グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ)   作:水郷アコホ

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28「VS.ドリイ・クレアヴナ」

 ──カレーニャが血みどろの自室で、自らも血塗れの姿で魔導グラスの中に溶けた。

 ──それはドリイの犯行で、ドリイ自身がそれを認めた。

 ──そして今度は、一行に自分と戦えと言う。戦う意志を見せなければ、密閉された空間で酸欠を待つのみ。

 ──事態を把握しきれないが今は戦う他に手は無く、カタリナが応戦し、団長はアンナを連れて距離を取る。

 

 

 

カタリナ

「お手並拝見と──いこうかっ!」

 

 

 

 ──最短距離で間合いに飛び込み放った刺突剣が、ドリイの眼鏡の向こう……瞳孔への直線軌道を捉える。ドリイの視線が一瞬、対手からその剣へ移ったのをカタリナは見逃さなかった。

 

 

 

カタリナ

「(かかった!)」

 

 

 

 ──その切っ先がレンズに触れる直前で、刀身は横薙ぎに滑った。己の視線はあくまでドリイを睨みつけたまま、翻した剣閃は弧を描き、ドリイの足首へ流れていく。

 ──初手急所のフェイントから対手の機動力を封じる。普段の彼女なら思い出しもしない小手先の技だが、今はルリアが巻き込まれ、しかも一刻を争う。

 ──果たして狙い通りに、カタリナの剣先はドリイの足元へと吸い込まれる。しかし突き立てた手応えは硬い。

 ──おまけに切っ先が何かに引っかかってバランスを崩すカタリナ。足先ごと床まで貫いたにしては剣に独特の重みが来ない。思わず目で状況を確認する。

 

 

 

カタリナ

「外した──!?」

 

 

 

 ──埃を被っていた技とは言え、卓越した技量と愛用の一振りから放たれた突きが、ドリイの足元を外れて床……もとい床を覆うグラスに潜り込んでいる。

 ──そして見る間にグラスが、まるで凍りついていくかのように剣に纏わりついていく。反射的に足を踏み直し全身で引き抜こうとするもビクともしない。

 

 

 

ドリイ

「お手伝い致します」

 

 

 

 ──ドリイの手が、カタリナの肩と腹に触れる。考えるまでも無く反撃の予備動作だろうが、騎士たるもの軽々に退きはしない。

 ──あくまで剣は離さず、もう一方の手で組み付きにかかるカタリナだったが、ドリイの迎撃が早かった。

 ──触れた手から光が弾け、爆音と共にカタリナが2,3メートルほど吹き飛んだ。ドリイの触れていた箇所から小さく煙が上がる。

 

 

 

ルリア

「カタリナ!?」

 

 

 

 ──カタリナの言いつけ通りに荷物を集めていたルリアが、抱えていた品々を投げ出してカタリナに駆け寄る。元々、軽い気持ちの観光で降り立った一行には、財布以外に大した手荷物も無い。

 

 

 

ドリイ

「火属性の基礎は、火種を介さない発火現象、小規模の爆発その他──」

「見た目にも刺激的で、子供たちが魔法を学ぶ時には最も人気なのですよ」

 

 

 

 ──まるでお茶でも交わすように呑気に語るドリイは、取り残された刺突剣を易々と引き抜く。このグラスの檻全てが、彼女の武器と鎧になる事を物語っていた。

 

 

 

カタリナ

「くっ……大、丈夫だ。ルリアは、いつでも逃げられるよう準備していろ」

 

ルリア

「で、でも……!」

 

ドリイ

「私としましても、カタリナ様の意見を支持したく存じます」

 

ルリア

「!?」

 

 

 

 ──ほんの1往復の会話の内に、ドリイが2人の間近に立っていた。転んだ子供を励ますような笑顔だ。

 ──やはり足音1つ無い。急拵えのガラスの床板は細かに凹凸があり、小柄な上に裸足のルリアが歩いてもピキパキと小さく軋むというのに。

 

 

 

カタリナ

「フッ……風属性の基礎の1つは加速──だったか。何度見ても驚かされる」

 

