グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ) 作:水郷アコホ
──カレーニャ邸での事件から夜が明け、太陽が通り過ぎて、すっかり日も落ちて夕食時、団長はグランサイファーの一室に赴いていた。
──そこは船内の言わば休憩スペース。幾つかある中でも団長の部屋に最も近い一室で、団長を待っていたルリアとビィが夕食の準備を済ませた所だった。
ルリア
「あ、おはようございます──って言うのも、何か変ですね」
ビィ
「オイオイ、まだひでェ顔してるぜ。大丈夫か?」
──少し疲れは残ってるけど大丈夫と笑いかけ、自分も席に着く団長。
ビィ
「まあ変な時間に寝る事になっちまったから、しょうがねぇか」
ルリア
「アンナちゃんもまだ起きて来ませんし……今日は、ちょっと無理してでも早く寝てくださいね!」
──団長を心配しながらも、いつもの元気さで食卓を賑わせてくれる2人。
──団長は、事件が終わった後の事を思い返しながら食事を口に運び始めた。
──ドリイの突然の発火、そしてドリイだったモノの焼失の後、間もなく兵隊を呼んで戻った一行。
──何しろ国を支える人物の死、その自宅を覆うグラス、そして保護監査官の凶行と消滅とあって、事実を把握させるだけでも相当に骨を折る事になった。
──話が突飛すぎた事が却って幸いしたか、団長達が疑われるような事は全く無かったが、現場の保存と形式的な調査が終わるだけでも日の出まで時間を要し、更に事実関係の調査に協力するよう同行を求められた。
──殆ど眠らずに命を削る激戦を繰り広げ疲労はピークに達していたが、カタリナがこれに応じ、団長もカタリナに健康を案じられながらも後に続いた。
──そしてルリア、ビィ、アンナは先に艇に帰して休ませる運びとなったが、ここでアンナが調査協力に応じると言い出した。
──やんわりと大人しく帰るよう促すも、何故か頑として聞き入れず、結局根負けして3人で事情聴取へ。
──そして帰ってきたのが同日昼過ぎ。当事者で無ければ想像のしようのない事だらけの、当事者にとっても解らない事だらけの調書をまとめるのは大いに難産となった。
──しかもどうやら別々に聴取を受けた内、アンナが事実確認だけでも担当官と揉めに揉めたらしい。
──何か調書の内容に食い下がったため、団長達の三倍近く時間を要し、聴取する側が幾度か応援・交代を要する程だった。
──このアンナの行動にカタリナ共々大いに驚いたが、奮闘を終えて出てきたアンナは、大勢の担当官達同様疲れ切って項垂れた様子ではあったが、思った程の変化は感じられなかった。
──そしてグランサイファーに帰り、寝床に入り、起きて食事でも取ろうと部屋を出て今に至る。
ビィ
「そうそう。姐さんは
ルリア
「カタリナ、無理してないと良いんですけど……」
ビィ
「見た感じは今の
「それより姐さん何しに行ったんだろうな。出てったのが夕方だから、もう結構経つと思うけど……」
主人公(選択)
・「そんなにヒドい顔してる……?」
・「何か事件に関係あるのかも」
→「何か事件に関係あるのかも」
ルリア
「あ、それなんですけど──」
「昨夜、艇に戻る前にカタリナから『艇の皆に、島の新聞や雑誌を出来るだけ多くの種類買い集めてもらうよう言ってくれ』って頼まれたんです」
「それで皆にお願いした後、私はすぐに眠っちゃったんですけど……多分、その事に関係あるんじゃ──」
──そこでドアが開き、何やら大きな荷物を脇に抱えたカタリナが入ってきた。その表情は酷く重苦しい。
カタリナ
「待たせたな、今戻った。──ああ、
ビィ
「ひでぇ顔だけど
カタリナ
「私か? 大丈夫だ。出かける前にも言ったろう?」
「一日二日の全力でへばってしまうようじゃあ騎士は務まらない。むしろこのくらいからが私の本領発揮さ」
ルリア
「でもカタリナ、とても辛そうな顔してます……」
カタリナ
「それは──うむ。確かに、そうかもしれないな……」
──普段は極力、ルリア達に余計な心配をかけないように振る舞っているカタリナ。
──徹夜の働き詰めには気丈に返しながら、余程の事があったのか、晴れない面持ちについては素直に認めた。
ビィ
「な、何だよ。何かあったのか?」
カタリナ
「いや、その……」
──少し答えに窮したカタリナだったが、深く溜息を吐くと、部屋の隅に置かれたテーブルを食卓の隣に移し、その上に荷物を広げた。
