グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ)   作:水郷アコホ

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36「アンナの回想」

 ──時を遡り、団長達がグラスの大暴動に気付く少し前。

 ──カタリナが、アンナが大人しく寝息を立て始めたのを確認して部屋を出たその少し後。

 

 

 

アンナ

「(あれ……ボク……?)」

 

 

 

 ──アンナの視界には、自分の手と、1冊の本。傍らにはランプの明かりと、小脇に親友の頭がちらつく。

 ──自分の手が、目の前の本の表紙を勝手にめくる。

 

 

 

アンナ

「(そっか。これ……夢、見てるんだ……)」

 

 

 

 ──これが昼間の自分の記憶だと気付くと同時に、目の前の映像が夢である事を自覚するアンナ。

 ──途端に視界が自由に動く。ここは騎空艇のアンナの部屋。窓を見る。嵐を航行する時のための雨戸まで使って、外の光を締め出している。

 

 

 

アンナ

「(うん。やっぱり、間違いない)」

「(この”本”を読まなくちゃって。でも、寝不足で外の光は目が痛くって、ボーっとして……だから真っ暗にしたんだ)」

 

 

 

 ──視界を再び本に戻す。それは誰かの日記のようだ。最初のページを開くと、次のように綴られている。

 

 

 

   あの日の事は、今でもよく覚えている。きっとあの時から、私は既に決意していた。

 

   貴方には、これを読んで、知ってほしい。

   貴方と私が出会った訳を。私のこれまでと、これから成す事を。

   しっかりと考え、選んでほしい。私の成す事に、貴方はどうするのか。

   冷静に。義理に縛られず。情に流されず。

 

   貴方は私より、よっぽど素晴らしい人なのだから。

 

 

 

 ──夢の中でも、その序文はクッキリと視界に映し出された。夢の自分がページをめくるより早く、その先の文章に思いを馳せるアンナ。一文一文、正確に思い出せる。内容を少しでも深く理解するため、何度も何度も、日が落ちるまで読み返したのだから。

 ──その瞬間、光ったのかも知れない。本の中に沈み込んだのかもしれない。

 ──記憶では確かにこの時、本を読んだだけだ。だが夢特有の意識の混濁が、不可思議な場面転換を引き起こした。

 

 

 

 ──気づけば、アンナは昨夜のカレーニャ邸に居た。

 ──最後にドリイに連れ込まれたVIPルーム。扉に大穴が空いているのに、ドリイが庇ってくれたのか身体は何とも無かった事をよく覚えている。

 ──そして目の前にドリイ。あの時は全身が燃えていたドリイが、夢の中では普段どおりの傷一つ無い礼服で、座り込むアンナに対し、這い寄るような姿勢で瞳を覗き込んでいる。

 ──そんな夢に少し感謝したアンナ。実際には、ドリイは目の前でドロドロと溶け崩れ、立っていたのか座っていたのかも解らない姿だった。あの光景を再び見なくて済んだ。

 

 ──あの時、最後に溶けて無くなったのは腕だった。魔法で精一杯防御していたのか、その片腕だけは中々火が回らずにいた。次のドリイの行動を思い出し、視線をその腕に向ける。

 ──ドリイがどこからか、真珠玉のようなグラスを取り出す。そして軽く撫でると、真珠の中から1冊の本が飛び出した。

 ──そして取り出した本を、事態が飲み込めないアンナの腕に抱かせ、続いてその手に何かを握らせた。

 ──無意識に確かめた手の中のそれは、宝石のように深く色を溶け込ませた深紅のグラスだった。

 ──夢の中のドリイが、燃えても居ないのに身体を溶かし始めた。やはり見てしまう事になりそうだ。

 ──溶けて傾いた唇で告げる。「その2つを、どうか決して手放さないで。何卒、お願いします」と。

 ──それだけ言って、溶けかけのドリイは一気に虹色の炎に包まれた。記憶でもこんな風に、抵抗を止めたように急に火の手が強まっていた。

 ──気がつくと、ドリイはあの晩の最後に見た、片腕の溶け残りになっていた。その上に燻る炎を見ていると、また場面が変わった。

 

 

 

 ──アンナは見知らぬ部屋の片隅に立っている。

 ──よく見れば一部の家具やその配置は、長年住んだ実家や、グランサイファーの一室……あるいはいつか泊まったどこかの宿で見た気がする。

 ──しかし部屋のおおまかな内装は、それらに不釣り合いな程に豪奢で広かった。

 ──記憶と想像がこの部屋のモデルに選んだのはカレーニャ邸。カタリナ達とゲームブックを読んだ、そして先程の場面でドリイが溶けて消えた、一際大きなVIPルームだった。

 

 ──窓の外は真夜中だった。雨が降っているかもしれない。

 ──大きなベッドの周りに大人が3人、子供が1人寄り添っている。

 ──大人たちはすすり泣いている。ベッドの中では、老婆が1人横たわっていた。

 ──大人と老婆は、記憶の中に代役が無かったか、影絵のように黒塗りだった。

 

 ──ベッドに歩み寄り、幼い女の子の隣に立つアンナ。

 ──覗き込もうとしても、女の子は屋内だと言うのに大きな帽子を被っている。どんな顔をしているのかよく見えない。

 ──ただ、その子がじっとベッドの老婆を見つめているのは解った。

 

 ──アンナの頭の中に、カレーニャの声が響く。

 ──いや、カレーニャの声を思い浮かべながら、本の文章を思い返しているだけなのかもしれない。夢はどうにも不確かな世界だ。

 ──アンナにとってはどちらでも良かった。頭の中の言葉に意識を向けると、目の前の映像が少しづつ動き出した。……少なくとも、そんな気がした。

 

 

 

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