ドリイ

「正解です、”リーナ”。そして他にも、衝撃と反作用の緩和、気流の解読と操作等があります」

「基礎中の基礎でありながら、飛行魔法にまで深く関わる非常に重要な技術です。よく覚えておきなさい」

 

カタリナ

「私の初手が外れたのも風のせい──か」

「ああ……ご教授、感謝するっ!」

 

 

 

 ──答えながら、足払いをかけるカタリナ。

 ──今度は確かにドリイの足首を叩いたが、ダメージを受けたのはカタリナの方だった。

 ──ドリイのカモシカのような足は摩擦力の低いガラスの上でありながらビクともしていない。一方でカタリナの足には骨まで響く嫌な感触が広がる。

 

 

 

カタリナ

「グゥァッ!? お、重い……!」

 

ドリイ

「地属性の基礎──これも幾つか分野が別れます。例えば土壌、鉱物の操作。そして──」

「ただ今実演して見せましたのは、対象の硬質化と質量増加。格闘家の方などは、そうと気付かぬままに会得なされている場合もあるそうですよ」

 

 

 

 ──山のごとくそびえる極太の鉄柱を蹴るような感触だった。僅かなやり取りの間にカタリナは片腕と片足、そして腹にダメージを負ってしまった。

 ──このくらい、戦士として負傷の内にも入らない。だが戦闘に、特に一瞬が勝負を決める至近距離においては万全とは言えない。最優先でルリアを庇うカタリナ。

 ──ドリイはカタリナの目線に合わせてしゃがみ込むと、彼女に置き去られた刺突剣を差し出した。ご丁寧に柄の方を向けて。

 

 

 

ドリイ

「まだ、戦えますね。カタリナ様」

 

カタリナ

「……何のつもりだ」

 

ドリイ

「先ほど申し上げた通りです。皆様の”全力”の程を確かめたく」

 

カタリナ

「降参は認めないという事か……良いだろう」

 

 

 

 ──励ますような笑顔からは、その真意は読めない。

 ──ルリアに下がるよう手で促し、ゆっくりと愛刀の柄を取るカタリナ。

 

 

 

カタリナ

「だが──」

 

 

 

 ──負傷したもう一方の腕を鋭く伸ばし、ドリイの腕を掴むカタリナ。そのまま剣を奪いつつ全身で腕に絡みつく。

 

 

 

カタリナ

「私一人に構いすぎだ!」

 

 

 

 ──引き倒しにかかるカタリナに、反射的に踏みとどまって抵抗するドリイ。その硬直が隙となる。

 ──既に背後には、アンナの退避を終えた団長が忍び寄っていた。放たれる団長の一撃に、周囲を覆うグラスが唸る。

 ──ドリイと団長の間に瞬時にグラスの壁が形成された。しかし団長の攻撃はグラスの壁を砕き、ドリイの(うなじ)に突き立った。

 

 

 

カタリナ

「よし……!」

「──じゃ……ない……!?」

 

 

 

 ──できれば致命傷は避けたかったが、四の五の言ってはいられない。勝利を確信していたカタリナ。しかし、団長の様子がおかしい。

 ──団長の反応は、何かに驚き、焦っている。カタリナもその訳にすぐに気付いた。

 ──団長の攻撃を受けた瞬間、カタリナはドリイから伝わるはずの振動、重心の変化を感じ取っていない。

 ──死角からの一撃を受けて、微動だにしていないのだ。攻撃は突き立ったのではない。項で止められている。

 ──地属性の「硬質化」で受け止めたとしても慣性までは防ぎきれないはずなのに。

 

 

 

カタリナ

「クッ!」

 

 

 

 ──すかさず拘束を解きながら、一切の無駄なく刺突を放つカタリナ。狙いは腹。重傷となるが即死の可能性は低い。

 ──そして、ごく一瞬の合間にドリイの防御の種と仕掛けとをカタリナは見届けた。

 ──完璧に捉えた軌道。もうカタリナ自身にも止められない必殺の一刺し。その刃が届く前に、直径数cmにも満たない着弾地点が見えなくなる。

 ──正確には、何かに遮られた。幻想的な照明の中で白く光を反射する、透明感のある不定形の物体に……。

 ──グラスでは無かった。剣先と物体が衝突した次の瞬間、剣先が僅かに、しかし大した抵抗もなく物体に埋まったのだ。

 ──グラスのように割れる事無く、液体のように、物体は尖端を受け容れ、そして離さない。大樹の幹にでも差し込んだように、剣先が重い感触に阻まれて完全に止められてしまった。