カタリナ
「……正直、ルリア達には余り見せたくない代物だ」
「だが、隠し通すのも恐らく不可能だ。食事を終えたら、手近な物から読んで見て欲しい」
──荷物の中身は、ルリアに頼んで仲間たちに集めてもらった、プラトニアで発行されている新聞や雑誌類だった。
──政府発行の広報誌から、大衆向けのタブロイドまで多岐に渡り、新聞も各社の朝刊から夕刊まで一通り揃っている。
──テーブルを埋め尽くさんばかりの活字の海に、ビィとルリアの顔もカタリナ並に曇る。
ビィ
「うへぇ……手近なつったってなぁ。何だか食欲失せちまうぜ……」
ルリア
「はぅぅ……と、とにかく、今は一旦忘れてご飯にしましょう。ね!」
カタリナ
「そう気負わなくても大丈夫だ、二人とも。昨夜の事件についてだけ読んでくれれば良い」
「──そうだ。帰る途中、通りで幾つか料理も買ってきたんだが、食べるか?」
ビィ
「お、流石姐さん。気が利いてるぜ!」
ルリア
「わーい! 今夜はごちそうです」
──食べ盛り達の顔はすぐに元通りになったが、カタリナの表情は舌鼓を打つ時も笑顔の時も、どこか陰を残し続けていた。
──食事を終えて、カタリナの持って帰ってきた書物を広げる団長。腹が膨れて幾らか頭の巡りも整い、ルリア達も果敢に挑みかかった。
──そして、読むに連れて一行の眉はどんどんと下がっていった。カタリナのような憂鬱と言うより、その表情は困惑……あるいは通り越して恐怖の色を感じさせる。
ビィ
「な……何だぁ、これ?」
「どれも何だか……ムチャクチャな事しか書いてなくないか……」
ルリア
「この本もです……。それに……どれも何だか……」
主人公(選択)
・「カレーニャが悪者になってる?」
・「事情聴取で話した事とぜんぜん違う!」
→「事情聴取で話した事とぜんぜん違う!」
カタリナ
「そう、見えるだろうな……」
「だが実際の所、大半の誌面ではあの事件について概ね、我々が話した事に沿って事実を描いている」
「カレーニャがどのようにして死んだか。全ての犯行はドリイ殿が行った事。証言した我々の個人情報の秘匿──然るべき節度は守られている」
「現場の大量の血がカレーニャの物と判明したという発表も、ほぼ確かなのだろう。だが──」
「問題は、どの誌面もこぞって、この事件をめでたい事のように締めくくっている。だから結果として、我々の意図とは違う事を書いているように見えてしまうのだろうな」
ビィ
「な、なぁ……この本なんか、本当はカレーニャがオイラ達を襲って、眼鏡の姉ちゃんがオイラ達を守って相討ちになったとか書いてあるけど……」
カタリナ
「聞いた所、その雑誌はプラトニアでも指折りの眉唾な噂を書いているゴシップ誌だそうだ。一際いい加減な事しか書かれてないだろうな……」
ビィ
「なあ姐さん……オイラ……」
カタリナ
「ああ。もうこれ以上は読まなくて良い。……いや、読まない方が良い。ルリアもだ」
「だが、つまりこう言う事なんだ。どれを読んでも、カレーニャの死を祝福し、実行犯であるドリイ殿を讃え、そしてそれで明るい未来がやって来るかのように嬉々として書かれている」
「他の仲間達にも手伝って一通り目を通したが、例外は政府広報誌だけだった。端的な事実を羅列しただけだが、他が酷すぎる分、ホッとしてしまうくらいだ」
「おまけに……いや、何でも無い」
「ドリイ殿が言っていた『この島の動向を見届けろ』とは、多分この事で間違いないのだろうな……」
──おまけに、当日家主に招かれ屋敷に泊まった自分達について、カレーニャに味方して悪事を働こうとしたためドリイに成敗されたかのように書いた雑誌。更には自分達が悪の手先のみならず、ドリイの正義の手から逃げ延び、今もプラトニアのどこかに潜伏しているかもしれないと仄めかす雑誌などもあったが、これらは流石に前もって破棄した……などと正直に話しても誰も得する訳がない。
カタリナ
「(この島とカレーニャとの溝……これほどだったとはな……本当に……とんだ名役者だったよ……!)」
──この島の事情を知らないルリア達がこんな物を見せられて、受ける困惑は如何ばかりかを思いながら、胸中でドリイに恨み節を零すカタリナ。
──カタリナ自身、思いも寄らなかった。確かにこの国にはカレーニャを敵と見做す人が居るとドリイは言った。確かにそれらしい人物にも出会った。
