グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ)   作:水郷アコホ

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03「邂逅と遭遇」

 ――アンナの背後で、何かが砕ける音が盛大に響いた。

 ――直前まで火照りが抜けなかったアンナの顔色が一瞬で青ざめる。

 ──その視界の先では、仲間達が完全に硬直して、声もかけられずこちらを見つめ返している。

 

 

 

アンナ

「あ……アア、ア、ア……」

 

 

 

 ――恐る恐る振り向こうとして……足元に何かがジャラリと纏わりついてくる。ビクッと足首から上だけが跳ねて、咄嗟に足元を見るアンナ。

 ――見ると、アンナの足元一帯に、ガラスとも宝石ともつかない透明な物体が散らばっている。間違いなく、今しがた背後の人物から叩き落としてしまった物体の破片だった。

 

 

 

金髪の少女

「あらまぁ……」

 

黒髪の女性

「……不注意でしたね」

 

 

 

 ――まるで他人事と思わせるほど、冷静な声がアンナの背後で漏れる。

 

 ──二人組の女性だった。

 ──方や上等なドレスが人形のように良く似合う、アンナと同年代程の少女だった。細長く真っ直ぐ伸びた金髪と、車椅子のような形状の透き通った物体に体を預けているのが目立つ。

 ──もう一人は眼鏡をかけたフォーマルな出で立ちの大人の女性。こちらは頭から足先まで芸術品のように整った容姿と、妖艶に波打つ黒髪が目を引く。

 

 ――さて、2人から漏れた冷ややかな言葉に篭る感情について、アンナが思いつく解釈は大きく分けて二通りあった。

 ──まず一つは、今しがた砕けたであろう少女の所持品が、アンナが恐れる程には貴重な品で無い場合。

 ──もう一つは、喪われた物よりも喪わせた者への、出来れば持ちたく無いであろう、煩わしく激しい感情の方が勝っている場合。

 ――アンナの混乱する頭は、真っ先に悲観的に、後者を支持した。

 ──黒髪の女性からアンナに、至って冷静な声がかかる。

 

 

 

黒髪の女性

「お怪我はございませんか。危険ですので、そのままそっと……」

 

アンナ

「ご、ごごごごめんなさい!!」

 

 

 

 ――落とし主達の言葉を遮って、アンナは声の方角へ、地べたで靴を削るようにして振り向き、大きく頭を下げる。

 ──その頭を上げきらない内にしゃがみ込み、散らばる破片を素手で拾い集め始めた。

 ――先述した通り、破片はガラスや宝石の類……否、十中八九ガラスである。日陰の路地裏でもその断面は鋭く煌めいているが、憔悴して左右に細かくブレるアンナの瞳には、そんな光は届かない。手当たり次第、指で摘み上げては空いた手に移していく。

 

 

 

金髪の少女

「ちょ、ちょ、ちょっと! お止めなさい危ないったら!!」

 

カタリナ

「……ハッ!」

「そ、そうだアンナ、落ち着け! 割れ物に迂闊に触ると手を切る!」

 

 

 

 ――張り上げた少女の声に、我に帰ったカタリナがアンナを宥めに駆け寄る。団長達もカタリナに続くように、何か手伝える事は無いかとアンナの元へと走る。

 ――しかし、今のアンナに「割れる」は禁句だった。アレルギーのような激しい反応こそ無かったが、たった今の出来事を再確認させる言葉は、アンナのパニックを深く静かに加速させた。

 ――落とし主の少女は、せっかく体はこちらを向いていながら地面ばかり見つめる魔女に声を荒げる。

 

 

金髪の少女

「お止めなさいと言ってるでしょう! 聞こえませんの!?」

 

アンナ

「だ、だだって、ボッ、ボク、ボクこれ、わ……、やっ、ちゃって……こ、こんな、こッ……!」

「……痛ッ!」

 

 

 

 ――アンナがようやく手を止めた。当然の帰結として。

 ――ビー玉ほどの塊となったガラス片を拾い上げた時、どこかの断面を撫ぜたようだ。アンナの指から血が一筋流れる。

 ――しかし、アンナは手を傷つけたそのガラスを反射的に捨てるような事はせず、無意識に指から手のひらへと落とし込んでいた。指先から伝った血の滴が、掌の溝を伝って、拾ったガラス片を包み込んだ。

 

 

 

金髪の少女

「ッ……!!」

こ……の、バカッ!!