 ──先の団長の一撃は、この液体に直前で完全に抑え込まれていたのだ。体に当たりもしていないなら、衝撃を受けようはずもない。

 

 

 

カタリナ

「何だコレは! スライムか!?」

 

ドリイ

「30点。それでは及第点はあげられませんよ。”リーナ”」

 

 

 

 ──さっきまでカタリナがしがみついていた礼服の袖をのんびりと直しながらペケを与えるドリイ。

 ──その背後で団長が追撃を加えているが、まるで背中に目があるかのようにピンポイントで液体の粒に阻まれている。

 ──風属性の基礎の1つは気流の解読。団長の体捌きで生じる僅かな風から、攻撃の軌道を読み取っているのだ。

 

 

 

ドリイ

「では、答え合わせです。風魔法で浮かせているこの流動体、今から浮遊を解除します」

 

 

 

 ──前後の2人に見えやすいよう、白手袋の眩しい長い指を軽く握って見せ、パッと開くと同時に、剣先に纏わり付く水滴が重力に捕われる。

 ──その瞬間、カタリナの手に埒外の重量が襲いかかり、剣先が床に叩きつけられた。床面のグラスに広く細かなヒビが広がり真っ白になる。

 ──背後でも団長の攻撃を防いでいた大量の粒が落下。一斉に落ちた衝撃で軽く周囲が揺れる程だった。

 ──そして流動体が着弾した後には、辺り一面が水浸し……否、脛の半ばまで一瞬で浸水した。カタリナもルリアもバランスを崩して膝をつく。

 ──床面の魔導グラスのヒビから直ちに水が吸い上げられ、グラスのヒビもふさがり、まるで夢の出来事かのように元通りとなった。

 

 

 

ドリイ

「水属性の基礎分野は特に幅広く、初めて魔法を学ぶ方に非常にお勧めです」

「冷気を生み出す事、液体を生成する事──他にも様々にございますが、その1つがこの、液体の圧縮です」

「紙も丸めれば硬く頑丈になるように。何の変哲もない水とて無理矢理にでも押し固めるなら、その中心はギガス鋼にも優る強度を示すのです」

 

 

 

 ──説明が終わる前になおも飛びかかる団長。ドリイが片手一杯に乗る程度の水を生み出し、後ろ手に団長に浴びせる。

 ──水を腹に受けた団長が武器を取り落として後ずさり、腹部を抱えてうずくまった。程なく、うめき声と共に重い液体を床に吐き落とす音が響く。

 

 

 

ドリイ

「もちろん、質量はそのままに維持されてございます」

「樽1杯ほどの体積を極小の1点に浴びるなら、水とて立派な鈍器となり得る次第です」

 

 

 

 ──涼しげに説明を終えるドリイ。幾つもの修羅場を潜って来た2人が翻弄されるばかりだった。

 ──相手の出方を伺うようにゆっくりと立ち上がるカタリナ。痛めた方の足がいやに重い。

 

 

 

カタリナ

「そういえば、図書館で言っていたな……君は、魔法の基礎を研究しているとか。その成果がこれか」

 

ドリイ

「はい。しかしながら今宵は訳あって格別に調子が良いもので。私自身も驚いている所です」

 

カタリナ

「その調子の良さは、アンナの見たモノと関係があるのか?」

 

ドリイ

「はい。ただし、間接的に」

 

カタリナ

「詳しく伺ってみたいものだな」

 

ドリイ

「残念ながら、説明を終える前に人類が生存可能な酸素濃度を下回るかと」

「しかしながらご要望とあらば──戦いながらででも」

 

カタリナ

「やれやれ……進退窮まるとはこの事か」

 

 

 

