れるのを待たずに果敢に状況を確かめようとした結果、今も個室脇に置かれた机の脚に膝をぶつけている。

 ──アンナが辿り着きたかった扉が自ずと開いた。出てきた団長がへたり込んだアンナを見て真っ先に駆け寄った。ビィは団長の肩に乗ってまだ眠そうだ。

 

 

 

アンナ

「だ……団長さ……団長さあああん……!」

 

ビィ

「むにゃ……何なんだよこんな遅くによぉ……」

 

アンナ

「カ、カレーニャが……ひっく……グラスの……血が……う……うええええん……」

 

 

 

 ──要領を得ないが、未だに震えが収まらず幼子のように泣きじゃくるアンナに何か尋常でない事があったと察する団長。

 ──せめて落ち着くよう肩を擦ってやりながら、ふと隣のドリイを見上げ、不審感を覚える。ドリイはアンナに目もくれず、通路の奥の暗闇を満面の笑みで見つめている。

 

 

 

ルリア

「み、皆さんどうしあイタぁっ……どうしたんではわぁっ!?」

 

 

 

 ──カタリナよりも軽いが盛大な音を響かせながらルリアの声も近づいてきた。

 ──それを待っていたかのようにドリイが片手を(かざ)した。その手の内で一瞬、光が深紅色に反射した。

 ──ドリイの動作を機に通路の魔導グラスランプが一斉に点灯する。全て灯しても尚、室内プラネタリウムのような淡い光量だ。

 ──白く、蒼く、時折七色が溶ける照明に、ようやく躓く心配の無くなったルリアが思わず足を止めて辺りを見渡す。

 

 

 

ルリア

「きれい……」

 

ドリイ

「配慮が至らず、ご不便をおかけして申し訳ございません」

 

カタリナ

「まあ、それはこの際どうでも良いさ。だが──」

「ふざけて言う訳じゃないが、アンナがあの様子だと言うのに君が穏やかにしているのは、却って穏やかでないな。ドリイ殿」

 

 

 

 ──カタリナも団長と同じ不穏な気配を感じていた。

 ──流石と言った所か、カタリナも団長も寝込みから慌てて飛び出していながら、緊急に備えて最低限の装備は忘れていない。

 ──そして、二人とも無意識に、戦士の勘に従って、己の武器に手をかけている。

 

 

 

ドリイ

「直ちにご説明致します。しかしながら今暫くお待ちを」

 

 

 

 ──恭しくお辞儀を返すとアンナに向き直るドリイ。小さく悲鳴を上げて団長に()()としがみ付くアンナ。

 ──団長から離れず、なおかつ後ずさろうとするアンナに構わずドリイが歩み寄ると……。

 

 

 

ドリイ

「アンナ様──」

 

アンナ

「ひっ……こ……こな……」

 

ドリイ

「カシマール様が、大層心配なさっておいででしたよ」

 

アンナ

「カシマール……カ、カシマールっ、が……!?」

 

 

 

 ──アンナが問うより早くドリイがそっと両手を突き出した。

 ──手の中には見慣れた親友の姿。

 

 

 

ドリイ

「カレーニャの寝室の前で落とされたようです。お怪我など無いかご確認下さい」

 

アンナ

「え……あ、う……?」

 

 

 

 ──ドリイの持つカシマールをじっと見つめるアンナ。

 ──細かなくたびれ具合や汚れからして、間違いなく本物だった。少なくとも魔導グラスの偽物などという事は無いと、アンナの目なら見抜ける。

 ──団長と一瞬目が合い、意を決してカシマールを受け取るアンナ。おずおずと抱きしめると、腕の中のカシマールが声を張り上げた。

 

 

 

カシマール

「ヤイテメー、カレーニャヲドーシヤガッタ!!」

 

カタリナ

「カレーニャ? カレーニャがどうしたんって言うんだ?」

 

 

 

 ──共に見てきたドリイの凶行をアンナに代わって訴えるカシマール。

 ──カレーニャの部屋の惨状、カレーニャの消滅、そして室内で全てを見届けていたドリイの不気味な対応。全てを早口に捲し立てた。

 

 

 

カタリナ

「それは……そんな思いをしたならその様子にも納得できるが、些か突拍子もないと言うか……」

 

