グラブルオリジナルストーリー(主役:アンナ) 作:水郷アコホ
──石造りの空き家に身を潜め、息を整える一行。
──騒ぎの二次災害で火が点き、燃え尽きた後のようで、屋内は広々として煤だらけだった。
──使われていたグラスは全て蜂起した後のようで、窓一枚残っておらず、建材に使われたグラスが抜け出たらしく不自然に傾いていた。
──グラス人形の大群に追われ、大通りを外れ、手近なこの家に飛び込んでいた一行。
──人形たちは再び島民探しに戻ったらしく、追ってくる影はない。
アンナ
「──そ……そういう事、らしくて……だから、カレーニャは……」
ルリア
「じゃあ、カレーニャちゃんは小さい頃から、ずっと……」
カタリナ
「成る程……納得するには充分だ。……いや、充分過ぎる」
ビィ
「何か、飛び飛び過ぎてオイラはイマイチ実感湧かねえんだけど──」
「とにかく、この島の奴らがヒデェ連中で、カレーニャとカレーニャの家族がヒデェ目にあったって事だよな?」
カタリナ
「まあ、ひとまずはそんな所で良いだろう。ただ、この島の者は──」
「……いや、何でも無い。ともあれ、話が断片的なのは恐らくカレーニャに配慮しての事だ。やむを得まい」
──様子見と休憩を兼ねてしばらく空き家に留まっていた一行。
──誰ともなく、アンナがこの事件について何か知っている様子なのを疑問に思い、改めて問われたアンナがドリイに託された本について打ち明けた。
──とは言えその全てを開示し、カレーニャの過去を暴露するのは大いに気が引けた。
──そのため、オブロンスカヤがこの島からどう思われ続けて来たかをざっくりと説明し、ビィ達の質問に大いにぼかしながら答えるのみに留めた。
──同時に託されたグラスや、ドリイが書き加えた末文といった部分には全く触れなかった。
──こちらは単に、話題に直接絡む事柄でなく、アンナの会話スキルもそこまで言及できるレベルで無かったためだ。
アンナ
「ご……ごめん、ね……。ボク、お話しするの……上手くないし……」
カタリナ
「そんな事はない。本当なら私達にも知らせたくなかったはずだろうに。よく話してくれたな。アンナ」
アンナ
「……このまま、皆だけ何も知らないままじゃ……多分、ダメだと思ったから……」
──グラス人形が近づいてくる気配も無いため、移動を再開する一行。
──見知らぬ道に入り込んで、無我夢中で駆けてきたため、大通りへの道を探してしばらく彷徨い歩いたが、どうにか見覚えのある通りと建物を見つけた。
カタリナ
「しめた、例の服屋だ。ここからなら道もわか──ん?」
──アンナの服を見立ててもらったブティックを見つけた一行。店先を通り過ぎようとした矢先、店内から悲鳴が聞こえてくる。
ビィ
「まだ生き残りが居るみてぇだ。早く助けねぇと!」
カタリナ
「いや待て。声がこちらに近づいてくる。皆、扉の脇で待機だ。いつでも戦えるように備えろ!」
──格調高い正面玄関のすぐ横に、二手に分かれて張り付く一行。
──その瞬間、カタリナの読み通りに玄関が跳ね飛ばすように押し開かれ、10を超える店員と客が濁流のように飛び出してくる。
──あのまま飛び込んでいたら逆に団長達の方が押し倒されて居たかも知れない。
──扉を率先して開いていたらしい2人の店員が最後に出てきて扉を閉めた。片方は若い男性。もう片方は昨日も会った、ベテラン風の女性店員だった。
男性店員
「チーフ! お客様の人数、変わりありません!」
女性店員
「なら、あなたはお客様とスタッフ達を例の場所へ。私は裏口を見てきます!」
男性店員
「だ、駄目ですチーフ! ニコラの努力を無駄に──」
女性店員
「私にあの子を見捨てろって言うの!?」
男性店員
「そうは言っても──うわぁっ!」
──ドアを抑えつけながら言い争っていた2人が吹っ飛ばされ、今度こそ文字通りに玄関を跳ね飛ばして、店内からグラス人形が現れた。
──男性ドラフ程のサイズが2体。店内で暴れて引っ掛かったらしい衣服が纏わりついているが、まるで支障無いようだ。
──悲鳴と共に我先にと散り散りに逃げ出そうとする生存者達。しかし彼らの足より早く、団長とカタリナの不意打ちがグラス人形の足を砕いた。
──それを確認してルリア達が生存者に呼びかける。
カシマール
「シズマレー! シズマレーイ!」
ルリア
「皆さん、じっとしていてください! 魔導グラスさんは私達が何とかします!」
ビィ
「街中こんな状況なんだ。無闇に逃げ回ったって危ねぇだけだぞぉ!」
──呼びかけ以上に、団長達が見る間にグラスを無力化していく様が効き、生存者達は足を止め2人の活躍に見入った。
──念入りに砕き、グラスが形状を維持できなくなり、光る灰のように消えていくのを確認して手を止める団長達。遮る物を失った玄関から店内を覗き見るが、他にグラスは見当たらない。
──団長に警戒を任せ、落ち着きを取り戻した生存者にカタリナが事情を聞く事にした。
──アンナ達を覚えていたベテラン風の女性店員が受け答えに応じた。
カタリナ
「貴方がたは、ずっと店内で避難を?」
女性店員
「はい。この店の方針で、魔導グラスの利用は最低限だったもので……」
「暴れ出したグラスを、ラックや服で手当たり次第に個室に押し込んで、事が収まるまで待つ事にしたのですが──」
「どこからかあの人形が入り込んで、部屋を壊して他のグラスも──そうよニコラよ!」
──何か思い出すなり、血相を変えてカタリナの手に縋り付く店員。
女性店員