 

 

 

 ――途端、落とし主の少女が激昂してアンナの胸ぐらを掴み、頬を平手で張った。勢いで、拾い集めたガラス片が再び地面に撒かれる。

 

 

 

アンナ

「キャッ!?」

 

カタリナ

「なっ……アンナ!」

 

 

 

 

 ──足元から力が抜けたアンナを襟で吊り下げるように引っ立たせて、少女が激しい剣幕でまくしたてる。

 

 

 

金髪の少女

「這いつくばって拾えだなんて誰も抜かしてらっしゃらないでしょうが!」

「求めても無いのに勝手に身代(みのしろ)削って、『貴方のために頑張りました』だぁ!? 嫌味でしかござあませんのよ!!」

「せいぜい道端の有象無象に指差されて嗤われるだけの事がどれほど大切だってんですのよこのバカッ!!」

 

アンナ

「ひぃっ!? うぇ……えぐ……す、すす、す、い、ま゛……せ……」

 

カシマール

「イキナリナンダァテメー! アンナヲイジメンナラオレサマガアイテダ!!」

 

ルリア

「あわわ……、た、大変な事に……」

 

カタリナ

「待ってくれ! こちらの非礼は詫びるが、幾ら何でも言いす──ッ!?」

 

 

 

 ──少女の態度に堪りかね、カタリナと団長達がガラスも構わずアンナを助け出そうと踏み込んだ矢先……。

 ──いつの間にか、先頭に立つカタリナの眼前に黒髪の女性が立ち塞がり、恭しくお辞儀をしてみせていた。

 

 

 

カタリナ

「(今しがたまで、あの少女の傍らにいたはず……アンナや破片を挟んでいながら、こちら側まで一瞬で……?)」

 

黒髪の女性

「先程よりの無礼の数々、後ほど改めてお詫びいたします。」

「しかし、いまだ細かな破片が方方(ほうぼう)に残り大変危険です」

「直ちにカレーニャを黙らせますので、今しばし、辛抱の程お願い申し上げます」

 

 

 

 ──柔らかな調子でいて淡々とした口調で女性はカタリナ達を制する。

 ──呆気に取られるカタリナ達を意に介さず女性は手帳を取り出し、尚も何か怒鳴ろうとアンナを睨む少女の方へと向き直る。

 ──今度はやや厳しい抑揚で少女へ告げる。

 

 

 

黒髪の女性

カレーニャ。暴力行為、暴言、恫喝──各一点」

 

カレーニャ(金髪の少女)

「こんな事が何の……え、なっ……?」

「あ……」

 

 

 

 ──黒髪の女性が唱えると、「カレーニャ」と呼ばれた少女は急に我に帰った。

 ──そして自らの手の内の、蹴り飛ばされた子猫のようになったアンナを見ると、風船の如くその顔から気迫が抜けていった。

 ──そそくさとアンナをその場に立たせ直し、引っ張られた衣服を直してやってから少女は口を開く。

 

 

 

カレーニャ

「……コホン。大変……悪うござあましたわ。つい、カッとなってしまって……」

「ええと……こ、怖がらせてしまって、本当に……えー……ご、ごめん、なさ、い?」

 

 

 

 ──嘘のようにおとなしくなったカレーニャは謝罪の後、アンナを自身が乗る車椅子的な物体の一角に乗るよう促し、カタリナ達の元へ運んだ。

 ──よく見るとその物体は、ガラスで出来た宙に浮く椅子のような造りになっていた。これも恐らく、通りで見た魔導グラスの一種であろう。

 ――アンナを団長達の元へ届けると、黒髪の女性が改めて、カレーニャの頭を押さえつけるようにして揃って団長達へ深々と頭を下げる。

 ──黒髪の女性の視線に促され、カレーニャがやけに格式張った謝罪を唱える。

 

 

 

カレーニャ

「えー……この度は、些細な事故を拗らせて、お連れ様に怪我を負わせ、取り乱して手まで上げてしまい……えー、申し訳ござあませんでしたわ」

「えーですからー……ご迷惑でなければ、後始末を終えた後、この埋め合わせを致したく──」

 

ビィ

「いやあ、そこまで仰々しくしてくれなくても、わかってくれれば良いんだけどよぉ……」

 

カタリナ

「それより、ひとまずどこか落ち着ける場所を紹介してもらえると……」

 

アンナ

「ひっく……ぐす……」

 

 

 

 ──人付き合いに乏しいアンナには、見知らぬ者に面と向かって怒りを向けられるのは相当(こた)えたようだ。ルリア達に支えられながら、土砂降りの路傍に捨てられたように小さな震えが収まらずにいる。

 

 

 

黒髪の女性

「左様でしたら我々の──」

 

「よう。話はそろそろ済んだかい?」

 

 

 

 ──団長達の背後から突如、如何にも人並みの生活にも不自由していそうな、それでいて柄の悪い男が会話に割り込んできた。

 ──明らかに場違いな介入に、その場に居た一同の空気が濁る。雰囲気的なものだけでなく、事実、風上に立つ男からの臭気が微かに打ち寄せている。

 

 

 

「落ち着いたんならよお……落とし物、拾いたいんだろ? 手伝ってやるよ」

 

カレーニャ

「生憎、人数は足りてますの。それにそう気安く拾い集められるものでも──」

 

浮浪者

「手伝うっつってんだよ黙れ! 恩知らずは噂通りかこのクズ!!」

 

 

 

 ──支離滅裂な怒号と共に、男は懐から刃物を抜き出し一行に突きつけた。

 

 

 

ルリア

「っ!?」

 