ビィ

「夢でも見たんじゃねぇかぁ?」

 

主人公(選択)

・「アンナは昨日から寝てないし……」

・「アンナを信じる!」

 

→「アンナを信じる!」

 

ドリイ

「ご心配には及びません。カシマール様の証言は私が保証致します」

 

ビィ

「いや、眼鏡の姉ちゃんの方から認めんのかよ……」

 

カタリナ

「ドリイ殿。まさかふざけては──」

 

 

 

 ──カタリナの言葉が終わる前に、ドリイが再び手をかざす。

 ──やはり一瞬、深紅の光が見えたかと思うと、アンナが駆けてきた方角からバキバキとただならぬ音が迫る。

 ──皆が振り向くと、廊下と通路との間の空間がキラキラと光っている。

 ──そしてその不自然な光の反射だけが、壁、天井、床を伝って雪崩のようにこちらに迫る。

 ──よく見れば、その正体は魔導グラスだ。魔導グラスが通路のあらゆる「面」を覆い尽くしていく。

 

 

 

ビィ

「ななっ、何だ何だ!?」

 

カタリナ

「ドリイ殿、今……何をした!?」

 

ドリイ

「現在進行系です、カタリナ様。ただいま、館全体を魔導グラスで覆い尽くしております」

「なお、館の建材、備品以外への影響はございませんのでご心配なく」

 

ビィ

「さっきのアンナ達の話の後で信じられるかぁ!」

 

 

 

 ──等と慌てふためく間に、一行の足元はとうに魔導グラスでコーティングされていた。

 ──足首までグラスに包まれるとか言った事は無く、床がグラスに置き換わる瞬間の感触をほんの一瞬、足裏で感じただけだった。

 ──どうやら本当に害は無いようだと、安心しても居られない。グラスの侵食する先を追うと、VIPルームの扉と壁面を覆い尽くし、氷山のような厚みを形成した。

 ──廊下側の空間の不自然な輝きからして、同様の壁が廊下側にも築かれている。

 ──開かれた戸を伝うように団長達の個室も一面ガラス張りだ。つまり、完全にこの通路に閉じ込められ……否、密閉されてしまった。

 

 

 

カタリナ

「なるほど……確かに、これならカシマールの言葉も信じられる」

「何のつもりか、改めて説明してもらおうか。()()()

 

 

 

 ──自分達もまたアンナと同様の立場に置かされている事を理解したカタリナが険しくドリイを睨みつける。

 ──ドリイの方は相変わらずの笑顔のままだ。

 

 

 

ドリイ

「少々、皆様に武力を行使させて頂きます」

 

カタリナ

「口封じと言うわけか」

 

ドリイ

「いいえ。あくまで個人的に、皆様の全力の程を確かめたく」

「殺害の意思はございませんが、場合によっては止むを得ない場合も考えられます。予めご了承下さい」

 

カシマール

「デキルカ!!」

 

カタリナ

「であれば、こちらは君と無理に争う理由はないな」

「ルリア、ビィ君! まだ個室には出入りできるな。荷物をまとめたらグラスを打ち破ってここから脱出するぞ!」

 

ドリイ

「でしたら──」

 

 

 

 ──ドリイが三度(みたび)手をかざすと、通路のランプが一斉に青白い炎を上げた。

 ──そして、通路の全方位からパキパキと澄んだ音を忙しなく響かせる。

 

 

 

ドリイ

「私はグラスの硬質化と再生に徹し、皆様が酸欠を呈し昏倒なさるまでお待ち致す所存です」

「しかしながら私を無力化なされば、グラスの活動は停止し、炎は消え、グラスの破壊も容易となります」

「加えて申し上げれば、戦闘中はグラスの操作を万全に行えない可能性も充分にございますので、グラスをより堅固にしない為にも合理的かと」

「こちらには万全の準備がございますので、どうぞご遠慮無くお選びください」

 

カタリナ

「クッ──!」

 

 

 

 ──ダメ元で手近なランプを斬り砕くカタリナ。ランプは砕けても炎は消えず、ランプ自体も見る見る内に再生する。

 ──殺すつもりは無いと言うが、大人しく捕まってはろくな目に遭うとも思えない。

 ──何故こんな事になったかも理解しきれないまま、団長とカタリナは武器を構えた。

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