「ニコラが、ニコラが私達を助けるために、グラスを引きつけて店の奥に……どうか、どうか助けてやって下さい……!」
カタリナ
「ニコラ殿が……!」
「助けに行きたいのは山々だが、しかし彼らは……」
──他の生存者に目を向けるカタリナ。
──ここまで助けてきた島民達には、仲間たちが奮闘してくれている発着場に向かうよう指示した。
──しかしここから発着場まではかなり距離がある。
──生存者を護送していたのではニコラは絶望的だ。それにカタリナ達の主目的は図書館にあり、来た道を戻らなくてはならない。
──二手に分かれるにしても、この中でグラスに直接対抗できるのは団長、カタリナ、アンナの3人。少数精鋭で来た以上、簡単には人員を割けない。
女性店員
「私達なら心配いりません。すぐそこの路地に隠れ家があるんです」
カタリナ
「隠れ家?」
──店員が路地の一つを指差しながら説明する。
──その路地の一角には、もしもの時に備えて、魔導グラスを一切使わずに築いた避難所があるのだと言う。
──ついでに聞いた特徴から、その路地がアンナを介抱し、カレーニャ達と出くわしたあの丁字路である事に気付いた。
カタリナ
「(そう言えば、カレーニャ達と最初に会った時も、丁度服屋でニコラ殿と話した帰りだったとどこかで聞いたような……)」
「解った。ならその路地までは我々が付いて行こう」
「皆、この方達の警護を頼む。私はニコラ殿の救出に向かう」
ビィ
「あ、姐さん1人でか!?」
カタリナ
「店員の話を聞く限り、残っているグラスはそう多くないはずだ」
「むしろ街中の方が、大群が物陰に潜むには丁度いい。くれぐれも気をつけてくれ」
──団長達は生存者を路地まで見送ってから図書館へ。
──カタリナもニコラの安否を確認し、無事なら連れ出して路地に送ってから独自に図書館へ向かう事となった。
──団長達が他の店員達と、人数の確認と隊列を模索し始めた。その間にカタリナが女性店員に問いかけた。
カタリナ
「ニコラ殿を案じている時に済まないが、1つだけお聞かせ願えないだろうか」
女性店員
「構いません。私で良ければ何なりと」
「既にあの子と別れてから大分経っていますし……でもあの子なら、きっと持ち堪えていてくれると信じています!」
カタリナ
「感謝する……」
「先程の話を聞いてどうしても気になった事がある。何故あんなひっそりとした路地に避難所を?」
「そういった設備は普通、もっと人が集まりやすく、安定した立地に設ける物だと思うのだが」
女性店員
「それでしたら、まさに
カタリナ
「と、言うと?」
女性店員
「旅行者の方からも見ての通りですが、カレーニャは本当に酷い娘なんです──」
「今までも沢山の人が、カレーニャとその家族に苦しめられて来たんです」
「それでも人の子だからと、彼女の両親が死んだ後は誰も自粛してましたが、それでも皆解ってたんですよ」
「『カレーニャは今に、自分の楽しみのために私達を甚振りに来る』って」
「だからこんな日のために、プラトニア市民達で密かにカレーニャに立ち向かうための拠点を、島のあちこちに作って来たんです」
カタリナ
「……──」
「……そうか」
──拳を痛いほど握るカタリナ。言い返す事の無意味さが解らないような人生は辿っていない。
女性店員
「ニコラの事、宜しくお願いします」
「私達も避難所で落ち着いたら、必ず戦います! あの恩知らずのカレーニャに、ニコラの悲しみを思い知らせてやるんですから……!」
カタリナ
「恩知らず……?」
女性店員
「ニコラは昔、オブロンスカヤの小間使いの子だったんですよ」
「雇い主だとか関係なく家族ぐるみで仲が良くって、幼いカレーニャは姉のように慕ってくれたと、ニコラはいつも嬉しそうに……」
カタリナ
「それが、何故こうしてこの店の店員に──」
女性店員
「オブロンスカヤのせいなんです!」
「自分達の勝手で評判が悪くなったのに、勝手に人間不信に陥って家の者を残らず解雇したんです」
「魔導グラスのせいでどこも不況の真っ只中なのに、オブロンスカヤに雇われたばっかりに心無い人達に中傷されて、ニコラのご両親は若くして……」
「幼いニコラを、私が引き取って面倒を見てきたんです。血は繋がらなくても、あの子は私の娘です!」
「ニコラに面倒見てもらった恩も忘れて、あんな良い子を理不尽に追いやって、その上こんな仕打ちなんて──私は、絶対にオブロンスカヤだけは許せないんです!!」
──ニコラの苦難を想う店員の目には美しい涙が溢れ、瞳は嘘偽りのない真心と、確かな憤りで輝いていた。
──ルリア達が怪訝そうにこちらを見ている。ぼろぼろに泣き崩れながら放たれるくぐもった店員の声は、相対するカタリナにしか上手く聞き取れていない。
──カタリナは顔を曇らせ、堪えるように歯を噛み締め、店員の肩に手を置いた。
カタリナ
「……ニコラ殿は……必ず助ける……」
ルリア
「あ、カ、カタリナ──?」
──それだけ告げて、足早にブティックへ向かうカタリナ。
──呼び止められて立ち止まるが、顔はルリアに向けない。
カタリナ
「──すぐに追いつく。頼んだぞ。ルリア」
──そのままブティックの中へと消えていってしまった。しかしカタリナを案じている暇はない。
──顔を覆ってその場に座り込む女性店員を助け起こし、路地までのごく僅かな道のりを慎重に歩みだす一行。
──家々の明かりは殆ど消え失せ、炎上した家屋も大方燃え尽き、いよいよ島は暗闇が支配し始めていた。