 ──少しでも団長の回復を待つつもりだったが、これ以上ドリイ相手に会話は引き伸ばせそうに無い。

 ──気だるそうに剣を構え直すカタリナ。普段より遥かに消耗が早い。ランプの炎は確かに空気を焼き尽くしにかかっているようだ。

 ──団長も腹を抱えたまま動けず、先程より頭と床との距離が近づいている。時間稼ぎはそもそも無駄だったらしい。

 ──最低限の形振(なりふ)りも構っていられないか。低酸素特有の苛立ちがカタリナの脳に囁く。そこへ……。

 

 

 

ルリア

「ドリイさん──もう、やめてください」

 

カタリナ

「ル……ルリア?」

 

 

 

 ──カタリナの……もとい、ドリイの前に立ちはだかるルリア。その瞳は毅然とドリイを見上げている。

 ──ドリイは笑顔のまま眉1つ動かさず、操り人形のようにゆるりと小首をかしげる。

 ──何か仕掛けがあるのだろうドリイは別として、ルリアはまだ身体を殆ど動かしていないから自覚症状が少ないだけだ。じきに限界を来すのは目に見えている。

 ──カタリナの手が震えだす。集中力の低下に加え、ルリアの想定外の行動に対処するために脳が余計に働き、酸素の欠乏を傲慢なほどに訴えている。

 ──「何をすればルリアを解放してくれるか」。そんな考えが押し寄せては追い返しを繰り返す。それしか出来ないまでに頭が鈍ってきている。

 

 

 

ルリア

「これ以上戦っても、みんな弱っていくばかりです。全力なんて出せるわけありません」

「それより──どうしてこんな事をするのか。ドリイさんが本当にしたい事が何なのか。教えてください」

「もしかしたら、私達が何か力になれるかもしれないじゃないですか」

 

カタリナ

「ルリア……大丈夫だ。下がって──」

 

ルリア

「下がりません! 大丈夫じゃありません……!」

「ドリイさんの事は大好きです。でも、皆をひどい目に遭わせるなら──こんなこと許せません」

「だから……もしドリイさんがみんなを解放してくれないなら──」

「このお屋敷を壊してでも、私……戦います!」

 

 

 

 ──ルリアを中心に、どこからか光が湧き上がる。星晶獣を呼ぶ際の前兆だ。青い髪が微かになよぶ。

 ──ルリアが星晶獣を従える力を持つと話した時、ドリイはその場にいなかった。

 ──だが例えドリイがルリアの能力を知らなかったとしても、辺りを取り巻く不可思議な力が、それがハッタリでない事を否応なくドリイに知らしめる。

 ──ルリアの力の影響か、吸い寄せられるようにドリイの髪がなびき、ルリアとカタリナの髪も背後へ仄かに流れていく。

 

 

 

ドリイ

「(風を呼び寄せる、謎の力──)」

「ルリア様。私、戦う力を持たれない方に無理強いは致しません」

「私個人としましても、ルリア様と争うのは本意ではございません」

「実力が未知数であられるルリア様がお相手とあれば、想定外の事態を未然に防ぐためにも手心は加えられません」

「それでも──争われますか?」

 

 

 

 ──心配を隠して強がるような、儚げな笑顔で涼しく語るドリイ。

 

 

 

カタリナ

「ルリアもう充分だ、頼むっ!」

「(だから下がれと言ったんだ……!)」

 

ルリア

「……」

「──始原の竜……」

 

 

 

 ──返答に代わり、瞳を閉じ詠唱を始めるルリア。

 

 

 

ドリイ

「──申し訳ありません……カタリナ様」

 

カタリナ

「私に……?」

「まさか……やめ──!」

 

 

 

 ──ほんの一瞬だけ、ドリイの表情が失われた。そしてすぐ、菩薩のような汚れなき笑顔が戻る。

 ──そしてその手の内でまたも何かが深紅に光った。

 ──瞬きする間もない一瞬が何十秒にも感じられた。

 ──床面のグラスが波打つように変形し、何枚もの薄い板となってルリアへと伸びる。

 ──薄くテラテラと光を反射する末端は、試すまでも無く抜群の切れ味を確信させる。

 ──伸びる板は3枚。ルリアの首、胸、腰を狙って一直線に。

 ──悲痛な叫びと共にルリアへ飛びかからんとするカタリナだが、とても間に合う状況ではない。

 ──風に煽られ波打つ青髪にグラスが触れ、何本かの切れ端が通路の奥へと踊り去る。

 

 

 

ドリイ

(やはり風……風!?)