──しかしそれが世論の一部や半数程度に留まらず、島の情報一色を染め上げ、ドリイやニコラのような味方の実在を微塵も感じ取れない程とは……。
──自分達をこんな針の筵でエスコートし、それで居ながら、彼女はこの島の真の姿だけはカタリナ達から隠し通して見せたのだ。
──見当違い過ぎる文言に、見知らぬ世界に迷い込んだような錯覚させ覚えるルリア達。重い沈黙が流れる部屋に、新たにドアを開く者があった。
アンナ
「お……おはよう~……みんなぁ……」
ビィ
「お、おう、アンナか……って、うおぉい!? マジで大丈夫かお前!」
ルリア
「ア、アンナちゃん……物凄いクマで、顔色も……」
──訪れたアンナは、寿命を吸い取られて余命半年かそこらなのかと思わせる程に憔悴しきっていた。
──明らかに足元が頼りない。思わず立ち上がった団長だが、触れただけでも昏倒するのでは無いかとあらぬ不安に駆られ、どうしたものかと手を広げていながら拱いてしまっている。
アンナ
「あ、あははぁ……ちょ、ちょっとまだ、寝不足かもぉ……」
カシマール
「バカイッテンジャネー! ネブソクドコロカイッスイモガガッ!」
アンナ
「だだ、大丈夫……だからぁ。あは、はぁ……」
「あれぇ……こんなに沢山の本、どうしたのぉ……?」
──何事か抗議するカシマールを押さえつけ、心配する仲間の言葉も聞いて居るのか居ないのか。
──フワフワと一行の集うテーブルまでやって来ると、おもむろに、今しがたまでビィ達が読んでテーブルに開きっぱなしにしていた雑誌に目を向けた。
ビィ
「ア、アンナ待て、それ読んじゃダメだ!」
ルリア
「あああの、アンナちゃんは座って休んでて下さい、いい今、お茶入れますから!」
アンナ
「どうしたのみんなぁ。何かヘンだよぉ……あれ?」
──ルリア達の大慌ての対応を、何やら冗談か何かと思っているのか。ヘラヘラクラクラと聞き流すアンナ。
──そして雑誌の例の事件の記事が目に留まると、急に黙りこくって食い入るように読み始めた。
──ほんの数秒の間に、「無理にでも止めればよかった」と、後悔の念が部屋に充満する。
──何か起きた訳ではない。ただアンナが一言も発さず雑誌に見入っている。
──それだけで、微動だにしないアンナの雰囲気があからさまに変わっている。その場の誰にも感じ取れた。
アンナ
「──ったのに……」
ルリア
「ア……アンナ、ちゃん……?」
アンナ
「……そんなんじゃ、無いって……ボク……」
──雑誌に置かれたアンナの指が紙に食い込みシワを作っている。
──骨の白さまで透けそうな細腕が、込めた力の丈を誇示するようにブルブルと震えている。
アンナ
「何度も、言ったのにっ!!」
ルリア
「ひぅっ!?」
──両腕を振りかぶり、割らんばかりに雑誌をテーブルに叩きつけるアンナ。ルリアが恐怖に竦む。
──噛み締めた歯の隙間から唸るように荒い呼吸が漏れ、尚も誌面に拳を振り下ろす。明らかにいつものアンナじゃない。
アンナ
「何で!? 何でこんな事──!」
ビィ
「お、おい、ア……アンナ……?」
カタリナ
「落ち着けアンナ! こんなのはただのデタラメだ。気持ちは解るが腹を立てるだけ──」
──何度目かの振り上げた拳をカタリナが捕まえ諭すが、アンナはそれでも叫び散らす。
アンナ
「だって! 何度も、何度も言ったのに! カレーニャは悪い事なんかしてないって!」
「あの夜見た事だって、全部……! カレーニャは、こんなコじゃない! こんな、の……」
──カタリナの手を振り払おうと、掴まれた腕に精一杯の力を込めたと思った途端、糸が切れたように崩れ落ちるアンナ。
──咄嗟にカタリナが抱き抱え、皆が駆け寄る。頭に血が上りすぎたのか、気絶しているようだ。
ルリア
「アンナちゃん、どうして急に……」
カタリナ
「解らん……。とにかく休ませよう。私がアンナを部屋に運ぶ。皆は片付けを頼む」
──気まずい空気のまま、アンナの豹変で散らばった書物を拾う一行だった。
※ここからあとがき
原作の世界観において、「警察」と明記された組織が島単位で活動している描写を余り見た覚えが無いため、ひとまず「兵士」と表現しています。
正直な所、「警察」と表現して、それに基づいた表現(捜査官、警官隊など)で書いていければ楽なのですが、なるべく原作に沿わせて表現したい部分もあり、難しい所です。