ビィ

「何だこいつ、まともじゃねぇぞ!」

 

浮浪者

「テメーの持ち物なんだろう、そのキラキラしたやつはよぉ?」

「テメーのお飾りなんかより、俺の生活助ける方が世のため人のためだろうが!」

「テメーにはそんな事ちっとも解りゃしねえんだろうがなぁ、よお!?」

 

 

 

 ──男は据わりきった目で捲し立てる。その目は何故かカレーニャただ1人に向けられている。

 

 

 

カレーニャ

「ハァ……重ね重ね申し訳ござあませんわね。あんなのと出くわさしてしまって……」

 

黒髪の女性

「カレーニャ。皆様の案内を願います」

「あの方の引き渡しとグラスの回収、どちらも私の仕事ですので」

 

カレーニャ

「頼みましたわ。皆さん、一息つけそうな場所にお連れしますので、ここは……」

 

 

 

 ──言い終わる前に、既に団長とカタリナは男に対し構えていた。

 

 

 

カレーニャ

「ちょ、ちょっと……?」

 

ビィ

「何だかわかんねーけどよ、とりあえずあのオッサンを大人しくさせときゃいいんだろ?」

 

カタリナ

「いざこざを抱えていようと、生憎と私達は暴漢を前にして見過ごしてはおけない性分でね。ルリア、アンナを頼む」

 

ルリア

「はい!」

 

カレーニャ

「この方達……揃って人の話聞きゃあしませんのね。だそうですわよ、ドリイさん」

 

ドリイ(黒髪の女性)

「お心遣い感謝します。では、かの殿方の拘束までをお願いします。その後に、皆様は先にカレーニャと移動を。官憲への引き渡しやガラスの回収は、思いの外に手順を要しますので」

 

カタリナ

「心得た!」

 

 

 

 ──勝敗の行方については、詳述するまでもないだろう。




※ここからあとがき

 少し長くなりますが、カシマールの解釈について。

 もう一人の主役という事で積極的に発言させていますがこのカシマール、私の脳内解釈とはやや外れた在り方をしています。

 彼について、「独立した人格を持ったぬいぐるみ」なのか、「アンナの気持ちの一側面を代弁しているだけ」なのか。
 どちらとも判断をつけかねているのですが、どちらかと言えば後者「代弁してるだけ」かなと言うのが、筆者の見解です。

 普段の振る舞いはアンナ自身と違ってべらんめえで、他者ともしっかり会話可能なカシマールですが、

・Rアンナの出会いエピでは、アンナ本人と勘違いしたルリアの挨拶に対して無言。

・Rアンナフェイトでお腹が破けた際は、無事修復されるまで無言。

・水着アンナのフェイトでは、アンナが感じた不思議な気配をカシマール自身も感知している。

・ホワイトデーイベントでは、手紙の返事が待ち遠しい自分を恥じるアンナに「ワガママハホドホドニナ」と更にアンナの自粛を後押ししている。

 他諸々、一見するとアンナとは独立して応対しているようでも、その場でアンナが持つ(と思われる)感情を共有しています。

一方でアンナと異なる視点を持っているような描写もあります。
ダヌアとのクロスフェイトの冒頭、アンナが笑い話として「自分が最初、団長達を幻覚と思っていた」という件について話し、これにウケたグレーテルが茶化した際、カシマールが大声で反論しています。
この場合、自分から笑い話として切り出したアンナに対して、カシマールの対応はアンナと意向を同じくしていない様に感じられます。
しかし、似たような例は他に多くはありません。

 Rの出会いのエピソードで、アンナが団長達を幻覚と思いながらおっかなびっくり出迎えた際の「ラッシャイ!」はアンナとは異なる感情があるようにも取れますが、私はこれを、アンナが幻覚と疑いながらも「来客はもてなさないと」と思っている部分をカシマールが汲み取ったと解釈しています。

 つまりこの話の中での、カシマールの「アンナが溶けちまいそうだった」とアンナをからかう発言にアンナが不平を漏らす場面は、私の解釈とはやや外れる事になります。

 今後もカシマールが独立した感情から発言を行う場面があります。話の進行上、こちらの方が面白そうだからです。
 別に私の解釈は、「絶対独立した人格ではない」とまで確固たる考えでも無いので、これはこれで楽しみながら書いていくつもりです。


 話に関係なく、私の解釈を述べるなら、彼はどちらかといえば、友達としてアンナの意見を汲み取っているというより、アンナの感情をテレパシー的に受け取って、それを独自の文法に置き換えて発信していると言った印象が筆者の中では強いです。

 カシマールという独立した人格は無く、例えば、人見知りで口下手なアンナを心配したお祖母様が、代わりにスムーズな受け答えができるような一種の端末としてカシマールを作ったのかもしれません。

 最後に余談ですが、カシマールにホワイトデーのプレゼントを送った所、返ってきたメッセージカードはビィくんとスタッフ一同からの物でした。
 私の中で端末説がより色濃くなりました。
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