「まさ……っ」

 

 

 

 ──何かに気付くドリイが振り返るのと、『それ』が起きるのは同時だった。

 ──ドリイの背後が茜色に光り、ルリアに迫るグラスが炎に包まれた。体積の乏しい刃先から真っ先にグラスが溶け落ちていく。

 

 

 

ルリア

「キャアッ!?」

 

 

 

 ──目下で噴き上がる閃光と熱風に思わず身をかがめるルリア。しかし、その毛先一本焦がされては居ない。

 ──強力な炎が気流をかき乱し、膨張した空気が『逃げ道』に殺到する。

 ──そして気圧の落ちた空間に所在の知れぬ『逃げ道』から新鮮な空気が風となって押し寄せる。

 ──酸素をふんだんに含んだ風に炎は更に勢いを増し、通路を覆うグラスを蒸発させ、建材へ突き抜け、そこかしこを引火させた。

 

 

 

カタリナ

「風……息苦しさが、消えた……?」

「火まで燃えているのに……空気なんてどこから?」

 

 

 

 ──床を、壁を焦がす炎と、それに覆い被さって消火するグラスの応酬。

 ──その戦線をずっと辿ると、行き着く先は団長の個室。

 ──勢いよく燃え上がっている扉が左右に揺れ、熱で膨張・変形した蝶番が擦れあいキイキイとすすり泣いていた。

 ──その扉の陰から、何故か肩で息をしながらアンナとビィが歩み出てくる。

 

 

 

ビィ

「ハァ……ハァ……ふぃー。オイラ、ちょっぴり目の前暗くなりかけたぜ……」

 

アンナ

「ハア、ハア……ご、ごめんねビィくん……よ、よかったらカシマールの隣、つ、使う?」

 

カシマール

「コンジョータンネーゾ!」

 

 

 

 ──団長がアンナを退避させたのは、部屋から飛び出して扉が開きっぱなしだった団長自身の部屋。そこまでは察しが付く。しかし一体、何が起きたのか……

 

 

 

ドリイ

「流石は、アンナ様──」

 

 

 

 ──本当に嬉しそうに呟くドリイ。彼女にだけは状況が理解できた。

 ──完全に死角となった部屋で、恐らくはビィとカシマールが付き添う事で立ち直ったアンナ。

 ──この空間が密閉され、酸素を燃焼していると聞いていたアンナは、風穴を空ける事を画策。

 ──グラスを部屋の窓と壁諸共に溶かす計画だが、ここに大きなリスクがある。

 ──魔力の炎も維持するためには酸素が必要となる。しかも魔導グラスを溶かす程の炎にはかなりの高温が要求される。

 ──グラスを溶かす程の熱量を確保するために、少なくともこの部屋だけでもほぼ全ての酸素を消費しかねず、戦場となっている通路にも低酸素は少なからず波及する。

 ──低酸素・無酸素での呼吸はほんの一息で人体に重大なダメージを及ぼし、命にも容易く届く。

 ──そのため、事前に息を胸いっぱい溜め込み、穴が開くまでひたすら息を我慢し続けていたのだ。

 ──ドリイが戦闘に集中してグラスの修復を疎かにしている隙に風穴を確保。

 ──意識を保てる分だけ呼吸を整え、すかさず援護のために空間の床一面へ火を放つ。

 ──絶対に引火させてはならない仲間を守れたのなら、多少家に火が点こうが図書館での特訓は存分に活かされたと言えるだろう。

 

 

 

ドリイ

「そうですね。アンナ様こそ、確かめねばならないお相手──」

 

 

 

 ──成長を喜ぶ師のような眼差しで、ドリイの瞳がアンナを捕捉した。

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